日本ファルコムより2020年8月27日に発売されたPS4用ソフト「英雄伝説 創の軌跡(はじまりのきせき)」のプロデューサーで、同社の代表取締役社長を務める近藤季洋氏にインタビュー。前編ではネタバレを避けつつ、「創の軌跡」の制作エピソードを中心に話を聞いた。

目次
  1. 「創の軌跡」はファルコムの若手メンバーを中心に制作
  2. 高速スキップモード、ヴァリアント・レイジなどの実装経緯は?
  3. 各ルートをネタバレなしで聞こうとするも……

「創の軌跡」はファルコムの若手メンバーを中心に制作

――発売から3ヶ月近くが過ぎましたが、「創の軌跡」の反響はいかがでしょうか?

近藤季洋氏

近藤氏:ボリュームの大きなゲームなので、細かいところでいろいろと意見はいただいているのですが、トータルでは好評いただけたのかなという風に受け止めています。なんとなくタイトルの持つ印象から「英雄伝説 空の軌跡 the 3rd(以下、空の軌跡 the 3rd)」のようなものを想像された方が結構いらっしゃると思うのですが、それに対してメインシナリオが「空の軌跡 the 3rd」の時よりもガツンとあって、その上で豊富なやりこみ要素というところでかなり満足していただけたのではないかなと感じています。

――以前のインタビューでは、次のタイトルは「閃の軌跡」シリーズを全く触れたことのない人でも触れるもの、かつ「閃の軌跡」で語れなかったことを盛り込むというお話をされていたのも印象的だったのですが、なぜ「創の軌跡」を制作しようと考えたのでしょうか?

近藤氏:元々予定にはなかったタイトルですね。「英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-(以下、閃の軌跡IV)」が終わった後、すぐに「創の軌跡」の後のタイトルを始めたんです。それはずっと軌跡シリーズに関わってきたコアメンバーの人たちが携わっていたんですが、会社的には若手のメンバーたちに舵取りさせて1タイトルやらせたいというのが僕の中にずっとありました。

「閃の軌跡IV」が終わって、次のタイトルを出すまでにはエンジンも変わるので期間が空くなと思い、翌年の「イースIX -Monstrum NOX-」を挟んで、「若手中心で軌跡シリーズを一本やってみない?」というところから始まったタイトルです。僕はあまり細かく関わらないと決めていて、ゲームのアイデア出しやディレクションには携わらず、プロデュースに専念しています。

ただ、彼らが考えやすいように「英雄伝説 零の軌跡」からの完結編というお題からスタートしています。その中で、彼らが3つのルートのアイデアや主人公についても決めています。《C》については紆余曲折あったのですが、それは後ほどネタバレありで話しましょうか(笑)。

――(笑)。プロモーションでも意図的に正体を隠されている印象でした。

近藤氏:さまざまな理由があるのですが、あえてわからないようにしたほうが正体が誰なのかワクワクするじゃないですか。それが一番大きいですね。

――3つのルートを描く上で、並行して進行するクロスストーリーという初めての試みが採用されていましたが、そちらもスタッフの方々のアイデアだったのでしょうか?

近藤氏:僕から「零の軌跡」からの完結編というお題を振ったものの、「碧の軌跡」のエンディングで語られる部分をちゃんと見せてほしいというユーザーのご要望があったものの、あのエンディングの内容をそのままゲーム化すると薄っぺらくなってしまうんですよね。結局帝国から離反した少数の人たちが立て籠もって、それを制圧して独立したということしか語られていないんです。そこでもう少しロイドたちに何かあったんじゃないのかというところから、「閃の軌跡」で描けなかったものや、次のタイトルへのつながりもやりたいという欲張りな案もあり、それらを突き詰めていった結果があのかたちです。

――いわゆるザッピングというか、ひとつのルートがある程度進んだところで別のルートに移るという体験が軌跡シリーズでは新鮮でした。

近藤氏:クエストやエピソードの中では視点が変わることはありましたが、基本的には主人公が固定されていて、大きくチェンジすることはなかったです。「創の軌跡」の中で象徴的なのが《VII組》と《C》たちが帝都ですれ違うシーンだと思いますが、実は心配していた部分もあったんです。今までやったことがないということは、システム的には新しいので不具合もたくさん出るだろうし、ちょっとドキドキしながら見守っていたんですが、なんとかまとめてくれたみたいで良かったです。

――実際に取り組むにあたって、難しかった点はどのあたりなのでしょうか?

