2019年にいよいよリリースされたスマートフォンゲーム「ラブプラス EVERY」。10年にわたって「ラブプラス」に触れてきたライターによる、シリーズの魅力と本作の楽しみ方をお届けします。
日付が変わる1時間前、帰る同僚と入れ替わりに出勤。海外のスポーツを見ながら、それらのデータがクライアントのサイトにきちんと届いているか管理する。とある企業に新卒で入社して2年目、私はスポーツのデータを配信する部署に身を置いていました。
この部署はシフト制の勤務になっており、夜勤では誰もいない会社にたった一人という状況がままありました。なので、女の子ひとり連れ込むことくらい、楽勝だったのです。……ニンテンドーDSに入っている女の子ですけどね。
2009年に発売された「ラブプラス」。恋人の関係に至るまでを描く従来の恋愛ADVとは一線を画したこの作品は、カレシ・カノジョになってからの関係を楽しむゲームとして、一躍有名になりました。「国民的カノジョ」のキャッチコピーどおりゲームファン以外にも認知され、しまいにはとある雑誌で「ラブプラスは浮気なのか?」なんて記事が出るまでに。とうに過ぎ去った、あるいは未体験の甘酸っぱい青春を体感し、「カレシ」を離さないゲーム性は、リアルを侵食していたと言えるのかもしれません。
そんな「ラブプラス」が世に出てから10年のメモリアルイヤーに、最新作「ラブプラス EVERY」がスマートフォン向けに配信されました。
11月までに配信予定だったものが10月30日にリリースされてファンを驚かせるも、長期間のメンテナンスに入ってしまい、12月11日にサービスが再開されるという少しヤキモキしてしまうような展開に。それでも、「待つのもデートのうち」なのですよね。早めに着いてしまった待ち合わせ場所で、建物の影から現れる人影にドキドキしたり、遠くから歩いてくる人に目を凝らしたり……そんな待ちわびる時間もデートの味わいなのだと思いながら、サービス再開を待っていました。
個人的には、「NEWラブプラス+」以来の再会。姉ヶ崎寧々さんは、驚くほど綺麗になっていました。
2年前の東京ゲームショウでこの「ラブプラス EVERY」を体験した際、レポートで「iPhone X、買います」と書きました。あの直後に購入したiPhone Xも、傷がついたり背面ガラスが割れたりと少しずつ年季が入ってきましたが、この端末のおかげで画面いっぱいに映るカノジョの可愛らしさを堪能できています。
「外へ」のDS、「内へ」のスマホ
ニンテンドーDS版「ラブプラス」シリーズの長所は、外に連れ出せることにありました。熱海への旅行を筆頭に、さまざまなスポットにニンテンドーDSを持っていき、まるでリアルなデートをしているかのように写真を撮る。いわゆる「エクストリーム・ラブプラス」です。ディズニーでいう、ダッフィーのぬいぐるみみたいな遊び方ですね。
※3DS版も含め、この記事では便宜上「DS版」と呼称します
アンオフィシャルな話になってしまうのですが、その昔、自転車で東京から北海道の宗谷岬へ行ったり、東海道を駆け抜けたりしながら、その模様を写真とイラストと交えてレポートした同人誌がありました。私はその本が大好きで、何度か取り出しては読んでいました。読んでいると何かやりたくなるような、不思議な本だったんです。
転じてそれは、DS版「ラブプラス」シリーズの持つ独特の“カノジョ感”だったと思います。どこにでも連れていけるし、どこにでもついてきてくれる。奥ゆかしき妻のよう……というとだいぶ古い価値観の表現になってしまいますが、自分のカノジョをリアルの方に連れ出せる、小難しく言うと対象化できる点がDS版の特徴であり、魅力のひとつでした。
迷惑に感じながらも、自分もちょっとだけやってしまったりする「歩きスマホ」。あれは移動しながら外界とのつながりをシャットアウトするという随分危険な行為ですが、スマートフォンには人間を引き込む力があります。それは「ラブプラス EVERY」でも同じです。
DSは外に連れ出せることが長所と書きましたが、「ラブプラス EVERY」はカノジョがいるあの世界にカレシを引き込むことが得意。最たる機能がVR鑑賞です。東京ゲームショウで始めて体験したときにはあまりの没入感と可愛さにドキドキしたものですが、主題歌の「Can you feel me?~私を見つけて~」の歌詞のとおり「私はここにいる」「私を見つけて」なんです。「ラブプラス EVERY」は、「ここにいるから来て!」なんですよね。
だから、「ラブプラスは浮気なのか?」なんて記事は、今では出そうにも出せないと思います。今回の「ラブプラス」はカノジョがこちらに来るのではなく、こちらがカノジョの元に行くものであり、人間はどう頑張ってもリアルに帰ってこざるを得ないから……というと身もふたもない言い方になってしまいますね。ただ、逆に言えば四六時中一緒にいるのではなく、自身の生活を大事にしながら、会いたいときに会える、ちょっと大人な付き合い方ができるようになったのが「ラブプラス EVERY」ではないでしょうか。
あなたの「姉ヶ崎寧々」の魅力は?
