「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」をレビュー。「ファイナルファンタジータクティクス」の雰囲気を感じさせる本作の魅力に迫る。
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「WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争」(以下、FFBE 幻影戦争)は、11月14日にスクウェア・エニックスが配信開始したスマートフォン向けタクティカルRPG。タイトルの通り、「FFBE」シリーズの最新作ということもあり、事前登録数50万人突破という話題を集めていた。それだけじゃない。タイトルこそ「FFBE」だが、「FFBE 幻影戦争」の内容は「ファイナルファンタジータクティクス」(以下、FFT)ライクなタクティカルRPGなのだ。つまり、「FFBE」ファンのみならず「FFT」ファンにとっても注目の一作。もちろん、筆者も配信を待ち望んでいた。このレビューでは、そんな本作の内容に迫りたい。
高低差のあるクォータービューに行動順!「FFT」の後継的システム
「FFT」と書いたとおり、本作のシステムは「FFT」と非常に近い。フィールドマップは斜めから見下ろしたクォータービュー。四角いマスで区切られている。このマップ上に味方と敵とユニットが並び、順番の来たユニットが行動を行う…という仕組みだ。
このシステムはいわゆる「ターンベース・ストラテジー」と呼ばれるゲームジャンルで一般的な形式。その中で「FFT」や本作ならではの主な要素として、「マップの高低差」と、「行動順」が挙げられる。
マップ上の各マスには高低差があり、移動時はもちろん、攻撃時にも影響を与える。まず、各ユニットが越えられる高低差は、JUMPパラメーターの値によって決まる。なので、JUMPの高いユニットが高低差を利用すれば、JUMPの低いユニットから簡単に逃げることが可能だ。また、弓で攻撃を行う場合は、高さによって射程距離が伸びる。なので、弓を使うユニットを高いところへ配置できれば、広範囲の敵を一方的に攻撃できてしまう。
行動順については、単にユニットのすばやさだけで決まるのではないという点がポイントだ。ユニットのすばやさに加えて、取った行動によって行動順が変化する。たとえば、同一ターンに移動と攻撃を行うよりも、移動のみ、攻撃のみ行う方が、行動順が早い。また、魔法を唱える場合、詠唱時間が行動順に組み込まれる。このため、魔法の効果が発動する前に敵の攻撃によってユニットが倒され、魔法が発動できなかった…という状況も起こり得るのだ。
「マップの高低差」と「行動順」があることで、「FFT」も本作も、地形と先の展開を読みながら戦うことが重要なゲームになっている。
また本作ならではの要素としては、魔法やスキルを使うための「MP」が「TP」と「AP」という2つに分かれていることが挙げられる。「TP」は回復系や補助系の魔法/スキル使用に使うポイントで、バトルスタート時に満タン・バトル中はアイテムを使わない限り回復しない。一方、「AP」は攻撃系の魔法/スキル使用に使うポイントで、バトル中敵を攻撃することで獲得する…というのが特徴だ。2つのポイントの特性によって自ずと、「魔法・スキルをいつ使うべきか?」という最適なタイミングを考えることになる。これはよくできた仕組みたと感じた。
他にもダメージ計算に関わってくる要素として、「斬撃、打撃、刺突、射撃、魔法」という攻撃タイプによる有利/不利、「火、氷、風、土、雷、水、光、闇」という属性による有利/不利、さらにサイドアタックやバックアタックといった攻撃方向の要素があるため、バトルの際にはかなり頭を使う。戦術が重要。まさしくタクティカルRPGだ。
「FFT 獅子戦争」の雰囲気をゲーム化したような、ハッチングを使った影の演出
本作のシステムについて紹介してきたが、「FFT」の息吹を感じるのはシステムだけじゃない。ビジュアル面も、そのひとつだ。…といっても、「FFT」のビジュアルはドット絵をベースとしたディフォルメキャラ。純粋にバトル中のイメージだけ比べると、本作とは大分異なっている。
しかし、バトル時のキャラクターではなくキャラクターのイラストレーションや、とりわけ「FFT 獅子戦争」で描かれていたムービーの世界観をイメージすると、本作が「FFT」のビジュアルテイストを引き継いでいることがよく分かる。
そのひとつの例が、ハッチングを使った影の演出。ハッチングというのは平行な線を使った絵画技法。「FFT 獅子戦争」では影の表現にこのハッチングを使うことで、3DCGなのに手描きのイラストレーションのような効果を出していた。そして本作もまた、影の表現にハッチングを使っている。このため本作は、「FFT 獅子戦争」のムービーの世界をそのままゲームに落とし込んようなビジュアルを実現しているのだ。
また、一般的なスマホRPGでは、ストーリーシーンの演出としてノベル系アドベンチャーゲームのようにキャラクターの2Dイラストを使うか、3Dのムービーを使うことが多い。しかし本作は、バトル中同様、クォータービューのフィールド上でキャラクターに演技させるという手法を取っている。もちろんこの点も「FFT」譲り。このため、まるで「FFT」の新作が現代の技術で作られたかのようだ。このビジュアル、筆者は「FFT」ファンとしてとてもうれしく感じた。
