カプコンが2018年10月4日に発売を予定しているPS4/XboxOne/Switch/PC用ソフト「ロックマン11 運命の歯車!!」。本作の魅力や新要素である“ダブルギアシステム”などについて、プロデューサーの土屋和弘氏とディレクターの小田晃嗣氏にインタビューを行った。
30周年の節目となる今年2018年に、約8年ぶりとなる正統なナンバリングタイトルの続編として「ロックマン11 運命の歯車!!」が発売される。
「ロックマン11 運命の歯車!!」では、従来のロックマンシリーズが持つ魅力である、シンプルな操作性とやればやるほどにのめり込む奥深さを両立させた2D横スクロールアクションはそのままに、新システム「ダブルギアシステム」を追加。これにより、異なる効果を持つ2つのギアを使い分けながらステージ攻略を目指す、新しいプレイ体験が生まれた。
ここでは、本作のプロデューサーを務める土屋和弘氏と、ディレクターの小田晃嗣氏にインタビューを実施。まだ多くの情報が明かされていない本作の魅力や発売に至る経緯など、さまざまなことを訊ねた。
「ロックマン11」は、新旧どちらのファンも楽しめるようなゲームデザインに
――まずは、本作のストーリーの概要を教えてください。本作でもやはり、Dr.ワイリーがお話の根本に関わってくるのでしょうか。
土屋和弘氏:往年のファンの皆さんには、ある意味期待通りというか、シリーズお馴染みのライト博士とワイリー博士、この2人の因縁をストーリーのフックにはさせていただいています。
しかし、気を付けている部分が1つありまして、今回8年ぶりの新作かつシリーズ30周年の記念作品という区切りで発表させていただいたタイトルでもありますので、旧来のファンの皆さんに「待ってました!」と言ってもらえる部分を残しつつ、ロックマンに馴染みの薄い若いゲーマーの方々にも分かりやすく触れやすいタイトルにしようと心掛けています。プロデューサーとして、シリーズの“お約束”を当たり前のものとしてしまい、若いゲーマーの方々が触れた時に「これってどういうことなの?」と思われてしまうのが嫌だったので、開発には「新規のゲーマーにも納得してもらえるようなストーリーラインにしてくれ」というリクエストをしていました。
――ロックマンシリーズは長寿タイトルでもありますし、旧来のファンであればあるほど、ライト博士とワイリー博士の関係性など、“そういうもの”として認識している情報は多くなりますよね。
土屋氏:例えば「ロックマン6」では、導入部分にて“謎の人物・ドクターX”というキャラクターが出てきます。それまでのシリーズをプレイしてきた人ならば、どう考えてもワイリー博士が変装していることが分かりますし、お話のオチまで半ばギャグのように理解できると思います。
当時はコンスタントにタイトルを出してきた“流れ”があり、それでも問題なかったのですが、本作を出すタイミングでそのようなストーリーの導入を作ってしまうと、“昔のファンが昔のファンのために作っている”、ということが透けて見えてしまい、新しくロックマンに興味を持ってくれたファンが敬遠してしまうと考えました。
――なるほど。作品のコンセプト的に、旧来のファンだけでなく、新規のファンも意識してストーリーなどを組み立てているわけですね。
土屋氏:私は今回の取り組みの一つとして、開発スタッフに「ロックマンの情報を知っている前提で物事を構築しないように」、というオーダーを出していました。内容の一つひとつに「ここはこうして」と細かく指示をするのではなく、あくまでも新規のファンが疎外感を覚えないことを大前提として、旧来のファンもニヤリとできるように、自身が思うロックマンらしい作品に仕上げてくれとお願いしていました。
――そうしたオーダーの下、小田さんはどういった部分に注意して制作されていたのでしょうか。
小田晃嗣氏:あまり長々と語ったり、その物事に対して長い説明がいるようなストーリーラインにすると、新しいファンの方が触れた時に「僕らのためのものじゃない」と思われてしまうと考えたので、とにかく言葉は少なく済ませられるように意識しました。
――冒頭にカットシーンが入りますが、これも情報を視覚的に伝えやすくするために導入されているのでしょうか。
小田氏:そうですね。この人物はどういう人で、この人とどんな関係なのか、今はどういう状況なのか、という説明をその場面を見ただけで理解できるようにしたつもりです。
――ライト博士とワイリー博士の関係も、ここで分かるように意図されているんですね。
