アニメ評論家・藤津亮太氏が話題のアニメを紹介する「ゲームとアニメの≒(ニアリーイコール)」。第24回は明石家さんまさんが企画・プロデュースし、STUDIO4℃がアニメーション制作を担当した劇場アニメ「漁港の肉子ちゃん」を取り上げます。

目次
  1. こんなゲームファンにオススメ!
  2. 第24回「漁港の肉子ちゃん」
  3. 藤津亮太(ふじつ・りょうた)

ゲームとアニメは本来異なる媒体ですが(≠)、その中での共通項(≒)となる部分にフォーカスしたいという思いから立ち上げた本連載。毎回話題のアニメをアニメ評論家の藤津亮太氏の切り口で紹介しつつ、Gamer編集部からはそのアニメがどういったゲームファンにオススメできるかをピックアップしていきます。

今回は、明石家さんまさんが企画・プロデュースし、STUDIO4℃がアニメーション制作を担当した、直木賞受賞作家・西加奈子氏の小説を原作とした劇場アニメ「漁港の肉子ちゃん」を取り上げます。

こんなゲームファンにオススメ!

第24回「漁港の肉子ちゃん」

「漁港の肉子ちゃん」を見て、「じゃりン子チエ」を思い出した人は多いだろう。

まるで子供のような大人と、小学生の女の子の2人暮らし。作品の基調をなす2人の交わす関西弁。また「チエ」ではホルモン焼きが、「肉子ちゃん」では焼き肉が、物語の要の位置に置かれている。物語そのものは直接似ている、というわけではないが、こうした共通の要素から醸し出される空気が、「肉子ちゃん」と「チエ」を近いものに見せている。

そして、ここでもうひとつ思い出したいことがある。それはキャラクターの顔の造形についてである。

「チエ」を監督した高畑勲は、はるき悦巳による原作のキャラクター造形を分析し、「目と眉が離れているから情けない表情など作りようがないし、口も軽くにっこり笑わせるのは難しくワアッと笑わせなければならない顔をしている」と指摘している。つまり原作が持つ人間臭い雰囲気は、「情けない顔にはならず、笑う時にはワッと笑わせるしかない」顔の構造と不可分というわけだ。

実は、これと同じように「肉子ちゃん」の場合は、肉子ちゃん自身の顔のデザインが、この作品世界の根底を支えている。

肉子ちゃんの顔は、まず口が大きい。よく食べ、よく笑うためである。おちょぼ口のおすまし顔など絶対にならない大きさの口だ。そして大きな口と対照的な細く小さい目。この目のおかげで肉子ちゃんはいつも笑ってみえる。驚いた時、感激した時など、目が見開かれる時もあるが、その時の目は楕円のどんぐる眼として描かれ、驚きも感激も子供のような純真さから生まれていることを示している。ただしツリ目なので、“おっとり”というよりは意思の強さも感じられる。

つまり肉子ちゃんの顔の構造は、どう描いても「ニコニコ笑っている」「子供のような純真さ」「思ったら一直線」を感じさせずにはいられないようになっており、そのためそのほかの登場人物たち――特に大人の登場人物たち――よりひときわ“漫画的”ですらある。この肉子ちゃんの顔の構造がキャラクターを、さらには作品世界を決定している様子が、「チエ」とよく似ているのだ。

どうして肉子ちゃんだけ、そんな顔で描かれたのか。それは、そのほかの登場人物が「どこかにいそうな人たち」としてデザインされているのに対し、肉子ちゃんは「どこかにいてほしい人」としてデザインされているからだ。

肉子ちゃんみたいな人がいれば、きっと救われる人がいるはず。その思いはそもそも原作に込められていたもので、アニメの肉子ちゃんはそれを見事にデザインに落とし込んでいるのである。

「漁港の肉子ちゃん」公式サイト
https://29kochanmovie.com/

藤津亮太(ふじつ・りょうた)

アニメ評論家。1968年、静岡県生まれ。雑誌・WEB・BDブックレットなど各種媒体で執筆するほか、朝日カルチャーセンター、SBS学苑で講座を担当する。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ―セロ年代アニメ時評―』(NTT出版)、『声優語~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語るわたしの声優道』(河出書房新社)などがある。毎月第一金曜日には「アニメの門チャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/animenomon)でアニメの話題を配信中。

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