スクウェア・エニックスより、2023年3月9日に発売されたNintendo Switch/PC(Steam)/iOS/Android向けタイトル「パラノマサイト FILE23 本所七不思議」。発売後のユーザー評価が高く、SNSを中心に話題になっている同作のインタビューをお届けする。
本作は昭和後期の墨田区を舞台にしたアドベンチャーゲーム。墨田区にも伝わる怪談・本所七不思議による呪いの力を得た9人の男女が、七不思議に隠された“蘇りの秘術”を巡るストーリーが描かれていくことになる。
ここではプロデューサーの奥州一馬氏、ディレクター/シナリオの石山貴也氏、キャラクターデザインの小林元氏にゲーム発売後だからこそ聞ける制作の裏話を直撃した。
実況しているユーザーの反応が楽しい
――ゲーム発売後のユーザーからの反響はいかがですか?
奥州:クライマックスの伏線回収や自力で謎を解いてクリアしたときの気持ち良さに感動したというコメントをたくさんいただいています。序盤のホラー展開もしっかりフックになってくれているようですし、後半のドラマに関しても、すごく評判がいいです。
実況プレイ動画を公開してくれるユーザーさんも多く、みなさんが楽しくプレイしていることが伝わってきてくれてうれしいです。
石山:先行プレイの動画を拝見させてもらったのですが、「あれ、このゲーム面白いんじゃない?」と思いながら見ていました(笑)。
――それは自分の作ったゲームを客観的に見て、面白さを再確認したということでしょうか。
石山:そうです!(笑) それに加えて、読み上げやリアクションが付くと、自分でプレイするのとはまた違う楽しさがあるなと思いました。自分が気になっていたところを、実況者さんが検証しな がらプレイしているのを見て、「あー、なるほど、そういう風に考えるのか」と興味深く見ていました。
ほかのみなさんもどんどん実況してみて欲しいですし、クリアしてから実況配信を見るのがいちばん楽しいと思うので、クリアしたあとはいろいろな実況を探してみて欲しいです。
奥州:ひとりで遊ぶものというイメージのアドベンチャーゲームですが、実況動画を見るという遊び方でも盛り上がれることに気付けたのは、我々としても発見でしたね。
小林:自分は今までとは違うテイストのキャラクターを描いたので、そのイラストが受け入れてもらえるのかドキドキしながら見ていました。
――自分はミヲちゃんがいちばん好きです。彼女は「スクールガールストライカーズ(以下、スクスト)」(※石山氏、小林氏が過去に関わったスマートフォン向けゲーム)のヒロインたちとは違う本作ならではのキャラクター造形だなと感じました。
小林:そうですね。キャラクターに関しては石山さんとイメージをすり合わせながら作っていましたが、今まであんまり描いてこなかった感じのキャラクターが多くなりましたね。
石山:「スクスト」のときは3Dという事情もあって体型に大きな違いを出せなかったのですが、今回はイラストそのまま出せるということでミヲちゃんはあんな風になりました(笑)。
奥州:あんな風(笑)。
――ゲームの難易度やホラーの怖さについてはいかがでしょうか。実況を見ていて意外な反応だったところはありますか?
