工画堂スタジオより発売中のPS Vita用ソフト「白衣性愛情依存症」。本作のディレクター・みやざー氏とシナリオ担当・向坂氷緒氏に、本作をプレイした人に向けたネタたっぷりのインタビューを実施した。

※今回のインタビューは作品のネタバレを多分に含みます。まだクリアしていない方は、全ルートをクリアした後に見ることをおすすめします。
発売からすでに1ヶ月を迎えた「白衣性愛情依存症」。発売後にすぐにクリアして何周もしている人、つい先日クリアしたばかりの人など、それぞれ思い思いのタイミングでプレイしていることだろう。そして、ルートごとのキャラクターの描写に思いを馳せつつ、心情についていろいろと考察しているに違いない(筆者のことです)。
やっぱりそのあたりについては開発者に直接聞くしかない、ということで発売から1ヶ月が経った6月上旬、本作の生みの親であるディレクター・みやざー氏とシナリオ担当・向坂氷緒氏にインタビューを敢行。開発時のマル秘話から各ルートの裏側までたっぷりと聞いてきたので、お届けしようと思う。
――発売を迎えた今の率直な感想をお聞かせください。
みやざー氏:前作「白衣性恋愛症候群(以下、白恋)」では看護師として、そして社会人としての厳しさみたいな部分に結構突っ込んでいたので、今作ではそこに触れるわけではなく、あすかを中心になお、さくや、いつきたち4人の関係性、女の子同士の交流をメインに作りました。
前作の職業百合も尖ってはいたとは思いますが、今回は女の子同士の葛藤で描かれて、バックボーンにあるキャラクターたちの設定を見せていくというアップダウンの激しいシナリオだったので、好き嫌いが前作よりも分かれるんじゃないかなと思っていました。出てからの反応もすごく気になっていて、実際に好き嫌いが分かれた部分もありましたが、基本的にダメ、というよりは「白恋」との比較で意見をいただいていると認識していますし、「白愛」の要素がすごく好きだと言ってくださっている方もいるので、そのあたりの手応えは感じています。
向坂氏:ネット上の感想を見ていると、「(今作では)胃が痛くならない、よかった」みたいなことが書いてありましたね(笑)。
みやざー氏:これはユーザーさんがTwitterで言っていたと思うのですが、「前作は胃が痛くなって、今作は心臓が痛くなった」と。これは言い得て妙だなと思いました。いずれにしても最終的に面白かったと思えてもらっていればよかったと思っています。
向坂氏:今回は主人公のあすかが最初からゆるい子で、多分きつい目にあってもゆるさを失わない女の子なので、そのあたりも手触りの違いとしてあるのかもしれません。
みやざー氏:前作は社会人として有無を言わさず怒られるきつさがありましたからね(笑)。
向坂氏:かおりちゃん(「白恋」の主人公・沢井かおり)は別にダメっ子なわけではなく、単に新人だから頑張っているのに失敗して怒られるという大変な立場ですが、あすかは単純にダメな子だったということです(笑)。
みやざー氏:看護学生なので許してもらえている部分もありますが、作中にあった病院実習でのミスはすごく怒られるという、ギャップも今作ではあると思います。
向坂氏:あすかは前作と比べてもそうですし、アドベンチャーゲームとしても非常にキャラの立った主人公だったので、あすかが嫌われたらすべて終わりだなと思っていたのですが、「ダメなところが可愛い」「あすかのおかげできついシーンも笑える」みたいな感想があったので、そこは良かったなと思っています。
――悩んだ時にもとにかく次に進もうとするキャラクターですよね。
向坂氏:逃げ場があれば迷わず逃げるし、頼れる人がいれば迷わず頼るというところにリアルさがありましたね。
みやざー氏:あすかの立っている位置が今作ではいい方向に向いたかなと思います。あすかの場合は勝手に動いていくので、感情移入するのではなく俯瞰で見て、「あすかはしょうがないなー」みたいなかたちで見てもらえたのではないかと思います。
――あすかの設定は企画時点で今のかたちだったのでしょうか?
