ようこそアルカナアカデミーへ!」をレビュー。KEMCOお家芸ともいえる2DRPG最新作は、魔法少女たちの成長を描いたRPG。ゲーム・物語の両面で「成長」を魅力的に描いており、良作といえる一本だ。

目次
  1. 魔法少女×ファンタジー×学園! 「成長」を魅力的に描いたRPG
  2. 超快適に成長可能!2DRPGの進化系といってもいいゲームシステム
  3. 真正面から「成長」を描いた正統派RPG

「ようこそアルカナアカデミーへ!」は、KEMCOからリリースされたスマートフォン向けの2DRPG。KEMCOといえば16Bit時代を思い起こさせる、クラシックな2DRPGをコンスタントに作るゲームメーカーだ。作られるRPGはいずれも高いクオリティを持っており、それが人気に繋がっている。筆者もこれまでに何本かプレイし、レビュー記事も書いているが人気があることに納得できる面白さをもっていた。しかし、そんな中で本作は、とりわけ魅力を感じた一作だ。なので、是非とも本作の魅力をお伝えしたい…!

魔法少女×ファンタジー×学園! 「成長」を魅力的に描いたRPG

本作の主人公は、「魔法少女」たち。こう書くと現代もののように感じるかもしれないが、本作の舞台は剣と魔法のファンタジー世界。さらに主人公の「魔法少女」たちは「アルカナアカデミー」という学園の学生であり、プレイヤーは教師という立場。つまり、「学園もの」でもあるのだ。

物語はこの学園の実習授業の準備からスタートする。実習授業というのは学生たちでパーティーを組み、民間人からの依頼を達成するという実戦形式の授業のこと。しかしながら準備中、エルナトという学生がひょんなことから魔法を使うと魔物へ変身するという体質になってしまう。

この事態を受け、エルナト保護のため生徒の中でも指折りのスピカ、ミモザ、エルナトでパーティーを編成。プレイヤーは監督役としてパーティーへ同行することになる。

まずこのスピカ、ミモザ、エルナトという3人のキャラクターが魅力的だ。元気いっぱいの性格で、なにかと突っ走りがちなスピカ。魔導具を開発する巨大企業の令嬢であるため、必要以上に体面を気にしてしまうミモザ。そして食べ物に目がなく、スピカ以上に自分の感情に忠実なエルナト。3人の凸凹した掛け合いが、とても楽しい。

とはいえキャラクターが魅力的で掛け合いが楽しいというのは、KEMCOの2DRPGでは当たり前のことでもある。それがお目当てでKEMCO作品をプレイしているという人も多いだろう。つまり贅沢ではあるが、ある意味「いつも通り」と言えないこともない。ただ本作は一味違う。それが「成長」の要素。本作は物語を通じてキャラクターの成長を丁寧に描いていく。

たとえばミモザは、必要以上に体面を気にしてしまうからこそ、自分の気持ちを抑圧してしまうタイプだ。しかし自分の気持ちにストレートなスピカやエルナトとのやり取りを通じて、自分の気持ちを大切にすることを学んでいく。序盤でこれがよく表れているのが、学校でおやつにシュテルまんを食べるシーンだろう。

ミモザは学び舎で間食するという行為を父に見られたら、何と言われるだろうと思わず想像する。しかしその後、シュテルまんのおいしさに感動する。シュテルまんという食べ物自体がおいしいのではない。そもそもミモザは、これまでに何度も食べたことがある。にもかかわらず、おいしい。スピカやエルナトと一緒だからだろう。

これは青春の1ページ的なイベントであると同時に、ミモザが人間として成長するイベントといえる。大企業の令嬢という立場を踏まえたとき、「学び舎で間食する」という行為は確かにイメージのよいものじゃないかもしれない。だがそもそも、なぜイメージが悪いのだろう?おそらくそれは、「学び舎で間食する」という行為から、「授業をサボって」「勉強もせずに」という不真面目なイメージを想像してしまう人がいるからではないだろうか。だがそうではなく、実習授業で一緒に苦難を乗り越えた友だちとともに、間食を食べながら成果を祝う…というケースならどうだろう?そこまえ不真面目で、禁止されるべきことだろうか?

ミモザはこれまで家柄的に「体面を大事にしなければならない」という教育を受けてきた。それは言い換えると、ミモザを守るため親が考えたルールを無批判に受けて入れているということでもある。「体面を大事にしなければならない」という考え方自体はとても大人びているのだが、この考えは自分で行き着いたものではない。自分を保護するために大人が作ったルールに従っているだけ。そういう意味では、「子ども」といっていい。しかし実際に「やってはいけない」とされた行為を自分が行った時、自分の価値観によって他人の作ったルールを評価することになる。禁止されていた行為が実際にはどんな価値を持つのか…親の言う通りNGなのか、それとも状況によっては許されるようなものなのか、自分の頭で考えざるを得なくなる。これは、人間が成長するきっかけとなるシーンだ。ゲーム内でここまで詳細に表現されているわけではないが、このシーンはとても豊かに「成長」が表現されているシーンだと筆者は思う。

また、ミモザやスピカ、エルナトといった主要登場人物だけでなく、サブキャラクターの成長も描かれている。本作は実習授業などの学園内でのストーリーを描きつつ、並行して街の住民たちの物語も描いていく。そこでも、「成長」を味わうことが可能だ。