石山:難易度に関してはテストプレイの段階で意見を聞きながら調整して、分かりにくいところはヒントを多くするようにしているので、だいたい予想通りかなと思いましたけども……。
――確かに序盤に関しては案内人が親切なヒントをくれるので、詰まらずに進んでいけますね。
奥州:事前のテストプレイでは簡単すぎるという意見もあったりしたので、あえてちょっと難しくしたところもありましたし、逆に難しいところはもう少しわかりやすくしたりもしましたね。
小林:ユーザーさんがネットで調べるというところことも想定されて作っていたんですよね。
石山:そうですね。今の時代にネットで答えを調べないのは一種の縛りプレイみたいなものだと思っているので、あえてちょっと詰まらせるような難しめのものも1箇所や2箇所ほど取り入れています。
――各主人公のストーリーを終えたあと、どうやって進めばいいのか迷ってしまう人が多いようです。
石山:あそこで放り出される絶望感がいいですよね。ここで一度呆然としてほしかったので、配信をしている人が呆然としているのを見ると少しうれしいです。
――してやったりと(笑)。
石山:でも、そこでいろいろなヒントを読み返して、進む方法に気付けたとき、気持ちいいんじゃないかと。
――ここまでの流れでヒントはぜんぶ与えているから、あとは自分で解いてほしいということですね。
石山:そうです。そして、どうしてもわからなかったら、最悪ネットで検索すればクリアはできると思いますので。
「パラノマサイト」が生まれた経緯
――改めて「パラノマサイト」を制作した経緯をお聞かせください。「探偵・癸生川凌介事件譚」シリーズも手掛けた石山さんが、ふたたび探偵アドベンチャーゲームを制作することになったきっかけはあるのでしょうか? また、スクウェア・エニックスさんからは昨年「春ゆきてレトロチカ」が発売されましたが、社内でアドベンチャーゲームを盛り上げる流れはあったのでしょうか。
小林:流れでいうと別ですね。石山さんとの企画は何年も前から進めていました。
石山:初代の「スクスト」を作ったあと、新規プロジェクトを立ち上げようという動きをしていました。コバゲン(小林)さんにもキャラクターデザインをお願いしてプロトタイプを作っていましたが、なかなかうまくいきませんでした。そんななか、奥州さんがお声がけをしてくれて、いっしょに新作を作ることになったんです。
奥州:石山がアドベンチャーゲームを作りたがっていると知り、自分のチームの若手のスタッフなどと一緒に新作のアドベンチャーゲームを作ることにしました。まずは作品の引きとなるテーマなどをいっしょに考えていきました。
石山:実は最初にコバゲンさんと作っていた企画はアドベンチャーゲームでは無かったんです。新規でアドベンチャーゲームの企画を立てても通らないと思い、ストーリーを楽しむタイプのRPGを考えていましたが、今回の体制ならアドベンチャーがいいと判断してそう持ちかけました。
――「パラノマサイト」は最初から現在の価格やボリュームで作ろうと思っていたのでしょうか?
小林:最初はもうちょっとしっかりしたプロジェクトにしようという考えもありました。
石山:ただ、コンパクトなタイトルが受け入れられている土壌ができていたいので、予算内で高品質のものを作るにはどうするのが良いか考えた結果、自分にアドベンチャー作りのノウハウがあり、とくにコンパクトな作品には自信はあったので、それで勝負しようと思いました。
――奥州さんは石山さん、小林さんとは当時は別のチームだったと思うのですが、いっしょにオリジナルタイトルを作ろうと思ったのはなぜでしょうか?
奥州:「インペリアル サガ エクリプス」を運営させてもらっている一方で、新規の企画にもチャレンジしたいという思いを抱いていました。石山がオリジナルのゲームを作りたがっている と知り、話を聞いたところ「これは面白い」と判断しました。その後、小林や岡村(「パラノマサイト」のアートアドバイザーとして参加した岡村礁氏)といったメンバーとも話をしながら企画を具体的なものにしていった流れですね。
――製作期間はどのくらいかかったのでしょうか?
奥州:厳密な期間をお答えできないのですが(笑)、低価格での販売を実現可能にするためにかなりスピード感のある期間で制作はしました。
――小林さんは短い期間でかなりの数のキャラクターをデザインされたのでしょうか?
小林:手の速さには自信があったので大丈夫かなと思っていましたが、予想以上に量が多かったです(苦笑)。
石山:差分などもいっぱい描いてもらいました。
小林:ただ、自分が描けば描くほど、いい形にゲームを仕上げていってくれるのでモチベーション高く頑張れました。
奥州:小林は出来上がるまでのスピードがすごい早いんです。こんな短時間で、こんな品質のいいものを仕上げてくれるのかと驚きましたね。
――演出に関することだと、昔のテレビ画面風の画面が凝っていて、一気に世界観に引き込まれました。
石山:そこは画面を見ただけで「パラノマサイト」だと分かるようにしたくて、あの演出にしました。
――「パラノマサイト」はゲームの発売前に「スクスト」とのコラボも行われ、初期からのファンは石山さんが帰ってきたことにも感動していたと思います。石山さんとしても感慨深い気持ちはありましたか?
