8月24日からパシフィコ横浜にて開催されていた「CEDEC 2016」。ここで行われたセッション「スマホゲーム分析の一歩先へ~ユーザー行動ログとユーザーの感情を結びつける新しい分析手法~」をレポートする。

本セッションを担当するのは、DeNAでリードマーケティングリサーチャーを務める片瀬大氏。セッション内では、ゲーム開発・運営におけるマーケティングリサーチが果たすべき役割や、DeNAで片瀬氏が実際に行ってきたマーケティングリサーチの事例が紹介された。

片瀬大氏

片瀬氏によると、ゲーム開発・運営におけるマーケティングリサーチとは、ユーザーとゲーム開発者の架け橋となり得るものなのだという。

ゲーム開発・運営を続けていくと、どの程度のユーザーが獲得できるか、現状のゲームにどの程度満足しているか、どういった部分に手を加えていけば満足度は上がっていくのかなど、自然とさまざまな悩みを抱えることになる。そんな時、ユーザーの生の声をアンケートやインタビューによって収集・分析することで、正しい現状と目標となる指針を打ち出し、開発者をサポートするのがマーケティングリサーチの役割なのだそうだ。

マーケティングリサーチを活用した「逆転オセロニア」でのゲーム改善例

これらを実際にDeNAで片瀬氏が活用した例として挙げられたのが、2016年2月にリリースされた、オセロを題材とした対戦ゲーム「逆転オセロニア」。

ユーザーと開発のコミュニケーションを重視している「逆転オセロニア」では、今後ゲームをより良くするための改修優先項目を調査するため、リリース1ヶ月後にゲームの満足度に関するアンケートを実施。

他のタイトルと比較してもゲーム全体に対する満足度は高いという結果は出たのだが、一部の項目に不満や課題が残ることに。ただしゲーム開発はリソースが限られているため、全ての不満を改善するのは難しく、ゲーム全体の満足度を引き上げるのに効果的な部分を見極める必要が出てくる。

そこで片瀬氏がとったのが、「項目満足度」と「総合満足度・項目別満足度の相関」(その項目がゲーム全体への不満にどれだけ結びついているか)の2項目に基づいて、アンケートの項目を「重点維持エリア」「改修優先エリア」「現状維持エリア」「改善エリア」の4つのセグメントへと分類する、「CSポートフォリオ分析」と呼ばれる手法だ。

結果、ゲーム全体への印象に大きく影響を及ぼしているにも関わらず、項目満足度が低くなっている「改修優先エリア」に分類された項目を中心にゲーム内容を改善。1ヶ月後に再度アンケートをとったところ、改修優先エリアに分類された項目の満足度が向上したことに伴い、ゲーム全体の満足度も高めることに成功したそうだ。

「キン肉マン マッスルショット」のCM制作における指針としても活用

マーケティングリサーチを活用したもう一つの事例として紹介されたのが、2015年3月にリリースされた、人気漫画「キン肉マン」を題材としたソーシャルゲーム「キン肉マン マッスルショット」のCMが作られるまでの過程だ。プロモーションによる宣伝効果を産むには、たった15秒しかない時間の中で、どの層に対してどの情報をアピールしていくかの選定が重要となるそうで、その際にも先ほどのような分析が役立つのだという。

片瀬氏はまず、まだ「キン肉マン マッスルショット」をプレイしたことがないユーザーを対象に「キン肉マンのファンであるか」「キン肉マンのスマホゲームに興味があるか」「キン肉マンのスマホゲームのCMで、どの要素に興味をもつか」の3つの項目でアンケートを実施。

「キン肉マンのファンであるか」の回答結果から、コア・ミドル・ライト・認知のみの4つのセグメントに回答者を分類すると、認知のみの割合が圧倒的に多く、コアに向かうにつれて数が減少していくこと分かった(図中の数字はダミーのもの)。

ただし、その中の何人がスマホゲームに興味をもっているかというもう一つの項目を照らし合わせると、コアファンがもっとも多くなるという、真逆の結果が導き出されることに。

これによりCMはキン肉マンのコアなファンをターゲットにすることが決定したが、さらに片瀬氏は3つ目の「キン肉マンのスマホゲームのCMで、どの要素に興味をもつか」の項目で、コアファンの多くが「人気キャラクター達がミニキャラで総登場」という部分をあげていたことに注目。ミニキャラを前面に押し出したCMを打ち出し、目標としていたDL数を達成することに成功したそうだ。

さらにCMの効果を検証するため、放送後にアプリをDLしたユーザーを対象に行なったアンケートでも、コアファンの割合がもっとも高く、ミニキャラ達が実際に動いている姿に興味をもったという分析通りの結果に。これを受けて片瀬氏は「CM製作者や声優の尽力があってこそだが、マーケティングリサーチも多少は貢献できているのでは」と結論づけていた。

ゲーム内アンケートは、ユーザーの行動ログと組み合わせることによって正確性を増す

セッション後半からは、ゲーム内アンケートと行動ログを組み合わせた分析に焦点が当てられることに。

片瀬氏によると、ゲーム内アンケートで得られる情報は決して万能ではなく、一部ユーザーの記憶が曖昧な項目(いつ頃にイベントに参加したなど)も含まれるため、その結果をそのまま受け取るだけでは効果が薄いのだという。

そこで役に立つのが、ユーザーのログイン日数、ダウンロード時期、プレイ状況などのさまざまな情報を記録した行動ログで、この2つを組み合わせで分析することで、より正確なリサーチが行えるようになる。

例えば、まずログイン日数とユーザー属性へのアンケートから、ライト・ミドル・ヘビーの3つのセグメントにユーザーを分類。さらにそこに、ゲームの満足度に関する項目を組み合わせると、現状どの層がもっともゲームに対する不満を抱いているのかの傾向を把握し、今後のコンテンツ拡張や改善の参考とすることができる。

またゲーム内アンケートは、一度きりではなく定期的に行うことが何よりも重要だという。上記の「ログイン日数×ユーザー満足度」によって得られたデータが、一定期間を置いて再度おこなったアンケートでどのように変化しているかで、その改善がうまくいっているか初めて分かるようになるからだ。

他にも、「イベント参加率」や「イベント参加状況」のセグメントと、「イベント満足度」「イベントへの不満」のアンケートを組み合わせることで、「今回のイベントはユーザーの参加率が高いにも関わらず、満足度が低かった」という現状や、「ヘビーユーザーには報酬がさほど魅力的ではなく、ライトユーザーにはボスが強すぎた」という、セグメントごとの具体的な改善部分を抽出することも可能となっている。

また定期的なゲーム内アンケートと行動ログを組み合わせた分析は、ユーザーがゲームプレイを止めてしまう理由の分析にも活用できる。ゲームから離脱してしまったユーザーに対しては、当然ながらその理由をアンケートで聞くことは難しくなるのだが、行動ログからゲームをやめてしまったユーザー層を割り出し、それらのユーザーが回答していた過去のアンケートを遡り、どんな不満に思っていたかを把握し、改善に結び付けていくことで、ユーザーの離脱に歯止めをかけることができる。

上記のように、マーティングリサーチはユーザーの意識や感情を明らかにすることができるため、多角的なユーザー理解とその課題を特定する手法として活用できることが分かる。そうした現状を正しく把握することで、ユーザーニーズに沿った適切な改善も行えるようになるというわけだ。

最後に片瀬氏はこうしたマーケティングリサーチの手法が広まることで、「業界全体で開発陣とユーザーの距離が狭まり、よりよいゲーム開発やプロモーションが行われるようになれば」と展望を語りつつ、セッションをまとめていた。

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