MyDearestから2024年に配信予定の王道ロボットアクションVRゲーム「Mecha Force -メカフォース-」。その開発を担当するMing Studioのソン・イハン氏へのインタビューをお届けする。
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MyDearestがMeta Quest向けに配信予定の「Mecha Force -メカフォース-」(以下、「Mecha Force」)。MyDearestが日本でのパブリッシングを、中国のデベロッパーであるMing Studioが開発を担当するVRロボットアクションゲームだ。

今回はMing Studioで本作の総合プロデューサーを務めるソン・イハン氏を直撃。本作の開発の経緯から、開発中の新要素、ソン・イハン氏が愛する日本のロボットアニメ・ゲームについての熱いトークまで、多岐に渡る内容となったインタビューをお届けしよう。

日本語を学び始めたきっかけは「スパロボ」や「ジージェネ」
――まず、本作が作られるまでの簡単な経緯を教えていただけるでしょうか。
ソン・イハン氏(以下、ソン氏):まず、自分は中国のNetEaseという会社で、VRゲームとスマホゲームの開発をしていました。VRゲームは「Twilight Pioneers」「Stay Silent」、スマホゲームはライセンスを許諾して開発していた「ポケモンクエスト」というタイトルです。
それらの開発が一段落した2021年頃、その時の開発メンバーの一部で独立して融資をいただいて、Ming Studioを設立しました。その時からVRゲームの開発をしたいと思っていて、そのためにはどういうジャンルが一番VRに向いているのかをいっぱい考えました。

やっぱりアメリカの方では、アクションゲームやFPSゲームがVRでも流行っていたんですが、もうその頃からFPSはかなり激しい競争になっていたんです。なのでそっちだけはやりたくないなと思って、まずアクションゲームというところから考え始めました。
その上で、私個人のこだわりや趣味として、日本のロボットアニメとかロボットゲームとかが大好きなんですね。スタジオの創立者の4人はみんな男性で、皆ロボット好きだったというのもあって、ロボット系のアクションゲームを作ることになりました。
――VRゲームを作るのは最初に決めていたんですね。
ソン氏:はい。とくにコクピット視点のロボットゲームは、VRとの相性が最高だと思いましたから。その計画はスムーズに決まりました。
――ただ、ロボットのVRゲームとなると、なかなかニッチなところを狙っている印象もあります。マーケティング的にはどんな狙いがあったんでしょうか。
ソン氏:ターゲットとしては、やはりこうした日本系のロボットゲームが好きな層になります。確かに今流行っているのはゾンビものやFPSなんですが、我々はスマホゲームも長く作ってきたので、こういう流行りは円みたいにループしていくものだということも知っています。
スマホも、最初に流行っていたのは「アングリーバード」のようなアメリカ的なゲームでしたが、今では「崩壊」シリーズや「原神」、「ウマ娘 プリティーダービー」みたいな、日本的なゲームが流行っていますよね。
Meta Questはアメリカのハードですし、最初にアメリカ的なゲームが流行るのは当然のことだと思いますが、徐々にいろんな文化圏からすごい作品がどんどん出てくると思っています。我々はスマホゲームには間に合わせられなかった分、VRでこうしたゲームの先駆けとして頑張ってみたいなと思っています。

