目次
  1. 今回のリコレクター:綾部和氏
  2. 「怪獣が出る金曜日」
  3. プロフィール

今回も、著名クリエイターの斬新なアイディアを商品化する「GUILD」シリーズのタイトルとして発売された「怪獣が出る金曜日」のクリエイター・綾部和さんに、懐かしい話から最近の話まで、ゲームの話を訊いていきます。

今回のリコレクター:綾部和氏

ミレニアムキッチン代表取締役、ゲームデザイナー、ゲームシナリオライター。1980年代からプログラマー&グラフィックとしてキャリアを積み、現在はゲームデザインの他に、シナリオ、レイアウト、アートディレクションなども担当。制作に関わったタイトルは代表作「ぼくのなつやすみ」シリーズの他に、ファミコン時代の「エスパ冒険隊 魔王の砦」(FC)、「じゃじゃ丸忍法帖」(FC)、「ベリウスII 復活の邪神」(GB)、ミレニアムキッチン設立後の「ぼくらのかぞく」(PS2)、「怪獣が出る金曜日」(3DS)などがある。著書は「ぼくのなつやすみ美術館」「クロトシロ君の大冒険」など。

Twitterアカウント:http://twitter.com/ayabekaz

酒缶:アニメ会社に就職する予定がゲーム会社に入ったという経緯があるので、現在の仕事をするきっかけになるゲームはないと思いますけど、影響を受けたゲームは何かありましたか?

綾部氏(以下、敬称略):もともとアーケードゲームが好きだったから、そこそこ遊んではいたけど、影響という意味では、86年に業界に入った後に遊んだゲームの方が大きいですね。最初の「ドラゴンクエスト」とか「ダンジョンマスター」、「シャイニング&ザ・ダクネス」「ランドストーカー」「グロブダー」「超惑星戦記メタファイト」「サイレントデバッガーズ」「ウルフェンシュタイン3D」「アクアノートの休日」などです。そういえば「同級生」とか「スーパーマリオ64」なんかも「ぼくのなつやすみ」に影響していますね。

酒缶:色々と挙げていただいているんですけど、感覚的にはそれぞれ違う影響のされ方なんですよね?

綾部:はい。でも、その世界をリアルに体験できる、五感のどれかを揺さぶって世界に没入できるゲーム、という意味では同じだと思うんです。例えば、フィールドの曲とか街の曲とかその場所場所で音楽が決まっているゲームがあるじゃないですか。ゲームの作法なので、あれはあれで良いのだけど、今の僕はあれが好きじゃないんですよね。その場所に行ったらちゃんとその場所で聴こえているであろう音が聴こえてきてほしい。音楽を流すとしても、たとえば風が吹いている場所なら、風を感じるための音楽を流してほしい。僕の現在の方向性は徐々に作られていったものですが、それはやはり好きなゲームを遊んだ結果から、世界を体感する手段としてのゲームの未来に可能性を感じて、生まれたモノなんですよね。世界をリアルに感じられる装置としてのゲームが好きなんです。

酒缶:「サイレントデバッガーズ」は飯野賢治さんが「エネミーゼロ」を発表した時にすごい焦点が当たったゲームですよね。

綾部:懐かしいな。あのゲームのストイックやシンプルさが好きでした。昼間にやり始めたはずが、熱中するといつの間にか日が沈んでいて、気付くと真っ暗な部屋の中でゲームの画面だけが煌々と光ってることってありますよね?

酒缶:よくありますね。

綾部:そういう没入感をたっぷり味わえるゲームですよね。閉鎖空間系のダンジョンシューティング、いやアクションかな、では一番好きでした。音楽を流さずに効果音だけでエイリアンの位置や怖さを表現してるから、プレイヤーは音に関する感覚が研ぎ澄まされていって、ゲーム世界に没入することができるんです。しかも、ここぞというときに絶妙なタイミングで音楽が流れるんですよね。まあ、あれも今ではもう、当たり前にたくさんあるタイプのゲームなんだろうけど。結局、リアルな体験として世界に入れるゲームが好きなんですね。その中で何をやっても、やらなくてもいい、というか…。

酒缶:「ぼくなつ」は沢山用意されているモノに対して、全部を見なきゃ気が済まない人はいろんなモノを漁って行くんでしょうけど、一つでもやりたいことがあれば、そこだけ詰めていけばいいし、極端な話、何もしなくても夏休みは終わるし…。

