2023年8月23日~25日にわたって開催された「CEDEC2023」。本稿では23日に行われた講演「【男性にも知ってほしい】フェムテック×ゲーム業界」のレポートをお届けする。

女性の社会での活躍が増えたことを受け、近年取り上げられるようになった“フェムテック”という概念。2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされた言葉だが、女性の身体や心にまつわる部分ということで、未だに男性だと触れづらい風潮があることは確かだ。

しかし、“女性に特有の悩み”に対する知識を誰もが正しく持つことは、業務の生産性の向上や、離職率の減少にもつながるという。本講演は、フェムテックという概念を男性にも知ってもらうことで、ゲーム業界を誰もがよりよく働ける場所にするべく企画されたものだ。

登壇者は、エムティーアイにてルナルナ事業部・事業部長を務める日根麻綾氏、ビジネス活用形バーチャル空間構築プラットフォーム「XR CLOUD」を手掛けたmonoAI technologyの代表取締役社長であり、フェムテックを学ぶ重要性を感じているという本城嘉太郎氏、セガサミーホールディングス総務本部・コミュニケーションサービス部の茂呂真由美氏の3名。

なお、取材した筆者も男性であり、ぼんやりとした知識しか持っていなかった部分が鮮明になったり、初めて知ることもあったりと、学びの多い講演だった。ぜひとも多くの方にご一読願いたい。

第1部 フェムテックとは(市場・将来・商品)

フェムテック(Femtech)とはFemale(女性)とTechnology(テクノロジー)の造語。生理や妊娠、避妊、セクシャルウェルネス(性の健康)、更年期障害といった女性が抱える健康の課題を、テクノロジーで解決できる商品やサービスを指す。

世界市場のマーケットには非常に多くの企業が参画しており、下の図には2020年時点でフェムテック市場に参画していた484社が描かれている。2023年現在はさらに増えているかもしれない。また、この市場は2025年までに5兆円規模になるとの見込みもあるそうだ。

日本でも女性の社会進出の拡大もあり、急成長しているフェムテック市場。下の図は日本におけるフェムテック市場の2023年最新版マーケットマップ。経済産業省が2021年より補助事業を開始したといった背景もあり、関連企業も増え、世界市場を追うように拡大中となっている。

フェムテックが日本でも注目されるようになった背景としては、女性の月経随伴症状(生理前や生理中の身体的・精神的な不調のこと)による労働損失への関心が高まってきたことが挙げられる。経済産業省の試算によると、この損失は金額にして約4,900億円にものぼるという。こうした損失は、社会全体が女性特有の悩みを正しく理解することで軽減できるはずだ。

実際に販売されている代表的なフェムテック商品の紹介も行なわれた。まず、紹介されたのは、ナプキンやタンポンに続く第3の生理用品として注目を集めている「月経カップ(メルーナカップ)」。茂呂氏も使用しており、非常に便利だという。

使用時は縦に折り畳んで腟内に挿入。体温で膣の形に沿って変形する素材を使用しているため、違和感を感じにくいのだそう。特徴としては、洗ってくり返し使える点があり、正しく手入れをすればひとつで数年~10年にわたり使えるとのこと。連続使用時間の目安は8時間。ナプキンは経血が直接肌に触れる不快感や肌トラブル対策から1日に複数回の取り替えが推奨されることを考えると、忙しい日にも頼りになるようだ。

「ケーゲルベル」は出産時や更年期前後の使用を想定した、尿漏れが気になる人のための骨盤底筋トレーニングアイテムだ。尿漏れは、走る・ジャンプする、咳・くしゃみをするといったふとした瞬間に発生する場合がある。これを防ぐ役割を担っている骨盤底筋は、デスクワークが続くなどして鍛えそびれていると緩んでしまうのだそう。

普段から骨盤底筋を鍛えるために有効なのがこのケーゲルベルで、使い方は黄色い部分を膣に入れて、先端に付いたおもりをキープさせるというもの。おもりは軽いものから始めて徐々に重いものに挑戦するのがセオリーで、この点は普通の筋トレと変わらない。付属している3つのおもりの組み合わせで、8段階のトレーニングが可能になるそうだ。

「エルビートレイナー」も膣内に挿入して使う骨盤底筋トレーニング用のフェムテック商品だが、こちらはスマートフォンアプリ連動型。腟内の筋肉の圧力を感知して、アプリ内ゲームに反映される。結果が自動的に記録されることで、よりよい結果を目指すモチベーションにつながるとのこと。ユーザーコメントでも「ゲーム感覚で楽しい」「尿漏れが気にならなくなった」といった声が寄せられており、娯楽性と実用性を両立した商品となっているようだ。

