サイバーエージェントとGOODROIDがリリースしたスマートフォン向けのオンライン脱出ゲーム「約束のネバーランド~狩庭からの脱走~」をレビュー。人気コミックを原作とする本作の内容を紹介する。
「約束のネバーランド~狩庭からの脱走~」は、週刊少年ジャンプで連載されていたコミック「約束のネバーランド」を原作とするオンライン脱出ゲーム。アニメ化や実写映画化もされた人気コミックが原作だけに、内容が気になっていたという人も多いだろう。果たしてその仕上がりはどうか?本作の内容を詳しく紹介したい。
鬼と人間の戦いを描いたダーク・ファンタジー「約束のネバーランド」
ゲームの内容へ触れる前に、原作である「約束のネバーランド」の内容に触れておこう。「約束のネバーランド」は、人間を食べて生きる「鬼」たちと、人間たちとの戦いを描いたダークファンタジーだ。主人公は、「孤児院」で育てられた少年少女たち。「孤児院」とは、食糧である人間たちを育てるため鬼たちに管理された施設で、序盤はこの施設からの脱出が目的となる。とはいえ、孤児である主人公たちに対して鬼たちの力は強大。まともに正面から戦っても勝ち目はない。このため、鬼たちとの戦いは、主に知力を駆使していかに鬼たちを欺くかという頭脳戦・心理戦の形で描かれている。
こうした原作を、「約束のネバーランド~狩庭からの脱走~」はオンライン脱出ゲームという形に落とし込んでいる。ゲームの目的は、脱出口を開けて脱出すること。最大4人のプレイヤーと協力して追いかけてくる鬼たちの目を逃れつつ、いかに逃げるかという内容だ。
協力するか?単独プレイに走るか?生き残りをかけた鬼ごっこ
ゲームの流れは、ホーム画面から「ランダムマッチ」か「フレンドマッチ」を選んでマッチをスタート。脱走に成功するとマッチクリア。報酬をゲットしてホーム画面に帰ってくるという形式。ストーリー要素は現時点では存在しない。FPS/TPSやMOBAのようなマルチプレイ型の対戦ゲームの流れに近い形式だ。
マッチの勝利条件である、脱出口に入るためには、4つの制御装置を作動させなければならない。なので、マップを移動して制御装置を探すことが最初の目的となる。制御装置を作動させる方法はカンタンで、一定時間画面をタッチするだけ。ただ、作動方法そのものはカンタンでも、そうそう簡単に作動させられるわけじゃない。鬼が襲ってくるからだ。
制御装置は一定時間タッチしているだけで作動させられるが、この一定時間というのがなかなかに長い。鬼が遠くにいる状態ならまだしも、近くにいる状態であれば、鬼回避のために作業中断を余儀なくされるだろう。ここで重要になってくるのが、仲間との連携だ。
制御装置の作動は、他プレイヤーと協力することでを早めることが可能だ。1人よりは2人、2人より4人…と協力することでどんどん必要時間が短くなる。このための機能として用意されているのが呼びかけ機能。この機能によって、制御装置の発見や脱出口の発見や、鬼の接近といった内容を定型文によって他プレイヤーに伝えることができる。しかも、呼びかけの際、文章だけでなく位置まで伝えることが可能。地図上にその位置がマークされるため、「制御装置を発見した」と呼びかければ、他プレイヤーはその場所に向かうことができる。
…もちろん、実際に協力してくれるかどうかはそのプレイヤー次第。中には、ひとつの制御装置を協力して作動させるより、手分けした方が効率的…と考えるプレイヤーもいるだろう。ただその場合でも、どこに制御装置があるのかという情報が共有できるので、呼びかけ機能を使った方がより効率的にプレイできる。
ところで、本作のように追跡してくるクリーチャーから逃げ回りつつ、脱出方法を探るというタイプは、これまでもホラーゲームで作られてきている。ただそうした既存作と本作で大きく異なる点がある。それは、主人公側にも対抗手段があるという点だ。
ホラー系の鬼ごっこゲームの場合、たいてい逃亡者側に対抗手段はない。しかし本作のキャラクターは銃を持っており、鬼を攻撃することができる。もちろん、鬼は非常に強大で、そう簡単に倒すことはできない。さらには、一旦倒したとしても時間経過によって復活してしまう。それでも、銃撃によって鬼のHPをゼロにすれば、一定時間行動不能にすることが可能だ。
