ソニー・インタラクティブエンタテインメントが、2021年9月24日に発売を予定しているPS5用ソフト「DEATH STRANDING DIRECTOR’S CUT」のインプレッションをお届けする。
「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」は、2019年にPS4で発売された「DEATH STRANDING」がPS5用にリマスター化されたタイトル。新たな武器・装備や建設物など、さまざまな新要素も追加されている。本稿では、PS5というプラットフォームによって堅牢となった「DEATH STRANDING」のコンセプト的な面白さと、おなじみの「ソーシャル・ストランド・システム」や新要素によって強化されたゲームとしての面白さ、2つの側面から本作を語っていく。
なお、筆者は前作「DEATH STRANDING」は未プレイ。スクリーンショットは画質優先モードによるものだ。また、本稿は先行プレイによるクリア後レポートとなるが、初めて「DEATH STRANDING」を遊ぶ人のため、物語のネタバレは可能な限り避けている。
今作でより強固になった「DEATH STRANDING」の面白さとは?
まずは、初めてプレイする人向けに「DEATH STRANDING」とはどのようなゲームかお伝えしておこう。
本作の目的は、天変地異「デス・ストランディング」によって分断されてしまった北米大陸を舞台に、伝説の配達人「サム・ポーター・ブリッジズ」となって依頼された荷物やカイラル通信と呼ばれる通信網を各地へ運び、アメリカの“繋がり”を再び取り戻すこと。配送する荷物には大きさや重量が設定されており、持ちすぎたり搭載バランスが悪いとサムの動きに大きく影響する。L2/R2トリガーで転倒しないようにふんばることができるが、無理に積み過ぎると転倒して荷物を落としてしまう危険もあるので注意が必要だ。
また、触れた物の時間を早める雨「時雨」や幽霊のような存在「BT」、配送荷物を強奪しようとする「ミュール」など、サムの配送を阻むリスクも存在。これらのリスクによる荷物の劣化や紛失を避けながら、ただひたすら荷物を目的地へ運ぶのがゲーム主な流れとなっている。
ここまで聞いて、初見の人は本作に触れる前の筆者とおおむね同じ感想を抱くだろう。端的に言えば、「ひたすら荷物を運ぶゲームは面白いのか?」ということだ。端的に答えるなら、抜群に面白い。少なくとも筆者は、少し駆け足気味でプレイしてしまったのを後悔しているし、本稿を書いた後もしばらくやり込むことを決めている。それくらい病みつきになる作品なのだ。
では本作の独特な面白さはどこから来るのか? それは、プレイヤーとサムの繋がりを“配送の過酷さ”を介して常に保ち続けることで生まれる没入感の高さからだ。配送任務では、上述した以外にも地形の起伏などを気にしつつ目的地へと向かう。左右のスティックで周囲の状況を確認しながら進んだり、L2/R2トリガーでふんばるのはもちろん、R1ボタンで地面の状況やBTを感知できるセンサー「オドラデグ」を適宜起動するなど、操作は意外と忙しい。加えてBTやミュールと出くわしたときは、恐怖や焦燥感にかられながら歩みを進めることになる。
また、装備することでBTを視認できるようになる謎の胎児「BB(ブリッジ・ベイビー)」のことも忘れてはならない。BBに極限まで負荷がかかると自家中毒に陥り、機能を停止してしまうからだ。BBのストレスを示すストレスゲージは、あやす(コントローラーをやさしく上下にゆらす)ことで回復できる。
さらに、今作はDualSense ワイヤレスコントローラーのハプティックフィードバックとアダプティブトリガーに対応。サムの一挙手一投足を的確に反映するコントローラーは常に振動しているといっても過言ではない上、トリガーは荷物の重さを抵抗として感じられる。長時間の配送では、手がしびれるような感覚も覚えたほどだ。はっきりいって疲れるのだが、それはサムも同様。呼吸を荒げながらもただひたすらに、一心不乱に荷物を運ぶ。プレイヤーとサムは、次元を超えた疲労によって“繋がる”のである。
一般的なゲームでは、コントローラーの過度な振動は褒められる要素とは言い難いし、オフにするプレイヤーも少なくない。本作ももちろん振動オフでプレイできるのだが、普段オフにする人もぜひ振動「強」でプレイして心地よい疲労を感じてみて欲しい。本作において、それはメインディッシュとも言える要素の一つなのだ。
また個人的には、任務の途中でサムがこぼすセリフも印象的だった。「(転びそうになって)危なかった」「(降り続く時雨を見て)止んでくれ」といった短いセリフは、ゲームをしているときにプレイヤーがつぶやく小さなリアクションと似ている。そうした精神面でのリンクも、2者の繋がりを感じられるポイントとなっている。
