ノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」の公式サイトで作成できる“ノベルゲーム履歴書”を持ち寄って行った、ノベルゲームを愛する編集者・ライターによる座談会の模様をお届けする。
目次
アニメーション作品などの企画・製作・販売を行っているアニプレックスが、2019年12月に発足したノベルゲームブランド「ANIPLEX.EXE」(以下、アニプレックスエグゼ)。その公式サイトで作成できる“ノベルゲーム履歴書”を持ち寄って、ノベルゲーム好き同士で語り合ったら、おもしろいトークになるんじゃないか? そう思い、ノベルゲームを愛する編集者・ライター4名に参加してもらい、リモートによる“ノベルゲーム語り”の座談会を行ってみた。
実際に語り合ってみると、ノベルゲームにハマったきっかけ、これまでにプレイしてきた作品、そこで感じた魅力や感動したポイントはみんなバラバラ。ノベルゲームというジャンルの懐の深さを改めて知ることができた。
ノベルゲームはなぜおもしろいのか? ストーリー、キャラクター、音楽、演出など、様々な要素を語り尽くし、その現状や未来への期待にも話題が及んだ座談会の模様を、ボリュームたっぷりにお届けしよう。
なお、座談会中に話題になった各作品のストーリーに関するネタバレは、リリース後、10年以上経過している作品に限っては伏せることなく書いていくことにした。ネタバレを気にする方には注意していただきたいが、これが作品に興味を持つきっかけになる場合もあるかと思う。この点にも留意した上で、楽しんでいただければ幸いだ。
4人がノベルゲームにハマったきっかけ:ギャルゲーは恥ずかしい趣味?
小林白菜(以下、小林):本日は、ご参加いただきありがとうございます。これまでにプレイしたノベルゲームの魅力や、今後リリースされる作品に期待することなど、存分に語っていただければと思います。面白くなるのであれば脱線した話もどんどんしていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
カワチ:今回、自分は記事をまとめないので、たくさん脱線しようと思います。
一同:(笑)。
小林:では、まずはそれぞれの自己紹介と、“ノベルゲームに夢中になったきっかけの作品”を教えてください。
カワチ:カワチです。ライター歴は17年くらいで、仕事では「ひぐらしのなく頃に」、「STEINS;GATE」、「ダンガンロンパ」などをリアルタイムで盛り上げてきました。いちばん好きなゲームジャンルもアドベンチャーゲームで、世代としてはスーファミ世代です。このジャンルに夢中になったきっかけは「かまいたちの夜」です。
TOKEN:Gamer編集部のTOKENです。Gamerに立ち上げから関わって10年目になります。ノベルゲームというよりは、自分はギャルゲーから入っていて、中高生のころにPS版の「Toheart」とか、あと「AIR」を友達から教えてもらった辺りがきっかけですかね。
ヨッシー:同じくGamerの編集をしているヨッシーと言います。編集歴は約4年です。自分もノベルゲームはギャルゲーから入ったんですけど、べっかんこうさんのイラストが好きで、PS2版の「夜明け前より瑠璃色な」から、ちょいちょいプレイするようになった感じです。
小林:ありがとうございます。では最後は僕ですね。小林白菜という名義でゲーム・アニメ関連のライターをしています。ライター歴は2年とちょっとですね。ノベルゲームは、大学生時代にプレイした2008年の「428 封鎖された渋谷で」、2009年の「STEINS;GATE」の2本で本格的に夢中になったかなという感じです。ライターとしてもノベルゲーム好きとしても若輩者ですが、よろしくお願いします。
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「かまいたちの夜」 (C)Spike Chunsoft Co., Ltd./我孫子武丸 All Rights Reserved. |
「428 封鎖された渋谷で」 (C)Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved. |
カワチ:自分の世代だと“ギャルゲーは恥ずかしいもの”という認識があって、「ときめきメモリアル」とか隠れてやるものでしたが、その辺はTOKENさんの頃は変わってきていたんですか?
