没入感を高める絵作りの裏側に迫る――「ディスクロニア: CA」キーパーソン4人へインタビュー

インタビュー
0コメント 近藤智

MyDearestとイザナギゲームズが2022年9月23日、Episode IをMeta Quest 2向けに発売した「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」(以下「ディスクロニア: CA」)。同作のキーパーソン4人へのインタビューをお届けする。

「ディスクロニア: CA」はVR空間を自由に探索し、謎を解きながら物語を進めていくVR捜査ゲーム。プレイヤーは左手で過去への干渉、右手でギミックを操作しながら海上都市「アストラム・クローズ」で“起こるはずのなかった殺人事件”の解決を目指していく。

本稿ではディレクター、原案、メインシナリオを担当する末岡青氏、アート/モデリングディレクターのGenz氏、グラフィックエンジニアの山本順也氏、コンセプトアーティストの黒木修司氏へ、主にグラフィック面を中心にインタビューを行った。プレイヤーの没入感を高めるため、どのような部分を作りこんでいったのか――。これらの意図を理解すると、PVや背景の見え方も大きく変わってくるはずだ。本作を楽しみにしているプレイヤーはもちろん、一度遊びきったプレイヤーにもぜひ読んでほしい。

圧倒的な魚群パノラマに浮かぶクジラは“思い付き”

――本日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介を兼ねて、本作でどのような部分をご担当されたのか教えてください。

末岡氏:本作ではシナリオや世界観、全体のディレクションをしています。初期の頃はずっとシナリオを書きつつ、ゲームデザイナーと仕様を詰めたりとか、今この場にいるメンバーも揃っていないくらいの頃はグラフィック周りも直接見ている部分が結構ありました。

山本氏:今作の出ている絵のシェーダー(陰影)やレンダリング周りはすべて自分が担当しています。アートディレクターのGenzと協力して、末岡の頭の中にある素敵な世界をQuestに出す仕事をしています。

Genz氏:自分は今年の1月1日にMyDearestへ入社しました。当時もグラフィックは全体的にいい感じだったんですけど、この「ディスクロニア: CA」の世界をもっとクオリティアップしていく作業をしています。とくに山本が来るまではシェーダーがなかったので、彼が来てからは水を得た魚のようになってます(笑)。あとは黒木にすごくいい感じのコンセプトアートを描いてもらって、それをこちらで汲み取ってゲームの世界に落とし込むといった作業もしています。

黒木氏:コンセプトアートを担当しています。グラフィックの方向性をどう決めていくかという、主にアートの方向性ですね。末岡と話をして、どの方向に持っていくかという、グラフィックに関してある種の定義づけを行っていくことをメインとしています。

――本作は末岡さんの企画書からスタートしたそうですが、誕生までにどのような経緯があったのでしょうか?

末岡氏:「ALTDEUS: Beyond Chronos(以下、アルトデウス: BC)」の開発終盤に、岸上(総合プロデューサーの岸上健人氏)から「次はどういうものを作ったらいいと思う?」と雑談のように振られたことがあったんです。「アルトデウス: BC」でも探索やフローチャートといった仕組みを入れていますが、もっと探索を主体としたゲーム性や、これがゲームのメインとなるような設定を最初から作りたいという想いがありました。

その発想が生きるゲームを考えた時、探索するのが当たり前なロール(役割)といえば捜査官などですよね。そこで、シチュエーションとしてはミステリーを軸にしようと。ストーリーは3年くらい前から考えていたものを「ディスクロニア: CA」の企画に合わせて、ミステリー風に改変しました。

それとVR空間では右手と左手で掴んだ時に分かることが違うとか、左右で別の役割を持たせたいというのも、その頃に考えた要素ですね。こうした点から起こした企画が「ディスクロニア: CA」のベースになっています。

――本作のグラフィックで大きな特徴といえば、まず思いつくのがMeta Quest 2の性能の限界に挑戦したという5000匹以上の魚群パノラマかと思います。非常に美しく圧倒されますが、制作にあたってのポイントはどのような部分にありますか?

末岡氏:注目ポイントといえば……クジラでしょうか?

Genz氏:そもそもクジラは思い付きで入れただけなので……(笑)。

――えっ、そうなんですか!

