千葉・幕張メッセにて9月21日~24日にかけて開催の「東京ゲームショウ2023」。「桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!~」の監督/ゲームデザイン 桝田省治氏、コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサー 岡村憲明氏へのインタビューをお届けする。
――球体マップにする際、今までのシステムから変更した点や、ゲームプレイとして変わった点をお聞かせください。
桝田氏:具体的に言うと、こちらでこういう風に作りたいというのを開発会社に正しく伝えることが難しい。マップを紙などに書いた時点では平面なので、作ってほしいイメージを上手く伝える方法がないんだよね。「地球の裏側カード」(※文字通り、地球の裏側に飛ばされるカード)を用意していることからも分かる通り、緯度と経度を全て持っているんだけど、直す時とかもどう直すかを北緯何度のやつをもうちょっと東に動かして、みたいな表現になって。
北と南の距離感も伝えづらくて、例えばロシアは球体ではメルカトル図で見るほどは大きくはないんだけど、開発会社に渡す時には北のほうが伸びちゃうので、それをどう連絡するところからまず入る。だから球体では基本的なコミュニケーションを取るのがまず難しいんだよね。
当たり前だけど、毎日天気予報を見ていると毎日日本地図を見るから北海道が北にあることは誰でも知っている。でも日本以外だとその場所を言われても聞いたことがあっても、方向も距離もわかんないんだよ。だから次の目的地は、ってなった時に地球を出してぐるっと回すことで大掴みにわかってもらおうと。
あとはいつもの矢印だけじゃ足りないから今作では最短ルートが分かる機能を入れていて、CPUには相当な負荷がかかるけど、プレイヤーが迷わないようになんとか実現しました。
――「桃鉄」ファンの中にはソロプレイで100年やって全物件を制覇するというのを1つのプレイスタイルにしている人はいると思うのですが、今回は今までのセオリーが変わってきている部分があると思いますので、そういう遊び方をする人に向けてのコメントをいただけますでしょうか。
桝田氏:ごくごく平均的な「桃鉄」のプレイヤーは、100年やっても全物件は買えません。全物件を買うための作戦というのを何回か考えて、そうすると60年くらいで全部買えるんだったかな。
僕自身が最初に全物件を買えたのって、90何年かのギリギリだったんだよ。それはやっぱりマップが広いっていうのと、CPが粘って1個だけ買っている駅があったりして。だからある程度までいくとCPが抵抗をやめるというモードとかを作ったんだけど、それでも結構難しいよ。もちろんできるけど、強いCPを2人選んじゃうと意外と難度が高いかなと。
――舞台が世界になるというところで、目的地も世界各地の都市になっていますが、場所の選定などはどういうところにこだわったのでしょうか?
桝田氏:すごく大雑把なイメージで申し訳ないんだけど、最初に作り始めた時に子どもたちがオリンピックの入場行進を見た時に「桃鉄で行ったことがある」と言わせよう、という目標を勝手に掲げたの。その目標ってあとから考えてみるととんでもなくて、オリンピックってすごくたくさんの国が参加しているので、とりあえずそれらの国はもうできる限り入れようと。そうすると知らない国とかもあるんだけど、首都を中心に1つは入れるようにしています。
さすがにアメリカ、ロシア、中国といった面積の広い国はさすがに1つというわけにはいかないから、そこは結構多いよね。アメリカって、こんなに広いんだと。
岡村氏:今回、全てではないものの、国旗を表現できる国や地域に関しては割としっかり入っています。これに関しては、日本旗章学協会の苅安望さんという方に監修いただいているので、旗も正しいものになっています。やはり日本人の感覚だと分からなかったりしますし、世界でいろんなことが起こっている状態の中で、旗一つとってもそうですし、国の表現というようなものに関しても、できる限り正確にやるというのはこだわった点ですし、自信を持っています。
――国旗は世界を知る上で大きい部分だと思いますが、小さな子供や家族で遊ぶ上で勉強になるようなポイントはありますか?
桝田氏:とりあえず“こんにちは”は覚えてもらおうかなと。
岡村氏:それを言うだけでものすごい数の声優さんの名前がスタッフリストに載っていますよ。
――それは目的地に着いた時に聞けるのでしょうか?
桝田氏:そうそう。基本的に全員ネイティブで、世界中のスタジオを繋いでリモートで海外スタジオの録音に立ち会いました。まだ出てないニュースで言うと、日本語の声優さんは大原さやかさんです。電車の中の声といえば、ということで。
――10年以上の時を経て、もう一度世界をテーマにするというのを決めた経緯やきっかけはあるのでしょうか?