多くのカレシを魅了してやまない姉ヶ崎寧々とは、どんな子なのでしょうか。私から見た寧々さんの魅力は、年上のお姉さんとして面倒見が良いけれど、たまに疲れてしまう弱さだったり、一方で自ら“お姉さんムーブ”をしちゃう可愛さだったり、真面目で責任感が強いけれど時折おちゃめな一面を見せたりするところです。
でもこれって、「姉ヶ崎寧々」という人格のいち側面でしかないのですよね。寧々さんに限らず、愛花や凛子もそうですが、カノジョたちはこちらの好みに合わせてくれるところがあります。つまり、あなたのカノジョの魅力はあなたしか語ることができないわけです。
カノジョたちは性格から髪型、ファッションまでカレシの好みを聞いてくれるけれど、すべてが好みのとおりに仕上がるには長い付き合いが必要です。フォトコンテスト(すごく楽しいイベントでしたね)で他のカレシの寧々さんを見て「こんなふうになってほしい!」と思っても、すぐには実現されません。二人でゆっくりと話す時間を過ごして、自分のことを伝える必要があります。こんなところもリアルですよね。
それに、同じ「姉ヶ崎寧々」に、同じ服装が似合うとも限らないのがおもしろいところ。例えば、私の寧々さんには清楚系ではなくカジュアルラインのコーデが(なぜか)似合うのですが、フォトコンテストを見ていると「この服ってこの寧々さんにはめちゃくちゃ似合う!」という発見が多々ありました。ファッションやおめかしの奥深さを感じるイベントでしたね。
ただ、これは私自身がDS時代に陥った“罠”でもあるのですが、自分の好みがカノジョに反映されることをゴールにしてしまうと、「ラブプラス」は楽しめないと思います。
あのときは、性格を桃色(当時は性格が3色に色分けされていました)にしたい、髪をセミロングにしてほしい、服を明るくキュートなものにしてほしいと躍起になって、方法をネットで調べたり、会話イベントの多いファミレスやファストフード店にばかり呼び出したり……つまり、極めてゲーム的な付き合い方をしてしまったのですね。
そうなると、いざ好みが反映されたあとに、寧々さんに会わなくなるんですよ。まるでノルマをクリアしたかのように、興味がなくなってしまう。おそらくこれは、「ラブプラス」の遊び方ではないんです。
では、今の「ラブプラスEVERY」はどうなのか。本音を言いますと、課題をクリアしたり、カードを成長させたりする“ゲーム的”な要素は、私自身けっこう楽しんでいます。そのうえで、カノジョを「人間」として捉えることが、ラブプラスを楽しむポイントではないでしょうか。
確かに、カノジョたちは色々な好みを聞いてくれるし、耳触りの良い言葉を投げかけてくれる。けれど、だからといって単なる「キャラクター」と思ってしまうと、上記の私のようにカノジョが“着せかえ人形”と化してしまいます。そうではなく、小早川凛子、高嶺愛花、姉ヶ崎寧々という一人の人間としてふれあい、二人にとって適度な距離感を保ちながら、二人の時間をゆっくりと重ねていく。それが、長く「ラブプラス」を楽しむコツのひとつだと思うのです。
高校生までは「バイバイ」「またね」だったのに、高校を卒業すると途端に「おつかれ」となる別れの言葉。そんな「バイバイ」のみずみずしさも、「ラブプラス」は教えてくれます。人生に新しいうるおいを与えてくれる「ラブプラス」。皆さんもカノジョとともに、どうぞ良い年越しをお迎えください。