デジタルメディア協会(AMD)は、日本におけるe-Sports振興のための取り組みについて、本日11月17日にヒルトン東京にて発表会を開催した。

AMDは、出版・映画・映像・ゲーム・通信など、特定の業種に偏らない会員で構成されるデジタルコンテンツの団体だ。国家戦略のクールジャパン構想に則り、デジタルコンテンツのグローバルな発展に寄与してきた。

そんなAMDが喫緊の課題として捉えているのが、コンピューターゲームを競技化したe-Sportsの振興で、このためにゲーム競技化推進機構(AeGI)を立ち上げてさまざまな活動を行ってきた。

本発表会では、AMDの理事長を務める襟川恵子氏らが登壇し、AMDによるスポーツ振興に向けた新たな取り組みや、今後の展望などが語られた。

e-Sportsに沸き立つ世界と、日本におけるe-Sports振興の障害

襟川恵子氏
襟川恵子氏

まず始めに、襟川氏より開催の挨拶と、AMDによるe-Sports振興のための取り組みが説明された。冒頭、襟川氏は世界におけるe-Sportsの認知度の高さについて言及。e-Sportsといえば韓国が本場というイメージが強いが、欧州、特にフランスでは2024年のパリオリンピック・パラリンピックにてe-Sportsが正式種目として採用される可能性も高まっているという。

e-Sportsの人気は年々高まっていく一方で、その賞品額も億を超える金額になることも珍しくない。アメリカでは学費免除でプロゲーマーの育成を行ったり、あるいはトレーナーによる基礎体力の構築を目的としたトレーニングまで行われるなど、まさにアスリートと遜色ない扱われ方がなされている。

そんなe-Sportsが日本国内で振興しない理由として襟川氏が掲げた問題は、やはり法律の問題だ。風俗営業法、消費者保護法、景品表示法等、日本国内で賞金をかけたe-Sports大会を行う場合、法律に抵触する可能性が多々あるという。

AMDでは、これらの抜本的な改革を図るため、業界内だけでなく総務省をはじめ関係各省庁、経団連、VIPO等々と密な連携を取り、法律を研究し、支援を受けてきた。その結果として、来年開催される闘会議2018では、なんとAMDより賞金1000万円が提供されることがこの場で発表された。

鐘ヶ江秀彦氏
鐘ヶ江秀彦氏

続いて、NPO法人 日本シミュレーション&ゲーミング学会 会長を務める鐘ヶ江秀彦氏が登壇し、今後の日本の経済成長の動向と、それに関連したゲーム市場の価値について講話が行われた。

産業革命以降、現在まで連綿と続く技術の進歩は目覚ましく、最近ではバーチャルリアリティー技術(VR)や拡張現実技術(AR)などが実用化され、またロボット技術に関しても日進月歩の成長が遂げられている。こうした中で、そう遠くない将来に新たな技術革命が起こる可能性があると鐘ヶ江氏は語った。

よく言われるが、ロボット技術などが発展することで、一部の職業が人間の手を不要とし、完全に雇用が奪われてしまう可能性がある。例えば、配達業はドローンに転換可能で、社会全般の諸々の事務作業なども機械化することができる。経済が機会の力を借りてより効率化されることで、人間の労働時間は短縮され、その分余暇を楽しむ時間が今より発生することだろう。

そうなった時に、新たな雇用と産業になりえる可能性を秘めているのがe-Sportsの世界だ。プレイヤーの育成はもちろん、ゲームプレイを視聴するという新たな市場の創出にも繋がる。現在でも余暇の時間を使ってゲームをプレイしている人はいるだろう。技術革新によって現在の産業が変わった時、そうした人々の時間がより健全な方向へと発展していき、さらに雇用に代わる新たな自己実現の手段として受け入れられる。そうした時代に「もうすでに入っている」のだと鐘ヶ江氏は語った。