みやざー氏:最初はダメな姉とできる妹という構図で作ってあって、ダメな理由というのもゲームをやってもらえれば分かる通りで、ゆるい姉としてのあすかをなおちゃんがきっと望んだ結果であると思います。
向坂氏:姉妹百合というのは、最初の頃からのテーマのひとつですね。
みやざー氏:「メインヒロインは誰?」ということを聞かれる度に、全員がメインヒロインだということを話してはいるのですが、最初のコンセプトとしては、『良妹なおちゃんをとにかく可愛い良妹として表現する』がそもそもの主題だったかと思います。
向坂氏:一番最初にみやざーさんからもらった企画書にも、今回は姉妹百合を推していくというのが書いてあったと思います。
みやざー氏:姉妹百合と別のカップルとの四角関係でドロドロしていくぞ、というのが当初のコンセプトでした。実際にはプロットの流れであすかを中心としたバックボーンができたので、四角関係ではなくなりましたが。
――コンセプトを踏まえた上で、シナリオ作りで意識した部分はありましたか?
みやざー氏:「前回の「白恋」ではかおりちゃんの中に別の人格としてはづきちゃんというキャラクターがいて、幼少の頃、一緒に事故にあった際、かおりちゃんは亡くなったはづきちゃんから臓器移植を受けて生き残っています。かおりちゃんははづきちゃんの意識を持ったままで成長してきて、そこで姉であるはつみと出会って物語が進んでいきます。
はつみルートのノーマルエンドでは、結局かおりちゃんが自分の殻に閉じこもってしまって、代わりにはづきちゃんがかおりとして生きていくという話になるのですが、そのエンディングが僕の中では残っていて。あのかおりは元々はづきなんじゃないかという思いが発端となって、今回のさくやときょうこのギミックにつながっています。
テーマとしてあすかとなおの姉妹百合という部分を一本立たせておいて、もうひとつのテーマとして、もしはづきちゃんが生きていたらどうなったんだろうというところがあって。それがいわゆるあすかとさくやの物語のコンセプトで、さくやとして生きているのだけれど本当に生きているのはきょうこであり、あすかみたいな主人公と出会った時にどうなるんだろうというのが根本にありました。(向坂氏に)ちゃんと説明していなかったっけ?
向坂氏:後のほうで聞きました(笑)。
みやざー氏:そのあたりの姉妹百合あり、本当はもう亡くなっているのだけれどヒロインとして生きている子がいて、三角関係みたいなかたちで描くというのはプロットを描く前の土台作りとしてありました。
向坂氏:元々はあすかとさくやが本当の姉妹だったという話もありましたよね。姉妹百合をより強く押し出すかたちで。
みやざー氏:あすかとなおは本当は姉妹ではない、そしてあすかとさくやが本当は姉妹であって、きょうこというキャラクターも含めて三姉妹というかたちでした。ゲームの中であすかとなおが姉妹ではないことが明かされる一方で、“さくや(昨夜)”、“きょうこ(今日)”、“あすか(明日)”という時系列の3人は、研究所の中で一緒にいた姉妹だったという話にしようと思っていました。
向坂氏:途中でさくやとあすかが好きあってから、実は本当の姉妹だということがわかって苦悩するというのが、ごくごく初期の頃のプロットにはありましたが、さくやの話に難病ものも入っているし、二重人格者も入っていたので、これに本当の姉妹ネタも入ったら入りきりませんと言って、今のかたちになりました。
みやざー氏:あすか、さくや、きょうこたちは施設の出身で、出生の秘密はまだわかっていないので、ひょっとしたら姉妹なのかもしれません。
向坂氏:そこは否定をしないでおこうという話になりました。
みやざー氏:そこに絡んで来るのですが、さくやときょうこはその見た目からも一卵性の姉妹で、あすかについては僕のイメージではひとつ上の姉という立ち位置でした。今作が学校ものということで、物語の掘り下げやすさという点であすか、さくや、いつき、なおを同じ学年にしたかったのですが、もしあすかのほうが年齢が上だった場合にどうするのかというのが問題になりました。