綾部:そうですね。あと同じ意味で、「RDR」(レッド・デッド・リデンプション)も好きなんです。僕にとっては自然の中を走りまわるオープンワールドの「RDR」と、「ぼくなつ」は同じジャンルなんですよ。メチャクチャな発言なのは自覚してるけど(笑)。予算が数十倍違うし、2Dと3Dだし、あっちは拳銃を持ってるやんちゃな国の人たちだから、似てないように思われるけど、馬に乗って走り回れて、夕日を観に行ったら美しくて、それが楽しかったら、お話も鉄砲もいらないじゃん、という感じです。

酒缶:「同級生」のプレイ感覚も「ぼくなつ」の時間管理や人の動き方と似ていますね。

綾部:はい。恋愛シミュレーションという括りになるけど、NPCが個々にスケジュールを持っていて、ゲームの中で生きているという括りでは、「ぼくなつ」と「同級生」は同じ構造ですね。

酒缶:「同級生」って、どこに誰がいるか探して、その人が何時から何時までどこにいるかチェックして…みたいな感じで。

綾部:そうそうそう。

酒缶:「ぼくなつ」はそこまで厳密にタイムスケジュールに沿ってプレイしないとは思うけど、やっぱり「夕方に来てね」と言われたら「夕方に行かなきゃ」という感覚を持って遊ぶから、すごい近いですよね。

綾部:はい。自分のリアル世界のカレンダーに、「火曜日の夜に誰誰に会いに行く」と書きこんでしまうような、ああいう現実の延長線上にある架空世界がいいですね。

酒缶:「怪獣が出る金曜日」を作る時に影響を受けたゲームということで「ぼくのなつやすみ」を挙げられていますが。

「怪獣が出る金曜日」

2013年3月13日にレベルファイブがニンテンドー3DSダウンロードソフト向けに発売した怪獣が出る世界体験シミュレーター。毎週金曜日に巨大怪獣が出現する東京郊外の町に引っ越してきたそうたくんになって、世界を体験していく。怪獣ピースを集めてカードを手に入れると、街の子供たちと怪獣カード合戦で対決することが出来る。

公式サイト
http://www.guild-series.jp/02/kaijuu/

綾部:影響を排除することを排除できなかったゲームです(笑)。操作系以外は似せるつもりはなかったんですよ。そもそも7割くらい出来た時点ではそんなに似てなかったし。で、僕がスクリプトを書いて、気持ちよく感じるようにいろんな部分を調整していったら、いつの間にかそっくりになっちゃった(笑)。

酒缶:そんなに変わるもんなんですか?

綾部:細かいところのクセが同じになっていって、手触りがそっくりに……。

酒缶:影響というよりは、綾部さんテイストということですよね。

綾部:そうですね。違うラーメン屋の厨房で作っても、同じ調理人が作ったらやっぱり同じ味になっちゃうんですよ(笑)。「これ、ヤバイよね」と思いながら、「でも仕方がないよね」と。

酒缶:「ぼくのなつやすみ」って、色々なモノがある中で、やりたいところだけやっていけばいいゲームじゃないですか?それに比べると、今回の「怪獣」は全部を見るゲームですよね。その辺りが、だいぶ違うゲームだと思ったんですよ。

綾部:あれで全部というほど内容がないわけじゃないので、もっとガイドから逸脱して遊んでくださいよ(笑)。でも言いたいことはわかります。ぶっちゃけた話、「怪獣が出る金曜日」は、期間と予算の関係でフルプライスのモノほどは制作の自由度がなかったんですよ。グラフィックは3ヶ月+αくらいしか作業できないことがわかっていましたし。だから、まず予算やスケジュールから、一番大きなところ、……この場合は使える背景の枚数でしたが、それを最初に計算して、ゲームの規模を決めたんです。あと夜になると背景を変えなきゃいけないけど、夕方と違って夜は昼間をレタッチするだけでは作れないから、じゃあ、この予算で夜を用意するのは無理だな、と。それで昼と夕方の背景だけで作れるゲームシステムを考えたんです。

酒缶:だから夜がないんですね。

綾部:毎週金曜日に怪獣が出るという設定だから、月曜日の朝から始めようと思っていたんですけど、夜を作れないし、無駄な一枚絵も出せないから、毎日のループをこなしていくシステムはかなり早いうちに諦めました。全体マップも狭くなったけど、一日だけでもその中で全てを使い切る、コンパクトだけど味の濃いモノにしよう、とそこから全体の構造が決まった感じですね。

酒缶:最初にマップを作っていますけど、背景に使える絵の枚数に合わせてマップを変えるようなことはあるんですか?

綾部:うちはほとんどないです。そこら辺の大事なことは僕が一人で決めちゃうから、後で絵の枚数が足りなくなって、マップを変えることはありません。

酒缶:イベントによっては、キャラがカメラの真ん前に立っていたりすることがあって、あれは演出としてわざとやっているんだと思うんですけど、どういう効果を狙っているんですか?

