セガゲームスが2016年3月24日にPS Vita版を発売した「初音ミク -Project DIVA- X」。その開発にまつわるエピソードを、プロデューサー、ディレクターの両名に聞いた。

目次
  1. 「ライブ&プロデュース」は“初音ミク”の今を見据えたコンセプト
  2. ライブクエストモードではリズムゲームを通じた体験や驚きを
  3. 新たな楽曲、メドレー楽曲、書き下ろし楽曲と盛りだくさんな51曲
  4. 遊びを整理した上で追加された新要素「ラッシュノーツ」
(左から)林誠司氏、大坪鉄弥氏

「初音ミク -Project DIVA- X」(以下、Project DIVA X)は、電子の歌姫・初音ミク主演のリズムアクションゲーム「初音ミク -Project DIVA-」(以下、Project DIVA)シリーズの最新作。「歌うようにプレイする」という、シリーズならではのリズムゲームとしての面白さや魅力はそのままに、新たにライブクエストモードが追加された。

本作はPS Vita版が発売中。2016年秋にはPS4版の発売が予定されている。今回は、PS Vita版の発売に併せて、本作のプロデューサー・林誠司氏、ディレクター・大坪鉄弥氏の両名へのインタビューを実施した。すでにゲームをプレイしている人も多いかとは思うが、改めて今作が目指したものを感じ取ってもらえればと思う。

「ライブ&プロデュース」は“初音ミク”の今を見据えたコンセプト

――PS Vitaでの「Project DIVA」シリーズとしては「初音ミク -Project DIVA- f/F」(以下、Project DIVA f/F)、「初音ミク -Project DIVA- F 2nd」(以下、Project DIVA F 2nd)と展開してきましたが、それらを経ての手応え、課題があればお聞かせください。

林氏:FシリーズはPS Vitaという新しいハードで、なおかつ内部で作っていくという点で、全てを仕切り直して新しくスタートしたプロジェクトでした。その後、「Project DIVA F 2nd」で完全に内部で作る体制を整えることができました。

手応えという意味では、ノウハウやワークフローが出来上がってきたこと、逆に課題という点においては、それをいかに安定して我々で作っていけるようにしていくのが挙げられると思います。

大坪氏:ライブなどのいろいろな展開がある中で、ゲームにおける“初音ミク”といえばセガという手応えは、シリーズを重ねるとともに感じています。AM2研がアーケード「初音ミク Project DIVA Arcade Future Tone」を作り、我々がコンシューマ、グループ会社のマーザ・アニメーションプラネットがムービーやライブを作っているのですが、ゲーム内で使用したモーションをリアルなライブなどで使用するなどの展開の広がりを見せるにつれて、シナジーの高まりを感じますし、内部的な手応えも持ち始めています。

課題という点では、さらにそのシナジーを高めて、ファンの皆様に返していくのかというところがあると思っています。

――そうした手応えや課題を見据えて「Project DIVA X」の開発へとつながっていったのだと思うのですが、発売までには2年を費やしました。

大坪氏:「Project DIVA F 2nd」の発売後もDLCの開発をずっと続けていまして、開発チームも「Project DIVA X」までずっと同じ面子で休む間もなく立て続けにやってきていました。

ちょうど1年前に「Project DIVA F 2nd」最後のDLCの配信を終えて、そのちょうど1年後に「Project DIVA X」が発売されるというかたちになっていますが、実際の「Project DIVA X」の仕込みに関してはDLCを開発しながらやっていた部分もあります。お客様からすると1年に1本遊びたいというのはあると思いますが、「Project DIVA F 2nd」で過去のPSPやアーケードの曲を掘り起こしつつ、次への準備をしていていました。

――「Project DIVA F 2nd」に関しては、DLCを提供する期間が本当に長かった印象があります。1年間DLCを作り続けるとなると、開発側の労力も相当なものではないでしょうか。

大坪氏:それも最初から考えていたわけではなく、「やっぱりDLCやろうぜ!」という勢いで突き進んでいきました(笑)。

――Xの開発コンセプトについてはどのように考えられていたのでしょうか。

大坪氏:プロモーションでも使われている通り、「ライブ&プロデュース」が最初に掲げたコンセプトそのままになっています。実際に日本武道館で行われた「初音ミク『マジカルミライ2015』」では先行してモーションのデータを提供したりもしているぐらいで、そのあたりは先ほど話したシナジーの一環です。

