6月24日に最新作となる「Caligula2」が発売される「Caligula-カリギュラ-」シリーズが5周年を迎えることを受けて、これまでの軌跡を振り返る。
偶像殺し×現代病理がテーマの学園ジュブナイルRPG「Caligula-カリギュラ-(以下、カリギュラ)」シリーズの最新作となるPS4/Nintendo Switch用ソフト「Caligula2」が、2021年6月24日に発売を迎える。
本作のタイトルは、見てはいけないものほど見たくなる、してはいけないものほどしたくなる「カリギュラ効果」が由来。自我を得たバーチャルアイドルが作りだした理想の世界に囚われた主人公(あなた)や仲間たちが、それぞれの理由で現実に戻るべく結成した「帰宅部」の物語を描いている。
2016年に発売したPS Vita向けソフトを皮切りに、2018年4月にはTVアニメ化を果たし、同年6月には追加要素を加えた「Caligula Overdose/カリギュラ オーバードーズ(以下、カリギュラOD)」を発売している。そこで「Caligula2」から本シリーズを知ったプレイヤーに向け、これまでの主だった展開を振り返りながら紹介していこう。
理想(きみ)を壊して現実(じごく)へ帰る
2016年6月にフリューがPS Vita用ゲームソフトとして発売されたのが、シリーズ第1作となる「カリギュラ」だ。それを“過剰強化”した「カリギュラOD」は2018年5月にPS4版、2019年3月にNintendo Switch/Steam版が発売となっている。
「カリギュラ/カリギュラOD」では、バーチャルアイドル「μ(ミュウ)」が人々を救うために作りだした仮想世界「メビウス」が舞台。人々から与えられた楽曲を歌っているうちに自我が芽生え人間の苦しみに気付いたμは、愛すべき人間を幸福へ導くために高校生として学園生活を繰り返す歪な世界を作り上げる。何らかの理由でμの作った世界に招かれたものの、主人公や仲間たちは理想の世界を捨てて現実へ戻るために「帰宅部」を結成。その過程でプレイヤーは、メビウスに囚われた者たちが隠している現実での苦悩や秘密に触れることも……。
一方で現実への帰還を望まず、μと共にメビウスを守る「執拗反復(オスティナート)の楽士」といった勢力も存在する。「カリギュラOD」では主人公は仲間を裏切りながら、楽士として活動する道も選ぶことが可能に。もちろん、心から信頼を寄せる仲間たちを裏切った代償は大きいが……。この楽士ルートをはじめとした「カリギュラ」と「カリギュラOD」の差は、主に以下のとおりだ。
・女性主人公の追加
・難易度「イージー」の追加
・新キャラクター、新ダンジョン、新楽曲の追加
・帰宅部を裏切る「楽士ルート」の追加
・ゲームエンジン「Unreal Engine4」を採用し、キャラクターやマップを高精細化
・独自のバトルシステム「イマジナリィチェイン」を再構築し、より遊びやすく
帰宅部の目指すべき目的こそ変わっていないが「カリギュラOD」では「カリギュラ」よりも女性主人公や登場キャラクターが増加しているため、イベントでの展開にも多くの変化がある。なかには結果的に運命が大きく変わるキャラクターもいるので「カリギュラ」を遊んだプレイヤーも「カリギュラOD」は新鮮に楽しめるだろう。
PS Vita版ならではの要素を挙げるなら、独自のバトルシステム「イマジナリィチェイン」のクセの強さだ。より遊びやすく進化した「カリギュラOD」と比べ、決して万人向けとは言えない尖ったバランスだが、うまくコンボが繋がった際の爽快感はまた格別。より手応えのあるバトルを楽しみたいプレイヤーには、PS Vita版がオススメだ。
“水口茉莉絵”とは一体何者だったのか?
