バンダイナムコエンターテインメントより2023年9月14日に発売するNintendo Switch用ソフト「バテン・カイトス I&II HD Remaster」。本作の発表に歓喜したオリジナル版「バテン・カイトス」シリーズを愛する2名のライターが、当時の思い出と、各タイトルの魅力を語り合った。

目次
  1. 対談参加メンバー
  2. 「バテン・カイトス」が人生において非常に大切なゲームとなっているふたり
  3. 激論(?)、「バテン1」と「バテン2」、どちらを先にプレイすべき?
  4. ターンベースとアクション性のいいとこ取りが持ち味の“マグナスバトル”
  5. プリン+しょうゆ=ウニ。「闇鍋的RPG」としての魅力を一挙に担うヘンテコ要素“SPコンボ”
  6. ゲーム史に残る?、あらゆるプレイヤーが“騙された”珠玉のストーリー【微ネタバレあり】
  7. 誰もがお気に入りのキャラクターに出会えるはず!アクが強くも魅力的な旅の仲間たち 【微ネタバレあり】
  8. 桜庭統氏のベストワークとの呼び声も高い、名曲揃いの戦闘曲
  9. 「バテン2」は過酷な運命に翻弄されながらも真っ直ぐ生きようとする少年少女の成長譚
  10. 「アクション性を取り入れたターンベースの戦闘システム」のひとつの完成形であり頂点
  11. HDリマスター版は数々の新機能で、誰もが珠玉のストーリーをエンディングまで見届けられるはず

対談参加メンバー

小林白菜:ジャンルや国産・海外産を問わず、そのとき遊びたいゲームを遊びたいように遊ぶ雑食ゲーマー。気の向くままに気になったゲームを遊ぶので、熱心に追いかけているシリーズタイトルはほとんどなく、シリーズ全作プレイしているRPGは「バテン・カイトス」のみ(※全2作)。とくに好きなRPGは国産では「バテン・カイトス II 始まりの翼と神々の嗣子」と「ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター」で、海外産だと「Fallout 3」と「ディスコ エリジウム」。

アサミリナ:主にJRPG・フロム系・カプコン系などを主食とする雑食ゲーマー。シリーズ全作コンプリートするタイプで、「ファイナルファンタジー」シリーズは毎作最低3~5周はプレイ。多いものは30周プレイしているものも。無類のゲーム音楽好きで、コンポーザーさんの名前でゲームを買うことも多い。とくに好きなRPGは「バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海」、「ラストレムナント」、「ゼノブレイドクロス」。「Bloodborne」はいいぞ。

※「バテン・カイトス」シリーズ2作のストーリーに関する具体的なネタバレは避けていますが、20年前のゲームであることも考慮し、物語上の“仕掛け”などについて言及している箇所があります。ストーリーを一切知らずにプレイしたい方は、目次から【微ネタバレあり】の項目を飛ばして読むことをおすすめします。

「バテン・カイトス」が人生において非常に大切なゲームとなっているふたり

小林:「Nintendo Direct 2023.2.9」で「バテン・カイトス I & II HD Remaster」が発表されたわけですが、本当に嬉しかったですねぇ! 僕にとっては、過去に発売されたゲームのリマスター版の発表でこれほど嬉しいことは「もう後にも先にも無いだろうな」っていうくらい。本当に大好きなシリーズなので……。

アサミさんもこのときのニンダイはリアルタイムで観ていたと思うのですが、発表を受けてどんなふうに感じましたか?

アサミ:私にとっても「バテン・カイトス」は名作中の名作です。私の中で「三大JRPG」と勝手に位置付けているものがあって、その「三大JRPG」の中の一本が「バテン・カイトス」なんです。なのでSwitchでリマスター版が出ることで、改めてたくさんの人に触れてもらえる機会が出来たのかなと思うと、すごく嬉しかったですね。

小林:国産のRPGに関しては、僕よりもアサミさんのほうが遥かに数多くプレイされていると思うのですが、その中で「バテン・カイトス」のことはどんなふうに位置づけていますか?

アサミ:「バテン・カイトス」は、私がプレイしたすべてのRPGの中で1位に輝くタイトルです。ストーリーと、戦闘と、音楽と……もろもろのシステムも総合的に考えたときにナンバーワンとして挙げるゲームを決めるなら、私にとっては「バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海」になります。

小林:おぉ~っ!

アサミ:ただ、なんでそこまで「バテン・カイトス」推しかというと、そこにはとても大きなストーリー上のネタバレが含まれるので、説明が難しいですね(笑)。そこも含めて、“1位”になるほど面白かったのだと思っていただければと……。だからやっぱり、自分が最新ハードでまたプレイできるのも嬉しいんですけど、これだけいいゲームをいままで以上に多くの人にプレイしてもらえるっていう喜びがいちばん大きいですね。

小林:なるほど、ありがとうございます。これから「バテン・カイトス」シリーズについて語っていく上で、まずは本作が登場した頃のことを振り返っていきたいと思います。「バテン・カイトス」が発売されたのは2003年12月5日でした。当時、僕はまだ中学生だったこともあって、最新の据置ゲーム機はゲームキューブしか持っていなかったんです。翌年にはPS2も買っているんですけど。

アサミ:もう少し早い時期に「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」や「テイルズ オブ シンフォニア」なども発売されているのですが、ゲームキューブであれだけの大作RPGがプレイできるっていうのが、当時はまだまだすごく貴重でしたよね。その上、「バテン・カイトス」は新規IPだったわけで。

小林:やはりあれだけの力作、しかも完全オリジナルのRPGをゲームキューブ専用タイトルとして出してくれたというのは、ユーザーとしてすごく嬉しかったですね。しかも、発表されたときのビジュアルだけを見ても、ほかのゲームハードで発売されていたどのRPGとも違う独自性が感じられました。

当時って、なんというかアニメチックなデフォルメ表現を目指したRPGが多かった時期だと思うんですよ。「テイルズ」シリーズはもちろん、「スターオーシャン3 -Till the End of Time-」や、あとは「ダーククロニクル」とか。「バテン・カイトス」の開発に携わったモノリスソフトのタイトルも、先行して展開されていた「ゼノサーガ」シリーズは、目が大きくて可愛らしいキャラクターが印象的で。

アサミ:うんうん、そうですね。

小林:もちろんそういうビジュアルも魅力的なんですけど、そんな中で「バテン・カイトス」のゲーム画面や、カラスやシェラといったキャラクターのビジュアルが公開されたとき、自分にはすごく「大人っぽい」ように感じられました。色味の使い方も独特でしたよね、原色をふんだんに使っていてカラフルなんだけど、派手さを感じないバランスでまとまっていたり。

