スクウェア・エニックスより2021年2月26日に発売されたNintendo Switch用RPG「ブレイブリーデフォルトII」のレビューをお届けする。
クリスタルに導かれた4人の“光の戦士”たちの、世界を救う冒険を描く大作RPG「ブレイブリーデフォルトII」。本稿では、本作を終盤までプレイした上で感じた長所や独自性、気になった点などについて書いていこうと思う。ストーリー上の具体的なネタバレは伏せるので、まだプレイしていない方も安心して読んでほしい。
なお「Final Demo」のプレイレポートでも書いた通り、筆者はニンテンドー3DSにてリリースされた過去作「ブレイブリーデフォルト」や「ブレイブリーセカンド」をプレイしておらず、おそらく本作のメインユーザーとは少々趣向の異なるプレイヤーだと思われる。そういった人間にとって本作はどのように映ったのか――といった視点で読んでいただけたら幸いだ。
王道のファンタジー世界でありながら新鮮な冒険
世界設定はハイファンタジー世界を舞台にしたJRPGの王道と言えるものを踏襲している本作。ともすれば使い古された印象になりかねない世界での冒険が新鮮なものになっているのは、洗練されたグラフィック表現や、趣向を凝らされたマップ構成、快適さを重視した各種システム、注意深く練られたキャラクター描写などの「総合力の高さ」があるからだろう。
冒険の中で巡ることになる“エクシラント大陸”は、ロケーションが豊富かつ美しい。適度な広さに設計されたワールドマップは、隅々まで探索すれば、それに見合った発見が待っている。また、立体感のあるCGと西洋画のようなタッチを組み合わせた各国の都市のマップには、それぞれの暮らしや文化、そしてクリスタルの影響で起きた被害の深刻さも感じられるような豊かさがあった。状況の変化と共に差し替えられていく住人たちのテキストの質の高さも、リアリティを高めてくれている。
グラフィックの表現力が上がると世界のスケール感に違和感を覚える場合もあるが、本作ではデフォルメされたキャラクターデザインとのマッチングが絶妙で、全体の調和が見事に取れている印象だ。
そんなJRPGらしい舞台での冒険を現代のユーザーがストレスなく楽しめるように、システム面ではいくつもの工夫が凝らされている。
メインストーリー、サブクエスト共に目的地の方角は常にマップに表示され、迷うことはない(設定変更で非表示にすることもできる)。ワールドマップやダンジョンでの戦闘にはシンボルエンカウントが採用されており、格下の敵は主人公たちが視界に入ると一目散に逃げ出すなど、繰り返しの探索が苦にならない仕様もある。都市マップでは右スティックを押し込めば、重要な施設やサブクエストを受注できる場所が一望できるようになっているのもありがたいところ。往年の作品が持っていた魅力を大事にしつつも、いまのニーズを考慮した快適さの追求も成されている点が素晴らしい。
とはいえ快適になるものはなんでも取り入れているのではなく、たとえば本作では“馬車アイコン”が表示されたキャラクターに話し掛けると都市間の移動は一瞬でできるが、いつでもどこにでも一瞬で移動できるいわゆる“ファストトラベル”は採用されていない。あくまでプレイヤー自身の手で世界を歩んでいく“冒険感”を大切にした取捨選択となっているようだ。
もうひとつ、2021年にリリースされる作品としての練り込みを感じられたのがキャラクターたちの描写だ。主要キャラクターであるセス(主人公)、グローリア、エルヴィス、アデルの4人は、いずれも物語の開始時点からある程度成熟した考え方を持つ青年として描かれている。
物語の中で起きた出来事に関する4人や同行者の会話が読める“パーティチャット”には、微笑ましい雑談もありつつ、互いの考え方をすり合わせたり、敵として登場した相手に理解を示そうとする内容のものも多い。あまり感情的にならず、理性的に他者の境遇を慮ろうとする彼らの姿勢は、いま価値観やエゴの衝突を描く上で、極めて誠実なもののように感じる。筆者が終始安心して物語に身を委ねることができたのは、彼らの精神年齢の高さによるところが大きい。