今まで通りにPVを作っていくのももちろん良いのですが、今回は仕組みを考えてみようというところから、紆余曲折あって今のかたちに落ち着きました。

林氏:「Project DIVA f/F」、「Project DIVA F 2nd」と開発を続ける中で初音ミクを取り巻く環境が変化していき、次を作る段階でコンテンツとして世界に向けて羽ばたこうとしている分野はリアルなライブだろうと。これまではゲームとして尖っていればいいという作り方をしていた部分もあったのですが、そういう流れの中に我々もきちんと加わり、“初音ミク”を盛り上げていくひとつの展開としてゲームがあったほうがいいのではないかと意識していきました。

そうした経緯を経て「ライブ&プロデュース」をキーワードにして、作り方もライブモーションの方向に寄せていきました。開発の段階で実際のライブに活かしていただけたというのは、今までになかった展開ですし、ライブクエストモードの立て付けも含めてライブに大きく寄せています。ゲームでライブを体験していただき、リアルのライブにも行っていただき、相乗効果でさらに新しい展開ができればいいなというのが、今作の根っこにあるものとなります。

――ちなみに、「Project DIVA X」というタイトルの由来にもそのあたりの意識が入っているのでしょうか。

林氏:Fシリーズの展開に続くということで、次もやはりアルファベットだろうと考え、未知数であるということ、ゲームシステム部分に新しい挑戦をたくさん仕込んでいることから“X”というタイトルをつけましたが、実はもうひとつ、裏ネタがあります。

大坪氏:前作までのロゴはあまりメッセージ性を強く出さず、音の要素を少し入れているくらいでしたが、今回はロゴのデザインを一新しています。後ろにインジケータやリングみたいなものが入っているのですが、これには全体的に一新するイメージと、ゲームのメッセージ性も少し入っています。

その上でデザイン時に“X”をどう表現しようと考えた時に、このXって実は反転して見るとfみたいだなということに気づいて。結果的にfをひっくり返して調整して、ギリシャ文字風の“X”にしてみました。

林氏:それが決め手になりましたね。やはりFシリーズの資産を使って新しい未知数のものを作ろうというところでいうと、これが一番コンセプトにハマるなと。あと“X”って普通にカッコいいじゃないですか(笑)。

大坪氏:音符のようなデザインも音楽っぽいですし。「Project DIVA」シリーズでロゴを作るときに一番意識するのは、音的な要素、音楽的な要素ですね。「初音ミク -Project DIVA-」のときは波形、Fシリーズのときは符号のようなモチーフが入っていましたが、今回は割りとわかりやすく「音楽!」っというのを入れつつ、後ろのサークルはゲーム内の世界を表現しています。そこに先ほど話した“X”を繋いでいった感じです。

――ロゴにそこまでの意味が込められているとは。

大坪氏:めちゃくちゃ込めていますよ!

ライブクエストモードではリズムゲームを通じた体験や驚きを

――続いて、ゲームの内容についてお聞きします。前作までとの一番の違いとして驚いたのがライブクエストモードだと思うのですが、その内容と搭載した意図を教えてください。

大坪氏:今まではリズムゲームが30曲以上遊べて、順にプレイすると次の難易度がアンロックされていく流れで、1回アンロックしたら、自由にユーザーの方に委ねる立て付けでした。また、モジュールに関しても今まではある程度条件を満たして、ショップで購入するという仕組みでした。

今回、「ライブ&プロデュース」というコンセプトを掲げて、「プロデュース」とは何かと考えた時に、モジュールを手に入れ、それらのモジュールをどう使って、楽曲のラインナップをどう決めるか、といった選択にあるのかなと思い、立て付けを変えようということからライブクエストモードのアイデアが出てきました。

従来のリズムゲームでは、まずは曲を知ってもらうためにも、EASYから順にプレイしてもらい、徐々に上手くなっていただくプレイの仕方でしたが、立て付けを変えていく中でボルテージという仕組みを導入しました。これまでのシリーズのように、失敗するとゲージが減っていく引き算ではなく、足し算でボルテージをためていくという方式に変えることで、ユーザーの方にはプレイして曲を知ってもらったり、その曲のリズムゲームを上手になってもらいたいという思いがあります。

