オンライン上で8月24日~26日にわたって開催の「CEDEC2021」。ここでは、8月26日に行われたセッション「キャラクター経済圏とIPクリエーションの視点から望む、ニューノーマル時代におけるメディアミックスの新パラダイム」の内容をお届けする。
本セッションでは、「キャラクター経済圏」という概念を確立した中山淳雄氏と、「IPのつくりかたひろげかた」でIPクリエーションについて持論を確立したイシイジロウ氏が、立命館大学映像学部教授の中村彰憲氏をモデレータに迎え、日本のゲーム企業がこれからの時代にグローバルでメディアミックスを展開するうえでどのような戦略をとるべきかについてディスカッションを行った。
まずは中山氏が、キャラクター経済圏の概念やメディアミックスでのキャラクターの作り方を説明。世界のキャラクター経済圏のマッピングを見ていくとポケモンやミッキーマウスなどが非常に大きな経済を形成しており、日本とアメリカが大量のキャラクターコンテンツを生み出してきたことが分かる。
その中でも特に経済圏規模の大きいポケモンを例にとってみると、累積キャラ経済圏は10兆円にもおよび、これは歴史上最も大きな利益を生み出したキャラクターIPになるのだとか。
ゲームの市場推移を見ていくと、モバイルゲームが2005年から飛躍的に大きく伸びており、ここ5年くらいでオンラインの家庭用ソフトも大きく伸びている。また1982年などの初期は玩具などが中心でそこからゲームに派生することが多かったが、次の時代ではアニメや映像からゲームに派生することが増えている。ここ10年は配信の時代になっており、商品化展開の一つとして使われていたゲームが、ゲーム自体がIPを作る母体のマーケットになりつつある。
デジタルアプリを活用してユーザーの母数を確保した「BanG Dream!」を例にユーザー基盤を見ていくと、やはり最初の一番の大きな波はアニメの放送期になる。一般的には、アニメ終了から半年ぐらいが経つとユーザー数は下がっていくものだが、次のアニメ放送までの期間をゲームを活用していくことでユーザーを増やすことに成功していることが分かる。これもゲームがIPを作るという一つの事例と言えるだろう。
このようにキャラクター経済圏はオンライン化しており、デジタルメディアを使ったデイリーでのサービスアップデートが今後必要になるのではと中山氏は言う。
アニメ製作委員会を中心とするキャラクター経済圏についても、「ドラゴンボール超」と「妖怪ウォッチ」を例に解説。アニメは製作委員会を中心に商品化やゲーム化、舞台化などが行われるが、アニメと派生ビジネスの相互作用でユーザー消費の最大化を図る。
「ドラゴンボール超」では、2500億円の市場のうち6割をアプリゲームが支えており、一方「妖怪ウォッチ」は3年間で4000億円の市場を形成し、家庭用ゲームやグッズが中心となっている点がポイントだ。
キャラクター経済圏は、最初は「単一商品の販促」だったものが「商品展開でユーザー規模の最大化」が目的に変わってきており、その内容もお菓子から玩具、配信・アプリなどに時代で移り変わっている。「多種類の商品提供」や「継続的なストーリー展開」、「統一されたストーリー」などがユーザーを引き付ける要素となっており、これがクロスメディアやメディアミックス、トランスメディア・ストーリーテリングに繋がっていったのではないかということだ。
続いてはイシイジロウ氏よりIPの概念が説明された。IPとは知的財産権(Intellectual Property rights)を略したもので著作物の著作権を示すものだが、エンターテインメント業界では発明やタイトルの商標などを組み合わせたものを指す。
このIPは「ストーリーIP」、「キャラクターIP」、「世界観IP」という3つに分類することができ、ストーリーIP、キャラクターIP、世界観IPの順に育ち進化していくものだという。ゲームなどでは最初から世界観を作り込んだ作品を制作することもあるが、それはここで言う世界観IPとは別物なので切り分けてほしい。
この3つのIPについて、具体的な例などを参考にみていこう。まずストーリーIPの代表的な作品としては「ターミネーター」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などになる。昔のヒット映画はだいたいストーリーIPから生まれて成功したものになるという。
日本では、スタジオジブリや新海誠監督の作品などもストーリーIPに当てはまり、日本映画の興行のほとんどはストーリーIPになるという。
ストーリーでユーザーの心を掴みヒットする、ストーリーIPからヒット作が多く生まれてくることは分かったが、実は続編が作れない、続編が成功しないという弱点がある。その弱点を克服した作品がキャラクターIPだ。
