2023年8月22日に下北沢トリウッドにて行われた、「OU」完成報告会のレポートをお届けしよう。
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「OU」は8月31日にジー・モードから発売するNintendo Switch、Steam向けのゲームソフト。ゲームジャンルとして“ピクチャレスク・アドベンチャー”を謳っており、キャッチコピーのひとつには「ゲームの形をした何か。」というものがある。いうなれば“ゲーム”という枠組みに囚われない体験を目指したタイトルだ。
本作の完成を記念したイベントを開催する場所として、海外のアニメーション作品や実験的なアートアニメーションを数多く上映する下北沢トリウッドは、実にピッタリだと感じた。
筆者が下北沢トリウッドに足を運んだのは2021年に海外のアニメーション映画「ウルフウォーカー」と「Away」の2作品を観に行って以来ひさびさだったのだが、座席数45席の劇場に「OU」の発売を心待ちにしている観客が詰めかけ、良い意味で“距離が近い”、アットホームな雰囲気に終始包まれたイベントは、大変に心地の良いものだった。
「OU」は“ちょっと癖がある味わい”も含め「納豆のような作品」
完成報告会は、声優デビューもジー・モードのタイトルだったという桐島ゆかさんのMCのもと進行した。
はじめに登壇したのはジー・モードのプロデューサー、竹下功一氏。竹下氏は「OU」の完成についてのコメントを求められ「発売できる日は永遠に来ないんじゃないかと思ったこともありましたが、この日を迎えられて感無量です」とのこと。こうした感慨は、「OU」が当初の予定より開発にかなりの時間を要したことから来るものだろう。この辺りの経緯については、先日公開されたインタビュー記事もあわせてチェックしてほしい。
また、イベント会場に下北沢トリウッドを選んだのも竹下氏だという。新海誠氏のアニメーション監督デビュー作「ほしのこえ」をはじめ、さまざまなアニメーション作品を上映しているトリウッドのスクリーンで、美しいグラフィックや繊細な音楽といった魅力を持つ「OU」のイベントを開催したいという竹下氏の念願が叶ったのが、今回のイベントだったというわけだ。
そんな劇場スクリーンで「OU」の最新PVを最速公開。穏やかなシーンが多かったこれまでのPVとは異なり、不吉さを感じさせるシーンや楽曲が使用されており、「OUが持つ“陰と陽”の“陰”の部分」を描いているとのことだった。
ここで「OU」の生みの親である企画・脚本・アートを担当した幸田御魚氏、room6で開発のディレクションを担当した木村まさし氏、音楽を担当した椎葉大翼氏も登壇。
幸田氏は、「OU」とはどんなゲームか? と聞かれ「ゲームとしては不純かもしれないが、ゲームという垣根をぶっ壊すような作品にしたかった」と回答。ゲームシステムとして奇抜なものではないが、表現としては新しいものに挑戦しており「ゲームの形をした何か。」「だいじなおはなしが、あります。」といった言葉が、そうした本作のあり方を表しているということだった。
ゲームの導き手となるサリーが日本人にはあまり馴染みのないオポッサムという動物になった理由については、「OU」がメキシコの文化をモチーフとしており、メキシコではオポッサムがとても愛され、伝説にもよく登場することから着想を得たとのこと。オポッサムの導き手がいることも含め、完成したゲームに組み込まれている要素の多くが最初に幸田氏から竹下氏にプレゼンした最初の企画書の時点で組み込まれていたという。
「OU」を作る上で“とくに力を入れた、注目してほしい部分”を問われた幸田氏は「すべてに注目してほしい」と回答。自身が手掛けたアートや物語はもちろん、room6が手掛けたゲーム部分に、椎葉氏の音楽、ハフハフ・おでーん氏らによるアートディレクションや、竹下氏の想いなど、さまざまなものが混ざり合って、唯一無二の味わいや栄養が詰め込まれた“納豆のような作品”であると喩え、「ちょっと癖がある味わい」という意味でもやはり“納豆”の喩えがぴったりかもしれない、と付け加えた。
“グルメガイド”とは……?「最初にたどり着くエンディング」のひとつが明かされた実機プレイ
イベントでは劇場スクリーンを使った「OU」の実機プレイも行われた。操作するのはプロデューサーの竹下氏で、幸田氏をはじめとしたほかの登壇者はこのプレイを観ながらコメントをすることに。
本作のゲームシステムで特徴的なのが、気になる対象にふせんを貼る/投げることで、対象物に関するテキストが表示されるというもの。これについて幸田氏は「絵本を読んでいるようなゲームプレイにしたかった」と語る。水の中に飛び込んで次の場所に移動するという印象的な設定は「ただ次の目的地に向かっているだけの時間を廃して、大事な場面から大事な場面へと次々にファストトラベルする」といったイメージによるものだという。特殊な“ふせん”を使ったちょっとした謎解きを行う場面も。
