キングストンテクノロジーのゲーミングヘッドセット「HyperX Cloud Revolver」の魅力に迫る! オーディオ機器の特徴を誰にでも分かりやすく伝えていく、初心者向けオーディオ講座「付け焼刃の知識でケガをする音響機器レビュー」。

目次
  1. やってきたソイツは、拳銃だった――
  2. ドイツ生まれの本格派、それが君だ
  3. 獰猛でいて正統派、大と小のデフォルメに注目
  4. サウンドのステージでショータイムなるか?
  5. シリーズを牽引するのだRevolverよ

捨てる神あれば拾う神あり。どうにかはじまりました第2回。そんなわけで今回も、ゲーミングヘッドセットに関する分かっているようで分かっていない用語や、スペック表の意味するところを調べつつ、ときには大胆に無視しつつ、機器の特性を紹介していこうと思います。伸びやかでキレのあるタイトな音場感を一緒に勉強していきましょう!

やってきたソイツは、拳銃だった――

第2回で紹介していくのは前回と同じく、キングストンテクノロジーのゲーミングブランド「HyperX」より、ゲーミングヘッドセット「Cloud」シリーズからのピックアップ。堂々の次世代型フラッグシップモデル(※)として5月14日に発売された「HyperX Cloud Revolver」です。

しかし、名称のRevolver(リボルバー)って和訳すると「拳銃」ですよね? 銃弾で撃たれたかのようなインパクトが味わえるとか、弾速のごとき鋭いサウンドが耳を突き抜けていくとか、そういう意味でも含まれているのでしょうか? 気にしておきましょう。

※フラッグシップモデルとは:企業・ブランドが販売する最上級の製品のこと。単純に、最新の製品+最高の技術+最大の値段=フラッグシップモデルと考えておいても問題なしです。エントリーモデルの対極に当たる製品でもあります。ちなみに用語の語源は、軍事艦隊のリーダーを指す“旗艦”からきています。

キングストンテクノロジー「HyperX Cloud Revolver」
型番:HX-HSCR-BK/AS
小売実売価格:13,870円~

まずはササッとスペックから洗い出してみましょう。ヘッドホン部分は密閉型ダイナミック 50mm径(ネオジム磁石)、周波数は12Hz~28,000Hz、インピーダンスは30Ω、音圧レベルは104.5dB、重量(マイク/ケーブル含む)は376gとなります。イミワカンネな人は前回記事でおさらいしておくと「これっ、前回の記事で習ったやつだ!」ってできます。やったね。

さてと、今回はもうちょっと細かな用語をいくつか拾っておきます。まずドライバサイズの横で怪しげなパワーストーン的に書かれている(ネオジム磁石)ですが、このネオジム磁石とは世界で最も強力とされるレアアース磁石のことです。「なんでヘッドホンに磁石が?」と感づいた人は実に目ざとい! ぜひとも自分で調べてみましょう。

続いて上記では触れていませんが、本製品のようなヘッドホンは「サーカムオーラル型(オーバーイヤー、アラウンドイヤーとも)」と分類されます。この不可思議な横文字は“耳全体をすっぽりと覆う形”のことを指していて、つまり大きめに見えるヘッドホンの型ですね。街中で意識して歩いていると、耳だけにしかあたっていないコンパクトなものを身に着けている人もいるはずなので、普段の生活の中で比較してみましょう。

内箱

次はTHD:2%未満という文字列です。「THDってなんや?」という人もご安心を。今から調べますから。……なんでもTHDとは信号の特性を表す“全高調波歪み”のことで、値が小さいほど歪みも小さく、値が大きいほど歪みも大きくなるといいます。申し訳ありませんが、これ以上の理解は脳が拒みました。理系の人だけ一歩先へ進んでみてください。

最後は入力電力の定格30mW、最大500mWの意。文字からして文系だけを殺す用語にしか聞こえませんが、こちらはヘッドホンに入力できる電力の値を表しているのだとか。基本的にヘッドホンの接続先であるデバイスの出力と同等、もしくは以上であれば問題ないようです。大体そんな感じ。