世間的なゲームキューブのイメージとして「かわいい、子どもも楽しめる」みたいなものがあったと思うのですが、ある意味それに逆行した方向性だったと思うんです。そうしたタイトルをゲームキューブ専用で出そうという心意気みたいな部分もカッコいいなと。

アサミ:分かります。ある意味、ゲームキューブというハードらしくないというか……。私にとってとくに印象的だったのは、日暮央さんのキャラクターデザインですね。カラスのデザインはもちろんのこと、シェラのかぼちゃパンツにも大きなインパクトがありました(笑)。

小林:全員のビジュアルが魅力的ですけど、カラスのちょっと不貞腐れてるような表情とか、新鮮でしたよね(笑)。

アサミ:うふふふ(笑)。そうですね、RPGの主人公にしてはムスっとした顔をしていますよね。実際にプレイすると、あの表情にもちゃんと理由があるのがわかるんですけれど。

小林:そこも「このゲームはひと味違うかも?」と感じた一因になっていたかもしれません。

アサミ:同時代のタイトルには「王道主人公」みたいなキャラクターが多かった中で「変わった感じのRPG」という第一印象を持ったのは、やっぱりビジュアルの力が大きかったと思います。

小林:アサミさんは発表されてすぐに「このゲームはプレイしよう」と思ったんですか?

アサミ:そうですね。そこはシナリオが加藤正人さんだったので。「クロノ・トリガー」や「クロノ・クロス」、「ゼノギアス」が好きだった自分にとっては、シナリオが加藤さんだった時点でやらない選択肢は無かったです(笑)。音楽も、「スターオーシャン」シリーズなどで有名な、大好きな桜庭統さんでしたし。

あと、「ヴァルキリープロファイル」や「スターオーシャン」シリーズに関わっていたトライクレッシェンドが、モノリスソフトと共同開発するっていうのも期待が大きくなった理由のひとつですね。

小林:アサミさんのトラクレへの熱い想いについては、ゲームの内容について語っていくときに改めて聞かせてください。

アサミ:わかりました(笑)。

激論(?)、「バテン1」と「バテン2」、どちらを先にプレイすべき?

小林:ゲーム内容に踏み込んだ話の前に、改めて確認しておきたいのが、僕とアサミさんの「バテン・カイトス」シリーズ2作に対する思い入れ方の違いです。

僕にとって「バテン・カイトス」って、シリーズ2作を通して大切なタイトルで、「バテン・カイトス 終わらない翼と失われた海」と「バテン・カイトス II 始まりの翼と神々の嗣子」、それぞれが同じくらい魅力的なゲームだと思っているんですね。その上で、「バテン・カイトス II」は前作の不便さやテンポの改善など、続編として完璧と言っていいブラッシュアップが成されていると思っています。

シナリオについては1作目のほうが衝撃的ですし、いろいろな意味で優れているんですけど、完成されたゲーム性を楽しめるという意味では、今回のリマスター版は「バテン・カイトス II」からプレイするのもぜんぜんアリなんじゃないかなぁと考えているんです。で、「バテン・カイトス I」を至高のRPGと考えているアサミさんはおそらく、なにがなんでも1作目からプレイしてほしいんだろうなと(笑)。

アサミ:「バテン・カイトス II」は前作の20年前が舞台なので、時系列で考えてもその順番はアリと言えばアリなのかもしれないんですよね……。でも、1作目はテンポが悪いとか、バトルがゆったりしているとはよく言われますし、それは私もよく分かるんです。だから、2作目のあとに1作目をプレイしたら、ちょっとしんどいかもなぁというのも1作目からプレイしてほしい理由です。

小林:アサミさんは「1作目のストーリーを味わってこそのバテン」くらいの感覚だと思うので、2作目で満足されて、1作目をプレイされなかったらそれは布教が成功したとは言えないでしょうからね。

アサミ:あと、人におすすめする前提だとさっきみたいに考えるんですけど、個人的な好みで言うと、「バテン・カイトス」は戦闘のテンポのゆったり感もまとめて好きなんですよ(笑)。私は鈍くさいので、2作目のスピード感が逆に辛かったところがあって……。

小林:あ~、そういうことはあるかもしれないですね……。「バテン・カイトス」シリーズはターンベースでありながらアクション性も併せ持った戦闘システムなので、咄嗟の瞬発的な判断が苦手な人は、まず1作目で慣れてもらって、テンポアップした2作目に挑戦してもらったほうがいいのかもしれない。

アサミ:1作目くらい、ある程度ゆっくり考えて数合わせができるテンポ感が自分には合っていたんですよね。例えば「ファイナルファンタジー」のATB(アクティブタイムバトル)で普段「ウェイト」にしているようなタイプの人には、1作目のテンポ感って合うと思います。

ターンベースとアクション性のいいとこ取りが持ち味の“マグナスバトル”

小林:「バテン・カイトス I」の戦闘システムである“マグナスバトル”は、手札からマグナスと呼ばれる武器や魔法のカードを、記された数字の順番どおり、または逆順で使用していって、制限時間もある中で1~9までちゃんと順番に使えたら、大ダメージを与えられるっていう。

アサミ:あれが決まるとすごく気持ちよかったですよね。敵の攻撃を防ぐときも、敵の攻撃回数と同じ数の防御用マグナスを選択して、数字を綺麗に並べられたらダメージの軽減率がアップしたり。

小林:どちらも狙いどおり決まると達成感がありました。ただ、ゲーム序盤から自分のターン中に9枚のマグナスでコンボが狙えるわけじゃなくて、2~3枚しか使えないところから、レベルが上がると徐々に使える枚数が増えていくんですよね。当時の開発者インタビューで「プレイしているうちに遊びの質が変わる」のようなことを言っていたのを覚えているのですが、まさにその通りで。

アサミ:うん、うん。最終的にはトランプの「スピード」に近いプレイ感覚になるんですよね。先程テンポ感の話をしましたけれど、それも結局“慣れ”の問題なので、最終的には結構スッスッとテンポよく出していけるようになりますし、そうなってくるとまた面白いんですよね。

小林:最初は「ちょっとしたリアルタイム要素があるコマンドバトル」といった感じで、そこまで大変なことをするわけでは無いんですけど、7枚、8枚、9枚と使えるマグナスが増えて、それぞれのマグナスに描かれる数字も2つ、4つと増える。