近藤氏:シンプルにシナリオが3つあることですね。全体のシナリオのテキストボリューム自体は「閃の軌跡IV」と変わらないぐらいですが、結局主人公が3人いて、それぞれの起承転結が用意されているというのは1本作るよりは大変なんです。そこを若手たちが分担して、何人かでシナリオを書いています。

そういうやり方も軌跡シリーズとしては初めてでしたが、《C》ルートのエピソードは若手が出してきたもので、むしろ僕やオリジナルのメンバーだと出てこなかったんじゃないかという発想から生まれています。そういうところはやってみて良かったと思います。

また、このタイミングで真・夢幻回廊に飛んでここに戻ったらどうなるのか、といったもの全てに対応できているのかという部分も大変でしたね。従来だとどのプレイヤーさんも同じ道を歩んでいくのですが、今回はプレイヤーさんによっていろんなプレイの仕方があるので。

――3ルートをつなぐ存在かつやりこみ要素として真・夢幻回廊が用意されていましたが、こちらはどういったコンテンツになることを意識したのでしょうか?

近藤氏:僕が一番懸念していたのは、それだけ大量のキャラクターを出すのに本編ではほとんど活躍できないというところなんですよ(笑)。やはりいろんなお客さんがいて、普段からユーザーサポートやファンレターをたくさんいただく中で、もっとこのキャラクターを活躍させてほしいというご要望がものすごくあるんです。

いろんなキャラクターを活躍させる場として、共通で攻略できるようなダンジョン、ある意味で「空の軌跡 the 3rd」の影の国のようなものが必要になるというのは最初からあったので、初期の時点でチーム側とコンセンサスをとってやっていきました。あと単純に3ルート形式だと上手くレベルアップさせる場所がなかったりするので、レベルアップの場としての意味もあります。

あとはやはりやりこみ要素ですね。これだけのキャラクターがいて、成長要素があって、アイテム収集的なものもあるのに、本編だけだとフィールドが無いわけですよね。そこをきちんとやり応えとして感じていただくためにも必須だったのではないかと思っています。途中でやりすぎだよと思うぐらい、要素は多いのですが(笑)。

――プレイ時間だけで言えば、本編と比べても遜色ないぐらいですよね(笑)。

近藤氏:「魔法少女まじかる☆アリサ RS」とか僕は完成してから遊んだんですが、こんなに作り込んでいるんだとビックリしました。

――ミニゲームは豊富でしたよね。

近藤氏:そもそものシステムは「閃の軌跡」のものがあるので、プログラマーたちの作業がミニゲームを作るところから始まったんですよね。

――これまでのミニゲームの印象を持っていた分、「魔法少女まじかる☆アリサ RS」は思っていた以上に本格的なシューティングゲームで驚きました。

近藤氏:「これって売るんじゃないの?」と社内でも言われていたぐらいですから(笑)。彼ら自身やりたかったという気持ちがあったところに、機会を与えられたというのもあるでしょうし、それはVRもですね。

――VRへの対応も初めてのことですよね。

近藤氏:元々エンジニアたちがやりたいというのがあったのですが、1本の商品としてうちが成立させるのってタイミングが難しいと思っていたので、ここでもしかしたらやれるかもしれないということで取り組みました。

最初はいろいろ欲張っていたみたいなのですが、実際にやってみるとVR特有の考えなければいけないことが多くて、最終的にはああいうかたちにまとまったという感じです。VRは製品版に間に合わせようとしていたんですが、レギュレーションを中々パスできなかったことと、新型コロナウイルスの影響もあって、後日の対応になりました。

高速スキップモード、ヴァリアント・レイジなどの実装経緯は?