あっ、今回こそはマイク部分のスペックを解説したかったのですが、文字量の限界がきてしまったようなので、また今度にしましょう。もう あたま いたい。

ドイツ生まれの本格派、それが君だ

製品パッケージの同梱物は、ヘッドセット、USBコントロールボックス(ケーブル長2m)、取り外し可能なマイク部品の計3点。HyperX Cloud IIと比べるとガジェット類が充実していないためにちょっぴり寂しいですが、それゆえに製品としての本気さが伺えますね。

接続は3.5mm4極、もしくは3.5mm3極のミニステレオジャックに対応(※)。大きめのイヤーカップは革製になっていますが、中綿の低反発素材がフワフワなので快適性もバッチリです。ただし、素のケーブル長は1mなので人によっては延長前提で考える必要があるかも

※3.5mm3極と3.5mm4極とは:一般的に3.5mm3極はステレオ接続、3.5mm4極はステレオ+マイク接続に対応しています。これ以上詳しく知りたい人はネットの海にダイブしましょう。なお、3極と4極の判別方法は、プラグ部分に描かれている模様が2本(3極)か、3本(4極)かで判別できます。

左と中央がUSBコントロールボックスのプラグ、右がヘッドセットのプラグ。

本製品のキャッチコピーは「競争力を高めるスタジオグレードのサウンドステージ」。ハイエンドな高級品質のみなぎる自信と、業界他社に一石を投じるという強烈な意思を感じさせます。さて、ここからはその挑戦的な口上に習い、製品の実力を計ってみましょう。

最初は本命のゲーミング用途ですが、PS4/Xbox One/Wii U/PC/モバイル対応ということうなので、今回もPS4「レインボーシックス シージ」をプレイしつつ、使い心地を試していきます。このタイトルには今後もヘッドセットの具合をはかる使命を存分に担ってもらおうと思います。

まず恒例としました、「エンジン音が鳴り続ける車を正面に360度回る」を試して、定位の具合を調べていきます。んー、奥行きや立体感は若干甘いものの、HyperX Cloud IIと同様に前後左右360℃に死角なし。ちなみに前後の立体感を成立させられる機器って、現状ではレディーメイドクラスでも数える程度なので気にしなくていいのです。

特徴は「大きいイヤーカップで耳を包む、空間で聴かせる臨場感」。本製品では耳全体がすっぽりとイヤーパッドで包み込まれるのですが、革製パッドは柔らかくもスポンジのように弛まないため、耳の外側(あるいはイヤーパッドの内側)に“余裕のある小さな密閉空間”が生まれます。この小さな空間の中で効果音が広く響きわたるために、さながら“耳の映画館”みたいな気分を味わえます。

物理的な構造の違いが、シリーズ製品としてのハッキリとした差別化に繋がっており、体験の違いを見事に創造しています。もっと分かりやすくいうと、「今までのCloudと全然違うかも!」。この臨場感こそがHyperX Cloud IIでは味わえない、文字通りのアップグレードといえるでしょう。

続いてはヘッドセットの装着感。イヤーカップ部分が独立していてクネクネ動くので、さまざまな角度から耳元にぴったりフィット。印象的な“ヘッドバンドとスチールフレームが分かれている”部分ですが、ヘッドバンドにはシリーズ初の試みとなるサスペンションデザインが採用されており、特に調整せずとも、被るだけで頭の形状にあわせて自動で上下に動いてくれます

実際に装着してみると、イヤーカップもヘッドバンドも適切に固定されます。頭を軽く振ってみても、可動部分の遊びがズレをカバーしてくれます。ですが、サスペンションに可動域が残っていると、実際は安定しているのに、なんとも言えない“固定されていない感”が押し寄せてくるのです。欠陥とかそういうことじゃなく、私のように生理的にダメな人はダメかも。また、頭のつむじにピッタリ位置づけて装着しないと音が上手くハマらないのも微減点。

加えて、硬質のフレームがこれまた厄介で、装着時に何かにぶつけてしまうと「耳の中でお寺の鐘を鳴らされた(除夜の鐘とかのゴーンってやつ)」と錯覚するくらいに、神妙な衝突音が豊かに広がります。作りの都合上、一番外側のハウジングをぶつけても同様の効果を生むため、ヘッドホンあるあるの1つ「電車の吊革にヘッドホンをぶつける」ときの衝撃力が非常に高まっています。