綾部:大した効果じゃないんですけど、各画面のレイアウト設計は、演出的な理由とゲーム的理由で決まるんですが、誰かと会話する画面であっても、ゲーム的理由でキャラが小さすぎることがあるんです。そういう時は、隣の、別のアングルの画面で、そのキャラがアップになるように設計します。顔を見せることができる場所を意図的に用意するということです。

酒缶:綾部さんがスクリプトや調整をしたときに「ぼくなつ」テイストに近づくという話は、キャラクターとカメラの関係にもあるのかな?と思ったんですよ。

綾部:それはたしかにそうかもしれません。僕はローアングル、真横、手前になにかを置く構図が大好きなので、繰り返し出てきますし。……コストの話で思い出したけど、イベントスクリプトはうちの社内でやる限り、全体のコストには影響しない作業なので、頑張りがいがあるんですよね。やってるうちに「ここも作り込めるからやっちゃおう」と。例えば、光のエフェクトに包まれる場面がたくさんあるじゃないですか。

酒缶:ありました。

綾部:あれって本当はそうたが地面に落ちていく時にピカッっと一回光るためだけに作った、数ドットのエフェクトなんですが、僕が一人で夜中に作業しているときに「スクリプトで設定するだけで、誰でも、どこでも光らせることができるじゃん」「しかも、カメラの近くに置いて大きく使ったらかなりきれい」だということがわかって、勝手にいろんなところで使い始めたモノなんです。次の日、グラフィックのリーダーの黒澤が出社して画面を見て「えっ!俺、こんなエフェクト作ったっけ?」と(笑)。

酒缶:(笑)。スクリプトをやっていると、いろいろやりたくなりますよね。

綾部:で、その感覚も「ぼくなつ」のときと全く同じつくりじゃないけど、同じノリなので、雰囲気が似てしまうのかもしれません。いろんなモノを使い回ししたらチープになってしまうけど、あんまり気にせずにやっちゃうのが僕の作り方ですね。これは中学生や高校生のときに、立体模型作ったり、アニメを描いたり撮影したりしてたときから、基本的に変わりません(笑)。

酒缶:怪獣カード合戦で、親分・子分を決めますけど、ご自身の経験や子どもの頃の遊びに何か元になることがあったんですか?

綾部:ああ、あれは、戦前の小津安二郎の作品で「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」という、日本映画の歴史に残る傑作があるんですが、あれに出てくる小学生たちがやっている、忍者ごっこのルールを使っているんです。大好きな作品なので、ある意味、オマージュですね。子どもが忍者ごっこで遊んでいるシーンが頻繁に出てくる映画で、親は町内に会社の上司がいたら上司に服従してペコペコと頭を下げているけど、子どもの遊びの世界では簡単に立場が逆転して、部下の子どもが上司の子に呪文を掛けて、ひっくり返してしまいます。子どもの遊びの世界のほうが公平な実力主義だなんて、ゲームという遊びを作っている我々の立場からすると、かなり痛快なことですよね。昭和6年、つまり1931年公開だから、もう82年も前の映画ですね。

酒缶:やっぱり、昔のエピソードをゲームに落とし込んでいるから、それが懐かしさの要素になっているんですね。

綾部:そうですね。単純に昔の忍者ごっこのルールがわかる資料が他になかった、ということでもありますけど。

酒缶:あと、「GUILD01」との連動特典として、メニュー画面の一番下に追加される資料の中に、ゲームに登場していないキャラクターが描かれているんですけど、どうしてなんですか?

綾部:ああ、あのキャラクターは、誰も気づかないけど、実は出ているんです。あるシーンで光がピカっと出ますが、実はその光の向こう側にはあのキャラクターがいて変身ポーズがシルエットで見えます。唐突にあの姿が出てくるとちょっと変だったので、夜中に作業しているときに光で隠してみたら全然見えなくなったけど、それがいい感じだったので。

酒缶:なるほど(笑)。

綾部:設定を描いてくれたカサハラさんには悪いけど、実はゲームの中でちゃんとあの姿で登場しているということですね。光るシルエットになって。

酒缶:なるほど。たまたま見えなかったんですもんね(笑)。

綾部:いや、たまたまというか…光でうっすらと隠そうとしたら完全に見えなくなっちゃったけど、「いや、これ意外にいいかも。これでいこう」と。もしかすると他のスタッフも、いつの間にああいうことになったのか知らないかもだけど(笑)。ちゃんとキャラクターを作って、モーションも全部揃っていて、でも、一見わからない…という見せ方になってます。

酒缶:資料を全部見て、「あれっ?これは構想にあるだけで、このゲームの中では描かれていない部分なのかな?」と思っていたんですけど、そういうことだったんですね。

綾部:あのページで出さないと誰も姿を見ることができないので、混乱しますよね。もし、リメイクだったり、続編を作ったり、アニメだったり、プラスαで何か作れるようだったら、もっと活かせるかな?とは思っていますけど、一応、ゲームに出ています。というか、この件、僕も今まで忘れていました。

酒缶:今回、「GUILD」のタイトルとして参加されたじゃないですか。今後もまたこういう話があった時にはチャレンジしたいと思いますか?