その中から最高のコンボを叩き込むにはどのマグナスのどの数字を、どの順番で選ぶべきかを見極めなければいけないので、気付くと1ターンで処理すべき情報量がかなり増えている。いつの間にか序盤とはまったく異なるゲーム性になっているんだけど、ちょっとずつ難易度を上げてくれているから、自然と対処できるようになるんですよね。あの上達感とスリリングさを両立したバランスが、すごく好きでした。

アサミ:最初は1のワンペアを作るだけだったようなゲームが、段々ロイヤルストレートフラッシュのようなものを作っていく感じになるんですよね。しかも9枚だからトランプより多くて、スピードのようなポーカーのような7ならべのようなものになっていくという。

とはいえ配られるカードはランダムなので、必ずしも狙ったものが出せるわけじゃないんですけれど、その中でいかに“見極めるか”というのが重要で、ファイナルストレートサンライズ(1~9までの数字を順番に出せた時のプライズ。攻撃ボーナスが300%近くアップする)が決まったときの快感は最高でした。

小林:状態異常の効果もおもしろいものがありましたよね。混乱すると、マグナスの四隅に描かれた数字がクルクル回って、タイミングよく選ばないと狙った数字を選択できないとか(笑)。RPGの戦闘で、ああいった状態異常の効果ってほかに見たことがありません。

アサミ:そもそもマグナスバトルみたいな戦闘自体、あまり見たことがないものですからね(笑)。

小林:ちなみに1作目の「バテン・カイトス」はパーティーメンバーによって操作やデッキ構成の難易度は多少変わったと思うのですが、最終的な主力メンバーってどうなりました?

アサミ:カラスとシェラとリュードです。

小林:僕はカラスとリュードとサヴィナでした。サヴィナはスピーディーな格闘術で戦うから、モーションが速いぶんマグナスを入力する受付時間も短いんですよ。ほかのパーティーメンバーよりも高い反射神経を求められるキャラクターでした。

僕も最初は使うマグナスに迷っているうちにコンボが途切れちゃったりして苦戦したんですけど、それでもカッコよくて魅力的な女性だったので、頑張ってサヴィナを使い続けていたんですよね。「バテン2」のテンポが苦手だったというアサミさんは、おそらくパーティーに加えてないんじゃないかなと、ふと思って聞いてみました。

あと、リュードとサヴィナはカラスやギバリと違って、攻撃で使う武器のマグナスを防御にも使うことが出来ないので、この点でもデッキの構築でちょっと気を使いましたよね。

アサミ:うんうん、そうでした。私の場合はデッキ構築がどうのというより、単純に好きなキャラかどうかだけで編成しているんですが、リュードは声が岸尾だいすけさんで好きな声優さんだったり、あとは純粋に楽器のような銃でレーザーっぽいものをぶっ放したりするのが面白かった、という感じで入れていました。単純な選択肢で考えると多分カラス、シェラ、ミズチさまあたりが楽だったんじゃないのかなぁとは思うんですけれどね。RPGの醍醐味は「好きなキャラを貫き通す」ことにもあると思うので……(笑)。

小林:それは仰るとおりだと思います! そんな感じで、「バテン1」の戦闘システムの根っこにあるおもしろさは、先ほど語ったような部分だったと思うんですけど、そうやって理路整然と伝えられる魅力だけじゃないのが、このゲームの一筋縄では行かないところというか(笑)。

お次は“SPコンボ”の要素について語って行ければと思います。

プリン+しょうゆ=ウニ。「闇鍋的RPG」としての魅力を一挙に担うヘンテコ要素“SPコンボ”

小林:とくに1作目の「バテン・カイトス」は、実験的な要素も数多く取り入れている、ある意味“闇鍋”的なRPGだったと思うんですよね。

アサミ:確かに(笑)。「やれることは全部突っ込め!」みたいなゲームでもあったと思います。

小林:“SPコンボ”は、闇鍋的な魅力のうちの大きな部分を占めていましたよね。正確には覚えていないのですが、「お米を炊いて“ごはん”にすればHPの回復量アップ!」みたいな(笑)。

アサミ:えーと、“パワーメット+米+ミネラルウォーター+火魔法”を組み合わせると“ごはん”になるんだったと思います。

小林:“飯ごう炊さん”みたいなイメージですよね。お米と水をいっしょに容器に入れて、火で炊くとほかほかのごはんになるっていう。

SPコンボって「先のストーリーが見たい」っていうモチベーションでガツガツプレイしているとなかなか気付けないというか。それぞれのマグナスの説明をちゃんと読んだ上で「ひょっとしてあのマグナスと組み合わせると新しいマグナスが生まれるの?」とわざわざ戦闘中に試してみて、「本当に出来た!」となったり、「出来なかったからほかにも必要なマグナスがあるのか?」とさらに試行錯誤してみたり。

それが斬新でしたし、ゆとりを持ってゲームを楽しんだ人ほど深くハマれる要素でしたよね。

アサミ:マグナスがゲーム内の時間経過で変化していくのもおもしろくて。とくに食べ物系のマグナスが腐っちゃうのとか、未だにトラウマになってるんですよ(苦笑)。他のゲームでも食べ物を持っていると「早く食べないと腐る!」って(笑)。特にゼルダみたいなゲームをやっていると未だに「リンゴ……早く食べないと腐る……」みたいな気持ちになりますね。バテンから20年経っているのに、それほど強烈に植え付けられたトラウマです……(笑)。

小林:ボス戦の途中でタイミング悪く、回復のために使っていた食べ物系マグナスが腐っちゃっていたりとか(笑)。

アサミ:そうです、そうです。あとは回復アイテムとして使っていたものが気付いたら攻撃アイテムになってたり。「タケノコが竹になってる!」みたいな。

小林:腐った食べ物は自分に使うと毒状態になりましたけど、敵に投げ付ければ敵を毒状態にすることも出来ましたよね。アクシデントを利用して勝てるとそれもまた嬉しかったです。

アサミ:SPコンボはおふざけ的な組み合わせもすごく楽しかったですよね。「プリン」と「しょうゆ」を組み合わせて「ウニ」になるとか。

小林:ありましたねー! 「メロン」のマグナスを作るコンボもそういう感じでしたよね?

アサミ:「メロン」は「きゅうり」と「はちみつ」だったと思います。

小林:あ~、そうでした! 確かこういった食べ物の組み合わせって、当時「伊東家の食卓」とかで紹介されてましたよね。それをあのファンタジー世界でやるっていう遊び心が凄いなぁと思っていました。

アサミ:トライクレッシェンドらしい遊び心がふんだんに盛り込まれていたのがSPコンボだったのかなと思っています。

小林:アサミさんの思う「トライクレッシェンドらしい魅力」みたいなものって、このSPコンボみたいな、ちょっと「ヘンテコな味わい」にあるということなのでしょうか?