――スタジオとしてはかなり挑戦をしたタイトルなんですね。
ソン氏:はい、間違いなく“賭け”でした。その分、やっぱり最初は心配しましたけれど、リリースした体験版の評判がすごく良くて安心しましたね。
――先ほどから、日本語が大変ご堪能で驚いているのですが(※本インタビューは通訳を介さずに行われている)、ずっと中国におられたんですよね?
ソン氏:はい、今まではほぼ中国にいて、中国の会社でゲームを作っていました。日本語を学んだきっかけは「スーパーロボット大戦」や「SDガンダム ジージェネレーション」といったロボットゲームなんです。もちろん最初は日本語が分からなかったんですが、ロボット達の顔や名前、イラストがカッコいいと思って、無理やりクリアしていました(笑)。
そこから中学生くらいの頃には、なんとなく日本語が理解できるようになっていましたね。喋りや聞き取りはだいたい覚えたんですが、書くのだけは難しくて全然できなくて、その辺は大学に入ってから勉強しました。
――ゲームをきっかけに日本語を覚えられたんですね。
ソン氏:はい。僕は「龍が如く」シリーズも好きなんですが、「龍が如く」のキャラって、ちょっと汚い言葉を使うじゃないですか。だから大学で日本語の授業に出た時に、先生から「お前の日本語は汚いな」と指摘されたことがあります(笑)。
――(一同爆笑)
ソン氏:今は一通りできるようになりましたが、まだこういう場面(インタビュー)は緊張します(笑)。MyDearestさんと協力関係になってからは、会議中に皆さんがどういう風に敬語を使っているのかたくさん聞いて学びました。おかげで、今の状態は半年くらい前に比べるとずっとマシになっていると思います。
出撃シーンは周囲からの反対を受けても実装に踏み切った
――本作の開発がスタートしたのはいつ頃だったのでしょうか?
ソン氏:始まったのは2021年頃で、期間としては2年~2年半くらいはかかりました。
――先ほども少し話題が出ましたが、リリースされた体験版の反響はいかがでしたか?
ソン氏:良かったと思います。先ほどのお話の通り、結構挑戦的なゲームのジャンルを選択したなとは自分でも思っていたんですが、最初はやっぱりアメリカでの反響が中心でした。
そもそも、アメリカとヨーロッパに向けてゲームを作らないと売上が保証できない部分もあったんですが、アメリカの方で60点くらいの評価をもらったんです。これくらいあれば、ゲーム自体は10~15万本くらいは売れる見込みが立ちます。
元々そこまで開発コストは高くないゲームですので、それでも十分じゃないかと思っていたところ、1~2ヶ月経ったら日本のプレイヤー数と評価がバーっと上がり始めました。

ちょうどその頃、MyDearestさんもパブリッシャーとしての事業を始めたいと思っていた時期だったみたいで、元々本作は日本的なゲームですし、日本のパブリッシャーと協力するというのがすごくいい話になるという自信もあったので、お願いしてみようと。
実は、僕は元々「ALTDEUS: Beyond Chronos」というVRゲームのファンで、ディレクターの柏倉さんもすごく尊敬しているので、すごくいい契約を結べて良かったと思っています。今回のインタビューもそうですし、日本向けのプレスリリースなども出していただいています。
そのおかげなのか、最初のプレイヤー割合は日本で1%くらい、ヨーロッパとアメリカが残り99%くらいだったんですが、今では日本だけで30~40%くらいになっています。もちろん、総数が増えた上で比率が変わっているので、すごく手応えを感じています。
これからは日本だけではなく、中国や韓国でもすごいスピードでVR市場を広げていける自信もありますので、とてもいい話だったと思っています。
――日本の割合がかなり高くなっているんですね。中国の方のVR市場はどのような規模なんでしょうか。
ソン氏:中国の場合は、日本よりうまくいっていないですね。一応、売れたVRハードの台数自体は日本と同じくらいなんですけれど、中国は人口が14億人いて100万台しか売れていないわけですから、まだまだ広がっていないのが実情だと思います。
――本作を作る上で、もっともこだわったポイントは何でしょうか?
ソン氏:やっぱり、ロボットアニメやロボットゲーム的なロマンですね。これは私の友人や中国の人たちにはなかなか理解してもらえない部分なんです。
例えば、以前にリリースとして出した画像の中に、パンチで敵を攻撃する技の時に「流星拳」という漢字が演出で入るシーンを入れたんですが、日本で発表した時だけすごく盛り上がってもらえました。だから日本向けに情報を出せなかった最初の1年や1年半は、ほとんど分かってもらえる人がいなくて寂しかったんです(笑)。日本のユーザーの方々はそこを皆分かってくれるので、本当にありがたいですね。