石山:いや、帰ってきたというか、こちらとしては完全新作で知名度がない「パラノマサイト」をなんとかユーザーさんに知ってもらいたいという一心で、「スクスト」チームに「すいません、コラボをやらせてください!」とお願いした形ですので。
奥州:石山、小林、岡村と「スクスト」を作ったメンバーがコアメンバーのなかにいたので、知ってもらうには「スクスト」とコラボするのがいちばんいいと思ったのは確かです。
石山:まずは「スクスト」をプレイしている人たちに自分が新作を作ったことをお伝えしたいと。
すでに運営のスケジュールが決まっているなか、ゲームの発売前にコラボイベントが開催できるように調整していただいた「スクスト」チームのみなさまには感謝しております。この場を借りてお礼申し上げます。
小林:コラボイベントのストーリーを石山さんが書いていることは明かしていませんでしたね。プレイしている人のなかには雰囲気で感じ取っている人も多かったようですが(笑)。
石山:そうですね。シナリオ作成者は公開情報ではないので名前は載っていませんが、気付いてくれた人もいたようです。ありがとうございます。
――なるほど。それでは「パラノマサイト」について、詳しくお聞かせください。墨田区が舞台というのは最初から決めていたのでしょうか?
石山:アドベンチャーゲームを作ることが決まって、どんな内容にするかをみんなで会議していたときに、奥州さんが墨田区の伝承の怪談“本所七不思議”のアイデアを出したのがきっかけでした。
――奥州さんはもともとホラーなどに詳しかったのですか?
奥州:いえ、呪いを題材にすることはその段階でなんとなく決まっていて、モチーフとなるオカルトが無いかなと探していて“本所七不思議”を見つけた感じです。それぞれの話がとても個性的で、この呪いを能力的なものに置き換えたら、すごく面白いものが出来上がるんじゃないかなと思ったんです。
石山:題材にすることを正式に決めたあとは図書館に行って文献などをこまかく調べていきました。
――“本所七不思議”の呪いを各キャラクターに当てはめて、そこから物語や謎解きを作っていく作業は大変ではありませんでしたか?
石山:もちろん大変でした(笑)。
奥州:すいません(笑)。
石山:ただ、“本所七不思議”を題材にすると決まった時点で、呪いを能力にするということも同時に決まっていたのですぐに作業に取り掛かることができました。また、ホラーにすることも最初から決まっていました。
――なぜホラーにしようと?
石山:配信でゲームを広めてもらいたいという狙いからです。そして自分が得意とするのがミステリーなので、ふたつが合わさってホラーミステリーになりました。
“本所七不思議”を絡めることになったとき、その不思議のひとつひとつにキャラクターを紐付けたら、能力者モノっぽくなっておもしろいかなと思い、群像劇になっていった感じです。
奥州:私は思いついたものを提案しただけなので、こうやってキレイに設定に落とし込んでくれたのはすごいなと思います。
――“本所七不思議”が実在するものだとあとから知って驚きました。
石山:じつは自分も知りませんでした。地域に密着した怪談というのがリアリティありますし、聖地巡礼としても盛り上がる要素として使えるかなと思い、ゲームのなかで使用できるかどうか墨田区さんに相談してみました。
――事件が佳境になる後半は物語とあまり関係なくなってくると思わせておいて、最後のほうでこの“本所七不思議”の資料が重要になりますね。
石山:そういう謎解きを入れないと、ゲーム内の資料を読んでくれないかなと思いまして(笑)。実は話が繋がっている、ということに気付いてもらうためのものです。
小林:自治体に協力してもらうアイディアは「サガ」での経験を踏まえて奥州さんから出たものですね。
奥州:佐賀県さんと毎年コラボをさせてもらっているなかで、ゲーム業界の外とコラボすることによる発信力や話題性は強く感じていました。そのため、この作品でも自治体と組んで仕掛けを作っていきたいなと思ったんです。
石山:墨田区さんはすごいノリノリで協力してくれました。「呪いとか魔境とか言っても大丈夫ですか?」とお尋ねしたときも、「どんどんやっちゃってください!」と言ってもらえました(笑)。
奥州:全天球背景は小林の案から生まれた発想でした。石山がカメラを持って現地撮影して墨田区の町を再現しましたが、聖地巡礼をするのも楽しいですし、墨田区にゆかりのあるかたは懐かしさも感じてもらえると思います。
石山:それと、お決まりの注意になりますが、墨田区に実際に訪れる際は大人数で立ち止まって撮影などはせず、近隣にご迷惑のかからないよう、十分な配慮をよろしくお願いいたします。
――本作は昭和後期が舞台となっており、当時のファッションなどが取り入れられたデザインになっています。キャラクターのデザインはどのように固まっていったのでしょうか?