たとえば、シープタウンの領主の座を狙うヴィッダー家の跡取り息子・カルネ。彼は跡取り息子という立場ではあるのだが、権力には興味を持っていない。むしろお菓子作りが好きという人物だ。しかし父親から「もっと跡取りとして相応しいことをやれ」と言われて育ち、作ったお菓子やその素材を捨てられ続けてきた。おまけに周りの人間は、ヴィッダー家跡取りというカルネに対してお世辞しか言わない。このため、自分でもお菓子作りの腕前を信じられずにいた。

だがそんなカルネも、まっすぐに気持ちをぶつけるスピカや、まっすぐに食欲をぶつけるエルナトと出会うことで少しではあるが自信を取り戻す。そして、
小さな一歩ではあるが、自分自身の一歩を踏み出すことになるのだ。このシーンもまた、「成長」を魅力的に描いていると思う。

ちなみに筆者はゲームライターと並行して、専門学校をはじめとした教育機関で非常勤講師も務めている。なので普段から学生たちや人の成長に触れているのだが、本作をプレイして学校の雰囲気がとてもよく描けているなーと感じた。キャラクターたちの生き生きとしたやりとりは実際の学生たちのコミュニケーションを想像させるし、「成長」についても同様。もちろんリアルの学生は本作のストーリーのように短時間で成長するわけではないが、それでも一年を過ぎると様々なことを吸収し、人間としての幅が広がっていく。本作はプレイヤーが教師という立場で学生たちの接することもあり、普段より強く感情移入してしまったかもしれない。

超快適に成長可能!2DRPGの進化系といってもいいゲームシステム

そして、「成長」について描いているのはストーリー面だけではない。そもそも本作はRPG。キャラクターを育成させるゲームなのだ。つまり、レベルアップという形でゲームシステム的に「成長」を描いている。本作はこのゲームシステムが、これまでのKEMCOゲームのシステムを発展させたものとなっており、非常に快適にプレイできるのも魅力だ。

基本的なゲームシステムは、2DRPGの基本に忠実に仕上げられている。学園や街の中を移動して情報収集し、フィールドマップを移動してクエストの目的地となるダンジョンへ。ダンジョンでボスを倒すとクエストが進んでいく…という流れだ。フィールドやダンジョンではランダムエンカウントによって敵が出現。敵と遭遇すると戦闘シーンへ切り替わる。

戦闘システムは、ターン制のコマンド選択式。システム的にはオーソドックスといえる。ただ特徴的なのが変身演出。戦闘に切り替わると各キャラクターは戦闘用の服を身にまとう。つまり、魔法少女的な変身要素が盛り込まれているのだ。

ここまで紹介した内容だけ見ると、クラシックな2DRPGをオーソドックスに仕上げたという印象を持つかもしれない。だが本作が特徴的なのは、基本システムに追加された様々な便利システム。たとえば、エンカウントペンダントとセーフペンダント。

エンカウントペンダントは、敵が一歩ごとに出現するようになるというアイテム。このアイテムを使うことで、任意のタイミングでレベル上げが可能。オートバトル機能と組み合わせれば、スピーディーかつ快適にレベル上げできる。

また、セーフペンダントは敵の出現を抑制するというアイテム。そのまま使うだけだと出現率を下げるという効果だが、「マナポイント」に乗ることで出現率をゼロにすることができる。「マナポイント」は地域ごとに存在するスポットで、上に乗るとキャラクターのステータスがアップする上、セーフペンダント使用時にその地域の敵の出現率をゼロにするという効果を持っている。

最近のスマートフォン向けRPGでは、経験値アイテムを使って一気にレベルアップできるというものが少なくない。確かに、アイテムで瞬間的にレベルアップできるというのは手間がかからなくていいし、ガチャで獲得したキャラクターを即座に実践投入できるという点で魅力的だ。

ただその一方で、2DRPGが持っていた「徐々に強くなっていく楽しさ」…つまり「成長」の楽しさは実感しにくいように思う。こうした点を解決してくれるのが、エンカウントペンダントとセーフペンダントだ。自分が好きなタイミングで、極力スピーディー&快適にレベルアップでき、それでいてキャラクターの「成長」も実感できる。

真正面から「成長」を描いた正統派RPG

ゲームに限らず、アニメ、映画、小説などのあらゆるストーリーが描こうとしているのは、基本的に登場人物の「成長」だ。さらにRPGといえば「成長」要素が中心のゲームといえる。このため「成長」がテーマと言われても目新しさを感じないという人もいるかもしれない。

しかし本作は、ストーリー、ゲームシステムの両面で丁寧に「成長」を表現しており、他の作品では味わえない楽しさを体験させてくれる。「魔法少女×ファンタジー×学園」という取り合わせに奇抜さを感じるかもしれないが、そんなことはない。「成長」を真正面から描いた正統派RPGなので、RPG好きな人は是非プレイしてほしい。確実に楽しめる一作だ。

ようこそアルカナアカデミーへ!

KEMCO

MobileアプリiOS

  • 配信日:2023年6月1日
  • 価格:860円(税込)

    ようこそアルカナアカデミーへ!

    KEMCO

    MobileアプリAndroid

    • 配信日:2023年6月1日
    • 価格:860円(税込)

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