アサミ:トライクレッシェンドは元々トライエースにいたサウンドプログラマの初芝弘也さんという方が設立した会社で、トライエース作品の音楽部分を担当していたんです。完全にゲーム開発を担当したのは、「バテン・カイトス」が初めてだったはずなので、トライクレッシェンドの過去作でヘンテコなものというより、トライエースにあったヘンテコなものを継承しているな、という感じですね。

小林:武器やアイテムがちょっと遊び心のあるものだったりということですかね。具体的には、過去作にはどういったものがあったんですか?

アサミ:パッと思い浮かぶのは「スターオーシャン」シリーズでおなじみの「うまい棒」なんですけど……。

小林:へぇ~。それは「うまい棒」のメーカー(リスカ)に許可を取ったものが、実名で出てくるんですか?

アサミ:許可は取っているみたいですよ。ゲーム内のサブイベントでも「うまい棒」についてやたらに語り合うイベントがあったりとか(笑)。オフラインのファンイベントで「うまい棒」が配られたりもしていましたし。

あとは「スターオーシャン」シリーズにアイテム・クリエイションっていうのが伝統であるんですけれど、そこで作れるものがちょっと面白いんですよね。媚薬ができたり(笑)、失敗すると「変なかたまり」っていうアイテムができてきたり……トライエースの話をあまりしても何なのでそこはほどほどにしておきますけれど、そういった遊び心はトライクレッシェンドにも受け継がれていてほしいという期待がありましたし、実際受け継がれているなぁと感じました。

小林:いまの話を聞いて、そうしたおふざけっぽい要素がちゃんとゲームシステムに絡んだ、楽しみ甲斐のあるものに昇華されたという点で、「バテン・カイトス」のSPコンボはある意味集大成的なゲームだったのかなと感じました。

アサミ:そうなんですよ。「バテン・カイトス」って、ストーリーはめちゃくちゃ真面目じゃないですか。なのにSPコンボはすごくふざけているところが好きで(笑)。

小林:シリアスなシチュエーションのボス戦とかでも、しょうゆとプリンで作ったウニでHPを回復したりするわけですもんね(笑)。

アサミ:そうそう! そうなんです。自分はなんで今この局面でご飯炊いてるんだろうな……とか(笑)。

小林:「バテン・カイトス II」のテンポの良さは、いろいろな要素をバッサリ取捨選択したことも要因のひとつだと思うのですが、アサミさんが愛着を持つような遊び心的な面は確かに減っているなぁとも感じます。

ゲーム史に残る?、あらゆるプレイヤーが“騙された”珠玉のストーリー【微ネタバレあり】

小林:バトル関連の話題だけでけっこう話してしまいましたが、「バテン・カイトス」にはストーリー、キャラクター、それから音楽と、まだまだ語るべき要素がたくさんあります。次はどのあたりから行きましょうか?

アサミ:やっぱり「バテン・カイトス」と言えばストーリーかなぁと思います。ほかの要素も素晴らしいけれど、私の中でこのゲームが1位になっているのは、あのストーリーがあってこそなので。

アサミ:あまりネタバレにならない言い方をすると、ある種の“叙述トリック”なのかなと思うんですけど……。

小林:“プレイヤーの分身”と“物語上の主人公”が別に用意されているからこそ生まれる盲点を利用したストーリーになっているんですよね。

アサミ:あれを活かしたストーリーが、「バテン・カイトス」は凄いと思っています。ゲームで、しかもRPGだと、プレイヤーは主人公の気持ちになってプレイすると思うので、なかなか作れないんじゃないかなぁ……?

小林:中盤で、物語のターニングポイントとなる、とある展開がありますけど、唖然としましたよねぇ。

アサミ:そうなんですよ(笑)。「そんなことある!?」っていう。

(以下、完全にネタバレな話が続いたので大幅にカット)

小林:先ほどまで話したことを知っても、「バテン・カイトス」のストーリーからは、王道ファンタジーという枠組みに囚われない新鮮な驚きが味わえるんじゃないかと思います。

アサミ:こういうネタバレに関わる部分って、公式でも強くアピールすることはできないだろうからもどかしいんですけど……個人的にはゲーム史に残るストーリーだと思っているので、ぜひ多くの人に体験してほしいですねぇ。

誰もがお気に入りのキャラクターに出会えるはず!アクが強くも魅力的な旅の仲間たち 【微ネタバレあり】

小林:好きなキャラクターをひとり選ぶなら、やっぱり主人公のカラスになりますか?

アサミ:そうですね、カラスがいちばん好きです。

小林:いろいろひっくるめて、最終的にはすごく感情移入できるキャラクターになっていますよね。

アサミ:最初の動機づけや、背景もろもろ含めて、本当によく出来たキャラクターだと思います。カラスの設定が、「バテン・カイトス」という作品を最高に面白くさせた要因のひとつと言っても過言ではないとすら感じます。あの設定の細やかさが、加藤さんらしいんですよね。「ゼノギアス」とか「クロノ・トリガー」が好きな人にプレイしてほしいなぁ。世界観は全く違えど、加藤さんのシナリオの素晴らしさは感じられると思うので。

小林:帝国軍に所属する人物が育ての親と弟の仇(かたき)ということで、復讐のために旅をしているっていう。後にパーティーメンバーになるリュードは帝国軍人なので、仲間になるときにひと悶着あったりとか。

アサミ:リュードのエピソードも好きですね。

小林:リュードはプレイヤーにとってはネタとしてもよく話題になるキャラクターですよね(笑)。必殺技の……。

アサミ:銃で敵をタコ殴りにするとか(笑)。

小林:銃の推進力を利用してドロップキックするとか。通常攻撃では、行儀よく銃撃で戦っているのに。

アサミ:急にキレた感じになりますよね。

小林:別にキレキャラだったり、二面性のある人物とかでもないですし、必殺技のときも口調とかは丁寧なまま、でもやってることはめちゃくちゃ荒ぶっているという。あの感じがおもしろかったですよねぇ。ストーリー的には、サヴィナもけっこう重いものを抱えていましたよね。

アサミ:そうでしたねぇ。そういった辺りでも、先ほどの話との関連になりますけど、本当に上手く作ってあるなぁと思います。いなくていいキャラがいない。全員、戦う理由もはっきりしていて、良かったです。