小林:基本的には私のほうでデザインを提案させていただきました。
石山:年齢や性別、職業と簡単な印象をお伝えしてデザインしてもらいました。当時の髪型などは小林さんが調べてくれました。
小林:時代設定が昭和後期ということで、どこまで昭和を意識するかは話し合いました。“なんちゃって昭和”にするアイディアもありましたが、最終的にはきちんと昭和を再現することになりました。僕自身は当時10代でTVドラマやバラエティを観ていたので、そういった映像を思い出したり、当時の資料を確認したりしながらデザインしていきました。
――当時を知っている人には懐かしく、若い世代には新鮮に映りそうですね。
奥州:“ホラー”と同様に“レトロ”というのも初期からキーワードとして上がっていましたね。
――ゲームをプレイしていて気になったのが、キャラクターたちが“おちょぼ口”のように口をすぼめることが多かったことです。小林さんのこれまでのイラストには描かれていなかった表情なので、本作から取り入れたと思うのですが、いかがでしょうか?
小林:(笑)。キャラクターの表情に関しては石山さんから、こういう表情が欲しいとか、もうちょっとこうしてほしいというこまかいやり取りがあったのですが、そのなかに“キャラクターが考えているとき、ちょっと口を突き出してほしい”というオーダーがあったんです。
――なるほど。
小林:前回のプロジェクトが3Dだったので、今回も3Dでキャラクターを表現する案もあったのですが、最終的にはイラストで表現することになりました。そのため、3Dで難しそうな表現も積極的に取り入れていった結果、現在のような表情豊かな表現になりました。
――表情に関してはマダムの春恵がいい顔芸をするな~と思いました(笑)。
石山:マダムはコバゲンさんのこだわりですね。
小林:マダムは個人的にも好きなキャラクターです。
石山:いい表情しますよね~。コバゲンさんが仕上げてきた表情に合わせてセリフを書いていった結果、ああいう間を置いてしゃべるようなキャラクターになりました。
小林:自分のイラストにセリフがついて返ってきたときに、すごくイメージ通りで驚きました。
――本作はサウンドの雰囲気もいいですね。刑事のテーマが「太陽にほえろ!」みたいでニヤニヤしてしまいました。
石山:昭和感を出すため、岩﨑(英則)さんに「ベタにいきましょう」とお願いしました。
各主人公たちの制作秘話も!
――本作は各主人公にそれぞれパートナーがいますが、これも最初からそういう形にしようと思ったのでしょうか。
石山:はい。本作はパノラマを使った全天球背景の一人称視点で自分の姿が画面に出てこなくなるので、もう1人いないと絵的にさみしいなと思いました。プレイヤーの視点となる人物と、もうひとり一緒にいる人物という構図にして、そのふたりの掛け合いで話を進めていくようにしました。
――主人公もパートナーも個性的で、ふたりの会話によってそれぞれのキャラクターがより魅力的に映ってよかったです。
石山:ね、いいでしょう?(笑) 興家の後半みたいにひとりで進むパートもありますが、やはり掛け合いがあったほうがキャラクターの魅力を引き出しやすいですし、プレイヤーも読み読みやすいですよね。
※ここから、より深い物語のネタバレを含みます。ご注意ください。
――各主人公とパートナーについて、詳しく聞かせてください。まずは興家彰吾と福永葉子のペアですが、ゲームをクリアしたあとにカウントダウンイラストを見ると笑ってしまいますね(笑)。
石山:いいですよね。こんなもしもの展開もあったのかな、という切なさが。ただ、あとになってから、ふたりが缶ジュースとモスコミュールで乾杯しているイラストにすればよかった!と気付いて後悔しています(笑)。どこかでリベンジします。
――デザインに関してはいかがでしょうか? 興家は最初にプレイヤーが操作するキャラクターということでわざと無個性に見えるような設定にしたのでしょうか。
石山:そうですね。彼はニュートラルな青年として最初に作ったキャラクターです。本作の描画の仕様に沿って、まずは1体作ってみようということで生まれました。そのため、テストでは3人の興家が会話する超常的(パラノーマル)なシーンが作られたりもしていました。
小林:デザイン的にもニュートラルな青年を意識しました。ちょっとイケメンにはしましたが。
石山:イケメンでGジャンを着ているというのが彼の個性ですね。「インペリアル サガ」の生放送で奥州プロデューサーがGジャンをイジられていたので、これは本作でもGジャンは必要だなと!(笑)
奥州:プロトタイプ版の会話にはGジャンをいじるくだりも入っていました(苦笑)。
石山:(笑)。
――興家はゲームをプレイしていくと普通のキャラクターではないことが分かってきてゾッとしますね。小林さんは最初に作ったキャラクターということで時間がかかったりしたのでしょうか?
