「アルケランド」をレビュー。ファンタジー世界を舞台にしたソロプレイ用シミュレーションRPGとして丁寧に作られており、ストーリーと戦略性を存分に堪能できる一作。その魅力を紹介する。
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「アルケランド」は、ZLONGAMEからリリースされたスマートフォン向けシミュレーションRPG。「ラングリッサーモバイル」の開発チームによる最新シミュレーションRPGということで、リリース前から期待が寄せられていた一作だ。そして実際にリリースされた本作は、その期待を裏切らない…いや、いい意味で裏切る一作となっている。その魅力について、この記事で詳しくレビューしたい。
カッコいいキャラクターたちが躍動する!自然な美しさを持った3Dグラフィック
本作の大きな魅力となっているのが、3Dグラフィックの美しさ。最近はスマートフォン向けのゲームであっても実車と見間違えるほど美しいグラフィックを持っている。また、写実的な表現ではなくアニメ的な表現においても技術が進化しており、3DCGならではの独自の美しさが味わえる作品も少なくない。
「アニメ的」というと、一般的には対象物の形状を輪郭線で描画し、ベタ塗りで彩色したスタイルのことを指す。ただ、技術が発展しているため、単純にベタ塗りするのではなくぼかし処理やグラデーションを加えたり、アクセントとして部分的に厚塗りを行ったり…といったスタイルも存在している。そんな中本作のグラフィックは、美しさよりも「2Dとしての自然さ」を追求しているように感じた。
本作のグラフィックは陰影を明確に塗り分けており、グラデーションも極力使用していない。アップになった際、肌にグラデ―ションがかかることもあるがごく薄く、このため「TVアニメ的」であることを強く印象付けるものになっている。そしてこのグラフィックと、本作のキャラクターたちとの相性が抜群にイイ。
カッコいいキャラクターたちがヒーロー的に活躍!JRPGの醍醐味が詰まった世界観
本作の世界観は、剣や魔法、魔物といったものが存在するファンタジー世界となっている。舞台となるのは、東西に二分されたアルケラ大陸。東には近年新皇帝が即位し、大陸の覇権をもくろむティタニア帝国が存在。一方西側は4つの国に分かれており、表面上は「西部連盟」というかたちになっているものの、その裏側ではわだかまりがくすぶっているという状況だ。
戦争と政治のきな臭さが漂う背景ストーリーは、現実的な重苦しさを感じさせる。では本作は重苦しいタイプの作品なのかというと、そうではない。本作の持ち味は、かつてのJRPGやライトノベルが描いていた王道ファンタジー的テイスト。カッコいいキャラクターたちがヒーロー的に活躍し、敵と戦う…というところに主眼が置かれている。
本作においてプレイヤーが担当するキャラクターは、の主人公=「熾天使の使い」ラグエルが生まれ変わった姿。記憶を失った状態でヒロインであるアヴィアと出会い、行動を共にすることになる。アヴィアは「西側連盟」のひとつファロスにて灯台を守護する幼竜王。一方、「熾天使の使い」の使命はこの世界の悪魔を倒すことであり、悪魔の力を使って大陸制覇をもくろむティタニア帝国に共に立ち向かうようになっていく。
スタート時は2人だけだったところに、やがて様々なキャラクターが集まってくる。姉御肌の傭兵ベレットや、騎士道を体現したかのような高潔な精神を持つ獅子心王リチャード。リチャードの弟でありながらやや精神が未熟で、何かとつっかかっていくジョン…などなど、メンバーの顔ぶれは個性的。キャラクターたちの人物造形は「キャラクターとしての個性」を重視しているようで、西洋の中世的な世界観におけるリアリティには欠ける反面、セリフのかけあいなどといった「キャラクターものとしての楽しさ」に溢れている。このあたりの「どこに魅力を感じさせるか?」という匙加減は、いかにもJPRG的。だからこそ、アニメ的なグラフィックとの相性が抜群にイイのだ。
本作は世界観やストーリーといった部分ももちろん丁寧に作られてるが、メインディッシュは断然、キャラクターだろう。カッコいい、あるいは可愛いキャラクターがヒーロー的な活躍を見せる。それが楽しい。本作はこの点からブレがない。だからこそ、かつてJRPGやライトノベルに熱くなった筆者は、思い切りのめり込んでしまった。
キャラクターの活躍を違和感なく堪能できる!ターン制タクティカルバトル
ゲームシステム的な部分においても本作は、「カッコいいキャラクターを楽しむ」という点から一切ブレがない。ゲーム的な流れは、マップ画面からステージを選び、ターン制タクティカルバトルに挑む…というもの。この構成自体は、一見スマートフォン向けRPGを踏襲しているかのように思える。