――個人的に、体験版をプレイしていてすごく興奮したのが出撃のシーンでした。あれもまさにロボットアニメのロマンが詰まっているなと。
ソン氏:ありがとうございます。ですが正式版では、もっと進化させる予定です。実際、あそこはかなり工夫した部分で、結構作るのにお金もかかったんです。ウチのディレクターからは「コスパが悪い」と言われましたが(笑)、「もう死んでも作りたい!」というメンバーが自分以外にもいて、なんとか完成させられました。
――確かに、1回目、2回目はいいんですが、繰り返しやっているとスキップしちゃいますしね。
ソン氏:そうなんです。それでも完成したものを見た時には、「作って良かった」と言ってもらえたので良かったと思っています。最初は嫌がられたので、いろいろ大変でしたけどね(笑)。
――体験版をプレイさせていただいて、想像していた以上に歯ごたえのあるゲームだと感じたんですが、製品版の難易度調整はどのようになるイメージなのでしょうか。
ソン氏:これはスタジオとしてのこだわりなのですが、皆高難易度のゲームが好きなんです。僕個人としても、ファミコンやスーパーファミコンくらいの時代のレトロゲームが好きで。あの頃のゲームって結構難しかったじゃないですか。「スーパーマリオブラザーズ」とか、今でもハマっているプレイヤーが大勢いるのは、やっぱりその難易度があって挑戦したくなるからで、今でもIPが続いている要因の一つだと思っています。
今の時代なら「ソウル」シリーズとかもそうですよね。その少し前は、ハードコアなアクションゲームが段々減ってきていた印象があったんですけれど、「ソウル」シリーズ以降はまた高難度のアクションゲームに対するプレイヤーの情熱が戻ってきているように感じていて、僕もそれはすごくいい傾向だと思っています。
やっぱり宮崎(英高)さんもすごく自分のこだわりがある方で、最初の「Demon's Souls」も“賭けた”ゲームだったじゃないですか。それでもゲーマーたちから受け入れられたんですよね。

僕も彼から学びたいと思って、自分の理念のまま高難易度にしたかったという想いはあります。ただ、やっぱり正式にリリースする時は、とくに前半はもっと簡単にすると思います。今の体験版の難易度は「これは高難度のゲームです」と見せたかった意図もあったので、あえて難しく作りました。
あとはチュートリアルについても、長くすると体験できる時間も限られてしまうので控えめにして、「パーッと戦ってパーッと終わる」みたいなイメージで調整していました。
――なるほど。「ロボットに乗れた!」とウキウキで突っ込んだら瞬時にボコボコにされたのは、そもそもそういう風に作られていたからだったんですね。
ソン氏:はい、それは狙っていました(笑)。最初の1回目や2回目の挑戦でやられて、死にながら成長していくのが楽しい部分だと思っています。
正式版では左右方向へのダッシュとロックオン機能が実装される
――ストーリーはどうなるのでしょうか? 体験版だとストーリー的な要素は控えめだった印象です。
ソン氏:正式版の場合は、さすがに体験版の時よりはストーリーの内容や演出の内容は増えますね。ただ、ストーリーや演出、アニメーションは結構お金がかかります。やはり今のVR業界は資金調達がなかなか難しく、本作もかなり限られた予算の中で作ったゲームだったので、最初からそこまで増やすつもりはなかったんです。
なので、できる限り他のローグライクゲームや「ソウル」シリーズのように、演出やストーリーをゲーム内に隠しました。例えばヒロインとの会話の中、武器のスキルの中、ゲームシステムの中とかですね。今のローグライクゲームは、ほぼどのタイトルも復活したりループしたりする仕組みがありますが、あくまでもシステム的なものとして扱われていることが多いですよね。