綾部:それはぜひ。レベルファイブさんにお願いしたいですね。お願いします(笑)。これも下世話なお金の話なんだけど、こういうオムニバスタイトルを本気で作っていたら、多分、コストが掛かって赤字になったりするはずなんですが、うちのように小さくて小回りがきくところって、意外と何とかなっちゃうんですよ。そこそこ大きなタイトルも作れるし、ちっちゃなタイトルも作れるチームとしては、すごい重宝なところなので、いろんなラインでやってみたいですね。

酒缶:ちなみに、「怪獣が出る金曜日」のバージョンアップというか、この世界の広がりというのはあるんですか?

綾部:元々、ほかのメディアだったり、続編を作れたりとか、広げていけるタイトルとして企画を考えていたから、そういうことは積極的にやりたいと思っています。やれるかどうかは別の話ですが(笑)。

酒缶:わかりました。では、今後何かやりたいことってありますか?

綾部:折角3DSを経験したし、3DSでも個性を感じられるゲームを作り続けたいな。あと、実はゲーム以外の仕事も色々とやっているんだけど、まだ形になってないので、いずれ全然違う仕事で名前が出てビックリすることがあるかもしれません。

酒缶:それは楽しみにします。では、最後の質問になりますが、綾部さんにとってゲームとは何ですか?

綾部:そんな大事な質問、前もって言っておいてくださいよ(笑)。うーんとですね。もう27年間もゲームを作っているので、人生だし、自分の体の一部なんだけど、なんだけど、いまだに征服できないエベレスト登山のようなものですね。苦労しています(笑)。

酒缶:毎回、開発で頂上に登りきれないということですか?

綾部:自己評価が100点満点で85点くらいじゃイヤなんです。毎回、頑張って作って自分で100点をつけたいじゃないですか。でも、多分、100点をつけちゃうと「もう作らなくてもいいや」となっちゃうかもしれないんだけど、やっぱり出来上がってから色々考えると、減点したりとか色々なことが増えていって、「やっぱりこれは満足いかないな」と。征服しきれないところがあって、征服しきれないから仕事として続けていけるんだけど、でも、最後までそれならやだな、っていう…いずれやっぱり満足したい。

酒缶:どこかで登りきって頂上に旗を立てたい?

綾部:そうそうそう。頂上に旗を立ててないように思っても、及第点は自分に与えられているので、そこからさらなる高みにいきたいんです。結局、贅沢な悩みかもしれないけど、自分でもとにかく100点を付けるモノを毎回作りたくて頑張ってます。

酒缶:わかりました。今後、色々とサプライズがあるということなので、楽しみに期待して待っています。ボクのこの記事がどのくらいタイトルに対するアピールになるかわからないけど、「怪獣が出る金曜日」を遊ぶ人が少しでも増えるといいな、と思っています。ありがとうございます。

訪問後記

綾部さんの代表作「ぼくのなつやすみ」シリーズの話は別の機会にお訊きしたかったので、意図的にあまり触れないようにしたのですが(かなり触れているような…)、その効果もあって色々なお話を訊くことが出来ました。「怪獣が出る金曜日」の次の展開を期待しつつも、「ぼくのなつやすみ」シリーズをしっかりと遊び込んでから、改めて綾部さんに訪いたく思っています。

プロフィール

酒缶(さけかん)/ゲームコレクター

1万本以上のゲームソフトを所有するゲームコレクターをしつつ、フリーの立場でゲームの開発やライターなど、いろいろやりながらゲーム業界内にこっそり生息中。ゲーム関係者へのインタビューをまとめた電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション」を展開中。関わったゲームソフトは3DSダウンロードソフトウェア「ダンジョンRPG ピクダン2」など多数。価格コムでは、ゲームソフトとAndroidアプリのプロフェッショナルレビュアーを担当している。

■公式サイト「酒缶のゲーム通信」
http://www.sakekan.com/

■twitterアカウント
http://twitter.com/sakekangame

■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション1」
http://www.amazon.co.jp/dp/B008GYU7B4/

■電子書籍「ゲームコレクター・酒缶のファミ友Re:コレクション2」
http://www.amazon.co.jp/dp/B00CJ320S6/

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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