山本氏:クジラはそうですね。最初は魚しかいなかったんですよ。1つずつプログラムで制御していて、プレイヤーを避けたりしてくれるんです。とはいえ、そもそも上空にいるので避けるものがない。なので、大きなゆったりとした存在を飛ばしたらいい感じに散らばって綺麗に見えるんじゃないかなというので、クジラを入れようと。あれ30分くらいで作ったんでしたっけ?

Genz氏:「クジラが欲しいの?じゃあ作ろうか」みたいな感じだったね。

黒木氏:そもそも魚も、ここまで多くはなかったんですよ。水中空間のような場所というイメージだったんですが「いっぱい魚がいたら綺麗じゃないか?」みたいになって。

Genz氏:もともと魚は、手付けアニメーションで動かしていたんです。トータルでも2~30匹くらいしかいなかったよね?

山本氏:すごく少なくて、PVを撮らないといけないとなった時に作って入れたんです。自分が入社して1~2日の頃に、シニアゲームエンジニアの尾上と「これは魚が少なすぎないか?」と言ってて。「これだったら、こう制御すればもっといけるはず」という話もしていたんですが忙しくなってしまって、少ないまま放置されていました。それからいつまで経っても変わらないので自分がサンプルを書いて、尾上がやらなきゃいけなくなりました。そこから1週間くらいであの量まで増えています。

Genz氏:最初は尾上がPC上で動かしている状態を自分に見せてくれたんですよ。「まだ、ほかの人に見せたらダメですよ」って言われていたんですけど、スマホで撮影して末岡に見せに行って。

山本氏:その時は実機で動くか分からなかったので、まだ見せないように言ってたんですよ。それなのに勝手に見せるどころか、さも出来るかのように全体会で発表までしてるっていう(笑)。

Genz氏:そうやって退路を断ったという感じですよね。

黒木氏:魚群がたくさん出て、これで綺麗になったぞと思ったら「メリハリつけたいから大きなクジラとかいたら楽しいんじゃないか」となって追加されたという感じですね。

――最初からこの絵を目指して作られたのかと思っていたので、意外でした。

末岡氏:最初はFPSの問題が解決できるか分からなかったので、すごく抑えた表現をしていたんです。当時は動き回るものを実装するための、負荷的な部分を検証できる人もいなかったので。でもメンバーが揃った頃に黒木がコンセプトアートを描いてくれて、さらに海の表現を盛り込んだらもっと素敵な空間になるんじゃないかなと思って詰めていった感じです。

黒木氏:コンセプトを詰めている時も「あそこまで魚を描いたら怒られるんじゃないか?」みたいなことを考えていたんですよ。僕も3Dに関わっているので、大体「置くとしてもこのくらいの数になるのかな?」と想定しながら描いてました。でも実装するエンジニアとか、山本とかに「もっといけるよ」って言ってもらえて。逆に「こんなに置いちゃって大丈夫?!」って驚きましたね。

山本氏:その辺りは尾上と2人でやってたんですけど、尾上が動きの制御を書いていて、自分がFPS、要は処理負荷周りを見ていました。その時は「これ、まだ倍くらいいけるんじゃないか!?」って言ってたんですけど、Genzから「これ以上増やすと、絵的に問題がある」って。

Genz氏:「これは出しすぎだよ」って途中で止めましたからね。さすがに気持ち悪いよ(笑)。

山本氏:グラフィックエンジニアとして、初めてアートディレクターに「モノを出すな」って言われましたよ。こういう時、普通はアートディレクターが「とりあえず倍にして」って言い始めるものなんですけどね。バランスってものがあるだろうと止められました。

Genz氏:ちょっとウジャウジャしすぎてて、見ていて気持ちのいい数を超えてたんですよ。綺麗に見えるラインを保ちたかったんです。

――本作のプレイヤーは「現実世界」と、今お話に出てきた幻想的な「拡張夢」という2つの世界を切り替えながら探索をしていくことになります。この世界には、表現にどのような差があるのでしょうか?

