発売を迎えたPS4用ソフト「英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-」の話題をはじめ、軌跡シリーズの今後の展望など、プロデューサーの近藤季洋氏にお話を伺った。後編では、「閃の軌跡IV」のストーリー展開や、次回作以降の構想に関する話を中心にお届けしよう。
※本文中には、「英雄伝説 閃の軌跡IV」を含む、軌跡シリーズのネタバレになる要素も含まれていますのでご注意ください。
日本ファルコムが5年にわたって展開してきた「閃の軌跡」シリーズの完結編となるPS4用ソフト「英雄伝説 閃の軌跡IV -THE END OF SAGA-」(以下、閃の軌跡IV)が2018年9月27日に発売された。すでにクリアしている人も多いとは思うが、せっかくのシリーズ完結編ということもあって、この機会にプロデューサーを務める近藤季洋氏にインタビューを実施した。
主にゲームシステムについて触れた前編に続き、後編ではネタバレ前提の上で、ストーリー上で描かれたいくつかのトピックを直撃。さらには次回作以降の現時点での構想についても伺った。なお、前編以上にネタバレとなる要素を含むので、「閃の軌跡IV」の本編をクリアした上で読んでいただくことを推奨する。
――話は大きく変わるんですけど、リィンはどれだけ女性にモテるのかなと(笑)。「閃の軌跡IV」は特にその印象が強かったのですが、恋愛感情を意識させるような絆イベントや、エンディング前に意中のキャラクターを選択することなどは当初から考えられていたのですか?
近藤氏:それは最初から決まっていましたね。例えば「空の軌跡」ですと、エステルとヨシュアの2人を対比しながら描くというテーマがあったので、そこにゲームとして選択肢が介在する余地はなかったんです。
逆に、「閃の軌跡」シリーズはリィンの半生を描こうというところからスタートを切っていて、リィンの行き着く先を体験してもらうゲームにしたいという思いがありました。シリーズを通じてその部分を結構なボリュームで積み重ねていった時に、ゲームとしては選択させていくことがある程度必須になると思い、導入を決めました。
そして実際にやってみて、やりすぎたなと思ったのが過去三作の積み重ねで選択肢が増えてしまったことですね。そこは社内でも賛否両論ありました。やはりいろんなご意見をいただく中で、みなさんの好きなキャラクターはバラバラで、こうなってほしいというのは非常に多岐にわたるんです。
その中でもリィンがパートナーを得る過程は一本に絞るのか、多様性をみせるのかは難しいところでしたが、最終的には「閃の軌跡」はリィンの人生の軌跡を描いていくものだから、ということで選択するかたちに落ち着きました。おそらくどちらが正解とかはないと思うんですけど。
――エンディングの流れに関しても、一度ノーマルエンドを挟む形式にしたのには意図はあるのでしょうか?
近藤氏:トゥルーエンドにいきなり行くのも良かったんですけど、今回は開発スタッフの希望として、いきなりトゥルーエンドを見た場合と、一回ノーマルエンドを見てからトゥルーエンドに行く場合では全然考えが変わってくるはずなんですという主張がありまして。僕は当初、個人的には分かれることに反対だったんですが、それを聞いた時になるほどなと思ったんですよ。
いろんな物語の分岐点の中で、ゲームとしてのお約束で触れちゃいけないんじゃないかと思っている部分ってあるじゃないですか。(「閃の軌跡」シリーズでは)そこにスポットを当てたかったんです。たとえば世界に端が有るという話が出てきたと思うんですけれど、みんなそんなところに触れるとは思ってなかったと思うんです。今回のノーマルエンドとトゥルーエンドに分けるのも、(物語上では触れられない)なんらかのギミックがあり、そういうふうになっているというかたちを描きたかったというのが実はあるかもしれないですね。
――ノーマルエンドとトゥールエンドって対比的なものだと思うんです。「閃の軌跡III」までのリィンはとてもしんどかったと思うんですが、トゥールエンドは細かな点を除けば、リィンにとって最大限幸せなエンディングに近いのかなと。その分岐の幅として、キャラクターが生き返るっていう表現の部分に驚きました。
近藤氏:そこは結構悩みましたね。ユーザーさんもいろいろな意見はあると思いますし、社内でも生き返らせていいのかという反対意見はあったのですが、オズボーンやヴァリマール、それからアリアンロードの結末が決まった時に、去っていくものの存在というのはそちらが十分にやりきってるんじゃないかと。
ついでのようにクロウやミリアムが去っていくというのはなんとなく寂しい気がして、それであれば死者が蘇るという設定(※アリアンロードに代表する不死者など)とも折り合いをつけて、2人は見送る側にいてほしいというかたちになりました。(この結末を)最初から完全に決めてたわけではなかったんですよね。「閃の軌跡III」までを経て見てきたものの中で、そういうふうに考えるようになりました。
トゥルーエンドとノーマルエンドというのもゲームならではの表現ですよね。小説とか映画だと一つの結末しか描けないですが、ゲームでは複層的な物語の可能性みたいなものを見せることができる。そういうところもやっぱりチャレンジしてみたいなというところで、スタッフも積極的に主張したのだと思います。
――確かにこれまでの展開であり得た結末のイメージよりも意外性はありました。
近藤氏:ゲームブックという本のページをめくるとストーリーがあって分岐が書いてある、結末がいくつも用意されているタイプの本がありますよね。昔ゲームブックがすごく流行った時期に僕も読んでいたんですが、しおりを挟んだまま自分の選ばなかった選択肢の方を先に読みたかったんですよ(笑)。そういうところって人間の本能としてあると思っていますし、物語の可能性の一部を垣間見せてくれるところではないかと。
――軌跡シリーズのファンにとって帝国編というのはずっと気になっていたところもあり、その中で「空の軌跡」からずっと描かれているものとして、オズボーンの存在と、それに対抗するオリヴァルト(オリビエ)の関係性があったと思います。「閃の軌跡IV」ではそこにひとつの結末が訪れましたが、二人の見せ方で意識した点はありましたか?