こちらの代表的なキャラクターIPは、「ドラえもん」や「名探偵コナン」、「ドラゴンボール」など。ドラえもんの映画が毎年上映されていることなどがイメージとして近い。キャラクターの人気で続編などの関連作品を生み出すことが可能だ。キャラクターIPは日本のIPが強いのだが、その歴史は古く、「シャーロック・ホームズ」や「007」、「ハリー・ポッター」などもこれに当たる。
キャラクターIPは、大きなヒットIPを生み出す要因になるが、キャラクターやクリエイターに縛られてしまうとなかなか世代交代が上手くいかない。そんな弱点をさらに克服したのが世界観IP。「スター・トレック」、「マーベル・シネマティック・ユニバース」、「スターウォーズ」などが代表的な例で、日本では「機動戦士ガンダム」、「ポケットモンスター」「Fate」などだ。
世界観IPに成長するためには世代交代が必要となり、例えばガンダムであれば、アムロとシャアが登場しなくても通用する世界観を作ることがそれだ。特定のキャラクターやクリエイターに縛られること無くユニバースを広げていくことが可能な点が世界観IPの強みと言えるだろう。
なお世界の興行収入TOPの「アベンジャーズ・エンドゲーム」と日本の興行収入TOPの「鬼滅の刃 無限列車編」には共通点があり、それはどちらも「単体で見ても内容が分からない映画になっている」ことだという。
シリーズ物の途中で始まって途中で終わるという映画がヒットしている現状は特殊であり、トランスメディア・ストーリーテリングや世界観IPといったエンターテインメントの今後を紐解くヒントになるのではないかとイシイジロウ氏は言う。
※トランスメディア・ストーリーテリング……ひとつのIPを同じ世界観で且つ整合性がある形で複数のメディアを跨ぎながら、総体として「大きな物語」を展開する手法。
ここまで、中山氏とイシイジロウ氏からキャラクター経済圏の考え方とIPの概念が解説されたが、ここからはトークテーマに沿ってディスカッションが行われた。
最初のテーマは、ハリウッドが行っているようなトランスメディア・ストーリーテリングをプロジェクトとして実施する際の懸念点について。
中山氏は、そもそもゼロイチで上手くいくかどうかは相当低い確立勝負になるのではと指摘。パス回しをしている内にゴールが決まり、1点を決めてから徐々にフォーメーションを固めていくようなイメージが大事なのでは、ということだった。
イシイジロウ氏もこれに同意した上で、最初からビジネスとして立ち上げるとなかなか上手くいかず、作家が積み上げてきてストックが蓄積した時にトランスメディア・ストーリーテリングの材料が生まれると語る。
ここでは例として「Fate」シリーズが話題に。本作は奈須きのこ氏の作家性が印象的で「Fate/Grand Order」はトランスメディア・ストーリーテリング的な意味合いでも大きく成功をしたタイトルだが、その初めは「Fate/Zero」だ。虚淵玄氏が執筆を担当することで、奈須きのこ氏という属人性を排した功績が大きいという。そして次のステップに移行するために、奈須きのこ氏が参加しなくても同じクオリティの「Fate」を生み出すことができれば、現状のガンダムなどと同じような立ち位置になるのではないか、とのことだった。
つまり、最初に作家性があり、それが蓄積した部分から属人性を排した作品を作っていくことがトランスメディア・ストーリーテリングのステップアップになるということだ。
続いてのテーマはオンライン動画配信サービス全盛時の現在、トランスメディア・ストーリーテリング型作品が続々と生まれるのはなぜ? というテーマ。
これについてはトランスメディア・ストーリーテリングの作品は映画の文法に収まりきらないのが理由では、とのこと。映画は三幕構成で設定・対立・解決を1:2:1で描くのが一般的だが、情報量の観点から世界観を語るというのは不向きなプラットフォームになるという。
日本では、昔のアニメであれば4クール分の情報量を持てたこと、またノベルゲームのようなボリュームのある作品が存在していたことでトランスメディア・ストーリーテリングのベースが出来ており、そういった作品が生まれやすい土壌が整っていたのではないかということだった。
最後に日本のゲーム業界が果たしうる役割について、中山氏は現在のゲーム化展開は原作の邪魔をしないようにしつつプラスアルファをするための隙間を埋めていくような作り方が多いなと感じており、作家と共存する編集者たるべきか、というのが日本が生きていくためのヒントになるのではとコメント。
それに対しイシイジロウ氏は、現在ゲームに著作権が無い場合が多いが、インディーズゲームなどクリエイターが著作権を持つことが増えてきており、クリエイター発のゲームが出てくることがトランスメディア・ストーリーテリングの一つの材料になってくるのではないかと見解を述べ、セッションを締めくくった。
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