小林:ほかのキャラクターに比べると時間はかかりましたね。最初のキャラクターだけあって、絵柄のタッチの確認も含めて作っていきました。
――葉子さんに関してはいかがでしょうか。明るく表情豊かなキャラクターで、興家との対比でこのような造形になったのでしょうか。
小林:石山さんからは第一印象でユーザーさんに好かれるヒロインになるようにというオーダーがありました。
石山:まず葉子さんを好きになってもらわないと、ゲームに感情移入できないと思い、好印象になるようなキャラクターを心がけました。衣装に関しては当時の服装にすると地味だったので、どこまで特徴を出せるのかというせめぎ合いがありました。
小林:服の色を変えたりしながらどれがいいいのか相談をしたりしていましたね。
――葉子さんは振り向くと白目を剥いている姿でドキッとしますね。
石山:ショックですよね。明るい可愛い子が……というショックを与えるために、ああいった演出にしました。
――後ろを確認させてなにも無かったと安心したあと、葉子さんがあの顔になっているので意地が悪いなと思いました(笑)。
石山:全天球背景を使った仕掛けとして最初からやろうと思っていました。
小林:最初に描いた死体でもあったので、どれぐらいの描写にするか迷いましたね。
――本作はホラーではありますがグロくなりすぎないように気を配りましたか?
小林:そうですね。今までホラーというジャンルは殆どやってこなかったので、どのように表現するのか迷いましたね。ただ、描いてみたら意外と楽しかったです(苦笑)。
石山:直接的な表現ではなく、気付くと怖くなるような描き方をしてもらいました。あるキャラクターの死体は、よく見ると足がすごい角度に曲がっていたりするので、それに気付くとゾッとするようになっています。
――続いて志岐間春恵と櫂利飛太の異色コンビについて。利飛太は名前からして変わっていますね。
石山:はい。探偵はうさんくさいほうがキャラクターが立つかなと思ったので、西洋っぽい名前にしました。ほかのキャラクターは普通の名前にしましたが、利飛太だけはちょっと奇抜な名前にしようかなと思いました。
――利飛太というのは偽名なのでしょうか?
石山:いや、本名です。ほかのキャラクターは地に足がついており、そんなに2次元のキャラっぽくしなかったのですが、探偵ぐらいはぶっ飛んでいいだろうと思い、見た目も名前も突飛な感じにしてみました。
――デザインはいかがでしょうか?
石山:ベースは「探偵物語」の松田優作さんです。時代的にも。。
――なるほど(笑)。
小林:(笑)。僕のなかでは石山さんの手掛けた癸生川凌介のイメージがあったので、多少デザインを寄せました。
石山:え、そうだったんですか!?
小林:はい。まぁ、ちょっとだけですけど、髪の長さであるとか、エレガントさなどを意識しました。その結果、僕の中ではジュリー(沢田研二さん)のイメージに落ち着きました。
石山:なるほど。
小林:正確にはこのイメージのジュリーはもう少し前の時代なのですが、探偵物語の松田優作さんなどのほかのイメージも混ぜて作ったのが利飛太になります。
石山:ポーズも利飛太だけは特徴的で、ちょっと「サタデー・ナイト・フィーバー」的なケレン味を持たせています(笑)。時代的にも。
――そんな利飛太がマダムの春恵とコンビを組むというのも面白いと思ったのですが、どのような流れでこのコンビになったのでしょうか?
