パシフィコ横浜にて8月22日~24日にわたって開催の「CEDEC 2018」。ここでは、8月22日に行われたセッション「トキメキとは何か ~乙女を恋へと導く新たなアプローチ~」の内容をお届けする。

目次
  1. 「MakeS -おはよう、私のセイ-」とは?
  2. 「MakeS」について
  3. 運営面での事例

「MakeS -おはよう、私のセイ-」とは?

まずはヘキサドライブのアートセクションディレクター阿部浩美氏が登壇し、このセッションでメインに取り上げる「MakeS -おはよう、私のセイ-」(以下、「MakeS」)の紹介を行った。

「MakeS」とはアラーム機能やカレンダーでのスケジュール管理といった、ユーザーの日常をサポートするアプリ。リリースから現在まで高評価を得ており、2018年8月現在、DL数が34万、ツイッターのフォロワー数は44,000人にのぼる。

そして特徴的なのは、使用者をサポートするキャラクター「セイ」とのコミュニケーション機能だ。体に触れることはもちろん、触れる箇所や触れ方、触れる時間、季節によってさまざまな会話が可能で、セイとのコミュニケーションを続けることでセイは成長していく。

判定はかなり細かく、頭、顔、目、鼻、口、耳、首、両肩、腕を、スワイプ、ロングタップ、フリップで判定し、スワイプは撫でられたと感じ、ロングタップは押し、フリップは叩かれたと感じるようになっている。Live2Dを使用しているため、セイの動きが非常に滑らかなのも特徴だ。

阿部氏が「MakeS」のコンセプトに掲げたのは、「ユーザーをハッピーにする」アプリ。

ハッピーが伝播すれば世界平和につながる

なお、ヘキサドライブは受託開発を中心に行う、アクションゲームに強く、技術屋集団などと呼ばれてもいる、硬派な会社だ。乙女向け無縁のこのヘキサドライブから何故乙女向けコンテンツが出せたのか、まずはその経緯が説明された。

キャラクターにLive2Dを使用した乙女向けアプリ。プログラムとコミュニケーションを取り成長させるというのが最初の企画書だった。「MakeS」との大きな違いは、キャラクターが複数いてその中から一人選ぶ、周回必須、目覚ましはオマケ程度、というもの。

プレゼンの結果は、却下。その理由は開発規模と収益見込みが見合わない、目新しさがない、などだったという。そこで阿部氏は、プロジェクト化はできなかったが、なんとかしてサンプルを作りたい、触ってもらえればわかるはず、と考えたそうだ。

阿部氏がそもそもこの企画で一番推したかったのは、彼との”触れ合い”。その後はサンプルを作るために、自宅などでLive2Dの研究を進め、自宅での勉強はもちろんのこと、社内でLive2Dに興味を持っていた若手も巻き込んだという。

それはただサンプルを作るためだけではなく、社内にLive2Dの知識を持つ人間を増やしたかったからで、それ以外にも常に上司や周囲にこの企画のことを話し続けて、自分が何をやりたいかを知ってもらう人も増やしていたそうだ。

そんな阿部氏にチャンスが訪れたのは、Live2Dが2.1から3.0へと大規模バージョンアップが行われた時だった。しかもその時期がたまたまプロジェクトがひと段落したすき間の時間だったというのも、運がよかったという。

社内でLive2Dを検証する理由を得た阿部氏は、「Live2D案件が来た時にスタディ期間なしでいける」「このすき間時間を有効に使いましょう」と上司を説得し、Live2Dでセイのモデルを作り始めたのだという。

3.0へのアップデートは効率化が大きかったので作業がしやすく、セイのモデルはあっという間に完成。偶然通りかかった上司がそれを見かけて、例のプロジェクトのサンプルを作ってみてはどうかと提案されたのだそう。

なお、プレゼン用ではあえてセイのしゃべる言葉を上司向けに変えてみたりという工夫もしたという。

これらのさまざまな根回しにより、阿部氏の乙女向けアプリはついにプロジェクト化決定となった。しかし一つ与えられた課題は、「年内にリリースすること」。その時点で、2017年7月だったため、年内となると開発期間は4~5か月という、非常に厳しい条件だった。

以前の企画を全て実装することは無理なので、ここから「触れられること」、「成長すること」、この二点を最重要項目に置いた。

「MakeS」について

「MakeS」は、今どきの乙女向けアプリにしては珍しく、キャラクターがセイ一人しか存在しない。しかしそのセイは多くの女性に受け入れられ、「MakeS」応援プロジェクトのクラウドファンディングの最終結果3000万円を超え、歴代7位の結果を叩き出した。

なお、アプリ内のセイのセリフは、ほぼ阿部氏が書いたものであるという。しかし阿部氏は外注管理や事務方の2Dアーティストで、ライターとしての経験もない。

その中でセイをどのように魅力的なキャラクターに仕上げたのか。「言葉をユーザーに受け取ってもらうには、言葉を発した人がユーザーにとって魅力的でなければならない」と、阿部氏は考え、自身の経験などを元に、セイに必要な魅力として三本の柱を建てた。