――先ほどのやりこみ要素の部分とも重なるとは思うのですが、今回武器・防具やクオーツを自動で装備できるようになったことは個人的にも助かりました。

近藤氏:軌跡シリーズのお客さんは「創の軌跡」のシステムを聞いた時にまずそこに考えがいくと思うんですよね。サポートにも日頃からそういったご意見はいただいていて、一方で自身で装備を組みたい方もいるので、勝手に外して組み替えたりすると結構怒られるんですよ(笑)。そのバランスが難しいのと同時にそこまでやると不具合も出やすくなりますし、とにかくアイテムの量も多いので、今回のような持っている装備の中から自動で最適なものを選ぶというかたちが一番バランスが良いということで実装しています。

――装備を気にしたくなければ自動で装備してもある程度立ち回れますし、自動で装備した上でのカスタマイズもしやすくなったという点で、個人的にもバランスの良い印象でした。

近藤氏:今回は特にパーティの切り替わりの頻度が過去一番高いと思うので、そういうものが無いと自分たちもチェックしている時にやってられなくなってしまうんですよね(笑)。そのあたりの利便性はソーシャルゲームがすごく便利で、ああいうところを経験されているお客さんも入ってきているので、コンソールのゲームとはいえ、やっぱりある程度対応していかなければと意識しているところではあります。

――編成メニューは全般的にソーシャルゲームの感覚に近いものを感じました。

近藤氏:ガチャみたいな仕組みもありますしね(笑)。

――あれも出てくるキャラクターやエピソードの順番がみんな同じではないので、体験として面白いなと思いました。

近藤氏:ガチャはガチャで悪い面が語られるときもあるんですが、単純に回す時のワクワク感はありますよね。そのあたりを楽しんでやってもらえればと思っています。

――今回、高速スキップモードの登場によりゲーム進行のスピードアップが図られていると思いますが、過去作での実装も含めて、このモードの搭載に際して意識した点をお聞かせください。

近藤氏:元々「空の軌跡」や「零の軌跡」の頃は作っている側として、(スキップ機能は)いらないのではないかという意識でやっていました。ただ、モーションが入るなど演出がリッチになってくると、毎回見なくてもいいんじゃないかと。また、「零の軌跡」「碧の軌跡」のあたりで、ゲーム内の実績のために周回して楽しむお客さんが増えてきて、「閃の軌跡」あたりでスキップ機能の要望が一気に増えました。

その後、僕らに先駆けてキャラアニさんが「英雄伝説 空の軌跡 FC Evolution」で倍速戦闘モードを実装してすごく好評だったので、悔しかったんですよ(笑)。僕はサポートの意見はすべて目を通すのですが、次回作に実装してほしいという意見もたくさんいただいたので、それを開発と共有してやっていこうと。ただ、その時作っていたものには間に合わずに、「英雄伝説 閃の軌跡I:改 -Thors Military Academy 1204-」「英雄伝説 閃の軌跡II:改 -The Erebonian Civil War-」の発売の際に、高速スキップモードを初めて実装することになりました。

――スピードアップして遊びたい時がある一方で、イベントなどの演出的な意図が組み込まれている場面ではちゃんと見たいので、切り替えのしやすい機能だったと思います。

近藤氏:軌跡シリーズ自体がシステムを長年使っていたものなので、後からそういう機能を追加しにくいというのがありました。デバッグモードにはあったものの、製品版に組み込むと古いシステムから出てしまう不具合に対応しきれなかったんです。「創の軌跡」ではある程度ノウハウが蓄積されていたこともあってやりやすかったというのもありますし、今後の軌跡シリーズでは最初から織り込み済みのゲームエンジンになっているので、ご安心して手にとっていただければと思います。

――戦闘ではヴァリアント・レイジが追加されましたが、アサルトゲージの活用も含めて、すごく遊びやすいシステムだなと思いました。

近藤氏:ヴァリアント・レイジは「創の軌跡」から参加してくれたゲームデザイナーのアイデアなんですが、元々「閃の軌跡」を彼が遊んで感じていたことを埋めてくれたという感じです。アサルトゲージって溜めたままウロウロしているじゃないですか。これってなんかもったいないよねと(笑)。