プレイ中の「OUを色に喩えると何色?」という質問には、幸田氏と竹下氏が「オレンジ色」と回答。そもそも「OU」というタイトルが決まる前の仮タイトルが「プロジェクト・オレンジ」だったと明かした。
実機プレイの終盤では、なんと「OU」1周目クリア直前のセーブデータを用いて、“最初のエンディング”までをプレイ。なお、この1周目の結末自体も複数用意されているという。本稿ではその一部始終にはあえて触れないが、主人公のOUが“破壊者”となる、かなりビターな展開となっていた(最新PVでもこうした展開の一端は描かれている)。
OUが破壊者として成すべき目的を示すインターフェースは開発中“グルメガイド”と呼ばれていたとのこと。製品版でこの展開を迎えたとき、思い出したらちょっとブラックな笑みがこぼれそうだ。あわせて本作が“周回プレイ”で展開や結末が変化するゲームとなっており、エンディング曲も結末にあわせて複数用意されていることも明かされた。
幸田氏によると「謎めいた問いかけのような台詞も多いが、伝えたいメッセージは本当の最後のエンディングで明かされる」とのこと。また、OUとサリーの関係もエンディングを迎えるたびに深まっていき、最後には「サリーを抱きしめたくなる」はずだということだった。
「ゲームをクリアしてもアンインストールせずにデータをとっておくと、いいことがあるかもしれないぞ!」
イベントは再びトークパートに。「OU」の背景のために描かれた幸田氏の原画の実物をスクリーンに映し、細部の描き込みを見せてもらうという贅沢な体験もさせてもらった。原画は大量の小石が敷き詰められたロケーションでも、コピーなどに頼らずひとつひとつ手描きで描き込んでいったという気が遠くなるような労作ばかり。
この原画を描く上でのこだわりとして幸田氏は「どれも横に長い絵だが、ゲームの進行によってどこで切り抜かれても一枚の絵として成立するものを目指した」点を挙げた。それまで絵を描くときはA4の用紙を使っていたが、本作ではA3の大きな用紙を使っており、そのために各種機材を新調。その労力から挫けそうになることもあったが「怠けるな幸田御魚!」「おまえらしくない!」と自分を奮い立たせ、これらの強い執念を感じるような絵が描かれていったという。
椎葉氏の楽曲制作に関する裏話では、幸田氏とは本作の制作が初対面だったが、90年代を中心に活躍したスウェーデンのバンド、カーディガンズがふたりとも好きだったりと意気投合したと明かした。椎葉氏が最初に手掛けた楽曲はゲーム冒頭に使用されている「尾っぽには火」とPVにも使用されている物悲しげな一曲「ジャカランダ」だったとのこと。
ボーカル付きの主題歌「おまじないのように」は幸田氏の歌詞にメロディを付けた、いわゆる“詞先”で制作された楽曲。あわせて幸田氏が求める楽曲の盛り上がりを歌詞にあわせた“棒グラフ”にして送ってもらい、これと言葉のニュアンスに寄り添ったメロディにしたこと、そしてボーカルを担当したみけたはなさんの甘く囁くような声によって、椎葉氏自身としてもお気に入りの一曲になったそうだ。
これらの楽曲はゲームと同時にSteamで発売される「OU オリジナル・サウンドトラック」に収録されており、このサントラもぜひ買ってほしいとアピール。
椎葉氏は「OU」の音楽について、「良い音響でプレイしてみてほしいのと同時に、Switchのスピーカーで聴いても心に響くものになっている」はずだとし、「いろいろな音響でプレイしてほしい」と締め括った。
「OU」の制作に際し、幸田氏は竹下氏から「問題作になってもいいです、作りたいものを作ってください」と伝えられ、通常のゲーム制作ではほとんどあり得ないほどに自分の頭の中にあったものがそのまま形になったと振り返る。また、そうして完成した「OU」を「刺さった人には抜けない作品」と評した。4人の登壇者が口を揃えて「ぜひ最後のエンディングまでプレイしてほしい」と言っていたのも印象的だった。
また、最後のコメントで幸田氏は「ゲームをクリアしてもアンインストールせずにデータをとっておくと、いいことがあるかもしれないぞ!」と、発売後“なんらかの展開”の可能性があることを示唆。ゲームをクリアしたあとも、「OU」の作品世界に魅せられたプレイヤーには、さらなるワクワクが待っているのかもしれない。
(C)G-MODE Corporation
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