小林:アサミさんは最終的なパーティーにカラス、リュードとあとはシェラを入れていたということでしたけど、シェラもめちゃくちゃ強い意志を持ったヒロインでしたよね。

アサミ:やっぱりシェラは、人間としての強さに惹かれて使っていたところはあると思います。ただ守られているだけのヒロインではないのも印象的で。自分が1作目の「バテン・カイトス」のストーリーが好きな理由には、シェラの描き方もあるんだと思います。抱えているものも大きいんですよね。そこは「ゼノギアス」のヒロインとも近いものを感じたのかもなぁ。主人公×ヒロインという王道の組み合わせが好きな人にはめちゃくちゃ刺さると思いますね。

小林:僕は「ゼノギアス」もプレイできていないんですけど、当時からRPGをいろいろプレイしてきたアサミさんにとっても、シェラの抱えているものの大きさから来る意志の強さ、気高さは印象深いものだったわけですね。

アサミ:どんな目的で旅をしているのか明かされたとき、いちばん驚かされたのもシェラでした。

小林:そこに年長者のキャラクターとして、漁師のギバリがいて。ギバリも戦闘で使いやすい、バランスの取れたキャラクターですよね。

アサミ:中盤くらいまではけっこうギバリに助けられました。

小林:名前を挙げていて気付いたのですが、何気に「バテン・カイトス」ってパーティーメンバーの男女比が半々ですよね。

アサミ:気付いてなかったですけど、言われてみればそうですね。

小林:そういう意味でもバランス良く個性豊かなキャラクターが揃っていて、いろいろなプレイヤーがお気に入りのキャラクターを見付けやすいゲームでもあるかなと思います。

桜庭統氏のベストワークとの呼び声も高い、名曲揃いの戦闘曲

小林:「バテン・カイトス I」については、最後に音楽の話をして締めましょうか。

アサミ:私、1作目の音楽めちゃくちゃ推しなんです……。

小林:でしょうね(笑)。僕もサントラを持っていて、いまだに聴いているくらいお気に入りです。

アサミ:やっぱり戦闘曲がすごくいいですよね。

小林:通常戦闘曲の「The true mirror」は名曲ですよねぇ。

アサミ:名曲ですね~。ボス戦の曲もたくさんのバリエーションがあるじゃないですか。

小林:たしか7~8曲くらいありますよね(※あとで調べたらラスボス曲を含めて8曲でした)。

アサミ:敵やシチュエーションによって曲がガラッと変わるんですよね。

小林:ボス曲がそれだけあると、1曲1曲の印象は薄くなりそうですけど、「バテン・カイトス」のボス曲って全部が強く印象に残りますよね。

アサミ:そうそう! あれすごいですよね。各ボスの個性が音楽を聴くと蘇ってくるというか。そういう曲をあれだけ作れるモトイン(※作曲家の桜庭統氏の愛称)が本当にすごいなって思うんですけど(笑)。

小林:うんうん(笑)。やっぱり音楽も、桜庭さんが手掛けたゲームの中で「バテン・カイトス I」がいちばん好きですか?

アサミ:そうですねぇ……「バテン・カイトス I」と「エンド オブ エタニティ」と……どっちかなぁ? それくらい好きですね。

小林:「エンド オブ エタニティ」の音楽は田中公平さんとの共作でしたけど、戦闘曲はやはり桜庭さんらしいサウンドが炸裂してましたからね。

個人的に「バテン・カイトス I」のボス戦BGMで印象深いもののひとつが、マルペルシュロ戦の「九天の覇王」です。ゲーム発売直前に公開されたトレーラーにも使われていたと思うんですけど、邪神が復活してしまうっていう危機感を煽るシチュエーションのための楽曲が、これからプレイするゲームの壮大なストーリーを予感させてくれていて、すごく期待が高まったんですよね。

民族音楽的な「Rumbling of the earth」も、アヌエヌエでの戦闘にすごくマッチしていました。

アサミ:私、ボス曲で一番好きなのは「Rumbling of the earth」で、あの民族調な音楽でボス戦をやれるのがとにかく好きだったんですよね。モトインの音楽の中でもちょっと変わった感じですし。この曲を聴いてみたらそれだけで「バテン・カイトス」をやってみたくなるんじゃないかな? って思うレベルの曲だと思います。

小林:そしてやっぱり「バテン・カイトス」を語る上で欠かせないのがジャコモ戦の「Chaotic dance」だと思うんですよ!

アサミ:確かに! 「バテン・カイトス」を語る上で外せないのは「Chaotic dance」ですねぇ。ふふふふ(笑)。

小林:あのファンタジー世界で軽快なラップ曲が流れるのは、とてもインパクトがありました。育ての親の仇との戦闘にしては軽い曲調とも言えるんですけど、それがジャコモたち一味の浮世離れした雰囲気にすごく合っているんですよね。

アサミ:「Chaotic dance」は仇敵との戦いというより、完全にジャコモ一味の雰囲気に寄せてきた曲かなと思います。バトルの重さでいうと「冥の断罪」とかのほうがそれっぽいボス曲ですよね。

小林:「バテン・カイトス II」の話になるんですけど、こちらには少年時代のジャコモが敵として出てきて、戦闘曲が「Chaotic dance 2」といって、曲調が前作以上に、なんというか……チャラくなっているっていう(笑)。

それも威厳があった大人ジャコモを知った上で、子ども時代の跳ねっ返りな性格を目の当たりにするとまた味わい深いと言いますか……。「Chaotic dance」と「Chaotic dance 2」、どちらも大好きな楽曲なんですよね。「バテン・カイトス」シリーズの、ひとつの世界観に囚われないおもしろさを端的に表した楽曲だと思います。

もしシリーズが続いていたら、おじいちゃんになったジャコモ……もしくはジャコモの子孫との戦闘があって、そこで流れる楽曲のタイトルはもちろん「Chaotic dance 3」だったんじゃないかとか、妄想したものです。

アサミ:私は「Rumbling of the earth」と並んで、やっぱり「The true mirror」も好きなんですけど……こういう言い方は変かもしれませんが、バトルのちょっと悪いテンポ感と、疾走感のある音楽が合っていないところが好きなんですよ。

小林:うーん、なるほど……?