「Mecha Force」では、生き返ることに物語的な意味があった「SEKIRO」のように、システム的な要素もストーリーの要素の一つとして描きたいと思っています。最初は「宇宙人が攻めてきたから戦う」というシンプルなストーリーに思えるかもしれませんが、実はそう簡単ではないという仕掛けになっています。
――最初のクリアまではだいたい何時間ほどかかるボリュームで想定しているのでしょうか。
ソン氏:最初の1周目クリアまでは少し長くて、早くても5時間くらいはかかると思います。2回目以降は2時間や3時間くらいで回れるようになるかもしれません。
ストーリー以外にも、ボスラッシュやチャレンジステージなどの隠し要素も結構あります。最終的なエンディングを迎えるまでは、だいたい10時間くらいになるのではないかなと思います。
――プレイしていて、前後にはダッシュがあるのに左右にはダッシュがないのが独特だと感じたんですが、これは何か理由があったのでしょうか?
ソン氏:これについては結構長い話がありまして……。実は最初に作ったバージョンでは、左右のダッシュは存在していました。ただ、VR経験が少ないプレイヤーさんが遊ぶと左右のダッシュはVR酔いがかなり激しく、その頃はVR酔いを軽減する方法も使っていなかった状態だったので、削除せざるを得なかったんです。
そうしてリリースしたのがあの体験版だったんですが、過去のイベントに出展した際にも、「左右のダッシュが欲しい」という意見を多くいただきました。それで昨年の末頃に、やっぱりこれはつけた方がいいだろうという話になり、3月の大阪のイベント(ゲームパビリオンjp)に出展した時のバージョンから、左右ダッシュがついたものになっています。
――やっぱり、左右ダッシュが欲しいと思ったのは自分だけじゃなかったんですね。
ソン氏:はい。ただ問題は、Meta Questのコントローラーのボタンは全部使ってしまっていたので、空いているボタンがなかったことでして。現在はスティックを押し込みながら左右に倒すことでダッシュ移動ができるようにしています。
それと一緒に、ロックオンシステムも作っています。なかなかVRゲームにはない機能なので実装には苦労したのですが、プレイヤーが見ている方向の敵にロックオンのマーカーが表示されている状態で左右のダッシュを使うと、自動でその敵を中心に円状にダッシュするような動きに変わります。
テストプレイでは結構スムーズに動かせていて、とくにボスの技を回避したい時に役立つと思います。正式版ではVR酔いを軽減するための試みも行っているので、たくさんダッシュを使っても酔わないようになっていると思います。
“ロケットパンチ”から始まった本作の開発。音声入力システムの実装も検討中!?
――先ほどからロボットアニメへの愛が溢れまくっていますが、どんな作品を好まれているのでしょうか。
ソン氏:本作を作るにあたって参考にしたのは、「真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日」や、OVAの「マジンカイザー」ですね。最初のスタートが、「ロボットを真ゲッターやマジンカイザーのようにかっこよく作りたい」だったので。
ストーリー的なところだと、「宇宙の騎士テッカマンブレード」や「トップをねらえ!」が、壮大であり残酷さもあり、ロマンもありの3つの要素が溢れていてすごく好きでした。そういう物語やゲームを作りたいという憧れがありましたね。
あとはロボットアニメではないのですが、「ドラゴンボール」は私にとって一番の神作品なので、外せません。一番影響を受けている漫画でもあって、とくに好きなのが変身シーンですね。子どもの頃にスーパーサイヤ人の変身シーンを見てから、変身についてのこだわりがずっと心の中に刻まれていました。

