E3 2017を間近に控え、ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア プレジデントの盛田厚氏に、PlayStationの日本国内における展開について伺った。
盛田氏:2016年は非常に良い年でした。PS4の出荷台数がワールドワイドで6,000万台を突破し、日本・アジアも好調でした。
日本では、我々は段階的にプロモートし、拡大していきたいと考えていました。2年ほど前には「日本のタイトルが少ない」「遊びたいゲームがまだない」と言われていましたが、大型タイトルや遊びたいと思っていたタイトルはほぼ発売、ないしは発表されたと思っています。
ハードウェアも購入しやすい価格になったスリム版や、PS4 Proといったバリエーションを揃えることができました。ゲームを遊びたい人たちにPS4を訴求していくというファーストステップは、2016年でほぼ到達できたと思っています。
ワールドワイドでPS4の普及が進むなかで、いよいよ成熟期に入っていくのが欧米の先進国です。ただ、ここからさらに売上を拡大していくオポチュニティは新興国にあります。我々のテリトリーではアジアですが、ここで重点的に国を絞って展開していくというのが大きな方向性です。
――日本での次なるステップは何になるのでしょうか?
盛田氏:日本では、ほとんどの子供のいる家庭にはゲームがあった時代がありました。ただ、子供の頃にゲームで遊んでいた人たちが親や社会人になって、忙しくてなかなかゲームをプレイできなくなったり、勉強をしなくなるので自分の子供にはゲームをやらせないというような状況にあると思います。
それに対してもう一度、PS2が出てきた頃のように、子供のいる家庭にはゲーム機が一台あるという状況を作り出したいというのが次のステップです。そのための活動はこの2年間継続して行ってきたつもりですが、今後はさらに強化していきたいと思っています。その一環として行われるのが「Days of Play」(6月7日からPS Storeで始まったセール・キャンペーン)です。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントの設立以来、毎月グローバルで集まって戦略のレビューや今後の展開を議論しています。その中で、一度グローバルで統一したキャンペーンを行って、PlayStationとしての盛り上がりを作る施策がこの「Days of Play」です。
国によってお年玉商戦やブラックフライデー、チャイニーズニューイヤーなど、どうしても商戦期が異なってしまうので、これまではそれぞれのタイミングで施策を行っていました。でもせっかくインターネットがこれだけ普及して情報を取得できるようになり、PS4のインストールベースも拡大しているなかで、一度“PlayStation Week”のような形でグローバルの施策を行い、ひとつのムーブメントを形成できないかとチャレンジしています。
日本では、日本人が好きだと思われるタイトルを50タイトル以上ピックアップしてディスカウントし、また店頭ではPS4とDUALSHOCK4を一緒に買っていただくとDUALSHOCK4が50%オフになります。もちろんこの機会にPS4を買っていただきたいのですが、DUALSHOCK4を2つ用意して、家族や友達と一緒に遊んでいただきたいと思い、日本ではこのようなオファーにしました。
――ファミリー層向けということでは、昨年から展開されているPlayStation祭が大きな施策になっていると思いますが、手応えはいかがですか?
盛田氏:PlayStation祭は、さまざまなイベントを一本の線でつなげるという考えで行っています。東京ゲームショウ(TGS)の後に各主要都市を回って同じ体験をしていただくものから、「Call of Duty」の大学対抗戦までいろんな形でオファーできていますし、それぞれのイベントはとても楽しんでいただけると思っています。
PlayStation祭はまずまず認知されていると思いますが、ゲームを楽しむイベントというひとつの大きな括りで一般化していきたいですね。もう少しカジュアルなところ、あるいは親子、友達同士で遊んでもらえるところに、今年は一層力を入れたいと思っています。
――ゲームファンの裾野を広げる活動ですね。
盛田氏:プロ野球やワールドカップを見て、それに憧れて草野球やサッカーをしたりしますよね。ゲームもトッププレイヤーが集まる大会があり、彼らのプレイに刺激されてゲームをプレイする人たちや、プレイしているのを見て楽しむ人たちをたくさん作っていきたいです。
――子供層にリーチしたいというのは、2014年にSIEJAに着任されたときから考えていたと以前伺いましたが、このタイミングで行うというのは予想通りだったのでしょうか? それとも市場を見て決断されたのでしょうか?