あすかはクラゲ女子だし、ボーっとしていて人生に目的がなくて、一年間無為に過ごしている時に絵本を見つけて一念発起して、なおと一緒のタイミングで看護学校に通うという話はどうかと向坂さんに提案したところ、あすかに対して全員年下との恋愛ではなく、同い年同士での恋愛がいいという話になって。「ひとつ留年じゃダメなの?」と言ったら「ダメです!」と。
向坂氏:私としてはクラスメート百合がやりたかったんです。なので逆にあすかとさくやといつきが同級生で、スーパー天才児のなおちゃんが飛び級で上に上がるのはどうですかと言ったら、今度はみやざーさんが嫌だと(笑)。
みやざー氏:それは逆に現実味を帯びていないので、折衷案としてスーパー年子にしようという話になりました。それがなかったら「白恋」や「ソルフェージュ」と一緒で、彼女たちの誕生日は声優さんと同じ誕生日にしていただろうし、あすかがひとつ年上だったら、ひょっとしたらさくやときょうことの姉妹関係が確定していたかもしれません。
――ここまで聞くだけでも設定がもりもりですね(笑)。
みやざー氏:僕は設定を考えるのが大好きなんですよ。「白恋」ではつみのお父さんは再婚しているのですが、実はさゆりの義理のお母さんが事故の時に別れた元嫁で、はつみとさゆりは血がつながっていないけれど、同じお母さんが……という設定も、最初想定したりもしてました(ボツにしましたけど)。
向坂氏:「白愛」でも思いましたが、みやざーさんは韓流の血縁関係がドロドロしているのが好きなんですか?
みやざー氏:そんなことはないですけど、先にいろいろな設定を作ってから削ぎ落としていって最適なかたちにしていきます。物語には全然出てこないですけど、裏でこうなっているというのがあると、物語の深みにもなるなと思っています。
――その話にもつながるかもしれませんが、どうして女性だけが登場するようにしたのでしょうか? iPS細胞の設定を取り入れてまでなかなかしないと思うのですが。
向坂氏:思いついてもなかなか取り入れませんよね。私もそう思いました(笑)。
みやざー氏:そこにも実はバックボーンがあります。「ソルフェージュ」という作品で、すくねさんというキャラクターが主人公のかぐらに恋をしたのですが、お母さんに止められて別人格であるゆうなというキャラクターが生まれてしまうぐらい、あの時代ではまだ女性同士の恋愛が認められていませんでした。「白恋」では、はつみさんがお見合いを薦められる相手が女性だったりと、男の人がいるものの女性同士の恋愛が一般化しているという世界観になっています。
そして「白愛」ではひとりも男の人が出てこないじゃないですか。どうしているんだろうという疑問はあると思うのですが、「白愛」の世界ではあえて触れていません。iPS細胞の部分もそのあたりが関わっているので、どうつながっているのかは想像してもらえればと思います。
向坂氏:そのつながりの部分は、「白愛」の中でもセリフのひとつひとつにすごく気を使ったところでした。
――それはすごく気になりますね。この話は続いてシナリオの各パートのお話も伺っていければと思います。まず春から秋という長い期間で描かれた共通パートのポイントについてお聞かせいただければと思います。
みやざー氏:ゲームを作る初期の段階で僕のプロットにあったのは、共通ルートは萌える方向でいって、共通ルートの最後のところでドーンと今までの日常をぶち壊して、過去の彼女たちの関係性を段々と暴いていく個別ルートにつながっていくというものでした。なので共通ルートでは、とにかく文化祭までは明るく、可愛く、キャッキャしながらいこうという感覚で作っていて、当初の構想とはずれてしまったのですが、文化祭の時に屋上でキスをして刺されるという部分までを体験版にしようと。