TOKEN:自分の場合、中学~高校時代が男子校だったっていう環境が大きいかもしれないですね。
ヨッシー:自分は共学の高校で、周りにギャルゲーをやっている人もいなかったのでリアルで話す機会はなかったですね。でもブログをやっているネット上の友達がいて、オタクっぽい話はそこでしていました。mixiが流行るちょっと前だったんですけど。
小林:僕はヨッシーさんと同い年なんですけど、ギャルゲーをやるようになった年齢が違うのでまた状況が変わってきますね。やっぱり高校時代はまだ抵抗があった気がします。いまの学生さんだともっと偏見は少なくなっているかもしれませんね。
ひぐらし、シュタゲ、カオスチャイルド……話題作を振り返る
カワチ:小林さんが挙げている「STEINS;GATE」はかなり特殊ですよね。秋葉原が舞台で、SFで、プラットフォームがニッチなXbox 360だったにも関わらず口コミで爆発的に話題になったのはすごいと思っていて。あれはホント予想してなかったですね。
TOKEN:“科学アドベンチャーシリーズ”における前作にあたる「CHOAS;HEAD」も反響はありましたけど、「シュタゲ」で一気にメジャータイトルになるとは自分も思わなかったです。
ヨッシー:「シュタゲ」の発売当時はまだ北海道に住んでいたので、リアルな秋葉原が体験できたのが新鮮でした。はじめて秋葉原に行ったときは「あ! ここ“IBN5100(ゲーム内で重要なアイテムとして登場するレトロPC)”が入ってたロッカーだ!」とか「“牛丼専門サンボ”がある!」とか感動できました(笑)。
小林:やっぱりみなさん「シュタゲ」には何かしら思い出があるんですね。では引き続き“ノベルゲーム履歴書”に沿って、思い入れのある作品について語っていきますね。僕は「シュタゲ」をプレイして以降、“忘れられない曲”の項目に書いた「パルフェ 〜Chocolat second brew〜」とか、アダルトゲームも興味が沸いたらプレイするようになっていったんですけど、中でも特に印象に残ったのは「スワンソング」や「キラ☆キラ」など、瀬戸口廉也さんが脚本を手掛けているゲームでした。昨年末にリリースされた「MUSICUS!」はまだプレイできてなくて、早々にやらなきゃと思ってるんですけど。
カワチ:瀬戸口さんのゲームは本当に鋭く心をえぐってきますよね。痛々しいというか。
小林:そうですね。人の心の奥底にある、目を逸らしたくなるような部分を淡々とした言葉で綴っていく感じが本当に好きで……その後、Steamなどのゲームを触るようになってからは「VA-11 HALL-A」や「Doki Doki Literature Club!」などの海外産のノベルゲームも好んでプレイしていて。国産タイトルでは見られない文化的背景やメッセージ性が味わえる辺りに魅力を感じていますね。逆にFateシリーズやKey作品なんかはあまりプレイできてないんですけど。
TOKEN:次にカワチさんの履歴書を見ていきましょう。
カワチ:先ほど「かまいたちの夜」は挙げたんですけど、「ひぐらしのなく頃に」は3作目の「祟殺し編」が発売されたあたりで熱く語っているブログを読んで興味を持ちました。連作形式のミステリーだったので、リアルタイムで追いかけて、犯人が分からない状態で新作が出るたびに盛り上がれたのが大きかったんだと思います。起きていることは変わらないんだけど、毎回視点が変わることで情報量が変わって、新しい議論ができるようになるっていう仕組みが面白かったのかなと。
ヨッシー:新しいエピソードがリリースされるたびに考察が深まっていったのが新鮮でしたよね。
小林:「ひぐらし」って解答編(「ひぐらしのなく頃に解」)が出たときの種明かしがけっこう「ずるい!」みたいに言われていた印象があるんですけど、当事者としてはどうだったんですか?
