「CEDEC2020」で9月3日に行われたセッション「『Brand New 大量生産!』ミリシタにおけるキャラクター量産への取り組み」をレポート。3年に及ぶ運営の中でいかに工夫を重ねてきたかを、順に紹介していった。

目次
  1. 「ミリシタ」の衣装モデル制作における取り組みとは
  2. 「ミリシタ」運営チームで取り組んできたこと

2020年6月29日で3周年を迎えた「アイドルマスター ミリオンライブ! シアターデイズ(以下、ミリシタ)」。52人のアイドルたちが着用できる衣装数はこれまでに2000着を超えているという。

本セッションでは、過去にPS4でリリースされた「アイドルマスター プラチナスターズ」「アイドルマスター ステラステージ」に携わり、「ミリシタ」が初めての運営タイトルであるというバンダイナムコスタジオの阿部貴之氏(第3スタジオ 第7プロダクション 3Dキャラクターパート リードアーティスト)が登壇。なぜこれだけの物量に対応することができたのか、キャラクターモデルの仕様からこれまで運営チームで取り組んできたことが語られた。

バンダイナムコスタジオは、これまで数多くの「アイドルマスター」シリーズのタイトルを開発。

「ミリシタ」の衣装モデル制作における取り組みとは

冒頭で2000着を超えていると触れた「ミリシタ」の衣装数だが、本セッションの時点(※2020年9月3日現在)では2249着に。さらに衣装一覧に表示がないレッスンウェア、シアターカジュアル、私服なども含めると約3000着にも及ぶ。昨年度は1501着(月平均約125着)ということで、サービスから3年ということを考えると、そのペースの凄さが感じられる。

「ミリシタ」における衣装モデルのワークフローは、およそ半年前の衣装発注から始まり、以下のスケジュールで進行していく。

作業環境やモデルの仕様も公開。専門的な話にはなるが、細かく設定されていることが分かる。

「ミリシタ」には、阿部氏をはじめとした家庭用「アイドルマスター」シリーズから参加するスタッフもいるということで、モデルについても家庭用から継承される仕様も多数ある。その一方で、表情の制御手段についてはPS4でのボーン+ブレンドシェイプではフローが複雑でデータの容量も大きくなってしまったことから、ブレンドシェイプのみに。また、表情の種類も少し数を絞って28種類に厳選している。

また、「アイドルマスター2」以降はソウルシステムと呼ばれる独自の仕様を採用しており、これによりパラメータの入力のみで各アイドルの身長や体型へ自動変換できるのだとか。1つの3Dデータから派生する仕組みのため、共通衣装のバグ対応時の修正を全員分やる必要がないことが挙げられる。

同じく「アイドルマスター2」から導入されたキャラカラーの自動反映の仕組みも紹介。アイドルごとにテーマとなるカラーが決まっており、それに合わせたRGB値の入力のみで設定した場所に自動で色を反映できる。用意するテクスチャーが1枚のみで、かつヒューマンエラーが起こりづらい点をメリットとして挙げていた。

衣装カテゴリーの仕様は以下の7種。また、「ミリシタ」の頭データは体とは違って衣装分、独立した頭データが存在している。家庭用の仕組みをすべて入れると、リズムゲームをプレイする上でのフレーム落ちを回避できなかったためで、苦渋の決断だったという。

一通りの仕様を紹介したところで、続いては「ミリシタ」での衣装モデル実装におけるクオリティの担保方法など、チーム内での取り組みについて触れていった。

まず、モデルについては造形をリーダー、骨の挙動をサブリーダーがそれぞれチェックする体制を取っている。もちろんチェックの物量が大きくなってしまうこともあるが、ボトルネックにならないようにすること、そして次期のリーダーを育てる意味合いもある。

また、クオリティに関する判断については全てカワイイが指標になっており、大事なことは“お客様になってカワイイものになっているか?”だという。

続いて、最高確認会の存在についても言及。「ミリシタ」では毎月4~6曲が追加され、そのたびにMVを作成することになるのだが、そのクオリティアップを目的として各セクションの作業担当者が集まって意見交換を行う場となっている。通常であれば作業単位で分断されてしまうところを、最終的なアウトプットまでを確認することで、モチベーションの増加やチームの結束にもつながっているという。

同じくモチベーションの創出につなげる意味でも大事にしているのが、キャストが出演するリアルライブに一度は参加すること。これによりユーザーの反響を直に感じることができ、仕事への責任感が生まれるのだとか。

家庭用タイトルから運営タイトルへと開発現場を移した阿部氏ならではの視点として、バグ対応、モデル量産、新規仕様実装の3つが同時に進行していく、運営タイトルならではの苦労も。徐々にバグの確率が増えていくこともあり、その対策としてバグ報告の質を上げること、そしてテスターのテスト工数を下げることなどの取り組みが行われている。

「ミリシタ」運営チームで取り組んできたこと

続いては、「ミリシタ」のサービスを通じて運営チームで取り組んだことを、実際の仕様を交えながら紹介。その前提として1つの仕様を増やすと52倍になって返ってくることから、安易に仕様を決めるのではなく、“コストは低く効果は最大限を狙う”を意識して、企画段階からその内容に関してコストを考えながら仕様を決めていっているそうだ。

例えば2周年のタイミングで新たに実装されたマスターランク5の仕様については、実装までの期間が約3ヶ月程度と限られていたことから、すでに実装されていたアナザー衣装の仕組みを用いることで、実装時期に間に合わせることを目指した。

ただし、アナザー衣装は元々アイドルごとの配色に配慮していたこともあり、同じルールの適用は難しかった。そこで多くの人が好みやすい配色、そしてシックで高級感のある衣装という方向性で進めることになった。

さらに、色替えのみだと差別化が弱いと考えて、その対応としてティアラを乗せるというアイデアを採用。SSR3種でそれぞれのティアラを用意するかたちとなり、最終的に現在の仕様で実装にこぎつけた。

また、ローンチ時は2D画像だったリザルト画面の仕様変更に関してだが、実は2D画像の作成にはレタッチなどの作業も発生していたため、今後を見据えてその解消のために各所へ相談することに。

その中で3Dリザルト化への道が生まれ、単純にコストを削減するだけでなく、ライブが終わったことを体験してもらうために舞台裏にするなどの趣向も。また、追加でシェア機能を実装することにもつながり、開発側だけでなく、ユーザー側にもメリットのある仕様変更となった。

この経験から得られた運営タイトルにおける理想の仕様変更は、“お客様も開発チームも両方が幸せになること”。その考え方を実践した取り組みとして、新しいレッスンウェアを作製できるツールを用意。スピード感を持ってゲーム内に実装できるだけでなく、そのデザインのしやすさから、「シアターカジュアル」衣装への実装にもつながった。

本セッションのまとめとして、運営においては最初の設計が大事であること、その後続くサービスの中でいかに無理せず、かつ人員の入れ替わりを極力少なくするなどの効率化を常に考える必要があることなどに言及。

そして最後に、過去の家庭用シリーズタイトルやGREEで提供された「アイドルマスター ミリオンライブ!」に携わったスタッフ、そして「アイドルマスター」が好きで加わったスタッフたちが、タイトルへの愛情を持って取り組んでいること、そしてタイトルを支えてくれているユーザーへの感謝を述べて、セッションを締めくくった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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