3月27日の「AnimeJapan 2022」にて行われた「Sky 星を紡ぐ子どもたち」スペシャルイベント。イベント終了後、thatgamecompanyの水谷立氏、田邊裕一朗氏へのインタビューを行った。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は、「Flowery」や「風ノ旅ビト」を手掛けたthatgamecompanyによるソーシャルアドベンチャーゲーム。美しく作りこまれた映像と音楽、あらゆる垣根を超えたゲームデザインによって、世界中の人々を魅了し続けている。
Gamerでは、アニメ化など多数の新情報が発表された「AnimeJapan 2022」のステージイベント終了後、本作の制作の根幹を担う水谷立氏と田邊裕一朗氏へインタビューを実施。thatgamecompanyの理念や入社の経緯、今後のビジョンなどについてお話を伺うことができた。
インタビュー:TOKEN
文・構成:ロック
――「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は知っていても、タイトルを制作している会社を知らないという人もいるかと思うので、thatgamecompanyがどういう会社か簡単にお聞かせいただけますでしょうか?
水谷氏:thatgamecompanyは、カリフォルニア州ロサンゼルスにある総勢100名ほどの小規模なゲーム会社です。世界中の人々に幅広く受け入れられるような、芸術的で豊かな感情体験を作ることを理念としており、これまで「flOw」、「Flowery」、「風ノ旅ビト」、そして最新作となる「Sky 星を紡ぐ子どもたち」を開発・リリースしています。「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は2019年にiOS/Androidでリリースし、7月で3周年を迎えます。また、2022年3月で全世界累計1億6,000万ダウンロードを突破しました。
――お二人はどのような形でthatgamecompanyに入社されたのですか?
水谷氏:PS3でリリースされた「Flowery」を初めて遊んだ際に、“面白かった”“感動した”では表現しきれない強い衝撃を受け、ゲームでこんな表現ができるのだと思いました。アート作品のようで、ゲームをプレイしているという実感を得られる。そして、心を動かされるような体験ができるのだと思い、ものすごく悔しくなったんですよ。もともとサウンドデザインという仕事を長くさせていただいていたのですが、この作品を作ったチームに入って、一緒に作品作りをしなければならない、というような気持ちになり、気が付いたら応募していました。そして、あれよあれよという間に面接やビザの準備等の手続きが過ぎ去っていて、気づいたらロサンゼルスにいたという感じです(笑)。
田邊氏:僕は両親が日本人、生まれ育ちが南米のエクアドルでして。海外にいる時は日本人、日本にいる時は帰国子女という立場で、国籍という概念にどこか疑問を持って育ちました。大学はインタラクティブメディアを専攻していて、その時に目にしたのが「Flowery」だったんです。自分がやっていたファインアート(芸術的価値を専らにする活動や作品)にも通ずるし、それでいてエンターテインメントとしても成り立っている。こんなゲームがあるのかと衝撃を受けました。その時は制作会社までは気にしていなかったのですが、「風ノ旅ビト」のアートに関わっていた人がたまたま大学の先輩で。彼に声をかけてもらって初めて、「Flowery」を作っている会社と分かったんです。それならと面接に行ってオーナーと話をすると、国籍などの垣根を超えた作品を作りたいという理念と自分の感じていた違和感がまさに一致していたので、ここしかないと思って参加しました。
――お二人の役職と仕事内容を教えてください。
水谷氏:thatgamecompanyではリード・オーディオ・デザイナーとして、ゲームのサウンドデザイン(音楽以外の全ての音が鳴る要素をデザインする仕事)をしており、「Sky 星を紡ぐ子どもたち」では効果音制作や、実装プログラムを担当しています。また、自分たちの魂を込めて制作した作品をもっと多くの、特に日本のプレイヤーに知って欲しいという想いから、日本のさまざまな企業と協力して、本作を日本に広めていく手助けをジャパン・ブランド・リードという形でさせていただいています。
田邊氏:現在はビジュアル・デベロップメント・リードというポジションで、「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のキャラクターやアイテム、空間や場面をデザインしたり、世界設定を決めたりしています。ショップやマーケティング素材などのゲーム外のビジュアルを監修したりもしています。
――「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のこれまでを振り返って印象的だったことはありますか?