カワチ:インタビューとかも漁ってみると作者の考え方としては筋が通ってたんですよ。そこまで通じてなかった人が多かったのかなと。それ(作者とユーザーの齟齬)がもっと大きくなっちゃったのが「うみねこのなく頃に」で。「うみねこ」も「結局、犯人が分からないじゃないか」って怒ってる人もいたけど、ちゃんとプレイして熱心に推理した人なら分かるっていう形で解答は出てたんですよね。
ヨッシー:ハードルが上がっちゃってたのもありますよね。
カワチ:そうですね。作品が広まりすぎたのもあるんですよ。新規のファンをフォローしきれなかったのが「うみねこ」だったと思うんですけど。
TOKEN:「うみねこ」はアニメで追っていたので、途中で終わっちゃったのは切なかったですね(笑)。
カワチ:そうですね、2期やってないですからね(笑)。あと作者の竜騎士07さんのテキストって艶があるんです。惹き込まれるものがあるので、自分はその点でも高く評価してます。好きですね。あとふたつ目に挙げた「CHAOS;CHILD」なんですけど、Keyの作品がヒットした辺りから“グランドエンディングルート”みたいなのが流行っていったじゃないですか。
一同:あーはいはい。
カワチ:グッドエンドをひと通り見たあと、最後のエンディングで全部報われて幸せになるみたいなルートですけど。「シュタゲ」もそうじゃないですか。でも個人的には辛い経験とかも受け入れて新しい一歩を踏み出すっていうのを物語には求めていて。「全部報われて良かったね」があまり好きじゃなくて。その意味で「CHAOS;CHILD」は、すべてが報われるわけではないけど前に進んでいこうってストーリーをやってくれたって意味で好きになった感じですね。
TOKEN:「CHAOS;CHILD」は自分もPS4版のときに記事を書くために触ったんですけど、辛くて(笑)。
カワチ:ネタバレになっちゃうかもしれないんですけど、妹みたいな立ち位置の女の子が◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯展開があって……初回特典のグッズでそれをモチーフにするっていう悪ノリみたいな公式展開も印象的でしたね。
一同:ひどい(苦笑)。
カワチ:そこが好きってわけじゃないですけどね(笑)。
神岸あかり、小木曽雪菜、穂村愛美……ギャルゲーヒロインの多種多様な魅力
小林:TOKENさんの履歴書は「AIR」、「ToHeart」、「メモリーズオフ 2nd」などなどギャルゲーオンリーのラインナップですね。
TOKEN:まず「AIR」ですけど、やっぱりクライマックスでめちゃくちゃ泣いたんですよ。ヒロインの観鈴に対してどういう救いを提示するのかっていう部分や、それを描く過程での登場人物たちの接し方とかにすごく感化されて。中学~高校時代で多感な時期だったのも大きいかなとは思うんですけど。
TOKEN:あと「ToHeart」はいろいろとメディア展開もしていたんですけど、自分はゲームと同じくらいアニメも好きだったので、どちらも楽しめたって部分で思い入れが強いのかなと。
カワチ:「ToHeart」は事件とか大きな出来事が起きない日常をひとつの作品にして、それで面白かったのがすごいですよね。意図してそうしてたみたいですけど。アニメ版だと席替えをするだけで第1話が終わるじゃないですか。ヒロインが主人公の隣になれて嬉しかった、みたいな話で。アニメ版はシリアス気味で、原作ゲームと結構違うんですけど、根本の魅力は共通していたなって思いましたね。
TOKEN:そうですね。あとひとつ原作ゲームのほうで思い出深いのが……まあ~、幼なじみの神岸あかりのルートに行く難易度が高いことへの苦悩ですよね(苦笑)。あかりルートがいちばんフラグが複雑だったんですよ。