少し話がずれてしまうのですが、実はこのゲームでは、「白恋」が終わった後でやれなかった、ダブルウェディングドレスを入れることを一番最初に考えていました(「白愛」ではさくやのルートで実現)。結婚式場ではなくて、屋上などで知っている人たちだけで慎ましやかに、でも可愛い感じでやりたくって。
ダブルウェディングドレス自体も、ただ一枚絵を見せるというのではなく、同じ絵の微妙な差分として、1枚はすごく悲しくて、1枚はすごく嬉しいものにしたいなと。最終的に屋上でキスする、刺されるから、どのヒロインかは分からないけれども屋上でダブルウェディングドレスをやろうというのが一番最初にひいたレールの中で見えていたので、そこに向かっていった感じです。
向坂氏:期間というところで言うと、看護学校という普通の人には少しわかりづらいところなので、入学式から始めたいという一方で、入学してすぐの頃は本格的なことはやらず、座学が中心になるのでむしろ2年生の春から始めたほうが看護ものらしい実習がやれるのではないかなというのは、何回か話し合いました。それで情報をなるべく満たすために1年の入学式から始まり、間を少しずつ空けてなるべく長い期間をやって病院実習をちゃんと見せようというかたちに落ち着きました。
みやざー氏:「白恋」の時の病院でのお仕事という部分から脱却してゆるふわな方向に行きたいというのがあり、2年から始めてしまうと、看護学校の本当に忙しいところになってしまい、キャラクターたちの関係性をゆるく描くというのが難しいと思ったので、やはり1年からしかないかなと。
向坂氏:アフレコで前半部分を収録している時も、「この頃は平和だね~」と話していました(笑)。
みやざー氏:個別ルートに入ったら、あすかに過去を思い出させながら、それぞれのヒロインと近づいていくので、そこだけ見せると重いゲームになってしまうこともあり、共通ルートは日常の積み重ねでとにかく可愛らしい、とにかく萌えるイベントを多く入れようということにしました。
向坂氏:共通ルートが長いというのにも関わってくると思うのですが、みやざーさんからは「白恋」のファンの方たちは絶対“キラ☆ふわ”だとは信じてくれずに入ってくるだろうから、そんな人ですら「今回は本当に“キラ☆ふわ”なの?」と油断してしまうくらい、共通ルートは影が一切無い、明るくふわふわ、ゆるゆる、萌え萌えでいきたいという話がありました。それを受けて、夏の海のような季節イベントを充実させたりといったところにつながったのかなという気もします。
みやざー氏:そこまでの溜めがあるからこそ、屋上でのシーンが映えるだろうと。
――いつきの“ラボ”に関する部分も、共通ルートでは一旦オチがつくような感じでいい意味で騙されました(笑)。
みやざー氏:かえで先生はともかく、基本的にあすか以外はみんなあすかのために嘘をついているというイメージで動いているので、2周目、3周目とプレイすると分かってくれているユーザーさんもいると思います。2周目、3周目あたりもかえでを除くヒロイン達の心情を考えながら進めてもらえると面白いんじゃないかなと思います。
――基本的にはゆるく進む共通ルートですが、その中でも病院実習時に出会う入院患者のゆきとのやり取りは印象的でした。
みやざー氏:学校での勉強の部分はずっとゆるく進んでいきますが、今まで学校で勉強していたこととは違い、必死に病気を治そうとしている患者さんと触れ合うことがそんなに甘いものではないということは、病院という場所で見せる必要があると思いました。ゆきちゃんはあすかが看護師を目指す人間として上を向かせるために必要なポジションにいたんだと思いますし、あすかが本来であればやってはいけないことではありましたが、ゆきちゃんのためにこれが正しいと思って一念発起するというシーンなので、重要なシーンになりました。
向坂氏:監修をしていただいた元看護師の佐倉さくらさんが本当に看護師をやっている自分たちではあすかの行動のような発想は絶対に出てこないとすごく驚いていました。その上であすかがちゃんと後で怒られるのであれば無しではないと言ってくれました。