末岡氏:大枠でいうと、現実世界は未来的で、造形は「インダストリアル」な要素を持たせつつ、AR表現などを多用している空間になっています。拡張夢は青を基調にしたファンタジックな雰囲気で、音響も反響するようにしています。空にゆらめく波のような表現も入れてくれて、ファンタジー空間とSF空間とのギャップを目指しています。切り替えた時に驚きが生まれるように、というのは意識しました。

山本氏:あの青色は「末岡ブルー」って呼ばれてまして……。

末岡氏:定義したのは私ではないんですけど(笑)。

Genz氏:拡張夢には、最初は魚とかもいませんでしたよね。途中から末岡が「実は魚がほしくて……」と言い出して。

末岡氏:「アルトデウス: BC」の時から「ポリゴン数を抑えて、効果的にワンポイントで魅せる」という考えのもと、負荷の問題を回避する……といった作り方をしてきました。なので私も初期の頃はあまりモノを動かさず、静止した状態でも綺麗に見せられるように作ろうと思っていたんです。でも色々なメンバーが入ってくれたおかげで、表現を突き詰められるようになりました。例えば黒木は「本当にやりたかったのは何ですか?」という、すごくベースのところからヒアリングしてくれるんですよ。

山本氏:すごいよね。「今はこうなってるけど、本当に最初に考えていたのはどうだったんですか?」って聞いていって。

末岡氏:とても丁寧に丁寧に聞いてくれて、それをコンセプトアートに落とし込んでくれました。「現状はこの見た目だけれど、本当にやりたかったのはこう」というのを形にしてくれて、それを実装してくれました。中盤くらいからぐっとグラフィックが引き上がって「やりたかったのはこれだ!」と思えましたね。

山本氏:処理負荷系は、動かなくなってからが本番なんです。動かなくなるところまで盛って、動くところまで削るのが一番いいと思いますね。

――ちなみに設定的な部分になりますが、一般的な人々は現実世界と拡張夢をどのように過ごしているのでしょうか?

末岡氏:多くの人々は、日中は街で暮らしていて、夜に眠りにつくと体内に装填されたナノマシンで拡張夢に導かれます。拡張夢の中では目覚めているわけではなく、メンタルに異常のない大多数の人は魚の姿で回遊しているんです。

不安を抱えているとか何らかの異常があった人は夢の中から弾かれて、意識が人の姿になます。普段の監察官は、そうした人の姿をした市民と接触してメンタル異常を取り除いています。

「探索が楽しい!」とプレイヤーが思える背景づくり

――「アルトデウス: BC」から比べて、グラフィック面でも大きな進化を感じました。それとはゲーム性が異なる“探索アドベンチャー”として、どのような点にこだわられたのでしょうか?

末岡氏:「アルトデウス: BC」はインタラクティブな要素がありつつも、視点を一点に定めやすい作りだったんです。これまで背景を作ってきたスタッフはアニメ業界の出身で、アニメでは魅せるカットを固定するというのに強いのもあり、素晴らしい背景になりました。

その場合、原点となる場所をある程度は固定できたんですが、今回は探索型なのでエリアの隅にも行けますし、プレイヤーの動きをコントロールできません。ですから細かいところまで背景を作りこまないといけなくて。弊社はまだ探索型らしい背景を作るという知見が浅く、プレイヤーがどこに行っても探索が楽しいと思ってもらえる背景づくりは大変でした。

あと「アルトデウス: BC」などは背景のポリゴン数を抑えて、その分キャラクターに割り振るような構成だったんです。今回は背景にポリゴン数を割いて、逆にキャラクターは落とすようにしています。

山本氏:一枚絵で見せる、いわゆる書き割りだった部分もあったんです。でも今回は裏に回ったりできるので、ちゃんとポリゴンで作らないといけなくて。あとはライティングですよね。

Genz氏:これまでの弊社の作品は、セル系でパキっとした印象を受けると思うんです。影とかも白黒がはっきりしていますし。今回はライトマップという、あらかじめライティングをベイク(焼き付け)する処理を施して、エリアのどこにいても自然な陰影で雰囲気のあるライティングになるよう考えながら作ってきました。

発売延期の告知をする時に、クオリティアップの前後について発表したところ「こんなに綺麗になるなら待つよ」といったご意見も頂けました。そうした部分も含めて、探索パートはすごく楽しくなっていると思います。