カワチ:それはやっぱり「ときメモ」の藤崎詩織を踏襲してるんですかね? いちばん無難そうな女がいちばん手強いみたいな。
TOKEN:どうなんですかね? でも距離感が近いからこそ、一歩踏み越えて新しい関係性を築くのは難しいっていうのが、ゲーム中の選択肢とリンクしていたあたりも上手かったなと思います。まあでも「メモリーズオフ」シリーズもそうなんですけど、ギャルゲーはひとり好きになれる子がいればゲームのことも好きになれるみたいなところはありますよね(笑)。
一同:(笑)。
TOKEN:当時はめちゃめちゃ“幼馴染属性”の人間だったので「To Heart」だとあかりだし。「メモリーズオフ 2nd」では白河ほたるっていう女の子がゲーム開始時点ですでに主人公と恋人同士なんです。だんだん気持ちがすれ違って、そんな中、主人公がほかの女の子と出会って……それがほたるの親友だったり、お姉ちゃんだったりするんですけど。
小林:え、彼女の親友や姉と恋仲になるってことですよね? それだけ聞くと主人公は普通に最悪な野郎って印象ですけど……。
TOKEN:そうです、最悪です!(笑) それで、どのルートでもほたるは主人公との関係を続けていきたいからいろいろな行動を起こすんですけど、それが裏目に出たりっていう過程もルートごとに丁寧に描かれていて。主人公と結ばれるキャラクターとほたるとの関係性によっても見せてくれる一面が違ってくるんですよね。そういう部分でさらに魅力的なキャラクターに感じられたのかなと思いますね。
小林:ほかのキャラクターのルートでの立ちふるまいが魅力的だったっていうと僕は「WHITE ALBUM2」の小木曽雪菜を思い出しますね。「ホワルバ2」は高校編(introductory chapter)で雪菜と冬馬かずさっていう2大ヒロインが登場して、大学編(closing chapter)でさらに3人のサブヒロインが登場するんですけど、サブヒロインのルートでも雪菜の主人公への想いはすごく強いんだけど最終的には身を引くっていう。あるルートでの一枚絵の差分演出なんかも見事で印象に残ってます。
ヨッシー:カワチさんは忘れられないキャラクターとして「君が望む永遠」の穂村愛美を挙げてますけど、彼女はどういうところが心に残っているんですか?
カワチ:まず「君が望む永遠」のストーリーっていうのが、涼宮遙と速瀬水月っていうふたりの女の子がいて、主人公は遙と付き合うんだけど、この子が事故に遭っちゃって、彼女が昏睡状態になっている間に今度は水月と付き合い出して……。
小林:うわぁ……。
カワチ:3年後に遙が目覚めて、水月との関係を切り出せない、みたいな話で。遙が入院している病院の看護師が穂村愛美ちゃんなんですよね。サブヒロインだけどルートがあるっていう位置づけなんですけど。
一同:なるほど。
カワチ:最初は親身に主人公の悩みを聞いてくれるんですけど、実は好きになると視野が狭くなっちゃう感じの女の子で。ストーカー気質なところがあって主人公を軟禁したりしちゃうんですよね。で、主人公も洗脳されていっちゃって「自分にはこの子が必要なんだ」って思い始めて、最終的に「僕も君と一緒だよ。ほらおっぱいもできたよ」って。豊胸手術を受けてきて、おっぱいを見せて終わるっていう結末でしたね。
一同:えぇ~(引き気味)。
ヨッシー:それインパクトヤバいですね……。
TOKEN:キャラクターの魅力というより完全にインパクトで忘れられないやつですよね(苦笑)。
カワチ:コンシューマ版では純愛ルートも追加されたんですけどね。
Ever17、スーパーダンガンロンパ2、この青空に約束を……印象に残る音楽の条件は?