実はまだあまり見せていないんですが、「Mecha Force」にもかなり変身シーンは入っています。仮面ライダーのフォームチェンジとか、スーパーサイヤ人への変身シーンっぽいものとか、できる限りいろんなパターンを入れました。
――お話を聞く感じ、系統としてはいわゆるスーパーロボット系の作品がお好きなのでしょうか。
ソン氏:一応、「ガンダム」や「ボトムズ」みたいな、リアルロボット系の作品もすごく好きです。ただ、個人的にストレスが溜まっている時、「ロケットパンチ」と叫ぶとストレス発散になるじゃないですか(笑)。子どもの頃からそういう発散方法をやって生きてきたので、(スーパーロボット系作品が)自分の性格との相性がいいと感じています。
……とは言いつつも、最近の「ガンダム」は結構スーパーロボット寄りになっていると思っていますし(笑)、リアルもスーパーもロボットは本質的には同じジャンルとして自分は認識しています。
――本作でも「ロケットパンチ」と叫びながら遊んだらストレス解消になりそうですよね。
ソン氏:その話ですと、実は今新しく、音声で技を出せるようにするシステムを作っているんです。
――それは激アツですね……!
ソン氏:それも自分のこだわりで、「ゲッタービーム」を叫んで出したいじゃないですか(笑)。ワガママになりますがスタッフさんにお願いして、今作ってもらっています。
――個人的に、演出面は「新世紀エヴァンゲリオン」(以下、「エヴァ」)の影響も結構強いのかなという印象も受けていました。
ソン氏:僕個人としては「トップをねらえ!」の方が大きくはあるのですが、「エヴァ」から受けた影響も大きいと思います。とくに出撃シーンはすごく参考にさせてもらいました。
体験版の時は、「Mecha Force」の主役ロボットである麒麟はよく「エヴァ」に似ていると言われることもありました。麒麟も身長が高い方のロボットで、機体のカラーリングも近いのが大きかったのかなと。

――ロボットゲームといえば、爽快感のある高速アクション系か重量感のあるリアル系に分かれることが多いですが、本作はどちらに寄せたタイトルなのでしょうか?
ソン氏:「Mecha Force」の前に、すでに重量感のあるアメリカ系のVRロボットゲームは結構出ていたのもあって、今回はスーパーロボットで高速アクション系のロボットゲームが作りたいという想いがありました。
僕が一番好きなロボットゲームは「ガンダムVS.」シリーズで、ロボットゲームというよりは格闘ゲーム寄りではあるのですが、ああいう反応速度が重要なゲームでは、高速アクションじゃないと成り立たないですよね。
あとは本作の場合は、武器の数が結構多いんですよね。最大5つの武器を使い分ける激しい戦いになる中で、移動やダッシュの速度が遅いのは嫌だなと思ったので、さほど重量感のようなものは重視しないようにしています。「エヴァ」も結構重量感のあるロボットですけど、走る時は軽快に動きますよね。ああいったイメージです。
――体験版はカスタマイズできる箇所は5つでしたが、これは正式版でも同じですか?
ソン氏:はい、同じ5箇所になります。今後目指しているものとして、今は普通の剣とかライトセイバーとかになっていますが、もうちょっとユニークな武器も増やしたいなと。爪とかドリルとか鎌とか、ああいう見た目も面白い装備は入れていきたいです。

――面白い武器といえば、先ほど話題になったロケットパンチは体験版にも入っていましたね。
ソン氏:実はロケットパンチは、最初に作った武器なんです。あれが一番欲しかったので(笑)。確か作ったのはスタジオを始める前で、それを使ってファンドさんにプレゼンしたりしてました。
――(一同爆笑)
――いろんなロボットゲームがありますが、武器の中でロケットパンチを一番最初に作ったというゲームはほとんど前例がないでしょうね……(笑)。
ソン氏:そうですね、ないと思います。なので自分で作りました(笑)。
――ちなみに、先ほど「麒麟」という名称も出てきましたが、本作のロボットはどういう設定の機体になっているんでしょうか? 出撃のシーンでは、コクピットに「エヴァ」のエントリープラグのようなものが挿入されていたのが印象的でした。
ソン氏:主人公メカの麒麟は、古代遺跡から発掘されたという設定のロボットです。古代の神様が入っているコアを、異星人と人類の技術が混ざったロボットに入れて動かしているという設定で、そのあたりは「伝説巨神イデオン」や「エヴァ」に近いかもしれません。
デザイン的には昆虫などを参考にしていて、普通のロボットというよりは「強殖装甲ガイバー」的なイメージです。もちろん「仮面ライダー」なども参考にしています。ちょっとネタバレになってしまうんですが、“神”としての姿に戻るようなシーンもあったりします。