国家を巡る政治劇を扱うストーリー
システム、ビジュアル…と紹介する中で、本作の精神的面が「FFT」に近いことを書いてきたが、ストーリーもまた、「FFT」に近いテイストを持っている。本作の主人公、モント・リオニスは小国リオニスの第一王子。当然王位継承権を持っているわけだが、気が弱く、自分に自信がない。一方、第二王子シュテルは勇猛な性格だが、自分を取り立ててくれない王に不満を持っていた。
この、自分を認めて欲しいという思いと、王位継承権という政治的立場。ここに絡んでくるのが、リオニスの友好国であるホルンを巡るトラブルだ。ホルンの姫、マシュリーは馬車での移動中、賊の襲撃を受ける。その場にモントが、出くわしたことから、物語は展開していく。
国家同士の陰謀、王位継承権、政略結婚などなど、ファンタジー世界を舞台としながらストーリーに「政治」的なテーマを盛り込む。これによって、歴史の一部を見ているような重厚さを感じさせることの本作の特徴だ。そして同時に、「FFT」のテイストを感じさせる部分でもある。「FFT」もまた、「身分格差」や「貧富の差」など、政治的なテーマを盛り込むことで歴史もののような重厚さを感じさせる作品だった。
タクティカルRPGとしてのクオリティは高い!ただしヒリヒリした難易度を求めるなら縛りプレイがオススメ
ここまで紹介してきたとおり、本作は「FFT」の精神的続編といってもいい作品だ。なので、「FF」ファン、「FFBE」ファンのみならず「FFT」ファンに是非とも勧めたい…ところなのだが、実は、プレイしていて気になるところがなかったわけではない。それは、スマホRPGならではの要素の部分。
他の多くのスマホRPG同様、本作もユニットの入手方法は「ガチャ」だ。このため、バトルにはまだストーリーで触れていないキャラクターも登場する。この点を本作はタイトルにもある「ビジョン(VISION)」という設定でカバー。「ビジョン」というのは想いを具現化して使役するという能力で、リオニスだけに伝わる神秘的な力だ。この力があるからこそ、リオニスは小国でありながらこれまで生き残ってこれた…というストーリー的な説得力も持っている。なので、この設定に何の問題もない…ハズ。
ただ、個人的には、ストーリーシーンとバトルシーンとの繋がりで、どうしても違和感を感じてしまった。それはたとえば、想いを具現化するという設定なのに、会ったことのないユニットが編成できてしまうのはどうなんだろう…だとか、ストーリー上でゲストキャラが参戦する際に、たとえばゲストのマシュリー(本人)と、編成上のマシュリー(ビジョン)がパーティー内に混在する形になってしまうことについて、マシュリー(本人)はどう考えているんだろう?…だとかいったことだ。もちろん、ここに書いたような状況は、ガチャシステムを持つ他のスマホRPGでもいくらでも起こり得る。でも何故本作でそんなに気になってしまうのかといえば、ビジュアルとストーリーの完成度が高いから、だろう。
ハッチングで描かれたビジュアル、クォータービューの箱庭世界でキャラクターに演技をさせる臨場感、ストーリーで描く世界の説得力といった各要素において、本作のクオリティは非常に高い。このままコンシューマーで一気にプレイしたいと思うほど、だ。だからこそ逆に、ストーリーとのバトルとの繋がり部分にある「スマホRPGならではのお約束」の部分が気になってしまったのだと思う。ただこれは、裏を返せばそれだけ本作が魅力的な作品と言うことだ。
また、ゲームの難易度面で気になったのが、「同行者」の存在だ。「同行者」は、他プレイヤーの持っているユニットをパーティーメンバーとして加えられるという機能。この機能自体は、やはり他のスマホRPGでも用意されていることが多い。
この仕組みの何が気になったのかというと、その仕組み上、他のプレイヤーが大幅に育成したユニットがパーティーに加わってしまう。そうすると一気に難易度が低下。加えるキャラにもよるが、場合によっては、FFTで「雷神シド」が加わったかのように、力押しでもゴリゴリクリアできてしまうようになる。頭脳プレイを求める筆者のようなプレイヤーとしては、これはちょっと残念だ。
…とはいえ、基本プレイ無料のスマホRPGとしてリリースされる以上、幅広いプレイヤーに受け入れられなければビジネスが成り立たないのも分かる。そこで、筆者と同様に戦術的なヒリヒリした楽しさを求めるプレイヤーは、「同行者」を使わない「縛りプレイ」をオススメしたい。ユニットの成長のさせ方にもよるだろうが、「同行者」を使わない場合、ユニットの立ち回りをしっかり考える必要が出てくるため、戦術性をバッチリ楽しめるようになる。
大前提として、本作は非常にできがよく、おもしろい。少し厳しいところを書いたのは、筆者が「FFT」を好きすぎて重箱の隅が気になったせいだと思ってもらえれば幸いだ。「FF」「FFBE」「FFT」といった作品のファン、そしてターン制ストラテジーが好きな人は、是非プレイしてほしい。