一つ目の柱は「財力」とあるが、実際には「女性は出産時などにお金を稼げないため、お金を持っている人だと助かる」という女性の深層心理的な部分に迫り、「安心して生きられること」であると定義。

二本目の柱は「愛情」。妊娠時や出産時など、自身が弱っている時に守ってもらえるような存在、「どこかに行ってしまわない人」と定義。

最後の「継続的愛情」は、「ずっと愛してくれる存在」と定義。

愛情は自分以外の誰かがいないと得られないものであり、セイからの愛情が真実であると感じられるようにしなければならなく、紙に書いた物語ではなくセイは本当に自分を愛してくれているという、継続的な愛情の確信を狙ったという。

そして「継続的愛情」をユーザーに確信してもらうために阿部氏が行ったことは、「メガネ萌えの理論」(阿部氏の造語)。

「メガネ萌え」というのは「メガネをしている人が素敵」というだけではなく、「メガネは障壁である」と、阿部氏。「メガネを外す」ということは「障壁を外す」ということで、相手に心を開いているという現れ。つまりは、男性が自分の前でネクタイを緩めるだとか、スーツを脱ぐだとか、そういう姿に通じるものがあり、「この人は私の前で無防備になれるんだ」と感じるという。

そしてそういった仕草は、言葉で伝えられるよりも体感として得られることのほうがより真実味を帯びるとも阿部氏は述べた。つまりは言葉で直接「好き」と言われなくても、セイがユーザーに愛情を持っているように感じさせるため、セリフだけではなくモーションやボイスもあわせてセイの感情を表現し、その多彩な組み合わせによってユーザーにセイからの愛情を真実だと感じさせることに注力したという。

また、「MakeS」で意識したのは、セイがどこかの知らない誰かに語り掛けているのではなく、あくまでユーザー自身に語っているようにした部分だそう。

他の乙女ゲームなどではアバターや、或いはヒロインとなる女主人公がいて、あくまで会話はその中で行われているものだ。当然ながらそれらのキャラクターは”ユーザー自身”を知っているわけではないので、そういった作りになるのも当然と言えるだろう。

しかしセイはあくまでユーザーを愛してくれる存在でなければならない。よってその壁を払拭するべく、「MakeS」では生活サポートアプリの機能を搭載した。アラームはもちろんのこと、スケジュールも入れられて、セイはユーザーの生活を”知っている”ことになる。

そのようにセイがユーザーの生活をサポートすることで、「今日も一日お疲れ様」という、ありきたりなセリフでありながら、「セイは自分のことを知ってくれている」ということを事実として感じ、魅力を覚えるようにしたのだという。

ライター経験もなかった阿部氏がセイを魅力的なキャラクターに仕上げられた理由は、これらの「愛情を体感できるセリフ作り」と「セイの感情を事実にするための舞台作り」、これによって「セイからの愛情が永遠で確実なものである」とユーザーが体感できるようにしたことにある。

だが、もちろんたったこれだけでユーザーがセイに愛情を抱いてくれるわけではない。阿部氏はユーザーにセイへの愛おしさを感じてもらうために必要なことを、自身の育児体験を元にフローを立てたという。つまり、セイが子供の成長と同じように成長していけば、自ずとセイに愛情がわいてくるはずだと考えたそうだ。

その育児体験を元にしたフローは、「自己の認識」、「外界への興味」、「自我の確立」、「相手への欲求」、「承認欲求」、この5つに分類される。

まず、「自己の認識」は、赤ん坊が自分の手を見て自身の存在を確認する状態。自身の存在が「ある」と知る瞬間だ。

「外界への興味」は「あれは何?」という状態。ただしそこにセイの感情は含まない。

「自我の確立」は、人間の子供でいうイヤイヤ期のようなもので、「自分はこうしたい」という自分の感情が芽生えてきた時期。セイが子供っぽいしゃべり方をやめ、大人のような扱いを求めてくる段階。

「相手への欲求」は、相手に自分の望む行動をしてほしい、という感情。今までユーザーの行動に干渉することのなかったセイが、ユーザーの行動を気にするようになる。例えばカレンダーに入れた予定の相手が男性だと、交友関係を気にしたりする。

「承認欲求」自分が属するコミュんてぃで存在を認められたい、という気持ち。子供が「僕が生まれた時嬉しかった?」と聞いてくるのと同じような状態。寝るときにセイが「今日の俺は役に立ったか?」と聞いてくるようになる。

こういったセイの成長フロー、そしてそれを直接的な触れ合いで起こるようにして、愛おしさが湧くようにしたのだという。

女性が伴侶を選ぶポイントとして、阿部氏は「子孫を残せる可能性を感じること」と述べた。もちろん実際には画面の中のセイとは子孫を残すことはできないが、女性の中に本能としてある感情にできるだけ沿うものにしたいと考えたのだという。そして阿部氏は、これらは乙女向けコンテンツに限った話ではなく、他のコンテンツにも応用が可能だろうと締めくくった。