石山:主人公である春恵の設定から作っていきました。彼女のストーリーは梅若伝説という子供を亡くした母親が隅田川で祈って蘇生させるという伝説になぞらえて、子供を誘拐事件で亡くした母親というのを主人公のひとりとして組み込むことにしました。
そして、その人とバディを組むのはどういう人にしようと思ったとき、事件の調査を依頼している探偵が閃きました。ただ、正直書いてみるまではどういう会話をするのか、ぜんぜん分からなかったです。
――ものすごくいいコンビでした。
石山:陰のあるマダムと、傾いた感じの探偵のコンビなんてどうなるかなと思ったのですが、利飛太が見た目ほど奇抜じゃないので、人を殺してまで子供を生き返らせようとするマダムを諌めるんですよね。
ちゃんと自分の仕事をこなそうとする真面目な感じの利飛太のキャラクターが意外とうまくはまったなと思いました。噛み合ってそうで噛み合っていなくて、みたいなふたりの距離感が面白いです。
――春恵にとって救いになるようなキャラクターになっていますね。
石山:恋愛的な関係を描くつもりはなかったので、春恵が利飛太を自分の子供と重ねて接してる部分を見せるようにしました。
――続いて、津詰徹生&襟尾純の刑事ペアについてお聞かせください。「探偵・癸生川凌介事件譚」もベテランと若手の刑事コンビでしたが、本作でも同じようになった経緯は?
石山:上司と部下の刑事コンビは「探偵・癸生川凌介事件譚」に限らずベタだと思っていて、本作でも自然と渋いおじさんとフレッシュな若者のコンビになりました。
小林:襟尾の拳銃は自分のほうで勝手に付けました。当時の過激な刑事ドラマのオマージュですね。
石山:昔の刑事ドラマだと拳銃むき出しで歩いていたりしますが、「パラノマサイト」の世界観で最初から拳銃むき出しで歩くのはどうなんだろうと最初は思いました(苦笑)。とはいえ拳銃がないとただのスーツになっちゃうので襟尾くんはつねにホルスター状態に。
小林:そのせいで、襟尾くんが……。
石山:「銃を抜くシーンを作ってあげないとね」ということになって(笑)。
――後半で襟尾が銃を撃つシーンはもともと存在していなかったんですね。ウソをついた人間を殺す呪いの“落ち葉なき椎”を警官の津詰が持っているのが面白いなと思ったのですが、この能力は警官にしようと決めていたのでしょうか?
石山:呪いに関してはパズル的に当てはめていった結果、こうなったという感じです。本当にギリギリまで調整して入れ替えたりしました。
――津詰と襟尾の関係性もいいですね。襟尾が津詰によって大事な人では無かったことに気付く、どうでもいいといえばどうでもいいくだりがすごく好きです。
小林:スーパーポジティブなので、「僕のことを守るために」と勝手に納得していましたね(笑)。
石山:どうしてもあそこで挟まずにはいられませんでした(笑)。
奥州:真面目なシーンで急にぶっ込んでくるから笑っちゃいますよね(笑)。
石山:襟尾はボスが大好きなんですけど、ボスも俺を大好きに違いないって思っているので、あの態度になるんです。かわいいですよね。
――続いて逆崎約子&黒鈴ミヲの女子高生コンビです。この2人は、ビジュアル的にもアンバランスで面白いですね。
小林:ミヲをぽっちゃりさせてほしいというのは石山さんからのオーダーでした。
石山:霊感少女がぽっちゃり体型というのは絶対でした。霊感少女を出すと決めたときから、絶対にあの体型にしてもらわなければいけないと思いました。
――それはどういった意味があるのでしょうか?
石山:え? 可愛いじゃないですか。
――そう言われたら、そうですかとしか返せませんが、自分もミヲちゃんがいちばん好きです。
石山:ミヲちゃんは絶対人気が出ると言い続けていたのですが、開発メンバーからは「えー……」という態度をずっとされ続けてきました。今はちゃんと人気になったことが分かって「ほら、見たことか!」「ちゃんと謝ってください」とみんなに言っています(笑)。
――約子に関してはいかがでしょうか?