――そうしたこだわりは、自然であればあるほど気づかれにくいですよね。あらためて言われると「これは全然違う!」と分かるんですが。

Genz氏:不自然だなと思わせないように作っていますからね。

山本氏:ライトマップでは自然に見せる部分もそうなんですけど、黒木のほうで拡張夢のライティングを変えて雰囲気をガラっと切り替えるみたいなこともやっています。置かれているポリゴンとしてはほとんど一緒なんですけど、それをライティングで印象を大きく変えています。

黒木氏:自然に見えてしまうと、どうしても驚きが減ってきてしまう部分ってあると思うんですよ。前作と違うところは、ブルーム(光源をぼんやりと滲ませるエフェクトの処理法)が使えるようになったのが大きいです。光の印象は届きやすいので、それをどう印象的に使っていくか。驚きを与えたいところに絞って入れる、というのは意識しています。

Genz氏:ブルームが使えるようになったのはすごく大きいですね。

黒木氏:使えるんだというのも驚きでしたし、プレイヤーに届いたときの反応も大きかったので、一番最初に目にした時とか、とくに驚いてほしい、プレイヤーが一番見てくれる場所にその機能を詰め込みたいとは思っていました。

山本氏:ブルームは全画面効果になるので、QuestのようなモバイルVRに入れるのが難しいと言われてたんです。入社してGenzと初めて会った時、挨拶の前に言われたのが「ブルーム入れたい!!」だったんですよ(笑)。

Genz氏:山本が来たら「ブルームが入るぞ!!」という感じでいましたからね。

山本氏:自分はVR出身ではありませんし、今はどんなハードで動いていて、どれくらいの負荷なのかも何もかもまったく分からないのに、一言目にそう言われて。でも、とりあえず負荷を測ったら問題なく入れられそうだったんですよ。それで入れたらもう、周囲が狂喜乱舞ですよ。

Genz氏:エフェクトアーティストの中村も驚いてましたからね。

山本氏:中村は普段すごく物静かで、ずっと一定のテンションで仕事をしているんですよ。そんな人でもブルームを入れた瞬間は、すごくテンション上がってましたよね。

末岡氏:夢が広がるな、って言ってましたね(笑)。

――それくらい、社内では大きな転機だったんですね。

Genz氏:今までは、ブルームを入れたようなテクスチャを手描きしなければならなかったんですよ。それが設定ひとつで簡単にできるようになったので、それはもう喜びますよね。

拡張夢の魚も、ブルームがないとただ何か赤いものが飛んでるとしか思えないんですよ。今はブルームが入っているからすごく幻想的な雰囲気になっています。ブルームがなかったら、ここまでの絵作りはできなかったでしょうね。

山本氏:VRだと空間の中に入れるので、絵として見せられているという感じではなく、空気を感じてほしいというのがあります。ブルームがぼやっとしているのは、現実だと周りに空気があるからそう見えるのを表現しているので。そうした部分のクオリティをどんどん上げていけば、この世界にずっといたいと思ってもらえるような絵になるんじゃないかなと思って頑張りました。

Genz氏:「この空間になら何時間でも滞在できるぞ!」というマップがたくさんあるので、プレイヤーの皆さんには楽しみにしてほしいですね。

――実際にプレイしてみて「アルトデウス: BC」ではあまり感じることのなかった、人の気配とか生活感のようなものを感じたのは、そうしたご苦労があってのことなんですね。

末岡氏:海外などの探索型アドベンチャーは、ウォーキングシミュレーターのような人がまったく出てこない作品でも「ここに住んでいたのは誰なんだろう?」とか「どういった事情があってここを出ていったんだろう?」とか、そういった疑問が探索することによって徐々に謎が紐解かれていくような作りをしているんですよ。今回はそうした要素を入れたくて、人が直接的に登場しなくても残されたもので人柄が分かるとか、そういったことも考えています。

――このほか探索には、敵から隠れて逃げるステルスパートもありますね。

末岡氏:まだプロトの段階ではそこまで暗くなく、明るかったんですよ。敵というか徘徊している人物もはっきり見えていて、暗闇から相手が襲ってきそうみたいなドキドキ感がない。一人称視点だと情報量が少ないので、レーザーサイトとかでどちらから向かってくるのか、今狙われているのかどうか分かるようにしないといけないといった話もあった中、明るいと目立たないので暗めにしました。ここも何度も遊んで調整しています。