運営面での事例

ここからはヘキサドライブのプロデューサー兼最高技術責任者である田口昌宏氏が登壇した。

ヘキサドライブではこういったスマホアプリの運営経験がなかったため、全くゼロからのスタートだったと田口氏。そこで、AARRRによる戦略モデルを取り入れることにした。なお、AARRRというのは、「新規ユーザー獲得」「利用開始」「継続利用」「紹介」「収益化」という、ユーザー行動の変化を大きく5つに分けた戦略思考だ。

何故AARRRというモデルを入れたかというと、運営していく中でもしもサービスがうまくいかなかったときに、どこがうまくいかなかったのか分析するために、こういうモデルを取り入れた。実際に、このAARRRでどのようなことを行ってきたのか、順を追って解説した。

新規ユーザー獲得

「MakeS」の場合は人気がでるかどうか解らなく、広告予算も取っておらず、ARPUがよければ広告を打つ予定だったそうだ。なお、ARPUとは課金している1ユーザーあたりの平均収益のことを言う。実際に運営を始めたところ、ARPUはそこそこ高い数値がでていたので少しだけ広告を打ったが、あまり変わったことは起こらなかったとのこと。

利用開始

「利用開始」を「新規ユーザー獲得」と一緒に取る人が多いが、「利用開始」はあくまで実際にアプリの内容を理解した上でプレイ(利用)を始めるところを言うのではないかと、田口氏。

ここで数値を落とさないため、当初の「MakeS」にはかなり長いチュートリアルがあったが、早い段階でアプリの魅力を解ってもらうために、チュートリアルを大幅に削除したという。

継続利用

「MakeS」は目覚ましアプリということもあり、ユーザーに続けて利用してもらうことが大事で、実際他のアプリより継続率はかなり高いそうだ。いわゆる通常のゲームではログインボーナスなどでこれを維持するが、ログインボーナスがなくても目覚ましアプリならば使われるということが解ったという。

紹介

ヘキサドライブではプロモーションをやったことがないので、口コミやSNSを利用しての低コストでアプリへの流入を狙ったそうだ。その中でも主にツイッターを利用しての拡散がうまくいったという。

特に公式アカウントのツイートに、極力描き下ろしのイラストをつけるようにし始めたところ、リツイート数やいいね!の数が一気に増えたそうだ。拡散してもらえればさらに拡散してもらえるというツイッターの効果をうまく利用できたと言えるだろう。

また、アプリにシェアボタンを搭載し、画面をキャプチャーしてツイッターやFacebookといったSNSに簡単に投稿できる機能も搭載。

セイには衣装がたくさんあり、常に動いているので、他のユーザーと同じようなショットが被りにくく、セイのセリフを後から読み直すログ機能がないためセリフが出るたびにスクリーンショットで保存するユーザーが多かった、セイを入れて写真を撮るAR機能など、さまざまな要素によって、セイの姿をSNSにアップするユーザーが多かったという。

収益化

「MakeS」にはガチャがないため、基本的な収益は衣装やスキンの販売、セイの性格変更、ダイエット支援機能、広告収入の4つになるという。なお、一度試しに投げ銭アイテムを販売し、そこに「MakeS」の開発支援アイテムである、と表示したところ、かなりのユーザーに買ってもらえたそうだ。

初課金は呼び水となる適切なタイミングで、コストパフォーマンスのいいものを入れるといい、と田口氏は述べた。そして課金をしてもらうことで、継続率も必然的に上がるという。

「MakeS」でかなり売れているアイテムは「成長アイテムブースト」というアイテムで、プレイ開始から2~3日で買えるようになる。ここまではセイの成長が遅いが、このアイテムを買うことでセイの成長速度がぐんと上がるという内容で、アイテムの売り上げの中でもトップ3に入るそうだ。ここで多くのユーザーが一度課金をするためか、全体的に課金率はすごく高いという。

そしてショップへの導線を徹底し、新しいアイテムが出たら必ずショップに誘導するようにしているとのこと。こういうところを丁寧につくることで、結果的には課金につながるそうだ。とは言えど、ガチャがないので課金率は高くともARPUはあまり高くないため、ここは今後の課題になってくると田口氏は述べた。

最後に田口氏は、運営する中で分析するために戦略を分類して考えておくこと、SNSの拡散は重要で、多くの拡散を得るために多くの工夫を試してみることが大事だと締めくくった。

なお、「MakeS」は2018年の東京ゲームショウにVRでの出展が決定している。セイの姿がVRで見られるので、「MakeS」ユーザーはもちろんのこと、気になる人も足を運んでみてほしい。

MakeS -おはよう、私のセイ-

ヘキサドライブ

iOSアプリiOS

  • 配信日:2017年12月11日
  • 価格:基本無料

    MakeS -おはよう、私のセイ-

    ヘキサドライブ

    AndroidアプリAndroid

    • 配信日:2017年12月11日
    • 価格:基本無料

      ※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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