石山:チャキチャキの江戸ッ娘のキャラクターとして設定しました。
小林:今の約子ちゃんは、もともと白石美智代のデザインとして作っていたものでしたね。
石山:もともと美智代ちゃんがポニーテールでしたが、最終的にはこちらはおさげになりました。
――現在のほうがしっくりきますね。
石山:約子はギャップを出したかったんです。当時のポニーテールは清楚な印象だったので、逆に性格はやんちゃにすることでギャップを出したかったんです。
――自分の感覚だとポニーテールは元気な女の子のイメージですが、当時だと清楚なイメージなんですね。
石山:当時のアイドルのイメージですね。具体的に言うと斉藤由貴さんのイメージ。
――あぁ、なるほど。納得しました(笑)。それではほかのキャラクターについてもお聞かせください。みなさんが好きなキャラクターは?
石山:並垣くんはいいですよね。どこを切り取ってもかませ以外の何者でもないあの小物感が最高です。強がっている感じや自信あり気な感じが、完璧な小物感を出してくれています。
小林:配信を見ているとコメント欄でみんなが「クイッ」と書き込んでくれていてうれしいです。
――並垣のかませっぽさと弓岡の得体の知れない怖さは第一印象から伝わってきて素晴らしいと思いました。
石山:弓岡は、まさかこんなに出番が増えるとは思っていませんでした(笑)。
――え!? そうなんですか?
石山:はい。最初に死んで終わる予定でした。
小林:終盤でいろんな人に詰められていてかわいそうでしたね(苦笑)。
石山:悪事を全部あいつに押し付けちゃったので、最後すごい追いつめられるんですよ。しかも、能面のまま、表情もポーズも崩さない(笑)。
――謎の答え合わせをするキャラクターが別にいたのでしょうか?
石山:ヒハク石鹸の社長なども登場させる予定ではあったのですが、いろいろな都合でカットして、弓岡が全部引き受ける形になりました。
奥州:弓岡をあのポジションを置くことによって、真犯人を紛らわすことはできたかなと思っています。
――そうですね。事件が解決したと思ってからのクライマックスはビックリしました。
奥州:ヒハク石鹸はロゴもちゃんと作ったりとこだわりました。
石山:あのゴロを入れた石鹸を実際にグッズで作って欲しいと言ったのですが、会社が会社だけに需要が無さそうで……(笑)。あの会社、製品はちゃんといいものを作ってるんですけどね。
奥州:墨田区は石鹸の会社が多く、石山と郷土資料館に訪れたときも、ちょうど石鹸の資料を作られていましたね。
小林:キャラクターの話に戻ると、個人的にはたくさんおじさんが描けたのが楽しかったです。主人公である津詰のほか、葦宮のおっちゃんもお気に入りです。
石山:葦宮のおっちゃんのくたびれた感じはコバゲンさんならではの味が出ていていいですね。
奥州:くわえタバコがいいですよね。
――小林さんは最近だと美少女を描くことのほうが多いのでしょうか。
小林:どちらを描くのも違った楽しさがありますが、やっぱり機会で言うとおじさんを描くことは少ないですね。
石山:ゲームのキャラクターで、くたびれたおじさんはあまり出てこないですからね。津詰と葦宮のおっちゃんのお互い皮肉を込めながら罵り合う会話は、当然ながら「スクスト」では全然なかったシチュエーションなので書いていて楽しかったです。
――後半のキャラクターになりますが、灯野あやめも気になります。
小林:彼女は当時の女子大生のファッションで、かつテレビに出ているタレントさんをイメージしました。ただ、あんなに二面性があることを知らなかったので、設定を聞いたときはビックリしました。
――最初は正体を知らずにデザインしていたんですね。
小林:最初は女子大生のキャラクターであることだけお聞きしていました。そのあと二面性があることなどを知っていった感じですね。
石山:「豹変した表情をください」「ちょっと悪い目つきの表情をください」とお願いしていき……。
小林:そういうキャラクターなんだと気付いた感じです(笑)。
石山:とはいえ、このキャラクターの役割をいろいろと調整していくなかで、上がってくるイラストを見て「こういう立ち位置にしよう」と決まっていった部分もあります。
――シナリオとイラストが同時に進行していたんですね。
石山:そうですね。
奥州:デザインに時間がかかったキャラクターだと案内人もいますね。興家と同じぐらい時間がかかったのではないでしょうか。