――確かにアサルトゲージの管理をより意識するようになりました。

近藤氏:軌跡シリーズのバトルではスピード感が毎回課題に挙がるのですが、そこに対してサクサクとコマンドバトルが遊べるということにも一役買っているので、やって良かったと思います。まだシステムを足すのかと最初はドキドキしたんですが(笑)。

――過去に追加されたオーダーも含めてすごく機能していると思うのですが、それをより感じるのが高難易度でプレイしている時ですよね。パーティの組み合わせによっては立ち回りにも影響してくるので。

近藤氏:そういう意味ではヴァリアント・レイジはプラス要素としてはおまけではなくて、遊んでくださったみなさんの印象が強かったシステムじゃないかなと思います。

各ルートをネタバレなしで聞こうとするも……

――ここからは各ルートについてもネタバレにならない範囲で少し触れていきたいと思います。まずロイドルートでクロスベルとしての完結を描くことは、必要なことだと捉えていたのでしょうか?

近藤氏:僕の中で(描く必要性が)大きかったんですよね。「零の軌跡」「碧の軌跡」って綺麗に終わっているようで、その割にはユーザーさんの声が大きい部分だったので、まだやれることがあるんじゃないかというのがありました。

僕はディレクションには関わっていないものの言い出しっぺではあって、最初は「零の軌跡 完結編」というタイトルだったんですよ(笑)。そのタイトルでスタートしたこともあり、ロイドたちの結末というのは念頭にありました。それを若手メンバーが一生懸命考えてくれて、「創の軌跡」の結果につながったのかなと思います。

――話をふくらませる上ではロイドたちの話だけでなく、他のルートとのつながりも意識する必要がありますよね。

近藤氏:「閃の軌跡」の開発メンバーから、作中でやれなかったことの案も上がってきていて。例えばミリアムのことは見て安心してほしいというのもあったと思っていて、だとするとロイドだけでは回らないですし。

――これは全てのルートに共通しますが、例えばロイドのルートで仲間になるキャラクターはクロスベルに関係する人だけでなく、序盤でレクターが仲間になったりする中で、「閃の軌跡」をクリアしていると会話にも深みがあって面白かったですね。

近藤氏:僕はレクターのエピソードが結構お気に入りなんですよね。「閃の軌跡」の後に彼が結局どうしているのかを彼自身が語ることってほとんどないですし、いつも飄々としていて小回りが利く感じですが、まさかこんなに苦労しているというところが垣間見えたりしていて。上司がいなくなって後ろ盾が無くなったのでそりゃそうだよねというところがエピソードで語られています。やはりレクターにはレクターのファンの方たちもいらっしゃったので、ああいう形でお応えしていきたいというのがあったのは確かですね。

――ロイドに対してリィンの場合は、「閃の軌跡」の中で綺麗に終わっているというのもあって、どう描くのかは気になっていました。

近藤氏:リィンルートは一応「閃の軌跡」チームから宿題が出ていて、それが例の“もう一人”なんですよね。それがリィンルートの一番の大元にはなっていると思います。また、リィンのお話はあの世界の謎に迫るエピソードでもあるので、今後の展開のフリという意味合いもあります。

あと、なんであの時ルートが分かれていたのかをどこかで語らないといけないというのがあったんですよね。それを「創の軌跡」でやるか、次の作品でやるかは決めていなかったみたいなんですが、「創の軌跡」でやることになったようです。

――確かにそういう話の軸がないと、出来事に対処していくだけになっちゃいますよね。

近藤氏:そうするとリィンルートがつなぎ合わせたようなものにはなってしまうので、あくまでもしっかりとした軸を用意して、それに沿って進めていくという作りになっています。

――《C》ルートについてはすごく個性のあるパーティだなと個人的に思っていて、それが新鮮で面白かったです。

近藤氏:《C》ルートのシナリオを担当した人間は、暗いんだけれど深みがあって、なんとなくそのやり取りが楽しいメンバーで進んでいくという、今回のような話が得意なんですよね。最初はロイドとリィンのルートしかなくて、その後《C》ルートが追加されていくのですが……。


なんとかネタバレにならない範囲でお話を聞こうとしたものの、このあたりで限界になってしまったので、以降はネタバレありの後編にてお届け。こちらも近日公開予定なのでお楽しみに!

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