小林:ではヨッシーさんお願いします。
ヨッシー:「夜明け前より瑠璃色な」はすごいどんでん返しがあるとか、インパクトがあるタイトルではないと思うんですけど、学園モノとSFの調和とか、物語とイラストとか、とても丁寧につくられていて“ギャルゲーの教科書”みたいな作品かなぁと思ってて。この作品を最初にプレイできたのは良かったなって思ってます。
一同:なるほど。
ヨッシー:で、「夜明け前より瑠璃色な」はオーガスト(「夜明け前より瑠璃色な」を手掛けたPCゲームブランド)専属の音楽制作プロジェクト“Active Planets”が立ち上がった頃のタイトルでもあって、楽曲のクオリティも高いんですよね。ノベルゲームとして初めてプレイしたタイトルだったこともあって、ストーリー展開に合ったBGMが流れるってこと自体にも結構感動して。曲を聴いただけでもそのときの情景を思い出せるのはノベルゲームの良いところだなと思いますね。
ヨッシー:「沙耶の唄」は「魔法少女まどか☆マギカ」で有名になった虚淵玄さんが脚本を担当したゲームですけど、BGMというより音響が印象に残っているタイトルで。ゲームをはじめたときに、音で違和感を表現するんですよね、最初からいきなり。プレイした方いますか?
カワチ:もちろんやりました!
ヨッシー:最初、スピーカー壊れたのかなって思いませんでした?
カワチ:あはは、確かに(笑)。文字も化けたんじゃないかって思いましたね。
ヨッシー:こういう部分をテキストじゃなく音で表現できるっていうのは小説とかと比べたときのノベルゲームの強みですし、印象に残りますよね。
小林:ほかに、音楽の使い方が印象に残ってるゲームって何かある方いますか?
カワチ:「VA-11 Hall-A」は良かったですけどね。自分で選べるっていうのが。
小林:ああ、そうですね。主人公がバーテンダーだから、プレイヤー自身がバーにあるジュークボックスのセットリストを自分で決められるんですよ。それで好きな曲だけをBGMにできるし、バーテンダーとしてのロールプレイの一環にもなってるっていうのが良かったですね。
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「VA-11 Hall-A」 (C) SUKEBAN GAMES All Rights reserved. Published by Ysbryd Games, Active Gaming Media Inc. |
TOKEN:ゲームのデザインと紐づく音楽の使い方っていうのは印象に残りやすいですよね。
小林:あと、メインテーマがひとつあって、いろいろなシーンでその曲のアレンジが流れるっていう使い方は印象に残りやすいですよね。「シュタゲ」ならタイトル画面で使われていた“GATE OF STEINER”とか、同じ阿保剛さんが作曲してる「Ever17 -the out of infinity-」の“Karma”なんかもそうですけど。
カワチ:“Karma”はタイトル画面以外にヒロインルートでも流れますよね。
小林:そうでしたね。だからこの曲を聴くたびに切なさが込み上げてくるし、それによってトゥルーエンドの晴れやかなカタルシスがより大きくなってる部分もあるかなと思います。
カワチ:自分が挙げた「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」の“‐HOPE VS DESPAIR-”もそうですね。議論で毎回流れる曲のクライマックスで流れるアレンジなので。「ダンガンロンパ」はジャンル名を“ハイスピード推理アクション”って名乗っているだけあり、画面の演出も派手なので激しい曲が合うんですよね。普通ノベルゲームの曲は文字を読むのを邪魔させないように工夫するものですが、こういった演出の作品なら盛り上がる曲も使える。これは「逆転裁判」からの流れだと思いますが。
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「Ever17 -the out of infinity-」 (C)MAGES./5pb. |
「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」 (C)Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved. |
小林:ヨッシーさんはこれまでプレイしてきた中でいちばん好きなノベルゲームとなるとやっぱり「夜明け前より瑠璃色な」になる感じですか?
ヨッシー:あ~、でも履歴書に書いた「この青空に約束を―」がいちばん好きかなぁ。いちばん泣いたので。
カワチ:トゥルーエンドいいですよね。折笠愛さんが最初に泣いちゃうんですよ。卒業ってことでみんなで合唱するんですけど、キャストさんが歌うっていう特別バージョンがあって、折笠さんが歌の途中でボロ泣きするっていう。
ヨッシー:あれ本当に泣いてるんですかね?