中でも楽天的で豪快な性格の人物として描かれているエルヴィスが、その実、デリカシーや繊細な思いやりも持ち合わせているあたりのバランス感覚は非常に好ましい。主要キャラクターやその協力者に関しては、“誰からも嫌われない”描写が徹底されており、その試みは大いに成功しているのではないだろうか。一方で、悪役たちの思考は少々ステレオタイプにも感じたが、このあたりは往年のテイストを守った部分なのかもしれない。
かつてのJRPGの魅力となっていたプレイフィールの再現を大切にしつつも、現代の水準・趣向を反映した表現や、絶妙な折衷案が採用されている本作。これにより、幅広いプレイヤーが満足できるゲームとして成立していると言えるだろう。
ジョブチェンジの自由度によって深みを増す戦闘システム
続いては本作の肝となる、戦闘と成長に関するシステムについて書いていこうと思う。
いちばんの売りといえば、行動回数の前借りや貯蓄が可能な「ブレイブ&デフォルト」だろう。前借りである「ブレイブ」によって速攻で敵を倒し切ることができる点や、そのための操作がボタン連打ではなく長押しでも可能なあたりは、これもまた前述した現代のゲームならではの快適さにも繋がっている。その上で、従来のターンベースの戦闘とはひと味違う戦略性も有しており、とてもおもしろいシステムだと感じた。
この戦闘の奥深さを最大限に引き出しているのが、成長要素の要である「ジョブチェンジ」システムだ。本作ではボス、中ボスクラスの敵を倒すたび、敵が行使するジョブの能力が宿った“アスタリスク”を入手できる。これによってストーリーが進むたびに使えるジョブの種類が増えていくのだ。
ジョブチェンジを行うと、そのキャラクターの戦闘中の立ち回りや役割が大きく変化することになるのだが、今回は特に「メインジョブ」と「サブジョブ」、それから「アビリティ」に注目して、システム上の特筆すべき点について書いていこうと思う。
ひとりのキャラクターに対して一度に設定できるジョブは2つとなっており、それぞれに「メインジョブ」、「サブジョブ」という名称がある。ステータスはメインジョブのものが適用され、キャラクター個別に設定されたジョブレベルを上げるための経験値が取得できるのも、メインジョブのみだ。
そしてこのジョブレベルが1上がるごとに、そのジョブ固有の「アビリティ」を習得していくことになる。また、アビリティには戦闘時にコマンドを選択することで繰り出せる「コマンドアビリティ」と、装着しておけば常に効果を発揮する「サポートアビリティ」の2種類あるのが特徴だ。
「ジョブ特性」や「必殺技」といった要素は原則としてメインジョブのものが適用されるが、「コマンドアビリティ」は両方のジョブのものが使用できる。「サポートアビリティ」は若干特殊で、これまでのジョブチェンジで覚えたすべてのサポートアビリティの中から使いたいものを選び、5つのスロットにセットすることになる。
序盤で入手するジョブは「攻撃役」、「回復魔法特化」、「攻撃魔法特化」といったシンプルで役割が分かりやすいものが多いが、その後に手に入るジョブは、少しずつ特殊な傾向を持つものが増えていく。
ジョブはシステム上、さまざまなものを付け替え、レベルを上げていくのが推奨されているため、プレイヤーは必然的により高度な運用が必要なジョブへと徐々に触れていくことになる。中には「ブレイブ&デフォルト」で変動する行動回数を示すBP(ブレイブポイント)を効率よく増やすものや、BPが増えた状態ならばより能力が強化されるといったものも存在し、複数のアビリティやジョブ特性を組み合わせることで、さらに高い効果を発揮するものも多い。