独特のロマンこそが日本のロボットアニメの魅力
――既に何作か名前も出ていますが、ゲームの方では、どんな作品を好んでプレイされてこられたのでしょうか?
ソン氏:いろいろプレイしましたね。RPGやアクションゲーム、もちろん「スパロボ」みたいなゲームも。基本は物語性のあるゲームがすごく好きで、「ファイナルファンタジー」シリーズや「ペルソナ」シリーズ、「キングダムハーツ」シリーズとかもすごく好きでした。
欧米系のタイトルだと、「バルダーズ・ゲート」や「Fallout」シリーズが好きで、ああいうストーリーがすごいゲームを一番リスペクトしています。
――最初にも「スパロボ」シリーズの話が出ていましたね。
ソン氏:「スパロボ」でとくに好きなのが「OG(ORIGINAL GENERATION)」シリーズで、先ほどお話しした流星拳のところも、SRXやダイゼンガーの必殺技の漢字演出を参考にしているんです。小さい頃から、ああいう演出に迫力を感じて育ってきたのもあって、本当に好きでした。個人的に、「OG」シリーズ新作もずっと楽しみにしています。
――分かります……! 自分もずっと待っています。
ソン氏:他にも「α」シリーズや「W」、「A」や「D」も遊んでいて、それで日本語を勉強しました。日本語って、中国語と同じ漢字を使っているのに意味が違うことがあるのが難しいなと。
例えば「大丈夫」という漢字は、中国語だと「いい男」という意味なんですよ(笑)。これってどういうことなんだと調べたら、他のアニメなどでも字幕に「大丈夫」という言葉が使われていて、そういう意味なんだと少しずつ分かるようになっていきました。小学生の頃からそうやって日本語を学び始めていたので、周りからはよく変人とか言われていましたね(笑)。

――ソンさんにとってのロボットアニメ・ゲームの魅力とは一体どんなものなのでしょうか。
ソン氏:やっぱりその、独特のロマンですね。具体的に言うと、日本のロボットアニメみたいに、主人公や世界観を繊細に表現できる作品って、なかなかないと思うんです。
例えば、中国には「三体」っていうSF小説がありますが、個人の感情よりは全体の利益の方を重視した価値観なんですよね。「さまよえる地球」とか、劉慈欣さんの他の作品もそうなんですが。
対してとくにアメリカ系の作品は、一人のヒーローが世界を救うような、個人ヒーロー主義みたいなのが主流じゃないですか。日本のロボットアニメにも多少そういう要素はありますが、なんとなく違っていると僕は感じています。
――日本の作品は、純粋な全体主義や個人主義とは少し違って見えるということでしょうか。
ソン氏:そうですね。例えば「ゲッターロボ」シリーズの主人公の流竜馬とか、シリーズの中でもちょっとずつ違いはあるんですが、他の作品では見たことがないタイプで。
「真(チェンジ!!)ゲッターロボ 世界最後の日」のエンディングも、少なくともハッピーエンディングとは言えなかったかもしれませんが、どんどん湧いてくる未知の敵に対して、カッコよく強く向き合っていく竜馬の気持ちなどは、他の作品になかったものだと思います。
――まさにあのラストは、「ゲッターロボ」だからこそ描けたものでした。
ソン氏:あとは、臆病な主人公とかも多いですよね。「天元突破グレンラガン」のシモンなど、臆病な主人公がどうやって一歩一歩を重ねて最後にヒーローになっていくかの瞬間もすごく好きです。
他にも「コードギアス 反逆のルルーシュ」のルルーシュも好きです。彼も立派な主人公とは言えなかったかもしれませんが、最後には彼自身にも成長があって、主人公がどういう気持ちでそこに至ったのかをしっかりと見られるのが日本のロボットアニメならではなのかなと。