「エンバーウェーブ2」もスマートフォンアプリ連動型のデバイスで、腕時計のように取り付ければ、手首を温めたり、冷やして体温調整に役立つという。不眠やホットフラッシュ(ほてりやのぼせ、発汗などが起こる)といった更年期症状を緩和する商品で、これまでに紹介してきた商品と異なり、男性も使える。

そして日本市場のフェムテックのパイオニアと言えるのが「ルナルナ」だ。生理日、排卵日の予定日を通知で知らせてくれるため、先手を打ってこれらへの対処がしやすくなり、安心して生活や仕事ができると、多くの女性が使用している。

ほかにもダイエットに適した時期など、さまざまな身体と心のコンディションの情報が得られる機能が充実。アプリの存在は男性でも知っている人が少なくないと思うが、ガラケー時代からあったというのは初耳だったので、筆者は驚いた。

講演の第2部では、そんなルナルナの「これまでと、これから」についてが日根氏から語られた。

第2部 女性の健康情報サービス「ルナルナ」について

「ルナルナ」のサービス開始は2000年。しかし年表を見てみると、そこから2010年までの10年間はほぼ省略されている。実はこの期間は、キャリアの公式サービスとして展開するための認可を取ったり、プロモーション用CMの考査の通過を目指したりと、サービス拡大に尽力していたそうだ。その期間の長さからも、現在以上に強かったであろう“生理のタブー視”といった風潮の影響がうかがえる。

2010年以降は全国でTVCMを展開するなどして利用者が増加。ここ数年は医療との連携にも力を入れており、2022年12月には1,900万ダウンロードを突破。まもなく2,000万ダウンロードに到達しようというところだという。

ルナルナのコアにある機能はやはり月経日(生理日)/月経周期の記録管理。ユーザーが体調変化も記録することで、ヘルスケア情報も提供される。2018年ごろからフェムテックという言葉が広まったことで、フェムテックサービスの先駆けとして紹介される機会も増えたそうだ。

続いて講演のスライドには、「450回」という数字が映し出される。実はこれ、「現代女性が生涯で経験するおおよその月経回数」なのだという。

また、月経は“月に一度の出血”だけを意味しない。月経から次の月経までのサイクルの中で、体内では2種類の女性ホルモンの分泌量が変化しており、心身にさまざまな影響をおよぼす。生理周期の管理は女性にとって「自分の体調を知るための大切なバロメーター」でもあるのだ。

スライドにて3つの時期で分けられている生理周期。“卵胞期”は、卵胞が育ち、排卵の準備をする期間。このとき受精していた場合は妊娠し、“黄体期”に細胞分裂をくり返して着床を迎える。受精・妊娠していない場合は生理がある“月経期”を迎え、また卵胞期に戻る。

これらの周期にともなう大きなトラブルは2種類存在する。月経期の生理痛(月経痛)はよく知られているが、もうひとつが黄体期に“黄体ホルモン”の増大によってイライラや抑うつ状態、身体的な痛みなどの症状が出るPMS(月経前症候群)だ。

ルナルナの調査によれば、このPMSによる身体的・精神的な症状を感じたことがある女性は94.5%にも及んでおり、86.6%の女性は「仕事に影響がある」とも回答しているという。生理痛もあわせると、症状が重い女性は1ヶ月のうち3分の1~半分近くもの期間において万全の体調で働けないことになり、男性も知らぬ存ぜぬでは済まない問題と言えるだろう。

こうした状況も踏まえ、ルナルナは女性のライフステージの変化にも寄り添うべく、サービスを展開。現在も生理日予測がコアのサービスであることは変わらないが、女性ヘルスケア全般へと提供価値を拡大するため、さまざまな挑戦を続けている。

産婦人科医との連携ツール「ルナルナ メディコ」は、利用者が利用許諾をすることで1000軒以上の産婦人科クリニックとのデータ共有が可能。気軽に受診できるようにし、診療の質の向上にも貢献しているそうだ。

気軽な受診という点では、スマホで婦人科受診を可能にする「ルナルナ オンライン診療」でも、女性と産婦人科との関係構築をサポートしているという。

社会に向けた取り組みとしてFemale(女性)とEducation(教育)を掛け合わせた「FEMCATION」と名付けたプロジェクトも実施中。女性の身体のことをより広く知ってもらい、社会の問題として認識してもらうためのコンテンツや、アンケートをもとにしたデータの提供などを行っている。