その上で、手に入れたモジュールでエレメントを合わせたコーディネートにしてみたり、アクセサリの組み合わせで役をセットしたりしてエレメントボーナスを発生させると、多少自分の苦手な部分をエレメントボーナスやスキルで補える、そういった形でちょっとゲームライクというか、純粋に曲自体を乗り越える喜びを入れていきたいなと。

また、ライブクエストモードというかたちに落としこむとなれば、何かしらお話や流れがほしいなと思い、今回アドベンチャー的な要素として、ミクたちと会話を楽しむ要素を入れて、肉付けしていった感じですね。

一番根底にあるのは、モジュールを楽しくゲットしてもらおうということです。何が出るかな!?というワクワクドキドキ感を楽しんでもらえたら、というねらいがあります。また、レアなモジュールがドロップする時は通常と演出が変わっているので、よりワクワク感が増すと思います。ドロップ後はリズムゲームをクリアすると手に入るので、そのモジュールを使って次の曲をプレイする、みたいな遊び方ができると思います。

クエストに関しては、難易度の低いものから高いものまで様々用意しています。難易度の高いクエストにチャレンジする時は、モジュールに設定されているスキルやエレメントボーナスを活用してください。クエスト攻略にぴったりなスキルを持つモジュールを手に入れるために他のクエストにチャレンジしてみる、というクリアに向けて徐々にステップを踏んでもらうみたいな、そういうことができるような仕組みがライブクエストモードになります。

林氏:単純にいうと、今まではリズムゲームがプラス映像集的な感じで、映像とリズムゲームをそれぞれを楽しんでもらうというかたちでした。映像については我々なりに思い入れを持って作ったのですが、それがリズムゲームとうまく融合していたかどうかというところについては、反省すべきところもありました。今回のテーマはリズムゲームを遊んで、そこでいろんな楽しい体験や驚きを感じてほしいというところからの発想になっています。

変身してリズムゲーム中にモジュールがドロップするという仕組みを入れたのもそのひとつで、リズムゲームをプレイすればするほどモジュールやアクセサリが集まる達成感や、何が出てくるかわからないというドキドキ感を味わってもらおうと。世界観やストーリーといった部分も当然ゲームを遊び続けるためのモチベーションとして必要であるというところもあって取り入れました。

大坪氏:それと今回はクエストの中にスペシャルライブというものが用意されています。スペシャルライブ用に1分半くらいに短く編集した曲から自分で3曲選びセットリストを組みます。モジュールやアクセサリでのコーディネートやスペシャルライブを開催するホールもプレイヤー自身で決めることができるので、ミクたちのライブをプロデュースするという感覚も味わえるような作りにしています。1曲1曲を楽しむだけじゃなく、複数の曲をまとめて楽しむというのは、メドレーにも通じていますね。

スペシャルライブの楽曲は、ベースとなる通常のリズムゲーム尺の音源を凝縮したものになっています。曲の長さが違うので別の楽しみ方ができると思います。

――実際にスペシャルライブをプレイさせてもらいましたが、曲が終わってからの間がなく、次の曲へ自然に流れていくのがいいなと思いました。

大坪氏:シームレスにするというのは、最初からこだわり続けていました。通常、リズムゲームでセットリストを組んでプレイする時は、1曲遊んで少しロードを挟んで、というパターンが多かったと思うのですが、ライブはノンストップで続くのが楽しいのではないかと思い、今回ノンストップでプレイできる仕組みを作りました。

林氏:短くしても途中でぶつ切りみたいにはしないようにと担当の人たちが頑張ってくれました。サビも、盛り上がるところもきちんとあって、自然にと終わるというふうに。曲の編集に関してはゲームのモーションと合わせるためにチーム内でやりましたが、聴いてほしいところのひとつですね。

大坪氏:おいしいところを選びきって載せているみたいな。ダンスの見どころも含めてってところですね。

林氏:スペシャルライブでは歓声も乗せているのでライブならではの臨場感もありますし、聴き応えのある音源なんじゃないかと自負しております。

大坪氏:モーションもそれぞれ用意しています。ベースとなるフル尺のモーションがあって、それをリズムゲーム尺に編集、スペシャルライブではそれをさらにベリーショート版にしています。例えばスペシャルライブ用にモーションの構成を考えるときは、サビは大サビからモーションを持ってきた方が動きが派手でいいよねとか、全部考え直してるんですよ。なので曲の構成ももちろん違うのですが、モーションの構成もフル尺(ライブエディットで見れるもの)と、通常のリズムゲーム尺のもの、スペシャルライブ版のものが用意されているんです。そういったところも見どころかなと。