最初の時点ではそのあたりがわかっていなかったので、「あすか、すごい!」みたいな感じで書いていたのですが、これは本当に悪いことなので、婦長さんや病院の関係者は絶対に怒ってください、よくやったわねみたいなのは絶対に無しにしてくださいということで、そこはちゃんとその通りに書きました。
――理由も含めて作中で説明されていたので、こちらの目線でもしっかりと理解することができました。
みやざー氏:あれはあくまで人間としては良い行動に映るかもしれませんが、看護師としては間違っていることだと。それをあそこでガツンと教えてもらうこともそうですし、患者さんとメールアドレスを交換して交流していると別れもあるということを、職業人としてあすかは教わることになったのだと思います。
――個別ルートはかえでルートを除くと、ルート間のつながりが濃かったように改めて思います。まずはひとつだけ違う、かえでルートについてお聞かせください。
みやざー氏:ほかの3人のルートが過去の彼女たちの関係性の精算と新しい旅立ちという部分でどうしても重くなってしまうことから、かえでルートだけは明るく、看護学校の先生と看護学生のイケナイ恋話にしようということで、一番最後に作られました。
最初はかえでルートだけかえでに視点を変えて、かえでがあすかを攻略するという話にしてみようかという案もありました。あすかってなんでこんなにモテるんだろう、なんでこんなに可愛いんだろうというところをかえで視点で見せてみようかという話もしていましたが、最終的にはあすか視点のままで進めることにしました。
――私は最後にプレイしたので、それまでとの落差に驚きました(笑)。
向坂氏:結果的に箸休め的なルートになっていると思います。
――ほかの3人については個別ルートであっても、先ほどあったように個別ルートに入る場面が一緒だったりと、最初からつながりが垣間見えます。いつきも含めて施設の話から入るというのは最初の段階から考えられていたのでしょうか。
みやざー氏:そうですね。そこをネタバレしていかないと、なおちゃんがなぜあすかにおまじないをするか、いつきとさくやがなぜあすかを気にしているのか、という部分は過去の話に遡らないと関係性が伝わらないと思っていました。
その上で、過去の話をどのぐらい掘り下げるのか、どのぐらいユーザーさんに伝えるのか、という部分はかなり悩みました。その話ばかりしていると彼女たちの身の上話になってしまいますし、やりたいのはそこじゃなく、あくまでもやりたいもののために必要なセッティングだったので。
――個別ルートに入ってからすぐの段階で過去の話が明かされるのもそのあたりがあるんですね。
向坂氏:そこはかなり意識的に組み込んでいます。大事な設定だけど、そこはその後に書きたい本当のことの前提でしかなく、それを知った上でキャラクターたちが何を考えて、どう動いて、どう恋をするのかを書きたかったので、一気に明かしています。構成としては少々いびつで、バランスよく出していったほうが本当は美しいのかもしれませんが、でも一番やりたいのは百合恋愛だったので、そのために今の構成になりました。
――結果的にその後から人間関係が見えてくると思いました。その上で、各ルートで描きたかったことは何だったのでしょうか。
みやざー氏:冒頭でも話したとおり、まずはなおの良妹ぶり、さくやとの過去の関係を描くという事。そしてそんななおルートやさくやルートの狭間で、いつきがさくやとあすかを影で見守りつつ、途中でドロップアウトしちゃったあすかになろうとした、という物語ですね。三人三様でバランスよくいけたかな、と思います。
向坂氏:あすかとさくや、あすかとなおはただ恋人であるだけでなく、いろいろなものが絡み合っているので、ある意味であすかといつきはストレートな百合カップルだったと思います。
――エピローグの話とかはまさにそんな感じでしたね。
向坂氏:普通の恋人っぽい話をしていますよね。