盛田氏:市場と環境の両方ですね。タイトルの開発も同じなのですが、企画してからすぐにできるわけではありません。まずはゲームファンにちゃんと遊べるもの、遊びたいものを提供するのが第一だと思っていて、2016年にはそれが一定のポイントに到達したと思います。次のステップに進むには良い時期であるというのは確かです。
――「クラッシュ・バンディクー」「LocoRoco」などがリバイバルされていますが、子供でも楽しめるタイトルを増やしていく狙いはあるのでしょうか?
盛田氏:子供にも楽しめるものをたくさん出していきたいという思いはあります。それと同時に、せっかく出てきたIPを一回で終わらせるのではなく、できるだけ育てていきたいとも考えています。今だからできるIP展開もあると思いますし、特に海外には昔のゲームタイトルが好きな人や日本のゲームのファンもたくさんいるので、日本のIPもどんどん展開していきたいですね。
――昔プレイしていた方が親御さんになって、子供と一緒に楽しめますね。
盛田氏:今、ちょうどそういう時期に来ていると思いますね。
――現在、可処分時間がスマートフォンに奪われている中で、別会社でスマートフォン事業を展開されていますが、それとは別にPlayStationでも昔のIPをかつて遊んできた人たちプッシュしようと考えているのでしょうか?
盛田氏:国内でのスマートフォンゲームの市場は非常に大きいと思っています。ゲーム・エンターテインメントが我々のビジネスなので、その大きな市場を「関係ないよね」とみなすのはおかしいですし、この市場に対するプロダクトや遊びを提供するのがForwardWorksです。
我々は他社と同じものを出すのではなく、今までPlayStationで培ってきたゲームのノウハウや、サードパーティとのリレーションシップによる多彩なIPがあるので、それらを活用して、PlayStationだからこそ可能なおもしろいゲーム体験をモバイルゲームのファンに提供しようと思っています。そこはPlayStationとは分けていますね。とにかくスマートフォンのゲームをプレイしている人にとって一番おもしろいものを提供することがすべてです。
IPはいろんなところで盛り上がれば盛り上がるほど楽しみ方も広がり、IP自体の価値も上がるので、せっかくPlayStationで出したIPはもう一度PlayStationで出してみたほうが良いのではないかとも考えています。待っているファンもたくさんいらっしゃると思います。
――そのIPの多彩な展開が今になった理由は何でしょうか?
盛田氏:現在PS4が非常に好調であるということ、インターネットが普及していること、そしてエンターテインメントのボーダーが低くなって連携しやすいようになり、IPを展開しやすくなる環境ができてきたからですね。良い環境になったと思っています。
さまざまな時間の使い方がありますが、どの時間を使うにしてもPS4を使えばすべてに対応できます。いろんなエンターテインメントに時間を割くけれど、結果的にはずっとPS4を使っているという状況を作れたら良いと思いますし、それを提供するのが我々の役割です。
――子供向けということでは以前「キッズの星プロジェクト」を発表されましたが、今後の展開はありますか?
盛田氏:まだ続報はありませんが、言えるようになった段階で改めてお話させていただきます。
ソニーグループには我々以外にもエンターテインメントの会社がたくさんありますが、今までは環境が整っていなかったんですね。例えばCDを売るという行為と、CDプレイヤーを出すという行為がそれほどリンクしていませんでした。でも今はエンターテインメントのボーダーがなくなりつつあり、インターネットの環境が整ってきたなかで、ようやくリンクさせることができるようになってきたと思っています。
昨今はゲームのIPが舞台やアニメになったり、逆にアニメがゲームになったり、コミックが原作になってドラマや映画になったりしていますよね。せっかくソニーグループの中にいろんな会社があるので、ソニーグループ全体でひとつのIPをひとつの戦略の中で育てていきたいと考えました。
これから我々が出していくゲームのIP等を多彩な形でプロモーションしたいと思っていて、その象徴として「キッズの星プロジェクト」があります。
例えばPS VRでいうと、去年はL'Arc~en~Cielと「バイオハザード」のコラボレーションコンテンツを提供しましたし、今度はANIPLEXが持つ「傷物語」という映画のPS VRコンテンツが登場します。ソニーグループの中であるタイトルやIPが出てきた際に全体で盛り上げていき、ゲームを一般化していくためにPlayStationでもサポートしていきたいと考えています。
――例えばPlayStation Musicやビデオサービスなど、一台のPlayStationでできることが増えた印象がありますが、それもその一環なのでしょうか?