でも最近は(ロボットアニメの)数もだんだん減ってきましたね。近年なら2010年前後とか、あとは90年代も本当に良かった時代だと思っていて、それも本作を作りたいと思ったきっかけの一つでもありましたね。僕の記憶の中に残っている、最高の作品たちの続きを描きたいという気持ちがずっとあって、もちろん今の時点では比べ物にならないんですが、ちょっとずつ頑張ってみたいなと思っています。
――中国は、日本と並んで巨大ロボットアニメが比較的受け入れられている国として自分は認識しているのですが、これにはどういった要因があったと考えられていますか?
ソン氏:実は、どちらかと言うと中国で流行っているのは、巨大ロボットよりはウルトラマンなどの巨大ヒーローの方なんですよ。あとは、やっぱり「パシフィック・リム」みたいなハリウッド映画も人気があります。庵野(秀明)さんからの影響があることも皆知ってはいるのですが、そっちの方が受け入れられているという印象です。
ただ、それには理由があって、90年代とか80年代のロボットアニメって、さすがに今みると映像が古いじゃないですか。スマホゲームなども同じなんですが、元々の土台になるカルチャーがない状態で早すぎる発展をしていて、中国の「巨大ロボット物」というジャンルに対する認識は、近年入ってきた新しい作品という感じなんです。
その一方で自分が今やっているのは、最新の映像や技術で、黄金時代の80年代90年代の作品を再現するということでして、今のところそちらの成果はあまり良くないと感じています。けど、やっぱりいい作品はどんな時代でも受け入れられるということにはすごく自信があって、表現方法さえ変えれば、いい作品ならどんな時代のものでも復活できると思っています。
――最近の日本と中国のエンタメ文化って、少し前だと考えられないくらい近づいていますよね。とくにゲームは本当にそれが早いなと思っていて、今は本当にたくさんの日本の若者が「原神」や「崩壊:スターレイル」を遊んでいます。
ソン氏:やっぱり僕とかが見ると、先程言った「感情を繊細に描くところ」は日本的だったり、それぞれの違いは感じるんですけど、パッと見た時の印象だけなら、大勢の人にとってはもう見分けがつかないくらいには融合してきていますよね。ここから10年後など、どうなるかまったく想像がつかないですが、いい作品の本質はどの時代になっても変わらないので、古い作品に触れるのも凄く大事なことだと思っています。
現在のVR市場は、きっかけさえあればすぐに爆発する状態
――少し話が戻りますが、Ming Studioについて、設立の経緯といったところをもう少し詳しくお聞かせ願えますか。
ソン氏:やっぱり一番重要だったのは「自分たちのゲームを作りたい」という気持ちです。大きな会社で大きな予算を作った経験もありますが、やっぱりそれは自分のゲームではないという感覚が強くて、それはゲーム開発者にとっては一番嫌な感情だったんじゃないかと思います。
だからいつかは「自分のゲームを作らないといけない」という気持ちを抱えていて、ずっと密かな目標にしていました。ちょうどその時に、スタジオで同じような目標を持っていて、一緒に何か作りたいという話になり、皆ロボットやVRが好きという共通点もあって、本当に縁ってあるんだなと感じながら、スタジオが始まったという流れです。
――となると、独立する段階からロボットのゲームを作りたいと思っていたということでしょうか。
ソン氏:はい、ありましたね。ただ最初は、ウルトラマンみたいな巨大ヒーローのゲームを考えていたんですが、やっぱりロボットの方がVRとの相性も良いし、自分たちも好きだし、変身ヒーローはDLCや続編で出すというのもアリだなと、VRロボットゲームに決めました。
ただ、ハンドトラッキングを使い、自分でポーズをとって変身するとかはすごく楽しそうだなと思っていて、今後作りたい作品案の一つですね。

