7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。ここでは、24日に行われたセッション「ゲームにおけるメディアミックス展開との向き合い方 -ヘブンバーンズレッドのメディアミックス企画の立て方-」をレポートする。
このセッションでは「ヘブンバーンズレッド」のディレクターであるライトフライヤースタジオの菊岡大夢氏と舞台版のプロデューサーを務めた井上智哉氏が、「ヘブンバーンズレッド」のASMRと舞台化の事例をもとにメディアミックスの企画の立て方や考え方について解説した。本稿では菊岡氏が担当したASMR企画の部分をメインにレポートしていこう。

まず、菊岡氏は「メディアミックス企画って難しくないですか?」と問いかけ。メディアミックスに際して考えるべきことは多いが、とくにIPとの相性は重要で、IPそのものが持つ性質とミックスするメディアの性質との最適な掛け合わせを見出す必要があるという。そのためには対象となるメディアを深く理解し、そのメディアをどうユーザーに広めていくかといった戦略まで含めて考えなければならないのだ。
「ヘブンバーンズレッド」でいうと、この作品は切ない物語がIP特性となっている。この特性を崩さずに違う語り口でどうIPの価値を高めていくか。これらを踏まえたうえで、菊岡氏らが行ったメディアミックスがASMRと舞台化だった。


ASMRとしての魅力と作品の特性を両立させる
ASMRとは聴覚の刺激によって生じる心地のよさや脳がゾワゾワしたりする反応・感覚のこと。ASMRコンテンツは聴者にそうした感覚を促して楽しんでもらうというものでバイノーラルマイクやダミーヘッドマイクなどを用いて作成される。
菊岡氏はオフ会や人気投票などの盛り上がりから、キャラクターたちのことをもっと知りたい、愛でたいというファンのニーズを感じていたそうで、そうした要望に応えるコンテンツを増やしていくことが必要と考えていたという。



では、そのための施策がなぜASMRだったのか。理由は3つで、1つめはゲームが全編フルボイスなので聴覚情報のみで構成されるASMRとの相性が抜群であること。2つめは本編の語り口とは異なる1人称視点を取り入れることで、よりキャラクター愛を引き出せること。3つめはキャラの魅力を切り出すことで新規層にもアプローチできると想定されることで、これらの理由からASMRを選んだと菊岡氏は述べた。
当時はまだASMRの制作経験がなかったため、企画を進行するにあたってIP監修と企画はライトフライヤースタジオとKeyが担当し、制作はviviONに依頼。IP監修と企画は前述したIP特性を踏まえたシナリオの考案と成果物の監修が主な役割で、制作サイドにはASMR市場の情報提供や外部ライターの斡旋、収録対応などを担当してもらったそうだ。
ASMR市場に展開するのであればASMRとしてのニーズも重視しなければならない。そのためにviviONとの連携のもと市場をリサーチ。ジャンルは「癒し」「耳かき」「ささやき」「ラブラブ」「ほのぼの」など、シチュエーションは旅館でキャラと過ごすというものが人気といった知見をもとに企画を立ち上げていったという。



そこで、本作ならではの要素として「一緒にお風呂に入る」シチュエーションを全キャラ共通で採用。体を洗う、洗ってもらうといった癒しの要素を組み込めるのに加えて、物理的に距離が近いのでささやきのシチュエーションも作ることができる。
さらに、原作ファンにはお馴染みのシチュエーションでイメージを想起しやすいというメリットもあり、ASMRの魅力とプレイヤーの馴染みを両立できるのが大きかったとのことだ。


視点の主体の変更とキャラクターの選定
企画の目的は本作のキャラクターをより好きになってもらうこと。だが、ゲーム本編ではプレイヤーは主人公の茅森月歌を通して他のキャラクターを見ていく形になっており、これでは描けるシチュエーションに制約が生じ、茅森の強いキャラクター性ゆえに没入感も損なわれてしまう。
そこで、視点の主体をモブである「軍の女性隊員」に変更。これならどのキャラを対象にしても自然な形で関わりを描くことができる。さらに、キャラとの関係性がフラットなので、ゲーム内で語られてきた事象を改めて伝えるようなシーンを組み込めるようになるというわけだ。
これによりASMR内の各シーンでキャラクターとの関係値を作り、一緒にお風呂に入ってリラックスし、キャラクターが過去や心情を自然に吐露するという流れを生み出すことが可能に。これならASMRコンテンツとしての癒しや聴覚的快感といった要素だけではなく、本作ならではの物語の切なさを表現する構造を作り、新規参入者にIPの特性を知ってもらうきっかけになるものにできると考えたそうだ。



キャラクター選定においても、先ほど提示した人気ジャンルとシチュエーションとの親和性を重視。そこで選ばれた1人目のキャラクターが室伏理沙だ。母性を前面に押し出したキャラクターで本編でも膝枕をするシチュエーションがあり、今回のASMR企画にピッタリであることからすぐに決まったという。
もう1人は難航したものの、錠に向かって甘くささやくというシチュエーションを本編で披露していたことから大島五十鈴に決定。自分が錠になったかのような体験はゲーム本編では聞くことができないASMRならではのもので、当初の目的であるキャラクターをより好きになってもらうための体験づくりのひとつにできるという実感があったと菊岡氏は明かした。


ただ、ASMRは聴覚情報に依存するため、些細な違和感が致命的になりやすい。例えば、大島五十鈴の「姉妹を守るためなら、あたしはどんなことでもする」というボイスは、ゲーム内で発生したある事件の以前と以後で心情が大きく異なる。そのため、いつの話かによってボイスの演じ分けが必要で、ライトフライヤースタジオとKeyの担当者はすべての収録に立ち会い、現場で整合性を確認・調整してこうした違和感の解消につとめたそうだ。
最後に、菊岡氏は作品が成り立つ“交差点”を見つけることが重要と強調。ASMRを成り立たせる要件とIPとして守るべきものを突き詰め、両者が成り立つ交差点を見つけることでIP特性を生かしたメディアミックス作品ができたと語った。


後半のパートでは、井上智哉氏が舞台化の事例をもとにIP展開について説明。舞台では表現できない点と舞台だからこそ表現できる点があることを正しく認識し、ある程度の原作改変も許容していたこと。もっとも意識していたのは誰よりも現場に近い原作担当者であることなど、自身が得た知見の数々を明かした。
2.5次元である舞台ならではの制約や、ゲーム本編との乖離が起きた場合の対処法など舞台化で起きたさまざまな問題や、それらにどう対処したかなど興味深い内容になっているので、気になる方はタイムシフト配信を視聴してみてほしい。


なお、本セッションを含む各講演のタイムシフト配信は8月4日(月)10時までとなっている。
CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/
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