近藤氏:オズボーンは軌跡シリーズを卒業してしまったというのはものすごく大きな出来事なんですよね。「空の軌跡」の時には名前しか出ていなかったものの、「空の軌跡 the 3rd」で衝撃的な登場をしてからは、「零・碧の軌跡」では彼の存在感がますます大きく描かれていきましたし、その延長線上で帝国編というかたちで満を持して登場します。
名前が出ただけでちょっと緊張しませんか、オズボーンって。そういった彼の存在感の描写って軌跡シリーズでしかできないと思うんです。あれだけの存在感を描けたっていうのは僕らとしてはやっぱり大きな手応えでしたよね。
そしてオリビエはその対比というか逆ですよね。彼が圧倒的な存在感であったり、強大さとかの象徴だとしたら、オリビエは自由であったり、連帯とか結束とかそういうものの象徴にシリーズを通してなってくれたのかなって。「空の軌跡」から具体的に登場していたので、オズボーンとは違って身近な、パーティ側の象徴でした。そういう意味で、この二人の関係は印象深くありますね。
――「閃の軌跡III」でオリビエの乗るカレイジャスが爆破されてしまった時はどうなるのかと。
近藤氏:でも7割ぐらいの人がどうせ死んでないだろと思っていただろうなと(笑)。その上で、今回はどこで出るんだろうみたいな、主役のような期待のされ方をするキャラクターではありました。
――軌跡シリーズではピンチに登場するみたいなケースは結構多いと思うんですけど、その中でもオリビエに関しては一段と登場が派手というか、すごくいい感じで良かったです。エンディングも含めて万感の思いみたいなものがありました。
近藤氏:そういう結末になるのかなというのは「空の軌跡」の頃から見せておきながら、やっとかよという(笑)。10年経ってますからね。
――そういうシーンの一つ一つを見ても、オズボーンとオリビエはやはりリィンたちとは違うところで印象的な2人だなと思いました。
近藤氏:やはり一本のRPGとして中で見せるのと、15年続いてきたシリーズの中で時間を経てお見せできるのとではまたちょっと重みが違う部分があって、オリビエとオズボーンなんかはその代表格というふうにやっぱり思いますね。
――それと細かいところになるのですが、リィンの鬼の力って結局はどこに紐付いたものになるのでしょうか。オズボーンの心臓が力の源にはなるのでしょうが、イシュメルガの力というわけではないんですよね。
近藤氏:紐解いていけばおそらくわかるのですが、力そのものはイシュメルガではなくて帝国の呪いに起因するものです。イシュメルガは黒の騎神の思考システムで、彼はその呪いを利用しただけですね。
そのあたりをはっきりと説明する場所がなかったんです。今回は伏線を張ってきた中のことでも本編から外れるものがたくさんあるので、そういうものはクエストの方に回されていて、そういうことをやっている内にクエストの枠も無くなってしまったという。
――それだけクエストで回収する要素も本当に多かったなと思いますし、軌跡シリーズ全体でも気になってた人のその後だったり、関係性だったりとか、すごい細かくフォローされてて一つの集大成でしたね。
近藤氏:答え合わせ回ですよね。答え合わせできないで終わっちゃうわけにはいかないから。
――そこに攻め込むんだっていう意思も感じられました。
近藤氏:できる限りやりました。スタッフもよく覚えていて、「あれやってないですよ」と開発中にも言われました。アントンとかも、確かにあのまま終わっちゃだめだよねと。
――シリーズを跨いでエリィのお母さんの話とか。
近藤氏:しかも、出てきても最初は触れないというね。
――細かいところを突き詰めると、「あー!」と思うところも多かったですね。
近藤氏:それもまたシリーズが長いからこそできることですよね。まず、やはりユーザーさんがついてきてくださらないとダメですし、会社側にも続けさせてあげる力がないといけないですし、作ってる側も作り続けるモチベーションがないといけない。ここまでのことって見渡してみると他にないですよね。
――今回クリアした時にやりきった感覚はありましたが、とはいえ軌跡シリーズはまだ終わらないじゃないですか。ファンの方であれば、次はカルバード共和国なのかという話をされる方も多いとは思うのですが、今後も一つの国を舞台として物語が展開していくような感じでしょうか?