しかもこれ、一度癖になってしまうと、延々とフレーム部分を指でコツコツ叩いて「鐘だぁ……、頭の中で鐘がなってるぞぉ……」と中毒的に気持ちよくなってきてしまうので本当に注意です。もう、スチールフレームのヘッドセットじゃないと買えなくなるかも。ちょうたのしい

クネクネ動いてくれる可動式。
頭がどんなにデカくても、おそらく対応してくれるはず。

取り外し可能なノイズキャンセリングマイクは、欠点とされていたグースネック部分が改良され、耐久性が大幅に向上。マイク部分も全て内蔵されているので、ボワボワとしていた大きめのスポンジもなくなって実にスマートに。なお、グースネック部分は耐久力とのトレードオフのせいか、グニャグニャ曲げられるものの形状記憶がちょっと甘めです。使い込んで自分色に曲げてやりましょう。

ちなみにマイクの具合については、わざとらしいフィルター効果は上手く避けつつ、声がクリアに聴こえるように調整されていると感じられます。マイクの集音性も指向性も口元に集約することができるため、うまく調整すれば声だけを拾い、キーボード音をキレイサッパリと排除できそうです。これは非常に実用性の高いマイクといえます

なお、本製品のマイク音質はボイスチャットクライアント「Teamspeak」によって認定されています。この認定テストにおいてはエコーも、背景雑音も、音声の歪みも検出されていないのだとか。本製品はほかにもDiscord、Skype、Ventrilo、Mumble、Raid Callで認定されているので、これらを活用している人には朗報でしょう。

グースネック部分は自然と戻るとまではいきませんが、自由に曲がり切ってくれないのは気になるかも。

獰猛でいて正統派、大と小のデフォルメに注目

Revolverの色味は赤黒オンリー。50mmドライバ内蔵のせいかハウジングは大きく、つや消しブラックのスチールフレームは知らない人にまで「よく分からないけど威圧的だ……」と感じさせる硬派さを醸し出しています。一見すると猛禽類のようなこの印象は、つまるところ“本気のゲーマーっぽさ”の演出に一役買っているといえるでしょう。

しかし、エンクロージャー(外装全体のこと)が小ぶりに作られているため、全体としてはスッキリとした装い。パーツ毎の大小のディティールがハッキリと分かれているため、デフォルメされたマスコットキャラクターのようです。逆ツーブロックです。デザインは正統派、バランスは黄金律、これがカッコ悪いと思う人はそうはいないのでは?

ということで今回も、Gamer編集部の女性陣に「いい仕事あるよぉ……モデルの仕事だよぉ……」と働きかけ、ヘッドセットガールになってもらいました。前回とは打って変わり、まず街中で拝見することは叶わない組み合わせだと断言します。まあ、ゆるふわガール+ゴテゴテ機械感のギャップを天秤のどちらの受け皿で拾うかは、各々の嗜好に任せますが。

正直なところ、外出時のファッション用途としてはミスマッチは否めません。ゲーミングヘッドセットとして着用し、ゲームをプレイするのであれば違和感はありませんが。でも、たぶん、おそらく、だからこそ、これを外で身に付けている女性を見かけたら、結構な数の男性がウィークポイントにブッ刺さるかもです。これ、マジな心理だと思いますよ?

サウンドのステージでショータイムなるか?