ただ興味深いのが、キャラクターの育成や装備、ガチャなどにアクセスする画面が「野営」という名称で、マップ画面からアクセスするかたちになっていること。通常のスマートフォン向けRPGであれば「ホーム画面」という名称で、マップ画面をはじめとしてあらゆる画面のハブとして配置されることだろう。つまり、「画面の位置づけが逆」といえる。このため、本作はスマートフォン向けRPGよりも、これまでコンシューマでリリースされてきたシミュレーションRPGに近い。この点も、JRPG的な印象を受ける要因のひとつではないだろうか。
ターン制タクティカルバトルは、マス目で区切られたマップ上でユニットを動かし、目的達成を狙うというもの。目的は「特定地点への到達」や「一定ターン数生存」など、ステージによって異なるものの、基本的にはほとんどのステージで敵の全滅が目的となっている。バトルの基本構造は、ターン制タクティカルバトルとしてオーソドックスなものといえるだろう。でも、だからこそ「キャラクター」との相性がいい。
ターン制タクティカルバトルでは、複数のキャラクターを操作することになる。このため、保有しているキャラクターそれぞれに見せ場が生まれ、様々な魅力を同時に体験可能。本作のように様々なキャラクターの活躍を描く作品には、うってつけのゲームシステムだ。
また、ゲーム的な楽しさという意味でも手抜かりがない。本作の立ち回りの基本は、敵に対して属性相性のいいキャラクターで攻撃をしかけるということ。ここで序盤の戦術のポイントになるのが、ベレットのスキル「誓いの守り」。「誓いの守り」を使うと、ベレットの隣接するキャラクターが攻撃を受けた際、ベレットが代わりに攻撃を受けてくれる。このスキルによってベレットをタンク役として使い、防御力の弱いキャラクターや属性的に不利なキャラクターを保護するというのが序盤の立ち回りの基本。「ではそのためにユニットをどう動かせばよいか?」を考えるところに、戦術的な楽しさがある。
敵に攻撃を仕掛けたり、敵から攻撃を受けたりすると画面が切り替わって戦闘シーンへ。戦闘時に画面が切り替わるタイプの作品は、戦闘の迫力や攻撃の爽快感が味わえる反面、テンポがもたつくケースもある。ただ本作の戦闘シーンはキャラクターの動きが早いため、テンポがもたつくという印象はなかった。むしろ攻撃エフェクトが爽快だ。
また、ストーリー的に節目となる戦闘はほどよく苦戦する一方で、通常の戦闘はそこまで立ち回りを考えずとも勝てる難易度に調整されている。ゲームバランスもよく調整されていると感じた。正直、本作がコンシューマー向けの買い切り型タイトルだったとしても、違和感がなく受け入れられると思う。
丁寧に作られたオススメのシミュレーションRPG
本作が買い切り型タイトルだったとしても…と書いたが、もちろん本作は基本利用料無料のタイトル。ガチャでキャラクターを獲得するという部分が課金ポイントになっている。こうしたタイトルで筆者がどうしても気になってしまうのが、ストーリーとキャラクターとの整合性。ゲームとしては、ガチャで獲得したキャラクターを自由に使える方が楽しいに決まっている。しかし、ストーリー展開を考えると、「なんでそのキャラクターがそこで出てくるの?」ということが起こり得る。ストーリー的には存在しないはずのキャラクターが、バトルに参戦する…という事態が発生するからだ。ただ、本作は設定を工夫することで、この点を巧妙に回避している。
本作が使った設定上の工夫とは、「熾天使の使い」という主人公設定。「熾天使の使い」は召喚能力を持っており、ガチャによって獲得するユニットはすべてこの召喚能力によるものとなっている。そして、ストーリー上で絡んでくるキャラクターは、召喚されたキャラクターとは別に用意されているのだ。
もちろん「主人公が召喚能力を持っている」という設定なら、他の作品でもよく見られる。ただ本作はストーリー的な整合性を徹底しており、ストーリー上で主人公が召喚能力を取り戻すまでガチャ機能が開放されない。このためプレイヤーとしては、ストーリー上のキャラクターと召喚されたキャラクターという区別をスムーズに受け入れることができる。この結果、「ストーリー的には違和感があるけど、まあゲームだし、こういうもんだよな」と無理やり自分を納得させずに済む。だからこそ、キャラクターへの感情移入がますます進むのだ。
筆者はダークで重厚なリアル系ファンタジーも好きだし、異世界転生系のファンタジーも好きだ。けど、カッコいいヒーローたちが活躍する、かつてのJRPG的王道ファンタジーも大好き。しかしながら最近ではジャンルが細分化したこともあって、JRPG的王道ファンタジーが減りつつあるように感じていた。そんな中本作で、ド真ん中直球でJRPG的王道ファンタジーを味わえたことがとても嬉しい。本作にはロマンが詰まっている! ゲーム部分も丁寧に作られているため、すべてのシミュレーションRPG好きにオススメな一作だが、筆者と同様のJRPGファンにはとりわけ強くオススメしたい一作だ。