山本氏:このシーンはフォグ(霧)が濃いですよね。見通しが悪い、スリルのあるような絵に近づけていっています。暗いと映えますよね。

Genz氏:部屋を真っ暗にしてから要所にライトを置いて、全体的な雰囲気をよくするようバランスを取っていきました。最終的にはライブでスモークを焚くようなイメージで下にフォグを入れて、床をあまり見えないようにして臨場感を出しています。お化け屋敷のような空気感の演出にこだわりました。

末岡氏:探索とかでもそうなんですけど、よく見えないからワクワクする部分ってありますよね。人間って見えすぎると手に取ってみようと思わないんですけど、暗い場所だと「これは一体何だろう?」と手を伸ばしがちなんです。そこで今回は背景を暗くしたいと話をしましたよね。

Genz氏:フォグは距離で計算しているので、近づくと晴れるんですよ。近づくと「あっ、こんなのがあったのか!」と分かって、実際に手に取ってみるという。あと、要所にあるブルームで光っているものは見やすいようにしているので「ここに向かえばいいんだな」というのは分かりやすくしています。

――こうした「捜査パート」以外に、集めた証拠で統合人工知能と対峙する「審問」や「現場再現」をメインとしたパートもあるそうですね。どのような構成で進むのでしょうか?

末岡氏:基本的にはずっと捜査をしていて、推理を披露する場としてクライマックスに現場再現があるという感じです。捜査をしている中でパズルパートもステルスパートもシームレスに発生します。

PVと遜色ないゲーム本編の注目ポイントは?

――ゲーム全体をとおして、とくにここを見てほしいという部分はありますか?

末岡氏:この背景がいいなと思ってるのはたくさんあるんですが、一番最初に出てくる場所ですね。その空間でプレイヤーを引き込みたいと思っています。

山本氏:この背景は使われる時間と、かけた労力が全然釣り合ってません(笑)。

Genz氏:プレイヤーによっては一瞬で通り過ぎるからね。自分はゆっくり時間をかけて色々なところを見て「綺麗だな~」って癒されるけど。

全体を通してだとモノを持てたり、小ネタもそこそこ仕込んであるので探してほしいなと思います。VRゲームってモノを持つとか、投げるとかって楽しいじゃないですか。そういうのもある程度はできるようになってますから。

末岡氏:本来の進行タイミングでは行くはずのない場所に行ってみると何かが落ちているとか、そういう遊びも仕込んでいます。「あのキャラクターはあの時、こういう行動をしていたのか!」というのが、残されたモノから分かるという感じです。

山本氏:色んなタイミングでマップの端から端まで歩けるもんね。

――アドベンチャーゲームなどでも背景を片っ端から触ってみる、みたいなプレイヤーも結構いますから、そうした遊びが含まれているのはより楽しめそうですね。

末岡氏:あまり気づかないような場所にもイベントを仕込んでいるので、細かく見ていただけると嬉しいです。

Genz氏:弊社の過去作にはないくらいの情報量のあるマップがたくさんあるので、そこを集中的に見てもらえたらありがたいですね。

山本氏:色んなモノを触ると、それに合わせて色々なテキストが出ますからね。テキストを用意するの大変だったんじゃないかと思うくらい。

末岡氏:本当に大変でしたよ(笑)。

Genz氏:背景を見ているだけでも時間が過ぎていくと思うので、楽しみにしてください。

黒木氏:自分は冒頭のところも好きですけど、その次の背景も好きなんですよ。開発の終盤に作ったので、集大成のようなところがあって。

山本氏:何でもアリで作った、とりあえず全部入れて「後でなんとかしてやる!」ってなった所か。

黒木氏:コンセプト的な部分も、そこに詰まってると思います。

末岡氏:あれはすごく大事な背景だよね。東京ゲームショウで公開した先行デモ版のうち、ステルスパートの体験で見れたものです。

黒木氏:チームで作ったというところもそうなんですけど、最終的にできたもののギャップ感みたいなところも、感動面でもよくできてるんじゃないかと思います。

山本氏:夢のような空間ともSF感ともテイストの違う、本編内でもここにしかないような背景になっています。出てくるのは序盤なんですけど開発終盤に作りこんだのもあって、かなりクオリティが高くなっています。