――ライブということでカメラの見せ方も意識されてるのかなと思うんですが、それも長さとか、シチュエーションとかでも変わるのかなと。これまではPVとしての印象がすごく強かったので、そこが印象的でした。

大坪氏:PVですと、いわゆる印象づけのために背景にカメラを回したりするのですが、今回はライブでミクが歌って踊っているということ、そしてステージと楽曲の組み合わせを変えられることから、歌っているミク、リン・レンなどのキャラクターたちをしっかり映そうと思いました。その上で、曲ごとにカメラワークをきちんと印象づけられるようにしようと意識はしています。また、スペシャルライブでのカメラワークは観客席を映したりと、より臨場感のあるものになっていますよ。

――ライブクエストでは、ボルテージの仕組みになったおかげで、リズムゲームを遊んでもらうという意味でハードルが下がったのではないかなと思っています。EASYとかNORMALくらいならなんとかなるかなと思うんですけど、HARD以上になっちゃうとどうしても苦手な場所があって苦戦するということも、これまではあったのではないかなと。

大坪氏:通常のリズムゲームはいわゆる引き算的な考えで、ひとつ失敗するとPERFECTからEXCELLENTに評価が落ちる仕組みでしたが、ボルテージを導入したことで、ゲージを徐々に積み上げていくかたちになりました。

クエストクリアのレートも決まってるんですけど、そこに達したら終わりではなくて、ボルテージをためこんだ分だけリザルトでアイテムやアクセサリがランダムで落ちてくるようにしようと。積み上げてもらうようにしたことで、全体のハードルという意味ではいい塩梅にできたかなと思います。ボルテージという言葉は開発の初期に出てきたのですが、その言葉を大事にしようっていうのはチーム内にありましたね。

――ボルテージという言葉が、まさにライブって感じですね。

大坪氏:そうですね。ボルテージの上がりやすさの係数をボルテージと呼ぶか、実際の数字をボルテージと呼ぶか、チーム内でいろいろ検討したんですけど、今はボルテージレートとボルテージってかたちですみ分けをしています。ボルテージレートが高くても、やはりリズムゲームの腕前は重要です。それはやはり、ミクをうまく歌わせることができているかということになるので。

――変身のアイデア自体のきっかけ的なものはありますか?

林氏:もともといくつかのPVで衣装が変わる演出はやっていて、それをシステマティックにやってはどうかというところから始まりました。変身シーンって何回も見ることになるので、変身バンク的な演出はやっていこうと。

着せかえ要素も今までは見た目が変わるだけだったんですけど、今回は組み合わせによってはゲームに影響するようになりました。モジュールを手に入れるためにプレイし、ボルテージを上げてステージやライブを盛り上げるということが、ライブ&プロデュースというコンセプトに繋がる。だから変身という要素はゲームの流れの中では大きな要素になるのかなと思っています。

新たな楽曲、メドレー楽曲、書き下ろし楽曲と盛りだくさんな51曲

――収録楽曲についてお聞きします。前作ではDLCも含めて幅広く取り扱っていましたが、それを踏まえて今回はどのように曲を選んでいきましたか?

林氏:楽曲はクリプトン・フューチャー・メディアさんとお話しながら決めていくのですが、取り巻く環境の変化もあって、収録楽曲は今まで以上にいろんな方向を吟味しながら決めていきました。

「Project DIVA F 2nd」でいろんな曲をやらせていただいて、その中には再録したものもありましたが、それについて賛否両論があったんです。それを受けて、次はできるだけ新しい曲を入れたいねという話をしたんですね。

ただ、なんでこの曲は入っていないのかという定番曲に対するリクエスト的なものも考えあわせると、新しい音源で、なおかつみんな知っている曲、というひとつの折衷案としてメドレーという考えが出てきました。メドレーではいろんな有名曲を入れていますが、アレンジが得意なアーティストの方々にお願いして、そういうユーザーの方に新鮮な音源で聴いていただくことを目指しました。

大坪氏:メドレーって実際のライブでもあるじゃないですか。今回のコンセプト「ライブ&プロデュース」だからこそ実現できた楽曲というのもありますね。林氏実際にあがってきた音源を聴いてみて、メドレーはやってよかったと思いました。