PS Vita版の発売後、2016年10月にはスピンオフ小説「Caligula -カリギュラ- EPISODE 水口茉莉絵 ~彼女の見た世界~」が発売された。内容はタイトル通り、ゲームでは詳しく語られなかった人物「水口茉莉絵」が何故メビウスに囚われたのか、どうして彼女に踏み込む機会すら得られなかったのか、その理由がはっきりと分かるものになっている。
本書では彼女の過去やメビウスで過ごした日々だけでなく、彼女の行動を通して帰宅部メンバー同士の日常を垣間見ることができるし、水口茉莉絵ととくに仲の良かったメンバーがどのように仲を深めていったのかという過程も分かる。こうした主人公の視点では見えなかった、帰宅部が現実へ戻るための活動を異なる視点で追いかけられるのもファンには嬉しいポイントだ。ゲームで体験したストーリーをより深掘りできるものとなっているのでプレイヤー向けの書籍だが、もし興味があれば「水口茉莉絵という人物を描いた物語」としても楽しんでみてほしい。
キャラクターソングの枠を飛び越えたセルフカバーアルバム
2017年10月には、セルフカバーコレクション「ostinato」と題したCDアルバムを発売している。「カリギュラ」シリーズはボーカロイド楽曲の作曲者として著名な、いわゆる“ボカロP”を多く起用しているのが特徴のひとつ。ゲーム内では主に帰宅部と敵対する楽士と戦う際、彼らを象徴する楽曲が流れる。
これらの楽曲は、それぞれのアーティストがゲーム中に登場する楽士の背景や抱える病理を理解したうえで、彼らに“なりきって”作曲するという独特のスタイルを取っている。ゲーム内のBGMとして流れる楽曲はバーチャドールを演じたμの声優が歌唱しているが、このセルフカバーコレクションで歌っているのは楽士を演じた声優陣だ。現実的には多くの人たちが関わって生み出された楽曲だが、ゲームの世界として見れば「曲を生み出した楽士本人が歌う」という、まさに楽曲の魅力を100%余すことなく受け取れる仕組みとなっているのが面白い。
多くの作品では演じられないような声優陣の演技を堪能できるのも「カリギュラ」シリーズの特徴だが、このセルフカバーでの歌い方も演技と同様だ。心の中に抱える苦しみを絞り出すようなものもあれば、ものすごくノリノリで歌っているものもあるし、世の中に出る商品としての完成度を高めた歌も商品としての正解とは言いにくい歌を披露している場合もある。とてもバラエティ豊かなアルバムとなっているので、サウンドトラックではμの歌唱を、セルフカバーコレクションでは楽士の歌唱を楽しもう。
独自の展開も楽しめる、ゲームプレイヤーを尊重したアニメ
2018年4月に放送されたTVアニメ「Caligula -カリギュラ-」には、PS Vita版をベースとしたキャラクターが登場している。ストーリーの流れこそ異なるが、最新作の前に「カリギュラ」の世界を手軽に知りたい人にはうってつけだ。
とくにゲームと大きく違うのは、アニメに登場するキャラクター「式島 律」の存在。見た目は男性主人公と同じで、ボイスもゲームと同じく沢城千春さんが担当しているが、あえて“主人公”と表現していないのには理由がある。
ゲームを原作としたアニメの中でも、プレイヤーがキャラクターメイクを行うものであれば新たに主人公の外見が設定されたり、名前や個性のない主人公にはアニメオリジナルの名前が付与されたりするケースが多い。自分が思い描いていた主人公像そのものといった人もいるだろうが、ゲームはプレイヤーに行動や選択が委ねられている分「イメージと少し違うかも……」と感じる人は少なからずいるだろう。
なかでも「カリギュラ」シリーズでは、主人公が“あなた自身である”ということに重きを置いている。この「主人公はあなた」を壊さず、ゲームの世界をアニメで表現するために不可欠な存在が式島 律だ。彼は主人公に近い視点で物語を動かしていくが、主人公=あなたではないためプレイヤーだけに許された場所へは絶対にたどり着けない。ゲームのプレイヤーの1人としては、このアニメに「主人公はあなただけ」という強いメッセージが込められていると感じられた。
逆に式島 律は、ある人に対してプレイヤーでは言えない、言う資格もないであろう言葉をかけられる唯一の人となっている。ゲームの展開をあらかじめ理解していてもアニメでの謎がすべて明かされた時の衝撃は凄まじいので、ゲームをプレイしたものの視聴していない人はぜひアニメも見てほしい。
それと、何故かゲームとは一切関係がないはずの4コマ漫画「エクストリーム帰宅部」は、アニメとは妙に密接(?)な関係にある。もし「エクストリーム帰宅部」のファンであるなら、アニメを見ているとちょっといいことがある……かもしれない。
まもなく発売を迎える「Caligula2」は、新たなバーチャルアイドル「リグレット」「キィ」が登場し、後悔をやり直した理想の世界「リドゥ」が舞台となる。帰宅部メンバーも楽士も一新されており、まったく新しいストーリーが展開するのでここまでに紹介した作品を知らなくても十分楽しめるようになっている。
とはいえ「カリギュラ」シリーズの原点や世界背景を少しでも多く理解しておけば、さらに物語をじっくり堪能できるのも間違いないはずだ。「Caligula2」をプレイする前でも、クリアした後でもぜひ、これらの作品に触れてみてはいかがだろうか。