末岡氏:拡張夢の空間は「これ、もっと表現を盛れるじゃん!」って徐々に盛っていったんですけど、今お話ししている背景は開発終盤だったのでいきなりクオリティと負荷が一番に上がっています。

黒木氏:遊びの体験として、初めのほうの大切な部分だったので「もっとこうしたほうが初めて本作へ触れた人に喜んでもらえるんじゃないか?」と頑張った結果、いっぱいモノが詰まりました。

山本氏:オープニングを過ぎたくらいのところまでのカロリーが凄まじいよね。

Genz氏:そこで引き込んだら勝ち、みたいな。日々進化していて、少し前に遊んでデバックした時と「別ゲーじゃないのこれ?!前と全然違うじゃん!」って思うくらい変化しているんですよ。だから初期のPVもすごく格好よくできてるんですけど、絵がもう全然違う。

黒木氏:当時も全力は出しているんですけど、山本に新しい魔法をかけてもらっているのでどんどんバージョンアップしてます。RPGで例えるなら賢者が来て、さらに盾が増えて、鎧を着こんで……みたいな。

Genz氏:山本が来る前、来た後みたいになってますね。

山本氏:弊社にはもともとグラフィック専任のエンジニアがいなくて、自分が初めてグラフィックエンジニアとして入ったんです。専門職として来た以上、明確にクオリティに差がないと存在価値がなくなってしまうので……(笑)。

黒木氏:ゲームのPVって見栄えがいいので、実際に遊んでみたら「ちょっとグラフィックのイメージが違うかも……」と感じる人もいるかと思うんですが、弊社の作品はむしろ逆かもしれません。

山本氏:最初は「これはあくまでPVだから!」って感じだったんですよね。ブルームも入っているし、色々なモノが増えているけど、あくまでPVだと。でも今は全部ゲーム内に入っています。

――プロデューサーの岸上さんのメッセージに「末岡ディレクターの強いこだわり」といったコメントがありましたが、お三方が末岡さんのこだわりの強さを感じたのはどういったシチュエーションでしょうか?

山本氏:末岡は、だいたい「あ、そういえばこれって……」から始まりますね。

Genz氏:作業していると、末岡が歩いてくるので「やばい、来た……!」っていう緊張感がありますね。「これがやりたいんです!」って、どんどんタスクが増えていくので(笑)。

山本氏:だから、気配を感じたらスッと席を立って……ってもちろん冗談ですよ(笑)。

Genz氏:極力「これがやりたい!」という意見には、無理ですと突っぱねないようにしています。

山本氏:まずは一旦やってみてますね。ディレクターとしては、ものすごくバランスの取れた人だと思います。ゲーム業界のディレクターって「自分の頭の中にあるものを200点で形にしてくれ!」みたいな人も少なくないんです。でも末岡はチームの状態や開発のスケジュールを見て「ここまではどうしてもいきたい。でもここから先は難しいと思う」という判断をバランスよく取れるディレクターなんですよ。

だから「言ってきたということは、どうしても入れてほしいんだろうな」と分かりますから、こちらも全力でなんとかしようと。こだわりは強いんですけど、こだわりを押し付けたりはしないと思います。

末岡氏:いつも快く受けていただいてます。すごく褒めてもらってる……(笑)。

黒木氏:自分がすごいなと思うのは、設定をすごく綿密に組んでいるんですよ。ここで起きていることが別のことも繋がっている部分もあって、その一部分だけ切り取って作ろうとすると整合性が取れなくなってしまう。なのでコンセプト部分の担当としては、いかにそうした部分を引き出すかみたいなところにあるんですが、聞いたら聞いただけ出てくるんですよ。そういったところにこだわりを感じますね。