「はじまりのメドレー ~プライマリーカラーズ~」
メドレーアレンジ:OSTER project
「ビューティ・メドレー ~Glossy Mixture~」
メドレーアレンジ:Treow(ELECTROCUTICA)

メドレーだとアレンジするアーティストさんの個性が出て、原曲を知っている方でもこういうアレンジがあるのかと楽しめると思います。また曲ごとのつながりも、原曲をただつないでいるだけじゃなく、つなぎの部分に個性がすごく出ています。

メドレーはサビ中心で構成しているので、曲としてはとても聴き応えがあるんですよね。リズムゲームとしてはちょっと長いんですけど、聴いていて全然飽きないというか、リズムゲームをしていてもだれないというか、ずっと盛り上がりっぱなしなのでおもしろいかなと思います。

――メドレーはキャラも入れ替わったりして、常に動き回っていますよね。

大坪氏:メドレーではミクだけのものもあれば、複数キャラの出てくるものもあります。例えば登場キャラクターが3人ならその3人の動きをどうするか、キャラごとに見せ場を作りたいよねとか。構成もミクを中心にほかのキャラクターがコーラスで入っているものもあれば、メインボーカルになったりとかもして、曲の中でも色が変わっているのを感じられるかなと思います。

「クール・メドレー ~サイバーロックジャム~」
メドレーアレンジ:DIVELA マニピュレート:攻(おさむ)
「キュート・メドレー ~アイドル サウンズ~」
メドレーアレンジ:Mitchie M

――書き下ろし曲も収録されますが、それぞれの曲を依頼する上でお願いした部分と、上がってきたものを聞いた際の感想を聞かせてください。

林氏:「Amazing Dolce」ではビューティ系の楽曲でMEIKOメインでお願いしますと伝えたりと、今までよりは細かく曲の雰囲気を伝えてオファーしていたんです。ryoさんに関してもオープニングで使いたいので、ゲームのコンセプト的なところをお伝えして。

そうはいってもryoさんには書きたいものがあったと思うので、僕らもどういうものがあがってくるのかわからなかったんです。届いた音源を聞いて、実にドラマティックな楽曲で驚きました。この世界観をどのようにゲームで表現しようか悩みました。

大坪氏: 2番までの全部の尺をちゃんと聴くと、ストーリーが構築されるような形で作られていますが、ゲームでは少し短くする必要があって、そのスポイルされる部分をどう表現しようかとか。あとはryoさんが考えられている、この曲に対する設定感をどう見せようかというのは意識しました。ライブとは違った、演劇的な要素をステージの中に散りばめてみたり、後ろで動いている影絵で足りない部分を補ったりとか。

「ライブ&プロデュース」と今回は言っているのですが、ライブステージには固執してないんですよ。一部こだわっている部分もありますが、すべてのライブがいわゆるライブ会場や路上のようなお客さん相手のものだけではなくて、曲ごとの特性を出すためにTVなどで見るセット組みされているようなステージも用意しています。その中でこの「罪の名前」は楽曲のストーリーやバックボーンをできる限り詰め込んでみようというかたちで最終的に昇華しています。これには演出担当や制作スタッフも結構苦労していましたね。

「罪の名前」(アーティスト:ryo(Supercell))

林氏:「Amazing Dolce」は3人の掛け合いが楽しい曲ですので、振付の段階からお芝居っぽい動きを取り混ぜながら作っていきました。livetuneのkzさんの「Satisfaction」はもうバリバリのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)なんです。そのため振り付けを考えていただく際は、カッコいいステップを入れ込んでいきましょうなどと話し合ってて作っていったりとか。書き下ろしである分、工夫の余地がありました。

大坪氏:「Satisfaction」はこの曲に合うかたちで考えてみて、クラブ的な、お客さんのいるようなステージになりました。

「Amazing Dolce」(アーティスト:ひとしずく×やま△) 「Satisfaction」(アーティスト:livetune)

――お話を伺ってからプレイしてみると、イメージがわかりますね。

大坪氏:曲ごとにベースとなるステージがあるんですけど、その曲をある程度イメージできるものを用意したいなという考えが根底にあります。逆にライブステージの型にはめなかったことで、「罪の名前」や、「Amazing Dolce」のような物語性のあるものも表現できていると思います。

――今回はエレメントの要素があって、それによって曲に対するモジュールの設定なども意識することになると思いますが、そういうかたちにしようとした理由はありますか?