桝田氏:さくまさん(※制作総指揮のさくまあきら氏)が作ってほしいと言ったからですよ。そもそもは、「桃鉄」という、ゴールしたら次の目的地と違うルートが現れるというシステムはすごくベーシックで世界でも通用するから、そのうち世界版を作れば、と前々から言っていたんだけど、ある日突然、「君が作れば?」という話になって。
岡村氏:その答え合わせが今日(のステージ)でありましたね。さくまさんに関しては制作総指揮というかたちで入っていただいて、すごくプレイしていただいていますし、大事なところでのアイデアもたくさんいただいています。プレイの評価もたくさんいただいて直しているので、監修をしっかりされているものだと思っていただいて良いのかなと。
桝田氏:無茶な仕様ほどさくまさんです。僕はさくまさんが30年間育てたブランドを預かっているわけだから、当てなきゃいけない。「桃鉄」という枠の中からなるべく出ないように、でも世界だからちょっとはなんか変えなきゃというところで考えていると、ある日さくまさんが「いや、世界だったら新幹線じゃなくてジェット機だろ」と。
岡村氏:そこはもう全力でプロデューサーの立ち位置から、「“電鉄”は残したい」と伝え進行系のカードが飛行機に変わるという仕様になりました。
桝田氏:僕が海の上にも線路走ってもいいんじゃないって言ってたら、(さくま氏が)その上を飛行機が飛べばいいんじゃない、と言うから「おいおい」と思ったけど、でも飛ばしてみたら割とゲームとしてわかりやすいし、お客さんも別に線路の上を飛行機が飛んでいることに対して変という人っていないんだよ。
岡村氏:結果的にやっぱりすごいなと思ったのは、「桃鉄」を壊せるのはやっぱりさくまさんなんだな、というのもあるのと同時に、今作の商品としての一番コアとなる考え方の部分が飛行機になることで筋が通って形が見えた部分というのがあります。こういうアイデアを出せるというのがやはり天才・さくまあきらさんだなというのは日々勉強させていただいています。
桝田氏:あと周遊を止めてタンクにするのもさくまさんが出したアイデアだね。「前からこっちの方が分かりやすいと思ってたんだよね。でも本編の「桃鉄」でいきなり変えちゃうと、ユーザーさん分からなくなるから試しにやってみて」と。実際に入れてみるとゲーム性がだいぶ変わっていて。給油マスというのは目的地に入るのと同じくらい重要だから、給油マスに入るのにスペシャルカード使う価値があるというくらいには大事になっているなと。
そもそも、さくまさんは最初は別にタンクとも言ってなくて、使える回数がわかるようにしたいと。最初は数字はどうだという話だったんだけど、急行とか特急に変わる分かりやすい等級を考える時に、“サイコロ2個カード”みたいなのが一番わかりやすいじゃない。今までの分かりやすさを超えられないから、そこに数字を使っちゃうと後ろにも数字つけるわけにいかなくて、図示しなきゃいけないなという。
こんな一文字分のところにどうやれば回数を入れられるかを考えた時に、四角の中に一番見えやすい3本の線を入れるアイデアが出てきて、タンクに見えなくもないという話になって、じゃあタンクと言っちゃえば分かりやすいなと。ゲームとしての概念を言葉や絵にしてプレイヤーにとってすっと入っていくものにしたり、そういう記号を探すのが意外と難しいんだよね。
――世界旅行ボンビーとばらまきボンビーのデザインはどなたが考えられたんでしょうか?
桝田氏:僕らが考えたのはもう少し天使のパチもんみたいな感じだったんだけど、竹浪さん(キャラクターデザインの竹浪秀行氏)に発注したら上がってみた感じのものになったんだよね。やることも球体マップを活かすためのボンビーというのと、100年プレイしてもそれなりにダメージを受ける、汎用性の高いボンビーというので選んだので。
――ステージではさくまさんや桝田さんが抜けた後の「桃鉄」という話をされていましたが、そちらの考えについてお聞かせください。
桝田氏:僕やさくまさんももういい歳だし、どんどん体が動かなくなってきていて。だから僕らが抜けたりした後に、他の人が作っても「桃鉄」っぽく遊べるような仕組みを作りたいなと。岡村さんも一生懸命「桃鉄」をやってくれているし。
今までのって全部さくまさんの職人芸で、言うなれば100年継ぎ足している焼き鳥のタレとかなんだよ。だから、僕らが今やっているのはそのタレの中身が何であるのかというのを分解して、誰でも組み立てられるようにする作業で。すごく簡単に言うと、今までさくまさんがたくさんの人のプレイを見た上でこれは20年目から始めようとしていたイベントを、世界中の盤面に出回っているお金の量が20%になったら始めようというものになっているの。普通の人がやる分には全く変わらないと思うんだけど。
その結果、何が起きるかというと、例えば被害にしても得られるお金にしても原則的には到着金の何倍、何分の1倍というようなかたちで管理されているの。到着金というのは地球上に出回っているお金の何分の1というかたちで、原則的には指定されているということ。つまり、イベントだけ作っておいて、入れ替えたらどこでもいけるんだよね。
あるいは、下手な人同士が30年ぐらいかかって出てくるような接戦が、上手な人同士がやると10年ぐらいで起きたりするようになったり。それがわかってくると、逆にそういうバランスを引き起こすためにはどうすればいいかということまで多分分かってくると思うんだよね。