これらによって戦闘・成長要素において考慮すべきポイントはどんどん増えていき、序盤では想定できなかったような戦略を練ることができるようになっていくのだ。ジョブが増えるたびにプレイヤーにシステムへのより高度な理解を促し、「これとこれがあればこういった戦略が取れるはず」といった試行錯誤に夢中にさせてくれる。このあたりはデモ版ではおもしろさのごく一部しか味わえなかったが、ゲーム全体をプレイしてはじめて真の魅力を感じ取ることができた部分だ。
そうなってくると、ゲーム全体を通してのキャラクター育成にも計画性が求められてくる。早めに入手するジョブ経験値がアップするサポートアビリティを覚えたほうが良いし、HPの低いジョブを運用したいなら防御力アップやHPが上限を超えて回復するサポートアビリティが欲しい。敵の攻撃を回避すればBP増加、敵にクリティカル攻撃を決めればBP増加といった能力もあるので、装備品の組み合わせでこれらを狙いやすくするといった育成をしてみるのも良いだろう。もちろん、いま挙げたのはほんの一例で、選択の自由度はかなり高い。
なお、いくつかインターフェース上の難点を挙げると、ジョブを切り替えたあと、ジョブとの相性に合わせた装備の変更も行った際のステータスを、直前まで使っていたジョブと直接比較する方法がないのは不便に感じた。もうひとつ、ジョブやアビリティの設定画面ではXボタンに割り振られた「詳細を見る」機能を多様することになるのだが、装備画面では同じXボタンに装備を“おまかせ”にする機能が割り当てられており、理想とする運用に活かすための考え抜いた装備が“おまかせ装備”に切り替えられてしまう誤操作を何度もしてしまった。
特に後者は筆者の不注意と言われたらそれまでなのだが、ほかの部分と比べるとシステムの奥深さに見合った快適さにはいま一歩及んでいないような印象だ。
欲しいアビリティを持っているジョブを育成するため、それまで攻撃役として役立っていたキャラクターを、回復役などに転身させる必要が生じることも。すると、パーティ全体の役割分担のバランスが崩れるので、ほかのキャラクターのジョブや装備品も見直すことになる。攻略を進めるための編成と、長期的な育成を視野に入れた編成のバランス取り、これに頭を悩ませるのも実に楽しい。
どのジョブにも“美味しい”能力やアビリティがあり、すべてを一度に使用することはできない中、どういった方針で育成していくかにも迷う。その上、ストーリーの中で新たなアスタリスクが手に入ると、また育成プランを考え直すことになる。この葛藤はゲームを進めるほどに大きくなり、ゲームにやりがいや試行錯誤の余地を求めている筆者は大いに満足することができた。
なお、ゲーム終盤ではこのジョブチェンジシステムにさらなる変化が加わり、戦闘及び育成のための試行錯誤はもう一段階やりがいのあるものになる。どんな変化が待っているのかは、ぜひその目で確かめてみてほしい。
ちょっとしたアクション要素とボス戦の歯ごたえについて
「ブレイブ&デフォルト」や「ジョブチェンジ」以外の部分での本作ならではの特色にも、少し触れておこう。
本作は基本的にアクション要素のないRPGだが、反射神経や操作のスピード感が求められる要素がわずかに存在する。
ひとつは戦闘に突入するときに敵のシンボルに剣を振って当てることで、BPがひとつチャージされた状態で戦闘がはじまるという要素。逆に無防備なままシンボルに接触すると敵から先制攻撃を受けたり、敵のBPが貯まった状態で戦闘がはじまったりしてしまう。同格以上の敵は主人公たちが視界に入るとこちらめがけて向かってくるので、アクション要素が苦手だと剣を振るタイミングを掴むまでは苦戦するかもしれない。
また、戦闘に入るときにほかの敵も近くにいるときは連戦になり、これに勝利するとジョブ経験値が多く手に入る。連戦数が多いほど経験値の倍率は上昇するので、ジョブのレベルを上げたいときは積極的に狙ってみると良いだろう。連戦を狙う方法として、格下の敵の逃げ出す方向を調整してまとめてフィールドの端に追い込んだり、専用アイテムで誘い出すといったことも可能だ。