アサミ:あの噛み合って無さがすごくツボに入っていて。ほかの人には分かってもらえないポイントかもしれないんですけど、そこはモトインの音楽の為せる技かもしれないですねぇ(笑)。「The true mirror」が本当に良い曲で、バトル曲としてのテンポ感は保ちつつ繊細さもあって、それに引っ張られるようにあのちょっとテンポの悪いカードバトルをするっていうのがすごく楽しくて。いや、単純に「The true mirror」が好きすぎて、何でもOKになっているだけかもしれないんですけれど(笑)。

小林:アサミさんは本当に「バテン1」全肯定ですね(苦笑)。

アサミ:「バテン1」ならなんでもOK感は、確かにあります(笑)。ただ、それくらい「ちょっと物申したいところもあれど、最終的には全部含めて最高のゲーム体験を味わえるゲームだよね!」って言える作品だと思うんですよ。

加藤さんの作品でいうと「ゼノギアス」のあのDisc2の……あんな場所はさすがに「バテン1」にはありませんけれど、そんな風に「物申したい」部分があれど「ゼノギアス」は今も最高評価を受けているゲームじゃないですか。「バテン1」もそれに近いと思ってもらっていいと思うんですよね。カードゲームのテンポが悪いと言われているけれど、そんなこと気にならないくらいの名作なんです。

「バテン2」は過酷な運命に翻弄されながらも真っ直ぐ生きようとする少年少女の成長譚

小林:「バテン・カイトス II」は2006年2月23日に発売した、現時点でのシリーズ最終作です。本作は先ほども話したとおり、前作の20年前が舞台の物語になっています。フィールドのグラフィックも一部では前作と共通したものを使用しつつ、時代の変化が感じられるものになっているのが特徴ですよね。

最初に僕が2作ともプレイした上で唯一に近い「バテン2」の不満を挙げるとするなら、それはミラに行けなかったことなんですよ。「バテン・カイトス」シリーズって“浮遊大陸”という、いくつもの空に浮いている島が舞台になっていて、その島々がそれぞれにまったく違う文化を持っているというのが魅力のひとつだったと思うんです。

アサミ:うんうん。浮遊大陸っていうのを上手く活かした良い設定でしたよね。

小林:王道ファンタジーらしいサダルスウド、工業化が進んでいて強大な軍事力を持った帝国のアルファルド、ジャングルなどの自然が豊かで、異国情緒を感じさせるアヌエヌエ、みたいな。そんな中でも「バテン1」でとくに個性的な大陸として描かれていたのが、カラスの故郷でもあるミラでしたよね。お菓子の街や、絵本の街といった、現実離れした世界観なんだけど、2Dのグラフィックで描かれている「バテン・カイトス」ならひとつの個性としてほかの大陸と同じ世界に同居できているというか。

「バテン・カイトス」が2Dのグラフィックを採用したRPGであることによる魅力の、けっこう大きな部分を「ミラみたいな世界も表現できる」というのが占めていたと思うので、「バテン2」でまた訪れたかったという気持ちは強かったです。プレイした人ならご存知のとおり、まったく登場しないわけではないんですけど。

小林:ストーリーの魅力に関しては、「バテン2」も前作ほど強烈ではないものの、それでも「バテン」らしいツイストの効いたものにはなっていると思います。確か「バテン2」には加藤正人さんは関わっていないんですよね?

アサミ:関わっていないですね。それもあってか、私的には「バテン」らしいおはなしではあったんですけど、ちょっと前作からスケールダウンしちゃったかなとも思うんですよ。それでも最近はほとんどないような壮大な物語だとは思うんですけど……。いまは開発費の高騰などもあってか、RPGも30~40時間くらいでクリアできる規模のものが多い印象がありますが、当時の大作RPGは60~70時間は普通でしたからね。「バテン2」もそれくらいのプレイ時間でしたよね。

小林:物語の壮大さで言えば、最近のゲームはオープンワールドの採用なども増えて、世界を細部まで描くとなると「スケール感で嘘が付きづらくなっている」みたいなところも要因としてあるかもしれないですよね。「いくつもの国を股にかける冒険」と言いつつ、ひとつの国の端から端まで走って30分くらいで行けたら違和感があるというか。

「バテン」シリーズの壮大さは「あの頃のグラフィック表現だから付けた嘘」というのが大きかったのかもしれません。そういった部分も含めて、最近のゲームではなかなか味わえない壮大なストーリーを感じられるという点でも「バテン1」、「バテン2」ともに、稀有な体験としてこれからプレイする方にも楽しんでもらえそうですよね。

アサミ:そう思います。本当にプレイしてほしいですね。結局ゲームって“体験”なので、やってもらえなければ届かないんですよね……。なので我々がこうして必死にプレゼンしているわけなんですけれど(笑)。

小林:話題が尽きなくて、なかなか「バテン2」ならではの魅力の話にたどり着けないのですが(笑)、まずはキャラクターの話をしましょうか。「バテン2」のパーティーメンバーは、主人公のサギと、ヒロインのミリィ、それからギロっていう3人で固定なんですよね。

前作のカラスが屈託ありまくりな少年だったのと比較して、サギやミリィはかなり真っ直ぐな王道の主人公・ヒロイン……なんだけど、それが中盤以降の展開の、前作とはまた違ったおもしろさに繋がっているかなと思うんです。

アサミ:なるほど。小林さんはガッツリ固定でいくからこその面白さがあるとお考えなんですね。固定でいくのは、その分キャラクターの物語をしっかり描けるという利点はあるんですけれど。

小林:サギも、ミリィも、第一印象どおりの明るくて屈託のないキャラクターなんですけど、物語後半では、彼らも実は重い背景を背負っていることが明らかになります。そういった背景を持つ子どもたちが、呪いのような運命に縛られることなく真っ直ぐ生きるために、懸命にもがく話だったのかなと。

前作とはまた違った性質のキャラクターだからこその、“爽やかな成長譚”っぽい空気感が「バテン2」の魅力だと思います。仲間であり友人でありながら、ふたりの保護者っぽくもあるギロとの独特な関係性もすごく好きですね。まぁ、カラスを心底好きになってしまったら、サギたちはちょっと物足りないというのも分かる気はするんですが……。

アサミ:そうですねぇ、どうしてもやっぱりカラスと比べてしまうんですよ。

小林:アサミさんの場合はそうですよね。

アサミ:ちょっと私の中でカラスが偉大すぎる(笑)。サギもいいキャラクターではあったと思うんですけど。

小林:それは致し方なしということで。

「アクション性を取り入れたターンベースの戦闘システム」のひとつの完成形であり頂点

小林:お遊び的な要素が減ってしまったというのも分かるんですけど、それでも根っこの戦闘システムに関しては、RPGにおける「アクション要素を盛り込んだターンベースの戦闘システム」として、「バテン2」はひとつの完成形だと僕は思っているんですよね。

アサミ:なるほどー。言わんとしていることはすごく分かります。「バテン1」のシステムの凸凹だった部分が削れて、より完成されたシステムになったというのはよく分かるんですけど……でも私は前作の尖ったところが好き(笑)。

小林:うーん……(苦笑)。逆にアサミさんが「バテン2のほうが魅力的に感じた」要素って、あんまり無い感じですか?