――開発チームとしてはどれくらいの規模だったのでしょうか。
ソン氏:最初は4人しかいなくて、とくにアート系のメンバーについてはまったくいませんでした。なので、最初のアートはすごく酷かったんです。それに加えて、ゲームジャンル自体が挑戦的だったのもあって、最初の体験版をリリースする時はものすごく緊張しました。
けど、リリースしてみたら僕たちが伝えたかった内容は全部プレイヤーたちに届いて、すごく自信をもらえました。そこから2回目の融資もうまくいって、とくにアート系のメンバーを中心に、新しいプランナーにプログラマーも増やして、現在は16人くらいのチームになっています。
――ということは、今はビジュアル面のパワーアップに力を入れているような感じなのででしょうか。
ソン氏:そうですね。一応、ゲームは完成に近い状態ではあるのですが、正式リリースまではあと半年くらいあるので、この半年間でビジュアル面やカットシーン演出、ストーリーをさらに良くしていければと思っています。
――VRについて、グローバル的な市場の現状はどういうふうになっているのでしょうか?
ソン氏:まだまだつらいのが正直なところですけど、毎年すごく上がってきていますね。
例えば、実は売上としては今のMeta Quest2とMeta Quest3を合わせると3500万台くらいは売れていて、それはもうXboxやゲームキューブを超えた台数なんですよ。それもまだまだVR自体は若いジャンルで、これからすごく伸ばす余地も残っています。これがどう進化していって10年後にはどうなるのか、全くわからなくなっている状況ですね。
ただ、どんなに形になっても、市場は右肩上がりに成長していくだろうということだけは確信しています。
――近年では、日本でもいろんな会社が、とくにMeta Questに力を入れ始めているという印象もあります。
ソン氏:そうですね。結構前からもうすでにUbisoftさんみたいな大手メーカーなどが参入されていますけれど、日本でも人気IPの新作など、新たに参入しようとしているメーカーさんもありますよね。
ただ、これは大手メーカーやファンドさんにもよく聞かれるんですが、皆興味は持ちながらも、僕たちみたいに本気でVRゲームに専念しているメーカーはまだまだ少ないのが実情です。皆興味はもっていても「もうちょっと様子を見たい」みたいなのが多いんですね。
でも本当に爆発の直前みたいな印象もあって、ちょっとしたきっかけさえれあればすぐに火がついて爆発するんじゃないかなと。そうなると、いろんな大手メーカーがVRゲーム作りに力を入れて、パーッと市場も大きくなると思います。

――本作はMeta Quest向けにリリースされますが、Meta Questをプラットフォームに選んだ要因はなんだったのでしょうか。
ソン氏:やっぱりそこは、売上が一番期待できるからですね。ただ、我々は乗れるプラットフォームには全部乗っていく主義ですし、他のVRデバイスへの移植もそこまで難しい話ではないので、今後は他プラットフォーム向けにリリースする可能性は十分あります。
――最後に、本作の発売を楽しみにしているファンの皆様に向けたメッセージをお願いします。
ソン氏:体験版をリリースしてから今まで、プレイヤーの皆さんからすごくいいコメントや期待をもらえて、参考になった話や、僕の支えにもなった話もすごくありました。今までつらかったですが、そのおかげで今までやってこれました。
皆の期待に備えられるよう、今回はファンドや銀行からではなく、プレイヤーさんの力をお借りしたいと思っていて、クラウドファンディングを始める予定です。今後は、「Mecha Force」を愛してくれているプレイヤーさんたちと一緒に、新しいストーリーとか、新しいカットシーンとか、新しい武器とか、新しいロボットアニメのロマンとかを、もっとお金を集めて、ゲームに入れ込みたいと思っています。現在もMyDearestさんと一緒に準備を進めておりますので、ぜひ応援してください。
――ありがとうございました。


「Mecha Force -メカフォース-」クラウドファンディングページ
https://camp-fire.jp/projects/view/760435
※開始予定日時:5月30日(木)19時
(C)MyDearest, Inc. (C)MechaForce (C)MingStudio
※画面は開発中のものです。
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