小田氏:旧来のファンであれば、ワイリーがどういう性格でどういう目的を持っているかまで説明しなくても把握していると思いますが、新規の人は良くて名前と姿が一致するくらいの情報しか持っていないと思うんですよね。ただ、本作は昔と比べて表現力も格段に上がっていますし、眉の動きや目線、仕草など、表情の変化からその人物の性格まで伝えられるように、言葉はなるべく選んで少なくしています。
――今回、オープニングデモがあるのが個人的には意外で驚きました。こうしたカットシーンは、本作では多く盛り込まれているのでしょうか。
小田氏:従来のシリーズからすると、少し厚めになっているかもしれませんね。しかしその分だけ、一旦ゲームを始めた後は集中してストーリーにのめり込めるような作りにはしています。
――ロックマンシリーズと言えば、やはり多彩なステージが魅力の一つだと思いますが、製作していく上で特に苦労したものや印象に残っているステージはありますか。
小田氏:作り手だからというわけではありませんが、今回に関しては全ステージ調整に苦労しましたね。自分が一人のユーザーとして振り返って遊んだ時に、「これでいいや」と妥協できる作りが、しなかったというよりもできなかったんです。それくらいシステム上、攻略により柔軟性が求められるようになったので、どのステージも手を抜くことはできなかったですね。その結果、どのステージも思い出深いものになっています(笑)。
土屋氏:これまでのロックマンシリーズも、ステージ毎の特色というのは見た目の違いだけでなく“遊び”の違いという部分も特徴の一つだったと思います。今回の「ロックマン11」でも、ステージ毎の遊びの違いというのはすごく凝った作りになっているので、全体としてのバラエティはとても豊かになっていると思います。ステージ毎の特色については非常に自信を持てている部分ですので、まだ公開できてないステージも含めて早く皆さんにお見せしたいですね(笑)。
――今回のステージ作りにも大きな影響を与えたと思いますが、改めて、新要素である「ダブルギアシステム」の特徴を教えてください。
小田氏:まず、どうして「ダブルギアシステム」を新たに実装しようと考えたかと言いますと、シリーズが長く続いたこともあって、ロックマンの遊び方が画一化されてきてしまっていると感じたんです。Youtubeなどにアップされているタイムアタック動画に代表されるように、無駄な動きを一切排除した物凄くカチっとしたプレイというのは人気も高く、私自身それ自体はある種の美しさもあって素直に“すごいな”と思うんです。
ただその反面、その動画を見た人が「これは僕の(私の)ためのゲームではない」と感じてしまうこともあるのでは?と思ったんです。元々ロックマンは、誰にでも、どの年代の人にでも訴求できる面白さがあります。誰でもやっていけば自分が上手くなったと実感できる楽しさが根っこにあったはずなのに、その根本的な魅力が薄れてきてしまっているのが残念に思っていました。
――「ダブルギアシステム」は、そうした根本的な面白さをもう一度際立たせるために導入されたということでしょうか。
小田氏:そうですね。もしも「ダブルギアシステム」が単純に、上手くない人を補助するためだけのシステムだったとしたら、これまで真剣にゲームを遊んでいただいて腕を磨いてこられたプレイヤーの方々には本意ではない改良になったと思います。しかし、「ダブルギアシステム」は上手い人が使えばより上手く、自分なりの使い方を表現できるものになっていますし、初心者に対しては“こんな風に使えば楽しくプレイできる”というような、誘導ができるシステムになっています。
――実際にゲームをプレイして感じたことなのですが、敵の攻撃など、全体的なゲームテンポがやや速くなったような印象を受けました。これは「ダブルギアシステム」を実装するにあたって調整された部分かと思ったのですが、いかがでしょうか。
小田氏:意図的に速めたということはありませんね。ただ、現代のゲームのトレンドに合わせると大体これくらいかなという指標はあります。そこからギアを使った時と使わない時のシチュエーションをデータ化し、どこが最適かつプレイしていて一番気持ち良いかと考えた結果、現状のテンポに落ち着きました。
――現在の時流などもデータとしてゲームに取り入れているんですね。
小田氏:あとは、かつての画面比率は4:3でしたが、現在では16:9が一般的ですので、単純に見える範囲も異なってきます。なので、当時と同じ感覚で設定してしまうと、どうしても物足りなく感じてしまいます。
――実際にやってみると、ボスの攻撃方法やステージのギミックなどが、ギアシステムと上手く噛み合っていると実感する場面が多々ありました。