アサミ:正直に言うと、無いんですよ……。ストーリー、戦闘、キャラクター、音楽、全てが「バテン1」のほうが勝っていたなぁと感じます。

小林:そっかぁ。

アサミ:「バテン2はバテン2で良かったよね」っていう部分はもちろんあるんですよ。バトルは格段に良くなっていますしね。とはいえ、私のテンポ感とは合わなかったというのがやはり大きくて、私の中で前作と比べたときに「バテン2のほうが良かったな」っていうのは、無いんですよ……。なので、そこに関しては小林さんにプレゼンしていただきたいくらい。

小林:では、そうします……! 「バテン2」からは、SPコンボなどの雑多な遊びは無くなりましたけど、だからこそ毎回の戦闘でいかにより高威力なコンボ攻撃を決めるのか、そのためにデッキに組み込むマグナスのバランスをどうすべきかという部分を追求して、より奥深くて、おもしろいものになっていると思います。その上で、デッキ編成の手軽さ、快適さも向上していました。

「バテン1」は、パーティーメンバーひとりひとりに数十枚のマグナスで構成される専用のデッキを組まなければいけなかったんですよね。パーティー編成が最大で3人なので、メインで使うキャラクターだけデッキを編成するとしても、3人分だからけっこうな枚数になります。

アサミ:3人分のデッキを組み立てるだけでも、最終的には合計200枚くらいのマグナスを使うことになりますよね。

小林:一方の「バテン2」は、ひとつのデッキをサギ・ミリィ・ギロの3人で使い回すことになるので、編成上のわずらわしさがかなり軽減されているんですよね。で、この“3人で使い回すデッキ”というのが、バトルデザインの肝にもなっていると思うんです。

コンボのシステムも「バテン2」では一新されています。前作では各マグナスに最大4つ記された数字を、1~9のように順番に並べることでダメージ倍率が上がっていきましたけど、「バテン2」ではひとつのマグナスに記されている数字はひとつだけ。しかも通常攻撃は1~3までしかありません。その上で、4~7の数が割り振られたカードは、すべて各キャラクター固有の必殺技扱いなんですよね。

小林:一見単純化されたようにも見えるんですけど、重要なポイントがふたつあって、ひとつは「通常攻撃で貯めたMPゲージを消費することで必殺技が放てる」ということ。もうひとつは「いずれかのキャラクターの攻撃を必殺技までキメて、次のキャラクターの攻撃を“1”のマグナスから始めると、“リレーコンボ”という、仲間から引き継いでの連撃が発生する」ということです。

通常攻撃のマグナスは全キャラで共通なんだけど、必殺技のマグナスは各キャラで個別なので、「ミリィにリレーコンボを繋ぐまでこの必殺技は温存したい……けど手札を圧迫して、コンボが途切れてしまう可能性は増えてしまう。それよりはあえて一度このマグナスは捨ててしまうべきか?」といったジレンマが生まれるんですよね。

アサミ:うん、うん。バトルに関しては確実に洗練されてはいるんですよね。それはもうめちゃくちゃ認めます。「バテン1」大推しの私でも、バトルは「バテン2」のほうが圧倒的に進化している。

小林:いまのは一例ですが、前作よりテンポアップした戦闘の中で、こういった大小さまざまなリスクとリターンの駆け引きを切り抜けて、敵に強大なダメージを与えることに成功したときの気持ち良さは、ちょっとほかのRPGでは未だに味わえていないものです。

リレーコンボがシステムの重要ポイントになっていることで、デッキに組み込むマグナスの配分も、けっこう繊細に試行錯誤する必要があってそれも楽しいですし、キャラクター同士の共闘感が増しているのも、ストーリーを追っていく上でグッと来るところかなと思いますね。

アサミ:たぶん、総合的に考えると、大半の人は「バテン2」の戦闘のほうがおもしろいって言うような気はするんですよねぇ。あくまで戦闘に関しては(笑)。

小林:「あくまで」(苦笑)。まぁいいでしょう。加えて、さらに「一か八か」という博打を楽しめるのが“バースト”のシステムです。これを使えば、MPゲージをすべて消費した上に、しばらくMPゲージが貯められなくなるのと引き換えに、リレーコンボが続いているうちはすべての必殺技が使い放題になります。

3人とも最大火力のコンボを叩き込むにはこの“バースト”の使用が不可欠になっていて、これをキメ切れるか? それとも途中で途切れてしまうのか? というヒリつくような焦燥感は、実にスリリングで堪らないものがありました……! もちろん、キマったときの爽快感は格別です。

アサミ:うんうん、ありましたねぇ。ただ、私は「バテン2」はテンポ感が自分には速すぎて、そのヒリつくような焦燥感とかを味わいきれなかった感じです。とにかくわたわたしていたっていう記憶ですね……。きまった時の爽快感はあったんですけれど。

小林:「バテン1・2」に共通するシステムとして、物語の中で2択の選択肢が現れて、選んだ回答によって信頼関係が変動するというものがありましたよね。そして、信頼が大きいほど、山札から手に入るマグナスが「いま必要なマグナス」に変化する可能性が高まって、コンボが繋がりやすくなるっていう。

このシステムも、戦闘中に行う判断が、よりジレンマがあって駆け引きを必要とするものになった「バテン2」のほうが、前作以上に上手く活かされていると感じる部分です。リレーコンボ中などに、「コンボが途切れそう!」という状況で精霊の加護によってバシバシと繋がったときの射幸心が満たされる感じも、プレイヤーが土壇場まで頑張って、それでも駄目だったときだからこそ嬉しい瞬間で。

いずれの要素も、「バテン1」のマグナスバトルが下敷きにありつつも、「どんな取捨選択をすればより爽快で、駆け引きとしてシンプルかつ奥深いバトルになるか?」というのを吟味した結果としてこういうゲームデザインになっているんだなと、その意図がとてもよく伝わってくるんですよね。

「バテン1」はストーリーの満足感が高かったこともあって、エンディングを見届けたら1週でお腹いっぱいになったんですけど、「バテン2」は戦闘の楽しさがとにかく大きくて、2週クリアした上で、ひたすら闘技場でいちばん強い敵に挑んだり……とにかく夢中で楽しみました。