――話は変わるのですが、なおは自身のルートの中ではいろいろなことが明らかになりますが、ほかのルートでは彼女自身のことが明かされませんよね。
みやざー氏:なおはあすかに対してできうる限り嘘はつかないけれど、見えている情報にしか応えない部分があります。さくやルートといつきルートに関して言うと、お姉ちゃんが施設にいて、でもひどい目にあってたららしく自分の家に戻ってきてうなされているから、昔悪いことがあったのは黙っておこうねという感じで、嘘はついていないけど必要な情報以外は喋らない。あすかもそれで納得しちゃうという(笑)。
――あすかの行動に対するなおの発言に、「この時なおはどう思っているんだろう」と考えさせられます。
向坂氏:みやざーさんと話したことがあるんですけど、なおちゃんはなおルートが実は唯一失敗したルートで、ほかのルートではあすかに知られたくないことを隠しきれるんですよね。ある意味、ほかのルートの方がより幸せだったのかもしれません。
みやざー氏:このあたりは向坂さんと僕とでなお像が違うところかもしれないのですが、僕の中でのなおちゃんは最高の良妹にしようという部分があったので、例えばほかのキャラクターとあすかが結ばれても、なおはあすかの妹であればそれが幸せだと思っていました。
なおルートは妹であり、恋人同士になるという、結果的にバレてしまったけれど最善だったというものかもしれませんが、なおちゃんが元々思い描いているのは、最終的にお姉ちゃんが幸せになって、自分が妹として一緒にいられればそれでいいという部分だったと思います。
向坂氏:なおちゃんにとって一番の幸せはあすかの恋人になることなのか、良い妹でい続けることなのか、というのは結構話をしたような気がします。
――遊ばれている方にとってもその解釈は考えさせられるところで、想像の余地があるのは嬉しいのではないでしょうか。
みやざー氏:一番幸せなのはなおのバッドエンドかもしれないですね。
向坂氏:それは(ある意味)間違いないですね(笑)。
みやざー氏:ちなみによくユーザーさんに、なおのバッドエンドでなおは死ぬんですかと聞かれるのですが、死にません。永遠にイチャイチャして終わるんです。だからあれは幸せなものになっています。
――キャラクターデザイン、イベントCGは早瀬あきらさんが担当されていますが、実際に担当いただいての印象などお聞かせいただけますか。
みやざー氏:過去作である「白恋」や「ソルフェージュ」よりも、より女性が見て可愛いと思ってパッケージを手にとってもらえるような絵を目指そうと思い、今回は早瀬さんにお願いしました。早瀬さんの方でも精力的に、ほぼすべてのキャラクターに関して塗りも含めてやっていただけたので、そこは彼女に任せてよかったなと思っています。
向坂氏:PS Vitaの高精細な画面に合う繊細な絵ですよね。
――細かいところまで色使いがいいなと思います。
みやざー氏:監修ではなく、本人が全部塗っているのが強いのではないと思います。一貫性のある絵になったと思います。
――今回はPS Vitaでの発売となりましたが、その経緯と開発での苦労などありましたらお聞かせください。
みやざー氏:開発当初は「白恋RE:Therapy」が出た頃で、これからPS Vitaになっていくだろうなという感覚はありつつも、PSPで開発した実績もありましたので、PSPにするかPS Vitaにするか、それとも両方出すかといったところをプロデューサーの北川とも話していたのですが、開発が遅れたこともあり、もうさすがにPSPで新作は出ない状況になっていたので、PS Vitaにしようと。それよりも問題になったのは、PC版を出すのかどうかというところで、そこも北川と話しながら最終的にPS Vitaに落ち着きました。
プロデューサー・北川貴規氏:今はプラットフォームの選択も難しいので、ここでできる最善のかたちになりました。
――PS Vitaですと、タッチスクリーンを作ったりとコンフィグ周りもいろいろと盛り込めると思うのですが、全般的にシンプルになっていたかなと思います。