ここからは“音楽鑑賞で使うHyperX Cloud Revolver”と題し、DAP(デジタルオーディオプレイヤー)の音源ファイルを用いて、本製品のリスニング性能(※)についてレビューしていきます。今回もすまし顔で社内でエージングを済まします。終わりました。

※モニターとリスニングのお話:ヘッドフォンには、スタジオ仕事などの用途で使われる「モニター用」と、音楽鑑賞のために使われる「リスニング用」があります。これは正式な製品分類ではなく、あくまでユーザー側の分類ですので結局は好みですけどね。私は音が豊かに膨らむリスニングよりも、音の粒感が耳の中で踊るモニターが好きですし。

取り扱う機器の構成は、DAPがSONY NW-ZX2(VPT:スタジオ設定)、楽曲が無圧縮WAV、参考用にモニターヘッドフォン(SHURE SRH1540)です。前回と同じです。結局のところ、普段使いしているアイテムなので「そこにあったから」以上の理由がないのです。

さて、本製品のUSBコントロールボックスには、HyperX Cloud IIに備わっていたUSBサウンドカードが付属していないことで、音量調整やミュートを切り替えるだけの純粋なアナログコントローラーになっています。本来は別に残念がることではありませんが、「あったのにない」の喪失感により、ちょっと寂しいですね。それだけですが。

操作はいずれも物理的なので、どんな接続先でも大安心。

音質の傾向としては、ゲーミングヘッドセットらしく低音寄り。これ常套句になりそう。しかし、先ほど言ったように耳全体を覆う形状のため、耳周辺の密閉空間に音場が形成されているかのように、流れてくる音に立体感が付与されています。潰れたイヤーパッドの中で音が籠もる感じもせず、開放的に抜けて広がっていく印象です。まるで密閉型であって、密閉型ではないよう

立体感と音場を物理的に形成してくれているこの形状は、特に「イヤホンとヘッドホンの違いを知りたい」などとという人に、ヘッドホンの良さを効果的に知らせることができると思います。そういうことを口にしている友人に心当たりがある人は、今すぐドヤ顔で「じゃあ、このヘッドセット知ってる?」って推しちゃっても構いませんよ?

なお、この音の解放感に関しては良いようにも悪いようにも言えてしまいます。ゲーミング用途ではフィールドの広さや、バトルのスケールが大きく広がっている印象を受けられるので問題なしですが、こと音楽でいうと「反響せずに音が抜けていく、だだっ広いホールでの音楽鑑賞」とも称せてしまいます。ついでにやはりというか、遮音性もよろしくない部類です。

かといって、リスニング機器としては及第点以上なので難しいところ。音を聴きたいのではなく、音楽を聴きたいのであれば優等生。広々とした演奏を楽しめるこの構造は、同一の武器を有していない限り、価格上の上位機種であろうと太刀打ちできません。密度の高いライブハウスより、開放的なサウンドホールでの音楽鑑賞が好みならば、十中八九当たりの製品でしょう。

そして最後にもう一つ、エントリークラスの製品を使ったことをない人が、このRevolverで音楽を聴いたと仮定します。おそらくですが、大多数が「うわっ、すっげーぞこれ!」って感じると思いますよ? ファーストインプレッションの切れ味が半端じゃないからこそ、試聴時間を長めにとって、その後の使い道を吟味してほしいです。外使いが厳しそうだからね。

シリーズを牽引するのだRevolverよ

製品への率直な意見としましては、ゲーミング用途に限ればデザイン、性能、値段を含めて「HyperX Cloud Revolver」に不満を一切感じません。フラッグシップを冠する逸品として、購入者に誠実なまでの高品質を約束してくれます。

ただ、(あくまで個人的にですが)装着感に関する嗜好はハッキリと分かれるかもしれません。前述したとおり、ヘッドバンドのサスペンション部分に安定感を覚えられない人にはちょっと辛いかも。また、デザインもアタックが効いているので、日常使いも人を選びそう。良い意味でも悪い意味でも、Revolverは家使いデバイスとして特化している印象です。試着推奨。

さて、興味がない人には「これくらい誤差じゃない?」と言われることの多いAV機器。しかし、その誤差の積み立てを身をもって実感できるのもまた、AV機器です。ブランドのフラッグシップ製品を購入する動機というものは「フラッグシップが出たから」、それだけで十分なのです。AV機器界の一大イベントなのです。もはやボジョレー・ヌーボーなのです。

だって、フラッグシップ製品を体験するということは、後の自身の見識にまで繋がっていくのですから――。まあ、ここまで言われておいて、それでもまだ重い足が店頭まで向かないという人は……仕方ありません。いいでしょう。ぜひともAmazonでチェックしてくださいね!

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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