対話を「メカニクス」として設計する――マーダーミステリー作家が語るコミュニケーションゲームの正体【CEDEC2026】

CEDEC 2026
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7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。本稿では22日に行われた講演「コミュニケーションゲームとは ~マーダーミステリーに学ぶ『対話』をメカニクスとして設計する方法~」のレポートをお届けする。

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本セッションに登壇したのは、日本マーダーミステリー作家協会の水井将太氏(役員会 共同代表)、九尾まどか氏(役員会 共同代表)、秋山真琴氏(編集部会 部会長)の3名。

対話は、ボタン操作やコマンド選択と比べて無限とも言えるバリエーションを持つコミュニケーション手段だ。「Among Us」や「Goose Goose Duck」のように対話そのものが勝敗や戦略を左右するデジタルゲームが登場する一方、TRPGや人狼、マーダーミステリーといったアナログゲームはコミュニケーションを中核メカニクスとして扱ってきた。

本セッションでは、こうした「対話を中核メカニクスとするゲーム」の系譜をたどりながら、その設計原理を体系的に整理する内容となった。

日本マーダーミステリー作家協会 役員会 共同代表 水井将太氏
日本マーダーミステリー作家協会 役員会 共同代表 水井将太氏
日本マーダーミステリー作家協会 役員会 共同代表 九尾まどか氏
日本マーダーミステリー作家協会 役員会 共同代表 九尾まどか氏
日本マーダーミステリー作家協会 編集部会 部会長 秋山真琴氏
日本マーダーミステリー作家協会 編集部会 部会長 秋山真琴氏

「対人ゲームはすべてコミュニケーションゲームである」

水井氏はまず、一人用ゲームが「入力・処理・出力・判断」のループを個人内で完結させるのに対し、対戦格闘ゲームやFPSのような対人ゲームでは、あるプレイヤーの出力がゲームシステムを介して別のプレイヤーの入力になる、という構造を提示。この構造をもって「対人ゲームはすべてコミュニケーションゲームだ」という立場を示した。

さらに、MOBAなどのボイスチャットで交わされる自然言語の会話にも言及。ゲームシステムを経由しないやり取りであっても、そこで生まれる信頼や駆け引き、連帯感はゲーム体験のノイズではなく、主体的な体験の核心であるという見解を示した。一方で、自然言語による対話は情報量が多く自由度が高いため、制作側からの制御が難しく、「Among Us」のような一部の作品を除けば、対話そのものをゲームの中核メカニクスとして扱うデジタルゲームはまだ少ないとも述べた。

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続けて、対話をゲームの「処理」に組み込んだ既存3ジャンルを比較。TRPGは会話の自由度が最も高く、ゲームマスターの裁定に依存する一方、人狼ゲームでは制約が強く、発言の矛盾が即座にペナルティへ直結する。マーダーミステリーはその中間に位置し、結論がすぐに出ない「評価のラグ」の中でプレイヤー自身に生まれる「疑う」「信じる」「迷う」という心情こそが没入体験の核だと説明された。

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MDAフレームワークから見るマーダーミステリー

ゲームデザイン分析の枠組み「MDAフレームワーク」(メカニクス・ダイナミクス・エステティクスの三層構造)が紹介された。メカニクスはルールやシステムなど制作者が直接構築できる領域、ダイナミクスはその結果として生まれるプレイヤーの挙動、エステティクスはプレイヤーの心に立ち上がる感情体験を指す。

制作者が直接操作できるのはメカニクスのみであり、ダイナミクスとエステティクスはそこから間接的に導かれる結果に過ぎない。ゲームデザインとは、届けたい感情体験から逆算して、必要な挙動、そのための仕組みを組み立てる営みであるという考え方が示された。

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この枠組みをマーダーミステリーに当てはめると、他のボードゲームと異なる点として「情報格差」と「会話制限」が挙げられる。キャラクターごとに異なる背景や秘密を対話で解消していく過程が推理を駆動し、密談によって会話チャンネルが制限されることで、情報格差がさらに歪に拡大する余地が生まれる、という指摘があった。

対話は「全体会議」「密談」「推理発表」「読み合わせ」の4種に分類され、それぞれがMDAフレームワークの視点で分析。全体会議は全員が同じ発言チャンネルを共有することで相互監視・相互検証が働き、法廷のような緊張感と合意形成への納得感を生む。密談は対話の人数と相手を限定できることで非対称的な交渉や派閥形成が起こり、秘密共有による強い連帯感と背徳感を生む。推理発表は割り込みのない発言権が保証されることで、論理立てた持論の展開と告白・弁論によるカタルシスを生む。読み合わせは台本のセリフを読み上げることで全員の状況認識を同期させ、キャラクターと自分自身を重ね合わせる演劇的な没入感を生む、とそれぞれ整理された。

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そのうえで水井氏は、プレイヤーが自発的に対話したくなる条件として「情報格差」の設計が不可欠であり、シナリオが対話内容そのものを指図することはできないと強調した。

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他にも、対話設計に込めた個人的なこだわりや、TRPG・人狼・マーダーミステリーそれぞれの評価タイミングの違いを図解した具体的な解説、内閣府のムーンショット事業を通じて語られたコミュニケーションゲームの将来展望など、興味深い話が数多くあった。このあたりの詳細はぜひタイムシフトでチェックしてほしい。

このセッションが提示した最大の示唆は、「対話」という最も制御しづらい要素を、感情の結果ではなく設計の起点として捉え直した点にある。多くのデジタルゲームは対話を「あってもなくてもいい付加要素」として扱いがちだが、マーダーミステリーは情報格差と会話制限という2つの制約だけで、疑心・信頼・葛藤といった高次の心情を安定的に発生させる仕組みを何十年もかけて磨き上げてきた。

MDAフレームワークを介してこの仕組みを言語化したことで、ジャンルの外側にいるデジタルゲーム開発者にも応用可能な「対話の設計図」として提示できた点は、CEDECというクロスジャンルな場にふさわしい内容だったと言える。

CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/

得意分野はビデオゲーム全般だが、メタバースやAI関連の記事も積極的に執筆中。ライター業以外にもVTuberとしての活動や、メタバース内ではラジオパーソナリティや、DJとしての顔もあり、肩書きが混雑してきたのが最近の悩み。 X(旧Twitter):https://twitter.com/denpa_is_crazy note:https://note.com/denpa_is_crazy/n/n57f97c18adef

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