過酷な配送を通してサムと繋がり、彼と彼を取り巻くキャラクターたちの物語を“体感”すること。ここに「DEATH STRANDING」独自の面白さがあるのだ。
新たな武器や建設物で広がる遊び
そんな根源的な面白さの一方で、ゲームとして本作を面白くしているのが、配送を助けてくれるアイテムや遊びの幅を広げるさまざまなモード、そして他プレイヤーとのゆるやかな繋がりを体感できる「ソーシャル・ストランド・システム」だ。
配送では、荷物をサムの背中に背負ったり、肩などに装着することで運べるのだが、ゲームを進めていくとそれだけでは到底運びきれない量の荷物も任されることになる。そんな時に便利なのがアイテムや建造物だ。まずは、本作に登場する新たなアイテムなどを紹介しよう。
本作では、重い荷物を持った時の負荷を軽減したり、ブーストの移動速度を上げてくれる「アクティブスケルトン」などの装備はもちろん、荷物を積んだポッドを射出する「荷物カタパルト」、車両などで障害物を飛び越える「ジャンプ台」、狭い地形でも建てられる「カイラル橋」など、新たな建設物が登場する。便利すぎるように見えるかもしれないが、ジャンプ台はきちんと助走をつけられる位置に適切な角度で設置する必要があったり、カイラル橋は時雨が降ると消えてしまったりと、デメリットも存在するため、状況に応じた使い分けがカギとなる。
なお、建設物を立てるには建設装置というアイテムが必要。また、カイラル通信の繋がっているエリアにしか建てることができないので注意しよう。
アクティブスケルトンは、最終盤まで役立つとても便利な装備だ。 | |
荷物カタパルトで射出した荷物は、着地前にパラシュートを開くことで内容物のダメージを防げる。 パラシュート降下中は遠隔操作も可能だ。 |
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ジャンプ台は、車両だけでなく徒歩でも使用可能。ジャンプ中にトリックを決めることも。 | |
カイラル橋は特殊なIDで管理されており、ミュール等は渡れない。 |
さらに、新たな相棒として「自動追従ロボット」も登場。荷物を積んで運んでもらうだけでなく、サム自身が乗ることも可能だ。ただし、カイラル通信圏内しか移動できず、サムが配送する荷物を持っている場合、その依頼の評価が最高でもAまでに制限される。こちらも目的によって賢く使おう。
また配送の際には、BTやミュールたちと相対することもある。BTは息をひそめながらゆっくりとその場を離れるといった回避方法があるが、荷物を執拗に狙ってくるミュールには苦労する人も多いのではないだろうか。
本作では新武器としてメーザー銃が登場。高出力の電撃により人間に気絶ダメージを与えるほか、車両は一時的に機能を停止させられる。特に作成できる武器の少ない序盤は、心強い味方となってくれることだろう。
さらに、武器の扱い方を練習したり、スコアを争う演習ができる「訓練場」やボスとの再戦、乗り物で爆走する「レース場」も楽しめる。それぞれランキングが搭載されており、世界中のプレイヤーと競い合うことが可能だ。
演習では、時間内に標的をすべて破壊したり、ミュールを全て倒すなどの目標達成を目指す。 | |
ボスと再戦するには、プライベート・ルームにあるフィギュアを確認しよう。 | |
レースでは、自分がこれまでに走った最も早い1LAPの記録がゴーストとして表示される。 |
システム面では、カイラル通信を繋いだ施設に瞬間移動する「フラジャイルジャンプ」がマップ選択方式に。PS5の超高速SSDによってほぼ数秒で読み込みが完了するため、テンポを損なわずにゲームに没入できる。また、BBポッドのカラーも変更可能になり、カスタマイズの幅がより広がった。
そして今作でも健在なのが、他プレイヤーと間接的に助け合える「ソーシャル・ストランド・システム」だ。オンラインでプレイしている場合、カイラル通信が接続されたエリアでは、橋や道路などの建造物が他のプレイヤーと共有されていく。配送が快適になるだけでなく、建造物の位置からBTなどの脅威や配送ルートを割り出して参考にすることも可能だ。
そして、共有される建造物には感謝の気持ちを込めて“いいね”を送り合うことができる。非リアルタイムで、具体的なコメントが残ることもない。しかし、感謝のやり取りはそれで充分だ、ということをこのシステムは教えてくれる。自分が誰かの助けになったこと、誰かと繋がっていることが分かればそれで良いのだ。
プレイヤーとサムの繋がりによる没入感と、配送をゲームとして成立させるシステム。それが重なることにより、本作は独特なプレイ感を残す。「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」は、そんな唯一無二の体験を損なうことなく丁寧にリマスターされた作品と感じた。サム・ポーター・ブリッジズの歩みをより色濃く体感できる、再編集版(ディレクターズカット)を超えた本作を、ぜひ遊んでみて欲しい。