目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第38回「ブッチギレ!」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

今回は監督・シリーズ構成を平川哲生氏、キャラクター原案を武井宏之氏が担当している、2022年7月より放送中のオリジナルTVアニメ「ブッチギレ!」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

  • 幕末Rock」「薄桜鬼」など幕末を題材としたゲーム

第38回「ブッチギレ!」

ラジオ番組「TOROアニメーション総研」(SBSラジオ毎週月曜19時~、https://twitter.com/toroani_sbs)で時々共演するミュージシャンのイシノユウキさん(jam9)と「ブッチギレ!」の話になった。そんなに詳細な話をしたわけではなく、「なんかいいですよね」「そうなんですよね」と短い言葉でお互い頷きあった程度の“会話”だ。

その後2人で、番組中で気になる作品としてちゃんと「ブッチギレ!」を紹介はしたけれど、そこはあくまで視聴者のフックになりそうなところに触れた程度。だから、その放送からずっと、「ブッチギレ!」の「なんかいい感じ」という印象がどこから生まれているのかをずっと考えている。

「ブッチギレ!」は幕末の京都が舞台。八月十八日の政変の時に、新選組幹部が謎の襲撃者「雑面ノ鬼」によって皆殺しにされ、さまざまな背景を持つ咎人たちが、新選組のメンバーを名乗らされるところから始まる。主人公、一番星は親の仇として雑面ノ鬼を追っており、替え玉新選組の“近藤勇”として、不逞浪士の背後にいる雑面ノ鬼を追うことになる。

新選組を題材にしていることもあり、当欄としては本作が描こうとしているのは、最終的にメインキャラクターの「生き様(もしかしたら最終的には死に様)」ではないか、と想像している。キャラクターが「その瞬間を生きた」と視聴者が実感できる、クッキリとした印象。

そこを表現しようとすると、観客に各キャラクターに一定のリアリティを感じてもらう必要がでてくる。とはいえ、アニメ・漫画的なケレン味は、作品の華として欠かせない。だから「ケレン味によるくっきりとした印象」と「もっともらしさによる人間像の奥行き」をどの水準で統合するか、がポイントになってくる。

映像のビジュアルは(おそらく制作的な歩留まりも見越して)、リアリティラインは低めに設定してある。そのかわり全体に和紙のようなテクスチャーをのせることで、本作が「絵」で語る作品であることを強調している。つまりこれは「想定される、あったであろう現実」ではなく、「絵によって再表現された世界」なのである。これによってカラフルな髪色をした、替え玉新選組のメンバーも、その世界の一部分として違和感なく受け止められるような画調に仕上げている。

一方で、固有名詞の扱いはかなり史実に則っている。例えばことの発端を「八月十八日の政変」と史実にある事件から(名前だけにしても)採っているように、替え玉新選組の周辺に出てくるキャラクターも、会津藩の松平容保、秋月悌次郎を始め、実在の人物が多い。映像だけ見ていると創作上の人物ではと思ってしまいそうな土御門晴雄、あるいは架空の人物にしてしまってもいいような内山彦次郎、宮部鼎蔵といったキャラクターもみな実在の人物を下敷きにしている。

例えば内山は、実際に暗殺されており、その下手人は不明だが、新選組の誰かともいわれている人物だったりする。本作の展開もそれを踏まえたものだろう。

ビジュアル的な「少年漫画的なケレン味あるビジュアル」。でも細部から伝わってくる「固有名詞に由来するリアリティ」。おそらく、この絶妙な組み合わせが、キャラクターたちを「愛でる」よりももうちょっと踏み込んで、「見守る」感情を生んで、「いい感じ」になったのではないか。

ちなみにこれが「リアリティあるキャラクターと背景」で「史実を無視した荒唐無稽な設定」という組み合わせで描かれたら、まったく違う感触の作品になったはずだ。少なくとも「いい感じ」のような愛嬌は生まれなかったはずだ。

物語もそろそろ終盤。この「いい感じ」の行く末を見守りたいと思う。そして見終わったら……分析力バッチリのイシノさんと感想戦をしたいと思っている。

オリジナルTVアニメ「ブッチギレ!」公式サイト
https://www.bucchigire.com

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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