中村英正氏
中村英正氏

公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会CFO企画財務局長 中村英正氏は、e-Sportsの正式種目化を目標に、AMDとさまざまな協議や企画の進行を行っているという。その上で、中村氏はオリンピック・パラリンピックとe-Sportsに共通点があるという。

オリンピック・パラリンピックの意義というのは大きく分けて2つある。1つは、さまざまなハードルを越えて人々が一つになるということ。性別、信仰、人種、国境など、人々がそれぞれ違いを乗り越えて切磋琢磨し合い、目標に向かって一つになれることがオリンピック・パラリンピックの持つ大きな意味になる。

もう1つは若者だ。若者たちがオリンピック・パラリンピックがあるからこそ、それを見た若者が何を感じ、これからの生き方のキッカケになれば、それがオリンピック・パラリンピックの大きな意義になるという。中村氏は、e-Sportsにもこれに似た意義を見出したそうで、オリンピック・パラリンピックのような舞台でe-Sportsを盛り上げていければと語った。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授であり、AeGI副理事長を務める中村伊知哉氏と、株式会社Gzブレイン代表取締役社長であり、AeGIの理事を務める浜村弘一氏は、諸外国に比べて日本国内におけるe-Sports市場規模の小ささを、具体的な数値などを参考に説明した。

中村伊知哉氏 浜村弘一氏

日本のe-Sports市場規模は世界の約1/15、プレイヤーの数は1/20、プロゲーマーの数になると1/10、賞金の獲得額は29位と、e-Sports市場ではまだまだ発展途上国であることが分かる。ヨーロッパではサッカーチームが、アメリカではNBAがe-Sportsプロリーグを運営しているほか、e-Sportsのメッカである韓国ではソウル市がe-Sports専用のスタジアムを建設するなど、行政が支援することも珍しくない。

e-Sportsはビジネスの観点から見ても注目度の高い市場であり、世界のe-Sports市場は毎年10%ほど成長し、3年間で40%近い成長が望める場所になっているという。

では何故、日本におけるe-Sportsがこんなにも遅れたのか。課題の1つは、規制や法律の問題だ。アマチュアの大会では景表法などの縛りがあり、プロでは3つの関連団体(日本eスポーツ連盟、日本eスポーツ協会、日本eスポーツ促進委員会)あり、関係性が複雑な上賞金が出せず人が集まらない。

さらにもう1つは圧倒的な認知度の低さと、それに伴うネガティブなイメージだ。各社から賞金を募る場合でも、もしも何か問題が起きて賞金を出した会社が炎上してしまったら、企業のイメージが悪くなってしまうのではないか。認知度が低い故にマイナスのイメージが付きやすく、印象が良くないので賞金が集まらず人も集まらない、という負のループに陥ってしまっていたのだ。

最近では、格闘ゲームの世界大会「EVO 2017」で日本のプロゲーマーであるときど選手が優勝するなど、選手たちの活躍のおかげもあって国内でも徐々にe-Sportsに対するイメージ、認知度共に払しょくされつつある。

森本紘章氏
森本紘章氏

法律の問題についても、AMD顧問弁護士を務める森本紘章氏は「研究の結果、これらの問題は解決できている」と語っている。

森本氏は、賞金1000万円の提供が決定した「闘会議2017」を例として説明した。まず風営法に関しては、会場がゲームセンターなどのアミューズメント施設ではなく、幕張メッセであるという点から違法になるポイントとかけ離れているので問題はないという。そして問題の賞金についても、ゲーム会社などが出しているわけではなく、それらと全く別の組織であるAMDから提供されているものなので大丈夫なのだそうだ。

脱・e-Sports後進国に向け、国内でさまざまな動きが行われていた2017年。襟川氏は最後に、本発表会のタイトルでもある「日本eスポーツの夜明け」にかけて、「2018年はeスポーツ元年にしたい」と力強くコメントした。

※画面は開発中のものです。

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