カワチ:ガチっぽい泣き方ですよね。芝居だとしたら、それはそれですごいです。
TOKEN:そっか~。途中までしかやれてないからな……。「冴えない彼女の育てかた」が超好きなのに、丸戸史明さんが関わったゲーム作品はほとんどプレイできてないんですよね……。
小林:僕は「パルフェ」のあと「この青空に約束を」には触れられずに「WHITE ALBUM2」に行っちゃってて。
ヨッシー:みんな丸戸さんの作品が好きなのに、ここまで触れた作品がバラバラなのはおもしろいですね(笑)。
カワチ:大人気だなぁ(笑)。
車輪の国の“あの仕掛け”から、ギルティギアのストーリーモードまで……ノベルゲームならではの演出の魅力
小林:音楽や演出の組み合わせだとか、あとはストーリー上のギミックなんかでもいいんですけど。その辺でノベルゲームならではの良さを感じられたタイトルって皆さん何がありますか?
カワチ:また「シュタゲ」の話ですけど、やっぱりトゥルールートに入るときにエンドロールがバーッと巻き戻るっていうのは良かったですよね。
小林:あれはグッと来ましたよね。いろいろな方法を試したもののこれまでと同じ展開でエンドロールを迎えてしまって、やっぱり駄目だったか? でもBGMは違うぞ!? ってところでバーッて!
カワチ:ほかにはWii版の「428」でリモコンを振ると中村光一さん(「428」のプロデューサー)が「助けてください!」って言ってくるのとか。あとあのタイトルなんだっけ、恋愛すると刑罰を受ける……。
TOKEN:「車輪の国、向日葵の少女」ですか?
カワチ:あーそうです。「車輪の国」です。主人公の独白かと思ったら実はお姉ちゃんのために喋っていたっていう。
TOKEN:終盤まで明かされないこともあって、自分もあれはびっくりしました。想像の範疇を超えてきましたよね。でも個人的にはそういう“仕掛け”は普段そこまで重視してないというか。「ef - a fairy tale of the two.」は立ち絵で“歩きながら会話するシーン”を工夫して表現していて、体験として臨場感のあるものになってるんですよね。そういう方向での表現が好きなんですよ。あとは例えば「メモリーズオフ ゆびきりの記憶」は後ろ向きの立ち絵が多用されていて。
カワチ:そうそう、それ自分もすごいと思ってて。主人公に背を向けてるシーンだと後頭部が見えるんですよね。あれは新しいなって思いました。
TOKEN:最近は増えてきてるんですけど、立ち絵の大きさを変えて主人公との距離感を表現したりとか。そういう空間を意識した表現の幅みたいな部分が個人的な注目ポイントになってるんですよね。それを3Dのキャラクターで表現しようとしたのが「ROBOTICS;NOTES」だったと思うんですけど、2Dの延長線上にある演出だったというか、想像を超えるアプローチにはなってなかったのは少し残念でした。
カワチ:3Dを活かしたノベルゲーム演出の最先端はいま「ギルティギア」シリーズのストーリーモードになると思ってるんですよね。
一同:あー。
TOKEN:複数のジャンルの要素を含んだ作品に目を向けることでの発見はありますよね。
小林:スマートフォンゲームなんかもストーリーパートはほとんどノベルゲームの仕組みを踏襲してるわけですもんね。
カワチ:リズムゲームの「Cytus II」もストーリーはノベル形式なんですけど、SNSを眺めている感覚で物語が進行していくのが斬新でした。ノベルゲームから影響を受けた作り手が他のジャンルで新しいことに挑戦してるって例は探せばほかにもありそうですよね。そういうのもありつつ、あくまで純粋なノベルゲームをこれからやろうっていうアニプレックスエグゼさんはやっぱりめちゃくちゃ偉いと思うんですよ。
アニプレックスエグゼのノベルゲーム、実際どうだった?
小林:アニプレックスエグゼさんの話題が出たところで、第1弾タイトルである「ATRI -My Dear Moments-」と「徒花異譚」の話をしていこうと思います。今回の座談会はアニプレックスエグゼさんのノベルゲームで勝負するっていう試みを応援したい気持ちもあってのことなので。まず「ATRI -My Dear Moments-」ですが、体験版をプレイしていかがだったでしょうか?