末岡氏:黒木には、すごく感謝をしています。バランスを取るようには心がけていて、やはりメンバーが少ない初期の頃は表現を盛るにも限界がありますから、どこに注力して、どこを諦めるかみたいに考えていたんですよ。でもすごく丁寧にヒアリングしてくれて、すべての設定を話したうえで「落とし込めるものと落とし込めないものがあるかもしれないけど、形にできるようにしてみます」とポジティブに受け止めてくれました。その落とし込んだものを見るのは私も楽しかったです。

黒木氏:設定がたくさんあって、聞いた分だけ跳ね返ってきますから、文章で伝えると受け取り方が人それぞれで違ってしまいがちで。こういうものを目指したいというイメージがあるのに、いくら各々が素晴らしいものを作ってもバラバラではパッケージとしては弱くなってしまいます。なので末岡が作りたい、思い描いているものをいかに引き出すか。それをいかに自分が周囲の共通認識として持たせるかというのは大事にしました。

山本氏:大変だったでしょ。

黒木氏:そこを大変だとは感じてないですね。自分の中で大変だなって感じるのは、聞いてもそれが決まってないことなんです。末岡は聞いたことに関してすべて答えを出してくれる。「こういうシチュエーションはどうなんですか?」と聞いたら「それはここはこうで、こうなってます」と全部返ってくるので、本当にすごいと思います。

末岡氏:ありがとうございます。

――東京ゲームショウの前にも熱心なファンを招いた体験会を実施していましたが、反応はいかがでしたか?

末岡氏:私はスタッフルームからちらっと覗くくらいしかできなかったんですが、Genzが結構いましたよね。

Genz氏:皆さん前作からのクオリティアップに驚いてくれてましたし、今後もブラッシュアップするとお話しさせてもらったら「すごく楽しみにしています、頑張ってください」という反応の方がほとんどでした。この時の体験はパズルパートだったんですけど、すごく面白いと。難しいという人もいたんですけど、皆さんちゃんとクリアできていたので難易度としてもちょうどよかったのかなと。

末岡氏:先行デモ版ではドローンがサポートしてくれましたが、本編ではそうした誘導はリリィが担当してくれます。ただドローンも思いのほか可愛いらしくて。これは先行デモ版を作ってくれたエンジニアが動かしてくれてるんですけど、あんなに可愛いんだったら本編でももっと可愛くしてもよかったなと。ストーリーではリリィとドローンという小さいもの同士の交流みたいなのも描いているので、ぜひ見てみてください。

――今後Episode II、Episode IIIと続いていきますが、こちらの進みはいかがでしょうか?

末岡氏:お話しできる部分はあまりないのですが、シナリオはすべて終わっています。今はEpisode IIのゲーム部分を作っているところで、ちょうど今日(9月上旬時点)は現状の実装を確認するところでした。ゲームパートについては通して遊べる状態にはなっているので、ここから詰めていく感じです。

――2023年初頭に「PlayStation VR2」の発売が決定しました。こちらへの展開は検討されていますか?

末岡氏:こちらも具体的なことは言えませんが、私としてはなるべく多くの方に遊んでもらいたいとは思っています。私自身の個人的な意見にはなるのですが、より色々なプラットホームで展開できたら素敵だなと思っています。

――最後に「ディスクロニア: CA」のファンの方々へメッセージをお願いします。

黒木氏:遊んでくれたプレイヤーの方がワクワクするようなデザインや方向性は、発売して手に取ってもらえるギリギリまで詰めていきます。

Genz氏:今作はMyDearestの集大成となる最新作なので、期待して待っていてください。世界観もキャラクターもシナリオもすごくいいので、HMDが涙で濡れてしまうかもしれません。ティッシュ片手にプレイしてください。

山本氏:ずっと中にいたくなるような世界を描けたなと思っているので、ぜひお手元で体験してもらえると嬉しいです。

末岡氏:本作は全3章配信で今回はEpisode Iとなりますが、私は最初と最後がきちんと繋がるように作っているつもりです。各章の締めくくりに「えっ、そんなことが起きるの?次が気になる!」みたいな演出も仕込んでいるので、Episode Iをリリースした後もEpisode IIIまでずっと楽しみに待ってていただけると嬉しいです。これからEpisode IIIまでの開発も頑張っていきますので、ぜひ遊んでいただけると嬉しいです。

――ありがとうございました。

※画面は開発中のものです。

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