田邊氏:モバイルアプリとして始めるというのはやはり大きかったですね。「風ノ旅ビト」がおかげさまで評価され、受け入れてくれる人がいると知ることができたので、今度はより多くのファンにプレイしていただきたいという想いから、誰にでも遊んでもらえる媒体で始めようということで、まずモバイル向けからと決めました。当時のモバイルゲームは操作が限られていたので、どうやって遊ぶだろうと考えるところが苦労しましたね。
水谷氏:没入感という点では、TVに繋いで遊ぶゲームと比べると劣るのではないかと考える人もいらっしゃると思うのですが、自分がプレイしたい時にいつでもどこでもアクセスできるということは、ゲームの世界との距離の近さという点ではすごく大きな利点だと思っています。
AnimeJapan 2022ではブースも出展させていただいたのですが、ゲームの中の「草原」という舞台を再現したセットをブースの中にデザインしています。ファンの中には、草原のブースに入りながらスマートフォンでゲームを立ち上げて、キャラクターと一緒に写真を撮っている方がいらっしゃって、すぐにアクセスできるモバイルという端末のユニークな点を改めて感じました。
――実際にブースにも立ち寄りましたが、ゲームユーザーをターゲットにしているイベントではないにもかかわらず、たくさんのファンで賑わっていました。
水谷氏:「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は、おかげさまで日本でもたくさんの人にプレイしていただけるタイトルになりまして、ぜひファンと直接お会いしたい、そしてプレイヤー同士が話をしたり繋がれるような場を作りたいという想いはずっとありました。世界中で感染症の流行がありまして、なかなか思うように実現できなかったのですが、今回こうしてブースを出展できたというところで、スタッフと会いたい、同じファンと会いたいというプレイヤーの熱い想いがあり、たくさん集まってくれたのだと思います。また同時にどんな人でも楽しめる世界観自体を、現実という場所に作りたいと思っていたので、ゲームをあまり遊ばない方にも、ゲームで実現したい想いをブースの中から感じとっていただけたのかもしれないと考えています。それで多くの人が来ていただけたのかと。
田邊氏:昨日と今日で実際にブースに来ていただいた人たちを目の当たりにして、こんなにたくさんのファンに遊んでもらえているのかという実感がわき、感動しました。小規模のチームで開発していたゲームだったので、初めはマーケティングも可能な限りといった規模で、アメリカを皮切りになるべく多くの人に遊んでもらいたいという思いで制作していました。そんな本作が、日本でも少しずつ口コミで人気を獲得していき、プレイヤー同士で広めてくれて。全世界でリリースしたいという想いがあったのですが、言葉のないゲームの中にもどうしてもローカライズが必要な部分が出てきて、始めは我々二人で翻訳をやっていたりしました。そんな過程を経て、今回これだけ多くのファンが集まってくれたのを見て、胸がいっぱいになりましたね。
――今回アニメ化が発表されましたが、「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の今後のビジョンとして、どういったことをやっていきたいですか?
水谷氏:「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の一つの理想として、“広がり続けるテーマパーク”というものがあります。テーマパークというのは、いつ行っても何か新しいワクワクが待っている、自分がそこにいて良いのだと感じられる場所です。たとえ長い間そこにいなくても、ふと思い出したときに帰ってくると、自分が楽しめる場所なのだと思える場所。「Sky 星を紡ぐ子どもたち」もそうなりたいと思って開発しています。今後も、これまでプレイヤーが体験したことのないイベントや新しい驚きをどんどん追加していき、いつ遊んでも楽しめるようなゲームにしたいと考えています。
田邊氏:thatgamecompanyへの入社のきっかけとなった理念は当初からブレておらず、今後もブレることは無いと思います。「Sky 星を紡ぐ子どもたち」はおかげさまで大きなコンテンツになりましたが、時代を経ても色あせることのない、垣根を超えたエンターテインメントをなるべく多くの人たちに体験してもらうことを追求していきます。アニメ―ションもその一環で、これからもどんどん広げていきたいと思っています。
水谷氏:最終的には世界で100億人を目指したいですね!
田邊氏:まだまだですね(笑)。