カワチ:「ATRI」はあえてオーソドックスで懐かしい雰囲気のギャルゲーにしているのかなって印象でしたね。謎が多いアンドロイドの美少女に出会って……みたいな。「徒花異譚」がメーカー的にも飛び道具っぽい作品になっているので好対照ですよね。
TOKEN:世界観もギャルゲーをプレイしてきた身としては取っ付きやすかったですね。あとアップの絵を多用したり、動きのある画面を作るという部分を頑張っていたのが、個人的には印象に残りました。もっとプレイしたいなって思いましたね。
小林:企画・シナリオの紺野アスタさんは「この大空に、翼をひろげて」も手掛けてる方なんですよね。「この大空に~」は未プレイなんですけど、こっちはメインヒロインの羽々音小鳥が車椅子に乗ってるじゃないですか。それで「ATRI」の主人公も義足を使っているのは、紺野さんの中で共通するテーマみたいなものがあるのかなって印象を受けました。
TOKEN:キャラクターは癖が強すぎることもなく、その塩梅も好きですね。あとアンドロイドの女の子ってノベルゲーム以外でも結構描かれることが多いので、いまそれを描く上で何を見せてくれるのかっていう期待もありますね。
カワチ:自分はもっと毒があったほうが好みなんですよね。でも好きな人は好きだろうから、良いのかなって思いますけど。体験版の先にある展開に期待したいですね。
小林:「ATRI」のほうがある意味でオーソドックスな“ギャルゲーらしい”作風になっているのに対して、「徒花異譚」は古めかしい文章だったり、独自性の強い和風なビジュアルが特徴ですよね。個性が強い作風に惹かれる人にとってはこちらのほうが魅力を感じるかなと思うんですけど。個人的には、記憶喪失で人間性も希薄になっていた主人公の白姫ちゃんが“花咲かじいさん”の世界に入って、その物語に一喜一憂しながら徐々に感情を取り戻していく流れが非常にグッと来ました。
カワチ:自分はこれすごく新しいことをやっていると思っていて。RPGなんかだと詳細なストーリーがなくても戦闘とか冒険をしているうちにキャラクターに感情移入できるじゃないですか。対してノベルゲームはストーリーがあるから感情移入できるんだと思うんですけど、「徒花異譚」の“花咲かじいさん”のラストは“ストーリーなんていらないんじゃないか?”っていう問題提起だと感じていて。ゲームジャンルそのものの絶対条件を覆すような終わり方だったのですごく続きが気になってますね。あと演出もすごく良かったので、気になってる人には体験版だけでもぜひプレイしてほしいですね。
小林:そうですね。白姫ちゃんともうひとりの主人公が黒筆っていう少年なんですけど。筆で文字を書くことで物語の世界に干渉する力を持っていて。“扉”って書くと“どこでもドア”みたいなものが出てきて物語の世界から脱出できるとか、その辺の見せ方もすごく良かったんですよね。
カワチ:花咲かじいさんのビジュアルも墨で書いたような独特なビジュアルで良かったです。
TOKEN:自分もビジュアルを見たときは“攻めてるなぁ”って思いましたね。
小林:日本の昔話がモチーフで、筆で文字を書くことで世界が変化していくっていうとジャンルは全然違うんですけどカプコンさんの「大神」を思い出したんですよね。だから「大神」のファンにもリーチするといいなとか考えてるんですけど。あ、それから2タイトル共に価格帯が1,000~2,000円台っていうのも嬉しいですよね。ほんと、多くの方に気軽に体験版をプレイして、気に入ったら購入して、楽しんでほしいと思います。
まとめ:これからのノベルゲームに期待すること
小林:そろそろ締めに入ろうと思ってるんですけど、最後にこれからのノベルゲームに期待することって何かありますか?