近藤氏:ゼムリア大陸のお話は後半に入っていきますし、その後半でどの地域を描くかというのは実は決めてあるんですよ。順番は今の時点でお答えはできないですけど、共和国は間違いなくその中に入っています。それ以外にもここは描いとかなきゃいけないっていう場所がいくつかあるんですけど、それはもう全て、今までに出てきている地名になります。
――帝国の印象が強すぎたからか意識はしてなかったんですが、(ゼムリア大陸内で)そのほかの地域を考えると、まだ結構あるんだなと。
近藤氏:帝国ほど大きくはないものの、重要性の高い場所がいくつかあるはずなんですよ。先ほども言った通り、今回新たに提示された謎については、お約束で触れないようなところに踏み込んでいます。例えば、ゼムリア大陸が乗っている惑星が球体なのかということに触れるところがあったと思うんですけど、今後は多分そういうところに切り込んでいったりとか、焦点を当てていくことになります。
そういうことをやりつつも次へのモチベーションを自分たちも保たないといけないし、ユーザーさんにもやっぱり気にかけていってほしいじゃないですか。その一つのアイデアとして、今回のような謎の提示はどうだろうという話になったんです。「閃の軌跡Ⅳ」で結社に関する新たな情報が明かされましたけど、そのことも結社、そして盟主(グランドマスター)と呼ばれる人物の思惑と連動しているというのが今回の提示の仕方でした。
――その一つとして、マクバーンの正体も、今後描かれる物語の上で気になるところでした。
近藤氏:そういうところがまさに今言ったことですが、世界の外側に何かあるのかみたいな。基本的に「閃の軌跡IV」まで遊んでいただいた方には伝わったんじゃないかなと思うんですけど、もちろんやりっぱなしにはしません。回収はいつかというタイミングの問題はありますが。
――軌跡シリーズは世界観そのものの壮大さもあると思うんですけど、主人公の目線で描かれるのは、その場所にいるその人達の生活や歩みで、その対比が幅広いですよね。
近藤氏:(軌跡シリーズは)群像劇をやろうということで始まったんですけど、リベールの中だけでも群像劇になってますし、シリーズを通して本当に巨大な群像劇ができあがりつつあるんですよね。そういうところをいいなって思ってくださる方が手にとって下さっているとは思っています。
――ちなみに、次のタイトルを展開されるとしたら結構先になってきますか?
近藤氏:そこについては少し悩んでいます。「閃の軌跡」シリーズが終わって、僕らの課題として当然続きをどうするかっていうことと同時に、「閃の軌跡」シリーズに全く触れたことがないお客さんに対しても、次のシリーズは遡及性のあるものにしたいと思っています。また、「閃の軌跡」は4作で終わったんですけど、もう少しやりたかったこともあるので、そういう部分についてもなにかできないかなという両面作戦でいこうかなと。
どちらかに力を入れすぎて遅くなるというのはよくないことだと思うので並行してやっていきたいですね。そして、今年のシリーズ15周年の枠組みとして、なにかもう一タイトルぐらいお見せできればというのは考えています。
――私自身もそうですが、知人とも次はいつ出るんだろうという話になるので楽しみにしています。
近藤氏:それは本当にありがたいことです。なるべく期間を空けずにシリーズを手にとっていただける工夫は、これまで以上にしていきたいと思っています。
――「閃の軌跡」シリーズ自体がグラフィックやハードの面で幅広くチャレンジすることの多いシリーズだったと思うんですけど、全体を通じての総括をいただけますでしょうか。
近藤氏:いつも終わった後にはちょっとやりすぎたというのがあります。それは「閃の軌跡」シリーズ4作を通してそうですし、「零・碧の軌跡」はもともと二本に分かれる予定じゃなかったですし、「空の軌跡」も三本に分かれる予定ではなかった。ただ、期待してくださっているお客さんもいますし、ファルコムにとってはそれだけのボリュームに挑むこと自体がチャレンジでもあります。
2作1セットで考えながらそれぞれにシーズンの切り替えがありますが、「零の軌跡」、「閃の軌跡」で新規のユーザーさんが入ってきているんです。ユーザーさんが入れ替わりながらこれだけの期間続けられてるというのはやっぱりありがたいことですし、ほかでは中々できないタイトルだと自負しています。このあたりに関しては僕たちも手応えを感じてますので、今後はもっとクオリティを上げながら、単純に自己満足でやるのではなく、新しいお客さんを巻き込んでいければと思います。
――ありがとうございました。
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