また、FEMCATIONにおける少し変わったアプローチとしては、女性の健康課題に対して男性側の声を集めたこともあったという。これにより「男性も若い世代ほど女性の身体について学ぶ必要を感じている」「女性の健康問題に関する福利厚生制度が充実している企業に所属する男性ほど女性の身体について学ぶ必要を感じている」といったデータが出たという。

男性が女性特有の身体の問題を学ぶ機会は限られているのが現状だ。学校の性教育での焦点は生殖や妊娠にあり、先ほど出てきたPMSといったものにまで触れることはほとんどない。ほかには家族や女性パートナーから聞く機会はあるかもしれないが、第3の学ぶ場として職場がよりよい機能を果たす可能性があると、アンケートの結果は示していた。それがルナルナの、企業とのパートナーシップによるセミナーの開催などにつながっているということだった。

第3部 パネルディスカッション

第3部ではここまでの話を受けて、男性である本城氏も交えたパネルディスカッションが行われた。

本城氏は「ぜんぜん知らないことがたくさんあってびっくりした」「職場で接してきた女性の方は、身体の不調などを感じさせないように振る舞ってくれていたのかもしれないと思った」と、素直な驚きを口にした。

茂呂氏から「女性から男性の上司への相談のしづらさ」について話を振られた日根氏は、会社で「話しやすい空気感」を作るのが重要であるとした。たとえばセミナーを受けるなどして「男性社員も自分たちと同じ知識を得ているんだ」と分かれば、相談に関する心理的な抵抗感はグッと減るのではないか、ということだった。

また、先述の男性へのアンケートでは、女性社員の体調が心配でも「下手に聞くとセクハラになってしまうのでは?」という不安もあり、なかなか口にできないといった葛藤の声も上がっていたという。女性・男性ともに、異性とのコミュニケーションのハードルを下げる意味でも“男性が学ぶ機会を取り入れる”ことは、有効であると言えそうだ。

日根氏は女性の気持ちについて「心配してほしかったり、休ませてほしいわけではない」とした上で、女性も仕事で成果を出したり、出世したいといった思いは男性と同じであり、身体の不調で「成果を出しにくい、本来のパフォーマンスが出せない」といったことに悩んでいる人が多いはずだとした。

たとえば月経随伴症状は低用量ピルを使えばほとんど取り除ける場合があり、エムティーアイでもオンライン診療でピルを処方する社内制度を設けたところ、女性社員のパフォーマンスはハッキリと上がったという。

また、医療的な処置を受けることでパフォーマンスの改善が考えられるのは、更年期障害も同様とのこと。茂呂氏は、更年期障害は性別問わず訪れる問題であるため、高齢化が進んでいるゲーム業界全体で準備を進めたほうがよいのではないかという考えを示した。

ディスカッションの話題は「ゲーム業界としてできることはあるか?」というものに。本城氏によると、新薬が開発されたときなどのカンファレンスをメタバースで開催するといった試みがすでに行われているなど、メタバースは医療業界との相性が良いのだという。

また、monoAI technologyはフルリモートでの業務を恒久的に行う宣言をしており、社員が事務所へ出社していた頃より、女性社員の休みが減った印象があるという。また、アバター同士ならば面と向かって相談しづらいことを言いやすいといった可能性も考えられる。そういった形で、女性が働きやすい体制づくりにテクノロジーを活用する方法はあるのではないかということだった。

茂呂氏から「ゲーム業界に期待すること」を聞かれた日根氏は、若い女性の産婦人科受診率の低さに言及。月経にともなう心身の問題も産婦人科で扱っているにも関わらず、妊娠するまで受診しない女性は未だに多いのだという。オンライン受診により以前よりハードルは低くなっているが、産婦人科医療の側でメタバースに対応するなどの展開があれば、いっそう「勇気を出さなくても健康になれる」世の中になるのではないかと提案した。

最後に、講演の終盤には質疑応答の時間が設けられていたのだが、残り時間の関係で取り上げられなかったオンラインでのコメントに、近い内容のものが複数寄せられていた。それは、生理にともなう体調不良の際「出勤は難しいが、リモートワークで仕事をしたい」と希望を出したところ、「出勤できないほど体調が悪いのならば、休んでほしい」と言われたことがある、というものだ。

こういった要望は、女性と男性、もしくは女性間でも体質の違いによっては、ニュアンスが伝わりづらい部分かもしれない。社員の要望に応えたほうがよいとは感じるが、「休んでほしい」というのも相手のことを心配しての提案ではあるのだろう。

このあたりの齟齬を埋めるためにも、やはり女性に特有の健康課題を男性も含めた多くの人が正しく理解すること、そしてそれによって、会社内、そして社会が、心身にまつわる相談を気軽にし合えるものになっていくことが望ましいと感じられた。

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