TOKEN:仕事として関わっていると、ジャンル全体で宣伝が弱いっていうのは以前から感じることなので、アニプレックスさんがパブリッシャーとしてそこを変えていってくれるかどうかってところに注目しています。だから第2弾以降もぜひいろいろなブランドさんとタッグを組んで、ノベルゲームの多種多様な魅力を発信していってほしいですね。あとSteamでグローバルに展開できる土壌は絶対に整えたほうが良いなと思っていて。それを支えるような役回りにも期待しています。
カワチ:Steamだとバンドルで売れたりもすると思うので、興味あるのはこのゲームだけどセットで買えるからこっちのゲームもやってみようみたいなことも増えるといいなって思いますね。
小林:僕はもっとファン目線になるんですけど。純粋なノベルゲームの国産タイトルのリリース本数が減っているのは確かだと思うんですけど、それでも斬新な作品っていうのはちゃんと出続けていて。今年だと「マルコと銀河竜」だったり、昨年リリースされたVR専用タイトルの「東京クロノス」とか。いろいろなメーカーが、ノベルゲーム文化に根ざした多様な挑戦を続けているのは喜ばしいことで。そういった挑戦が次に繋がって今後も波及していけば良いなって期待しています。
カワチ:自分は少し悲観的なんですけど、いまノベルゲームだけじゃなくて日本のアドベンチャーゲームが全体的に売れてないっていうのは数字として出ていて。「AI: ソムニウム ファイル」なんかもすごく良いゲームで、本当はもっと売れていいはずなんですよ。アドベンチャーゲームって実況動画で全部観れたりするんですけど、それって自分でプレイして体験するのとは違うので。メーカーさんにも良いゲームをつくって欲しいし、ユーザーさんには気になったゲームは買い支えてほしいってことですかね、言いたいことは。
ヨッシー:自分は最近ノベルゲームをあまりやらなくなっちゃった人間なんですけど、今日みたいな話を聞いてるとやっぱりノベルゲームとかギャルゲーっていいなって思えて。昔やってた人が戻ってくるような機会が増えていって欲しいですね。そういう意味では麻枝准さんが携わっている「Heaven Burns Red」には期待しています。往年のノベルゲームファンがスマホで気軽にプレイできるようなゲームになっていたら嬉しいです。
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「AI: ソムニウム ファイル」 (C) Spike Chunsoft Co., Ltd. All Rights Reserved. |
「Heaven Burns Red」 (C) VISUAL ARTS / Key (C) WFS |
小林:いまはクラウドサービスの「OOParts」もありますし、普段スマホでゲームをしている方が、どんどん過去の名作にもアクセスしていくような流れができれば良いですよね。
ヨッシー:あとそれとは真逆の話になるんですけど、むかし出てたような馬鹿でかい箱のパッケージも好きだったので。ほかにもパッケージ版の販売で興味を持つ人もいるかなぁって。
一同:(笑)。
カワチ:あれ在庫抱えると大変なんですよ(笑)。「アマガミ」のめちゃくちゃでかいやつとかありましたけど。
TOKEN:懐かしい! でも、確かにいろいろな人に興味を持ってもらう機会を増やすのはすごく大事かなと思っていて。自分もそのために連載をやっていたりするわけだし。
小林:今回の座談会は“ノベルゲーム履歴書”ありきの企画だったわけですけど、いままで好きになった作品を振り返ったり、それで語り合ったりするのってまたノベルゲームをプレイしてみようって思うきっかけには丁度いいですよね。この座談会を読んだ方が、自分も履歴書を作成してみようとか、最近どんなゲームがあるのか調べてみようって思ってくれたら嬉しいですね。
TOKEN:アニプレックスエグゼさんの取り組みもですけど、いろいろな機会を通して、国や世代やまたいでこの先も可能性が広がっていくことに期待したいと思います。
一同:お疲れ様でした!
「ANIPLEX.EXE」(アニプレックスエグゼ):ノベルゲーム履歴書
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