大坪氏:ゲーム的な発想でいうと、モジュールやアクセサリの組み合わせの遊びを作るにあたって、まずはじめにコーディネートの基礎となる要素としてエレメントを用意しました。

エレメントに関しては属性という意味合いがありますが、もとは動画投稿サイトなどに用意されているタグが発想の原点です。可能性としてはもっといろいろなエレメントがあり得るかなとは思うのですが、「Project DIVA X」の世界では5種類のエレメントという区分けにし、そこに楽曲をはめ込んでいきました。

林氏:ですので、絶対的な分類ではありません。その曲のイメージに対して5種類のエレメントでタグを付けて、ソートをかけたらそうなったということです。「ラブソング」「元気が出る曲」とかにしたらまた違う振り分け方があるのかもしれないですけど、今回はこういう形で分類、グループ分けをしています。

遊びを整理した上で追加された新要素「ラッシュノーツ」

――前作でもリズムゲームのシステムはチャレンジされているなと思ったのですが、今回は新たに「ラッシュノーツ」が追加されましたね。

大坪氏:今まで「Project DIVA」ではタイトルごとにシステムを追加してきましたが、要素を追加するばかりだと遊びとしても大変になりますし、お客さんからの意見もありまして、一度整理してもいいのかなと。

その中で、ゲーム的に難易度の上がってしまったダブルスクラッチとリンクスクラッチをオミットしまして、リズムゲームとしての遊びの要素になるものを考えようと。よりシンプルで気持ちいいものがいいなということで、新たにラッシュノーツを加えました。

ラッシュノーツ自体も、こちらが用意したリズムで叩いてもらうというよりは、ボルテージを積み上げるために決められた時間でできるだけ連打するのか、それとも早めに切り上げてコンボをつなげるための準備期間をとるのか、ユーザーの方が自由に自分のスキルにあったかたちで遊べるようにチューニングしています。連打をやり切らないとパーフェクトにならないというわけではありません。

林氏:狙いはまさにそういう方向で、ミスをさせるのではなく加点させ、ボルテージを高めてのめり込む要素にするというデザインになっていますね。

――今まで連打の仕組みはなかったですね。

大坪氏:今まではちゃんとノーツが配置されていて、用意されたリズムに合わせて対応するボタンを押すというのが「Project DIVA」のリズムゲームの基本でした。人によっては片手で連打する人もいれば両手で連打する人もいて、リズムが分かる人もいればそうでない人もいるので、ドラムロールのようなイメージで自分のペースで叩いてもらえればいいかなというような考え方です。

――他にもリズムゲームの中で意識的に調整した部分はありますか?

大坪氏:やはり難易度に対してどれくらいの難しさを仕込むかというところですね。面白くしようとするとどうしても難しくなっちゃうところがあって、そのあたりもシリーズを重ねて我々の中で蓄積して、各難易度に対してどれくらいギミック感を入れていこうかということを常に意識しながら、難しくなりすぎないように、ということは考えています。

――もともと難易度が4段階あって、曲数も多いとなると幅が出ちゃいますよね。

大坪氏:「Project DIVA」のシステムはターゲットの位置が画面内を縦横無尽に動いて、ノーツもいろいろなところから飛んでくるということもあって、いろいろと面白い手法が考えられるんですね。EXTREMEにはそういった手法を詰め込んでいるんですが、それをそのままNORMALやEASYに持ってくると、ゲームとしての難易度が高くなってしまうので、NORMALとしての適正な難易度の狭間で常にチーム内で検討し、意見を集めながら落としどころを探りつつ調整しています。

あとは「初音ミクが歌うようにボタンを押す」というキーワードがシリーズの根底にあるので、そこは常に大事にすることは意識しつつ製作しています。

――今回収録される曲の中で、EXTREMEの中でもこれはヤバいんじゃないかと思う曲はありますか?