石山:確かに案内人は紆余曲折ありました。
奥州:どのようなキャラクターにするのかは悩みました。墨田区さんにお伺いしたとき、ちょうど“能”の展示をしていたので、「これはいいかも」と思い、エッセンスとして取り入れました。
小林:服装は和でもなく洋でもなく、どちらも含まれていたり、若いのか年寄りなのかもよくわからないとか、正体不明な感じにしました。いくつかパターンを出して、ああでもない、こうでもないと言いながらデザインを固めていきました。
――「パラノマサイト」がシリーズ化されたら、案内人がシリーズの顔になっていきそうですね。怖すぎる「パラノマサイト」のTwitterアイコンが案内人に変わる日も来そうですね。
石山:そうですね。置いてけ堀ちゃんがあんなに怖がられるとは思ってなかったです。記事が掲載されるころには違うアイコ ンに変えます(笑)。置いてけ堀ちゃんは呪影のなかではいちばん最初にデザインしたもので、我々としても馴染みの深いもので、Twitterのアイコンも 可愛いと思って使っていました。
小林:みんなちょっとおかしくなっていました。
石山:そうですね。可愛いと思って使っていたら、意外と「怖い」と言われてビックリしました。
――呪影のデザインは苦労されましたか?
小林:そこまで難航はしなかったですね。イメージを石山から聞いてラフですり合わせてデザインしていきました。過去の仕事でモンスターなどはデザインしたことはあったものの、人間以外をデザインするのは久しぶりだったので楽しかったです。
――少しだけシリーズ化の話がありましたが、続編の展望についてもお聞かせください。こちらはファンの応援次第といった感じでしょうか?
石山:はい、作りたいです。よろしくお願いします。
――「ファイル23」という本作のタイトルも、ほかのファイルが出せるように広がりを作っておいた感じでしょうか。
奥州:そうですね。「FILE23 本所七不思議」自体がファイリングされたひとつのファイルという位置付けです。そのため、1番から番号を振っていくよりかは、中途半端な数字の方がファイリングされたなかのひとつっぽくていいだろうと思いました。「23」という数字はバシッと決まりましたね。
石山:実は、僕の名前(石山貴也)の総格数が23なので、23にしました!
――(笑)。実際にはいくつか意味が込められているんですよね。
奥州:そうですね。年代などがかかっています。
石山:ただ、ゲームのなかではまったく関係ないです。海外版のタイトルにも23という数字は付いていませんし。
――今回登場したキャラクターたちがすごく素敵だったので彼らの活躍をもっと見たいなと思いつつ、一方で案内人さえ登場すれば「パラノマサイト」になるので、いろいろなテーマや時代を舞台にしたストーリーが見たいと思いました。
石山:続編の形としていろいなパターンがあると思いますが、案内人は登場すると思います。ぜひ、ご期待ください。
――スクウェア・エニックスさんはLINEスタンプもたくさん発売されているので、「パラノマサイト」のスタンプも発売されるとうれしいです。
石山:そういう声もファンの方々があげてくださるので、なんとLINEスタンプを準備中です! 公式Twitter(@PARANORMA_PR)をフォローして続報をお待ちください!
――最後にファンにひとことお願いします。
石山:プレイして面白かったらSNSでどんどんつぶやいてほしいですし、友達にもおすすめしていただけるとうれしいです! あなたのひとことが次に繋がります! わりと本当に。
小林:チーム一丸で精一杯やれることをやり、値段も限界ギリギリでリリースさせてもらっています。チームとしては、ぜひ続品を作っていきたいと思っているので、ぜひよろしくお願いします。
奥州:すでにプレイしている方々には感謝しかありません。また、みなさんが実況してれたり、SNSでオススメしてくださる姿を見てうれしく思っています。小林が話した通り、この価格に関しては、我々としてもすごくチャレンジでした。
値段以上のものができたと思っているので、ぜひ手に取ってみてほしいなと思います。時間的にもちょうどいいサイズのゲームになってますので、ぜひ遊んで見てください。
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