小田氏:プレイしていくうちにどういった動きをすれば良いかというのが分かってくると思いますが、最初は慌ただしい動きの中で自分を見失いがちになると思います。そこを対処するためにスピードギアを使うのか、あるいはプレイしていくうちに見出したチャンスに合わせてパワーギアを使うのか。ここは慣れによるところもありますし、プレイヤーそれぞれに選択肢を持たせられたらと思いますね。
――ギアシステムがあるからこそできる表現というか、ステージ作りの幅というのもありそうですね。
小田氏:実際にはギアシステムをまったく使わなくてもクリアできるようにはなっているのですが、当然、ギアシステムを使った時と使わなかった時では難易度もプレイフィールも変わってきます。ただ、私たちは攻略方法を強制するのではなく、あくまでも選択肢をプレイヤー側に用意したいと考えているので、そういった意味ではこれまでのロックマンとは違ったステージ作りの苦労がありましたね(笑)。
――自分も子供の頃からずっとロックマンを遊んでいたのですが、やはり誰でも楽しめるというのがロックマンの一番の魅力だと思います。その精神が“11”にもしっかり受け継がれていることが、一人のユーザーとしてとても嬉しいです。そんな本作は30周年記念タイトルと銘打たれているわけですが、やはり開発者としても特別な感情はありますか。
土屋氏:やはり期するものがあると言いますか……小田や開発スタッフとよく口に出していたのは、タイトル的には「ロックマン11」ではあるものの、11番目のロックマンを作るのではなく、30年を節目にまた10年、20年とゲーム業界にロックマンが戻ってくるためのロックマンを作ろうと話していました。なので、ちょっとした設定や決め事なんかも“今回だからいいや”と思うのではなく、その先まで続いていく、通用することにしていこうと考えていましたね。
ロックマン自身がそうであったように、30年間愛され続けてきたのは先輩たちの偉大な仕事の結果だと思います。だから、僕らはその名前の上に胡坐をかくのではなく、さらにもう30年愛してもらえるような作品を作ってロックマンを送り出してほしいということは、実際に声に出してよく言っていました。
――ただのナンバリングタイトルではないんですね。
土屋氏:老舗のブランドですし、ずっとシリーズを続けて応援してくださっているファンも世界中にたくさんいます。それだけ期待値も高いタイトルなのでその期待に応えるのと同時に、その先の未来も見せたいんですよね。これは一つのチャレンジしている部分でもあり、すぐに答えが出るものでもないと思います。しかし、そう思って作るものと、今回なりのものとしてまとめればいいやと考えて作るものでは、出来上がりが違ってくると思うんです。なので、何かを作る時は未来を見据えて作って欲しいと、みんなに想いを伝える時は特に気を払っていました。
――お話の通り、ロックマンのファンは日本だけでなく海外にも広く存在しています。このタイトルが発表された時の反応はいかがでしたか。
土屋氏:昨年の12月に30周年を振り返る映像を生放送番組内で公開させていただきましたが、海外の方ってそういった配信を見ている自分の様子を配信される方が多くいらっしゃるんですよね。それで、ロックマンの歴史映像から本作の映像に切り替わった瞬間に、人によっては漫画みたいに顎が外れたように呆然としたり、あるいは泣きそうに目頭を押さえたり、感情の表現がすごくストレートなんですよね。ああいう映像を見せてもらうと、開発者としては本当に嬉しいですし、決して楽なことばかりじゃない辛いこともいっぱいあった中でもまだまだ頑張っていける、活力のようなものをもらえました。
国内のユーザーさんたちも動画にさまざまな気持ちがこもったコメントとかを残していただいていて、開発スタッフたちもそれらを見て元気をもらったと思います。僕自身、それを見て勇気づけられたので、本当に嬉しかったですね。
――本作はPS4/XboxOne/Switch/Steamと、かなり幅広いプラットフォームで販売されますが、やはり海外展開を視野に入れてということなのでしょうか。
土屋氏:そうですね。幸運なことにロックマンシリーズは世界中で人気を獲得してきたタイトルでもありますので、やはり現代に復活させるに当たってはあらゆる年代、国の方に対してきっちりと届けたいと考えていました。そうなると、この4プラットフォームでの展開がマストだと思います。
――マルチプラットフォームでの展開というのはよく聞きますが、実際、作業的には簡単にできるものなのでしょうか。
土屋氏:いえ、かなり大変ですね。その苦労は、小田が一番痛感していると思います(笑)。
小田氏:(笑)。やっぱり、各プラットフォームメーカーさんはその機種の個性を出そうとして独自の機能や性能を持たせていますからね。どこかに合わせて作る、ということがなかなかできず、かといって中間ばかりを意識しすぎると中途半端で特徴がなくなってしまいます。なので、どこを捨ててどこを活かすか、着地点をどこにするかというのは、プラットフォーム毎に定めて調整を行っています。