大坪氏:EXTREMEは、リズムゲーム上級者向けに作っていますが、やり過ぎないようにと注意してはいます。しいて挙げるとしたら、「終極のメドレー」でしょうか……。

林氏:「終極のメドレー」に関しては、「初音ミクの消失」「初音ミクの激唱」などの、これまで収録されてきた楽曲の中でも最高難度をほこる楽曲を提供していただいているcosMo@暴走Pさんにアレンジをお願いしていたので、歴代の「Project DIVA」シリーズの中でも難しいと言われてる曲ばかりを集めて「思いっきりやってください!」とアレンジを依頼しました。

大坪氏:譜面を作る上で絶対的なルールがひとつだけあるんです。“チーム内の誰でもいいからパーフェクトを取ること”を絶対的に課しているんです。今回の「終極のメドレー」は最後の最後まで誰ひとりパーフェクトが取れなかったのですが、メドレーを構成する楽曲ごとではパーフェクトを取れていたので、合わせ一本でいいかなと考えていたんです。ところが締め切り直前に「できました!」と若手のスタッフが叫んでいたので、一応人間がパーフェクトクリアできるということは証明されています。

林氏:曲としてもおもしろくて聴きどころがありますし、リズムゲームを作る上でもテクニカルな曲になっているので、ぜひ挑戦していただきたいです。本作ではエレメントやスキルなど、それを乗り越える方法があるので。

大坪氏:そもそも本作ではライブクエストであれば途中でゲームオーバーすることもなく、リズムゲームを最後まで完走できるようにしてあるので、とりあえず怖いもの見たさで遊んでいただくのもありかなと。今の自分のリズムゲームの腕前はこのへんなのか、次プレイしてみたらちょっとボルテージ上がった、とか、ちょっとずつ積み上げてうまくなれる感じになっています。

ちなみに、ライブクエストモード自体はHARDやEXTREMEに挑戦しなくてもクリアすることができるので安心してください。

――これまでのコミュニケーション要素だったDIVAルームは、今回はホームというシステムに変わりましたね。

大坪氏:ライブクエストモードの起点となるホームは、従来のDIVAルームのコミュニケーション要素とリズムゲームを統合しましたものになります。これまではリズムゲームとは別モードとしてDIVAルームを用意していましたが、今作ではリズムゲームが終わったらミクがいる部屋に帰ってくる仕組みにしています。ミクが目の前に立っていて、画面を触れば反応したりと1対1でコミュニケーションを楽しむこともできますし、クエストから戻ってきたときに「この衣装どうかな?」と話しかけてくれたりとか、キャラを愛でる要素も集中的に入れました。

――ライブエディットは譜面を編集するのではなく、あくまでもライブを編集するかたちになっていますが、そうする上で意識したポイントなどありますか?

大坪氏:ライブエディットの大きなポイントは、フル尺の楽曲が聞けて、そのフル尺のダンスモーションが見られることですね。リズムゲームでは省かれている部分もすべて見られます。

林氏:ライブエディットでフル尺を鑑賞してもらうと、こんなふうになっていたのかと思えることもありますよ。

大坪氏:それが実際にリアルのライブで使われたりもしますので、そういう部分も含めて鑑賞するのにいいかなと思います。

今回のライブエディットでは楽曲とステージの組み合わせを変える仕組みがあるのですが、開発するにあたって映像としての演出の仕組みをシステム化しているんです。そのシステムをライブエディットとしてユーザーに開放しようということになりました。好きなタイミングで演出やライトを切り替えたり、カメラワークを考えたりして理想のライブシーンを作ることができます。

今までの「Project DIVA」はPVを作るものだったのですが、そこは前作までのライブスタジオを融合するかたちで、今のシステムに合わせて機能拡張してライブエディットとして仕上げました。さすがに6分のリズムゲームを作るのはどうかというのもあったので、ライブを鑑賞するというところに集約しています。

――最後にユーザーに向けてのメッセージをお願いします。

大坪氏:2年ぶりの「Project DIVA」新作です。長らくお待たせしてしまいましたが、仕上がりはかなりいい感じになっていると思いますので、ライブ&プロデュースを楽しんでいただければなと思っております。ぜひともよろしくお願いします。

林氏:今回、「Project DIVA X」という形で新作を出させてもらうことになって、非常に感謝しております。今回シリーズの資産を踏まえての新しい試みをたくさん詰め込んでいますので、今までの「Project DIVA」が好きだった方も、これから初音ミクや「Project DIVA」ってどんな感じなんだろうと新しくプレイする方も、同じ目線、等しい立ち位置で遊んでいただけるのではないかと思います。ぜひ“X”のヒミツを解いてみてください!

――ありがとうございました。

初音ミク -Project DIVA- X

セガゲームス

PSVitaダウンロード

  • 発売日:2016年3月24日
  • 12歳以上対象

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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