もうひとつ、戦闘中にスピード感のある操作を求められるのが、必殺技を放ったあと。必殺技使用時の仲間への能力上昇効果は、キャラクターごとのテーマ曲が流れている間だけ持続する。コマンド入力を素早く行えば、その分だけ多くのターンで効果を持続させられるというわけだ。
いずれもゲームの根幹を成す要素ではないが、こういった要素はゲームプレイに適度な緊張感を与えてくれるので、個人的には好みだった。
もうひとつ挙げたいのは、ボス戦の歯ごたえだ。デモ版でもそれなりの苦戦を強いられたが、本編でも新たなボスが登場するたびにその特徴や行動パターンは大きく異なっており、それまでセオリーとしていた戦略が通用しないこともしばしば。反撃系のアビリティを持っているボスはむやみにブレイブを使用した連続攻撃を加えるとかえってこちらがピンチになることがあったり、MPを奪ってくるボスとの戦いでは回復魔法が思うように使えず、苦戦したり……。
ある程度いろいろな戦略に対応できるパーティを編成していれば初見でボスを倒すこともできる。しかしそれが難しい場合、ジョブの編成を練り直したり、能力向上や有効なアビリティの習得のため、一度引き返してのレベリングが必要な局面もあるかもしれない。
ここでもまた試行錯誤が要求され、そのたびに「ブレイブリーデフォルトII」の肝は戦闘と育成なのだと何度も思い知らされた次第だ。そして苦戦したからこそ、その後に待っているアスタリスク獲得の嬉しさもひとしおだった(ちなみにここまでのスクリーンショットでもよく分かると思うが、彼らがジョブチェンジすることでまとう様々なコスチュームの奇抜さ、かっこ良さも本作の魅力のひとつ。新たなアスタリスクの入手はこの点でも毎回本当に楽しみだった)。
なお、ゲーム全体の難易度は3段階用意されており、途中から下げることもできるので、RPGが苦手でもそこまで構える必要はないだろう。
懐かしくも新しい傑作
ここまで世界観やシステム面について書いてきたが、本作はストーリーも非常に魅力的だ。物語自体ももちろんのこと、ストーリーの進展とゲームシステムの拡張が強く関連付いているのも、作品への没入感を高めている要因になっている。
序盤での一行の目的は4つのクリスタルをすべて取り戻すことにあるのだが、ひとつのクリスタルが手に入るたび、これに選ばれた者の「必殺技」が解禁されていくし、「ジョブチェンジ」に用いるアスタリスクも、その力を悪用する者に打ち勝つ、といった形で入手することになる。つまりストーリー上のカタルシスとゲームとしてのモチベーションが一致を見せる設定となっているのだ。
中盤以降はなかなか残酷な展開もいくつかあり、セスやグローリアが背負った運命の重さが身に沁みるような想いがした。前述したキャラクターたちの魅力と相まって、彼らを待っている運命を早く見届けたい気持ちと、サブクエストを消化しながらもう少しのんびりと旅を満喫したい気持ちがぶつかり合い、筆者はここでも何度も葛藤することになった。
その上で、終盤の展開では、王道ファンタジーの枠を超えたツイストが用意されている。これ自体はゲームという媒体でのギミックとしてはそこまで目新しいものではないのだが、まだ触れたことがない人にとっては“ゲームでストーリーを語ること”の特異性を意識する切っ掛けになるのではないかと思う。
ネタバレ防止のためにかなりぼかした書き方をしたが、上記のような特徴が気になった人は、ぜひ本作をプレイしてみてほしい。3DS用タイトルである前作をプレイするハードルはここ最近高まっていると思うが、本作からプレイしてもこれらの魅力はまったく損なわれることはないはずだ。
サブ的な要素である陣取りカードゲーム「B&D」も、ついずるずると遊び続けてしまう奥深さがあり……。こういった、世界の危機をうっかり忘れてしまう“より道”も含め、「ブレイブリーデフォルトII」は懐かしくも新しい傑作だ。
古き良きRPGを知る人にとってはいま一度夢中になれる、触れたことがない人にとってはその魅力を知る、入り口になり得る作品と言えるのではないだろうか。