土屋氏:実際に遊んでみた時に、どれで遊んでも同じ感覚になるように、ゲームバランスとは異なる見えない調整をすべてのプラットフォームで行っています。
小田氏:なので、ものすごく目ざとい方であれば、細かな差異に気付くと思います。やっぱり、自分が持っているハードがほかのハードと比べて劣っているのは嫌だと思うので、そこはどのプラットフォームで遊んでもそれが最高のロックマンになるように心がけています。
――お話を聞いていると、「ロックマン11」は続編ではあるものの、ここから仕切り直すような、初代ロックマンとは別の新しい出発点のような意味合いが込められていることが伺えます。
土屋氏:古参のファンと新しいファンのことを考えるとそこは意識せざるを得ない部分で、実際、ある時期に小田からも「これは本当に“11”でいいのか」と訊かれたこともありました。思い切ってナンバリングを捨て、「ロックマン」だけで打ち出すのもアリなのではないかと。二桁の数字が付くと、少し敷居が高く見えてしまうんですよね。
――重みがありますよね。
土屋氏:はい。歴史を感じられる一方で、新規のファンからするとその数字を重く捉えられてしまうのではないかという懸念がありました。過去作をやらなければいけないのかな、と思わせてしまう可能性もありますし、これについては本当に悩みました。
いろいろと議論して、マーケットのことを考えたり、データを分析していく中で、より多くの人たちに届けていくには、やっぱりシンプルに「ロックマンの11番目」ということを伝えたほうがベストだろうという結論に達しました。
その代わりというわけではありませんが、ゲームの中身については“改めまして”、あるいは“初めまして”の気持ちを重視して制作しています。
――タイトル名はとても重要ですよね。作品の顔ともいうべき要素ですし、それを決定する時の心境はいかがでしたか。
小田氏:例えばナンバリングが10以上続いているタイトルの場合、9まで遊んだことがあったプレイヤーが12をやろうと考えた時、間にある10と11をやらなければいけないのではないかと、二の足を踏んでしまうことってあると思うんです。もし仮に9から11までストーリーの繋がりはなく、全くの別物だったとして、知識があれば9と10を飛ばして11をプレイできると思いますが、そうでない場合は不安になりますよね。
そういった意味では、本作についても“11”というナンバリングを付けるかどうかは非常に悩みました。ただ、幸いにもロックマンはゲーム内容がアクションゲームであることと、シンプルであることが一貫しています。なので、そうした不安というのは早期に取り除けるだろうと考えました。あとは、長らくロックマンの新作を待ってくれている人たちに対して、“これはロックマンですよ”とストレートに伝える意味でも、“11”というナンバリングは付けようという流れになりましたね。
――例えば「ロックマンエグゼ」だったり「ロックマンDASH」だったり、タイトルをまるっきり別のものに変えるような案はありましたか。
小田氏:それはありませんでした。あくまでファーストシリーズの系譜として、ナンバリングを付けるかどうかという点に苦慮していました。
――前作「ロックマン10」にはタイムアタックモードなどの遊びが用意されていましたが、本作にも追加モードなどはありますか。
土屋氏:いわゆる本編と呼ばれるもの以外にも、長く遊べるようなチャレンジブルな遊びは用意しています。詳細については今後順次発表させていただきますが、プレイボリュームとしてはかなりのものをご用意できていると思います。
――最後に、発売を楽しみにしているユーザーに向けて一言お願いします。
土屋氏:本作の開発には本当に良いスタッフが集まってくれて、まだ完成はしていないのですが、シリーズ旧来からのファンの方にも、新規のファンの方にも、どちらにも“良いロックマン”を提供できると実感しています。ロックマンをまだ知らない人にも良いアクションゲーム体験をしてもらえる手応えを感じているので、まだまだ情報は少ないですが、発売を楽しみにしていただければと思います。
小田氏:ずっと待ってくださっていたファンの方には、本当にお待たせしました。ずっと昔からプレイし続けてくださっている方には新しい挑戦を、「ロックマンってなに?」という人にはアクションゲームとは本来こういう面白さがあったんだというゲーム体験を提供できる内容に仕上がっていると思います。ぜひ手に取ってプレイしていただければ幸いです。
――ありがとうございました。