この「追跡者を攻撃によって倒せる」という仕様によって本作は、ホラー系の鬼ごっこゲームと比べて、恐怖感やスリルが弱い。しかしその反面、仲間との役割分担という要素が強まっている。周囲に何があるのか探す役割、制御装置を動かす役割、鬼を倒す役割…という形で、各プレイヤーが役割をしっかり果たすと、それだけ攻略しやすくなるのだ。
原作である「約束のネバーランド」を読んだ人なら、この役割分担という部分に原作の匂いを感じ取ることだろう。原作の主人公たちは、大部分が12歳未満という年齢。大半の者は未熟という状況。このため目的達成のためには、知力や体力、度胸や愛嬌…といった、各自が得意とすることを活かしつつ、協力する必要があった。そして、「協力」の裏で生まれていたものが「疑惑」というスリル。相手は本当に協力してくれるのか?何せ鬼は、単なるクリーチャーではない。知性があり、協力的な人間であれば取引に応じてくれることもある。なので、保身のため鬼側につく人間も原作には存在していた。
本作の役割分担もまた、他プレイヤーが必ずしも協力してくれるとは限らないという部分を残している。たとえば、鬼の攻撃によってHPが尽きたとき、他プレイヤーが蘇生してくれれば復帰することが可能だ。ただ、大半の制御装置が作動していない状況ならまだしも、脱出口が開いた状態であれば、他プレイヤーを蘇生させに向かうのはリスキーだろう。なので、自分の脱出を優先するプレイヤーもいるはずだ。
こうした要素が融合することで、本作はゲームプレイを通じて原作の空気感を作り出すことに成功している。これまでのホラー系鬼ごっこ系ゲームとは違う、「約束のネバーランド」ならではのプレイ感を味わうことができた。
…ちなみに、「役割分担といっても何をしていいのかわからない」と感じた人もいるかもしれない。しかし、本作は「アイテム」によって、自然と自分の果たすべき役割が何か、分かるような構成になっている。
「アイテム」は、マップ上の至るところにある宝箱を開けることで手に入る。何が手に入るかはランダムだが、HP回復のほか、移動速度アップ、攻撃力アップ、鬼を足止めする地雷など、いずれもなんらかの形でプレイヤーの能力を底上げしてくれるもの。つまり、アイテムを獲得することで、自分のキャラクターに得意分野が生まれるということ。攻撃力が高いなら、鬼との戦闘に向いているわけで、アイテムを通じて自分の役割を認識できるというわけだ。
ただ欲を言えば、「宝箱からゲット」ではなく、アイテムやその入手場所についても、原作に応じた場所を用意してくれると嬉しかった。ゲーム的には今の形が非常にわかりやすいし、ゲームプレイを通じて原作の空気感を味わえるのだけど、やっぱり原作ファンとしては設定的に原作が反映されている部分も欲しい…。
残念な部分はあれど今後の運営に期待が持てる作品
アイテムの獲得と並んで、本作でやや残念に思ったところが二点ある。ひとつは、ストーリー性の部分。現在は純粋にマッチを繰り返すという形で、ストーリー性がまったくない。もちろん、マルチプレイを前提としたFPS/TPSやMOBAには、ゲーム中にストーリー要素を持たない作品も多い。ただ、本作の場合コミックが原作ということもあって、ストーリ性も欲しいと感じてしまう。
ふたつめの部分は、主にビジュアルや演出面でのクオリティについて。これはあくまで筆者の個人的な感想だが、本作のビジュアルや演出は、原作のビジュアルが持っていた鬼の怖さや逃走のスリルを伝えるレベルには達していないように感じた。これは、本作が完全にオリジナルの作品であれば特になんとも思わなかったかもしれない。ただ本作には、コミックやアニメといった表現形式にビジュアル要素を持った原作が存在する。となると、どうしても原作と比べてしまう。
ただ、こうした残念な点はあれど、本作がゲームシステムで見せた原作の空気感はよかった。また、ホーム画面上では原作に登場した鬼と戦える「BOSSバトル」モードの実装が告知されており、今後、さらにコンテンツが充実していきそうだ。是非今後、ストーリー性を楽しめるようなモードや演出の強化やなどを実装してほしい。こうした今後の運営については、GOODROIDが別タイトルでも定期的に新モード実装を行っているため、筆者的には期待してもよいのではないかと考えている。今後の運営も含めて、原作ファン、鬼ごっこゲームのファンであれば、一度はプレイする価値のあるタイトルといえるだろう。