HDリマスター版は数々の新機能で、誰もが珠玉のストーリーをエンディングまで見届けられるはず

小林:音楽に関しては、アサミさんは戦闘のテンポと合っていないところも含め「バテン1」の好きなところだとおっしゃっていましたけど、「バテン2」は戦闘の操作やアクションが完璧にシンクロしてるんですよね。

アサミ:それはすごく思います。「バテン2」のほうが、ゲーム性と音楽も噛み合った作りになっていると感じます。

小林:通常戦闘曲の「The valedictory elegy」は、前作の「The true mirror」の流れを汲みつつさらに多彩な展開を見せる楽曲で、リレーコンボやバーストをキメるときの高揚感をいっそう高めてくれます。アガりますよねぇ……! これもやはり「アクション性のあるRPGの戦闘」のためのBGMとして、最上級のものではないでしょうか。

アサミ:「バテン1」が好きな私でも否定できないところです(笑)。「The valedictory elegy」がこれまた名曲なんですよね。

小林:「ゲームプレイとBGMのシンクロ」みたいな部分が“刺さる”人には、ぜひとも「バテン2」をガンガンリレーコンボが狙えるようになる終盤までプレイしていただいて、あの気持ち良さを味わっていただきたいですね。

ほかにも「バテン2」は、フィールドでダッシュが使えるなど、いろいろなところで前作より快適になっているんですよね。そういったところもまた、いまプレイしても古いゲーム特有の煩わしさは感じづらいのではないかと思います。

アサミ:でも、今回発売されるHDリマスター版はゲームスピードを200%、300%とアップさせることができるんですよね?

小林:あぁ、そうですね。

アサミ:そのあたりで「バテン1」のバトルテンポの悪さはカバーできるかなと思うんですけどねぇ。

小林:改めて公式サイトで新たに追加された機能をチェックしているんですが、ゲームスピードとは別にバトルスピードだけ300%まで上げることもできるんですね。「バテン1・2」ともに限られた時間の中でマグナスを選ぶアクション性があるので、難度がかなり上がっちゃいそうな印象を受けますけど、どうなんでしょうね?

アサミ:それは思ったんですよね。実際にプレイしないと分からないところなので、早く遊んで確かめたいところです。

小林:あとはオートバトルとか、“エンカウントキャンセル”や“インスタントKO(敵を一撃で倒せる機能)”など、ストーリーだけ知りたいプレイヤーは戦闘自体をまったくせずに済む機能もあるんですね。

アサミ:そうですね。さすがに戦闘をまったくしないのは、ちょっと勿体ない気がしますけど。面倒でも、バトル曲が最高にいいから聴いて~!(笑)

小林:これからプレイする人にとっては余計なお世話だとは思いつつも、どうしても戦闘を含めて味わってほしいとは思っちゃいますよね。

アサミ:「バテン1」ならSPコンボ、「バテン2」ならリレーコンボのおもしろさとか、もろもろ込みで味わってもらって……。その中で、やっぱり戦闘曲にも注目してもらいたいので、なるべく一撃KOとかには頼らないでいただけると嬉しいかなって。

小林:あははは(笑)。

アサミ:システムも含めて、ひと通り楽しんだ上で「そろそろはやくストーリーが知りたいな」と感じたのであれば、そのときは戦闘を省略する機能を使うのもそれはそれでアリかなとは思いますけどね。

小林:いろいろなプレイヤーのニーズに合うように、選択肢が増えていること自体は単純にいいことなのかなといったところで。デッキ編成時のソート機能が追加されたことや、オートセーブ機能なんかはシンプルにありがたいですし。

あぁ、それからいわゆる「強くてニューゲーム」ができる“NEW GAME+”や、逆に縛りプレイができる“NEW GAME-”なんて機能もあるんですね。快適機能がたくさん追加されたこととあわせて、何度もプレイしたくなる動機になってくれそうです。

アサミ:それはいいですね! いやホント、随分と調整可能な項目があれこれ追加されていますよね。

小林:グラフィックを向上させただけのリマスターだってある中で、本当に至れり尽くせりというか……ずっと待ち望んできた甲斐があったと言える出来に仕上がっていそうで、リマスター化を手掛けたスタッフの皆さんには心から感謝をお伝えしたいです。

こういった追加機能によって、僕らの思い出に残っている「バテン・カイトス」よりはかなり快適に楽しめると思うので、当時から語り草になっている珠玉のストーリーを味わいたい方には、ぜひ1作目からプレイしていただきたいというのは間違いなく言えると思います。

アサミ:ストーリーだけでも本当に体験してみてほしいので……そう考えると、やっぱり一撃KOしながら進んでいってもらってもいいのかなぁ。音楽聴いて~! は繰り返し言っちゃいますけど(笑)。モトインの音楽はもちろん全て素晴らしいんですけれど、元々プログレの方なので、疾走感あるバトル曲でこそ真価を発揮している感じはありますから。

小林:戦闘を煩わしく感じて最後までプレイ出来ないよりは、ぜひあらゆる機能を駆使してでも見届けていただきたい、といったところですかね。

アサミ:普通にプレイしたら70~80時間くらい掛かった気がするので……。

小林:忙しい方はね、ご無理はなさらずに……でも出来るなら最後までプレイしてくれと。そうする価値があるゲームだということは我々ふたりとも自信を持って言えるタイトルですからね。ぜひともカラスたち……あともちろんサギたちの冒険も。「バテン1・2」どちらも最後までプレイしていただければと思います。

そうやって、たくさんの人に「20年も前のゲームがこんなにおもしろかったんだよ」と広めていただいて、「バテン・カイトス3」の開発決定へと繋げていければなと……!

アサミ:「バテン1・2」が売れてくれれば、あり得る話ですからね!

小林:「バテン3」は、かつて企画は動いていたけれど、パブリッシャーの都合で開発停止になったという話らしいですから。シリーズを望んでいる人がこれだけいて、これだけ売れるんだぞということが今回のHDリマスターで証明されれば、実現の可能性はかなり高まると思うんです。リマスター化にOKが出たんですから、きっとあともうひと押しですよ! ぜひとも皆さんのちからをお借りしたい。

アサミ:こればっかりは自分ひとりではどうしようもないところですからねぇ。とにかく布教のためにこうして頑張るしかないという……。もし実現したら、音楽はきっとまたモトインが担当してくれると信じています。20年経って、またこうして「バテン」の話ができるだけでも嬉しいんですけれどね(笑)。そこから「バテン3」に繋がったら最高にエモいと思います、はい。

小林:みんなで「Chaotic Dance 3」が聴ける世界を実現しましょう。

※画面は開発中のものです。

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