みやざー氏:うちのゲームで楽しんでもらうのは百合物語なので、読み進めるところへのストレスだけはかけないようにしました。その分、システムボイスをキャラクターに変えられるようにしたり、用語集を入れたりと前作から引き継いている部分もあります。
――用語集では一般用語も入っているのが印象的でした。
みやざー氏:イメージとして、前作の「白恋」の時は本当に医療用語だけになっていたのですが、今回に関しては看護学校ものということでそんなに医療用語も多くなかったので、前回のボリュームに対して半分ぐらいしかないのであれば、残りの半分を世界観として分かりづらい文言や、説明しておくと面白い部分などを盛り込んでみました。
――あとトロフィーについては、最後の選択肢を盛り込んでいたのが面白かったですね。
みやざー氏:最後の選択肢はそこまでの進行でグッドエンドに行くためのフラグが揃っていなければ、そもそも選択肢自体が出ないようになっています。その前にバッドエンドを見てしまった人が、次に最後の選択肢まで辿りついてグッドエンドを見た時にはトロフィーが獲得できないので、そこに気づいた人にトロフィーを100%にすることができるという、ゲーム的な遊びの要素を入れてみました。
――現時点で次回作の構想などは持たれていますか?
みやざー氏:しまりすさんちーむとしては、女の子同士のあれこれというのを中心にしてゲーム化していくというのがカラーなので、今後もそういうものになると思いますし、もちろんそういったものを複数企画しているので、(北川氏を見つつ)会社を通れば出るんじゃないかなと思います。
北川氏:今のやな感じですね(笑)。
向坂氏:何にせよ、みやざーさんと話すのはもうバッドエンドのネタないですよねと(笑)。
みやざー氏:もう次はバッドエンドとかではなく、今度こそ“キラ☆ふわ”な安心して萌えられる百合ゲーを作りますので、みなさんの応援があればおそらく次もあるのではないかと思います(笑)。
――最後に遊ばれたユーザーの方に一言いただけますでしょうか。
向坂氏:「白愛」を遊んでいただいてありがとうございます。私はもともとゲームライターではなく小説家で、小説は基本主人公ありきなので、こういったジャンルとしては破格に主人公に思い入れを持って書いています。なのであすかのことを気に入ってもらえれば嬉しいです。
そして、先月も感想企画でSSを書いたみたいに今も書き続けているという感じがしていて、私の中でも「白愛」は終わっていません。今後も機会があれば何らかのかたちでシナリオを書きたいので、まだまだ期待してもらえればと思います。
みやざー氏:今回遊んでくれた人の中には「白愛」で初めてプレイしてくださった方もいるでしょうし、「ソルフェージュ」「白恋」から続けて遊んでくださっている方もいると思います。手にとって遊んでくれた人でも100%期待している方向とは違うものになっていると思いますが、ユーザーさんにとって、手にとったものが思った通りのものであるよりは、驚きと感動を感じられるものであることをすごく大事にしています。
こういった考え方は今後も変えずにまた次のゲームを作っていきたいと思いますので、あまり身構えずにナチュラルに見てもらって、楽しんでもらえればと思います。そして、「白愛」面白かったらぜひTwitter等で感想ツイート等してやってください。よろしくお願いします。
北川氏:どんな感想でもいいので、触れてもらっていっぱいツイートしてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
Girls Love Festival 14出展情報
6月14日(日)、東京都大田区産業プラザPiOで開催される「Girls Love Festival 14」に工画堂スタジオが出展します。
白衣性愛情依存症の新作グッズの販売もありますので、興味のある方は足を運んでみてくださいね。