盛田氏:おっしゃるとおりです。それが我々がやりたい3つ目のステップで、そこが最終的な目標です。
PlayStationで一番楽しめるのはゲームですが、PS4でYouTubeなどビデオサービスを楽しんだり、PS4で音楽を聴くことができるようになると、すべてのエンターテインメントがPlayStationで堪能できるようになります。
PlayStationさえ持っていれば何でも楽しめるので、例えばゲームをプレイしないお母さんもPlayStationでビデオや音楽を楽しむことができるようになります。家族みんなが使えるPlayStationになれば、「一家に一台、みんなのPlayStation」という状況が実現できる。そこが目指すところです。
――音楽に関しては、先日からSpotifyに対応されましたが、自社グループのサービスにこだわりはないのでしょうか?
盛田氏:自社サービスにこだわらないというより、みんなが楽しいと思うサービスがPlayStationで楽しめる形にしたいんです。極端なことを言うと、すべてのエンターテインメントをPlayStationに集めたいので、そこは必ずしもファーストパーティでなくてもいい。ファーストパーティの方がより楽しいサービスになっていると思えば提供しますし、他社で楽しいサービスがあればそれを持ってきたいと思っています。
――先日DMMがPS VRに対応しましたが、最初から対応されなかった理由は何でしょうか?
盛田氏:我々の基本的なスタンスはクリアで、ゲームにおいてはCEROの基準も含めて公序良俗を守る、子どもたちが安心して楽しめるという点は守らなくてはなりません。それと同じで、サードパーティのビデオサービスなどさまざまなサービスを提供するにあたり、我々の中での基準に則った形があります。
――PS VRはずっと品薄感が続いていて、ほしいと思っているうちに気持ちが薄れてしまったり、1年経つと新機種が出るんじゃないかと買い控えにつながってしまう可能性もありますが、それについてはいかがですか?
盛田氏:去年はユーザーの皆さんも「VRってなんだ?」「見てみたい」「体験してみたい」とすごく盛り上がっていましたよね。その中で、我々はPS VRというテクノロジーを大事に育てていきたいと考えていました。盛り上がっているから買っちゃった、でも使わなかった、ということにはしたくなかったのです。
ですので、体験して納得してもらい、その上で買っていただくということをやってきたつもりです。いきなり無理して大きな展開をしなかったおかげで、購入した人たちには楽しんでいただき、それを言葉にしていただけていると思っています。
出すタイミングでの需要もなかなか読みにくく、コンサバ過ぎたと言われればその通りなのですが、結果的にこういう状況になってしまったことは残念でしたし、申し訳なく思っています。ただ、今年2月から生産体制も増強したので、順次そこは解消されていくと考えています。
それを踏まえて、取り扱っていただく店舗数や体験できる機会をどんどん増やしていこうというのが我々のやろうとしていることです。
――1店舗あたりの割当が減るということではない?
盛田氏:買いたいと思っている人が買える状態にしないといけませんので、そういうことにならないように体制を整えているつもりです。
VRはTV以来のイノベーションだと思っています。これからの体験は座って見るのではなく中に入って行う形になっていくはずなので、そこを目指していくことが重要です。そこを目標にしてユーザーの体験活動や開発を続けていきたいと考えているので、闇雲に今の台数がどうかということより、そこにステップを踏んで歩んでいけているのかが大切です。
――PS4の「一家に一台」というアプローチと、PS VRのアプローチのバランスはどう取られるのでしょうか?
盛田氏:我々の中では同じだと思っています。例えばゲームをやるからPS4を買いたいという人だけではなく、ビデオサービスを楽しみたいから買いたいという人もいてくれるとうれしいですし、そのひとつのファクターが「PS VRができるからPS4を買う」だと思います。それは昔、PS2が出た時の「DVDが見られるから買う」というのと同じだと思います。
そういう動機で購入し、逆にPS4やPS VRを買ったからゲームもやろうというふうにつながると思っています。親和性は高いのではないでしょうか。
――これからE3があって、PS VRタイトルなども発表されると思いますが、その先のTGSなどに向けた展望はお聞かせいただけますか?
盛田氏:まだE3も始まっていないので、お話できることはありません(笑)。ただ今日私がお話したようなことはPlayStationとして国内で行っていきたいことなので、これに沿った形で展開したいと考えています。