8月23日~25日にわたって開催の「CEDEC2023」。ここでは、8月24日に行われたセッション「FINAL FANTASY XVIでのTA業務紹介 ~暴れる召喚獣に破壊されまくるステージをつくるには~」の内容をお届けする。

登壇者はスクウェア・エニックスより、畠山亮太氏、和田光氏、長谷川千瑛氏。本セッションでは、2023年6月に発売された「ファイナルファンタジーXVI」(以下「FFXVI」)のTAの業務を一部紹介。

「FFXVI」では召喚獣による大規模な破壊が行われるが、アセットの破壊とシミュレーションのフローにHoudiniで作成したツールを使用しているという。その他にもフィールドの植生アルゴリズムを元にした植生ツールおよび植生アセット制作、中遠景のワークフローと地形タイルメッシュ作成ツールなど、「FFXVI」におけるテクニカルアーティスト(TA)業務の一部を紹介している。

畠山亮太氏、和田光氏、長谷川千瑛氏

アセット破壊ツールとシミュレーションツールの紹介

まずは動画で、「FFXVI」に登場するさまざまな”破壊”のシーンが紹介された。召喚獣対召喚獣で、大きな物が崩れるシーン、家屋の破壊シーン、フーゴが玉座を破壊するシーン、オーディンが斬鉄剣を振るうシーン、「FFXVI」の主人公クライヴとガルーダのバトルシーンだ。

「FFXVI」にはとにかく「破壊」されるシーンが多いが、その破壊のシーンはどのように作られていったのだろうか。その破壊のワークフローは下図のような流れで作成されている。Houdiniでアセットの破壊、Mayaで破壊アセットの修正や破壊アセットの実機出力、Houdiniでシミュレーション、Mayaでアニメーションの修正、アニメーションの実機出力、そしてAsset Editorという社内ツールを使って納品、という形だ。

「アセットの破壊作業はとにかく面倒くさい」とのこと。「色んな壊し方、崩れ方を直感的にしたい」ということで、目指したのは、作業と修正のイテレーション効率の向上、誰もが使えるような学習コストの低いツールを作成、破壊の種類の多様化、という3点。最初はMayaのプラグインでやっていたものの、見た目の不具合も多く、かつ一から破壊の作業をやる必要があり、アーティストが直感的に使えない等、非常に面倒だったそうだ。色んな壊し方、崩れ方をもっと直感的にしたいということで、パラメータをいじればやりたいことができるツールを作ることを目指したと、畠山氏は語った。

まずひとつ目のツールは、石材破壊ツール。その名の通り、石材を破壊することに特化したツールである。例えばフェニックス対イフリート戦のような場所で使用されている。

やりたいことは、「断面がフラットすぎるので、凸凹させたい」、「破片の大きさが均一なので、小さなものも欲しい」といったようなこと。そこで断面へのディティールを追加し、大きな破片から細かい破片を生成できるようにした。

パラメータをさわると破片が細かくなったり、ランダムに色々変更することができる。ディティ-ルもパラメータから極端な形にすることも可能で、破片の角の尖った場所から小さな破片を生成する作りになっている。

次のツールは、木材破壊ツール。木製の橋全体が壊れるシーンや、クライヴが脚で蹴って壊すオブジェクト、クライヴなどの攻撃で壊すことができるテーブルなどの場面で使われている。

石材破壊ツールと似ているが、一番の特徴は断面の形状をささくれ状にしたい、というところ。また、そのささくれ具合を柔軟に調整したいということで、「木材の長辺の向きにささくれが生成、ささくれの形状もパラメータで設定できるようにした」と畠山氏。

実際のツール画面を紹介すると、下図のようなものになっている。

次は、ライン破壊ツール。狙った部分だけを破壊したいというアーティストのこだわりを詰めたツールだという。アセットによってはラインが引きずらいので、パーツを細分化してラインを引くことは出来るようになっている。

そして次に登場するのはなんとも「FF」らしいツール、斬鉄剣ツール。その名の通り、オーディンとの戦闘中に壊される背景に使われている。「斬られた方向に一瞬スライドしつつ、一拍おいて崩れていくという斬鉄剣らしい壊れ方をしてほしい」「小さい瓦礫もポロポロ落ちてほしい」という和田氏からの要望に、畠山氏はアセットの上においたグリッドを断面とし、断面から小さい破片を生成する機能をつけたそうだ。

そこで、実際にオーディンに斬られる塔を例に挙げた。

もうひとつのツールは、シミュレーションツール。「カットシーンでキャラクターの演技に合わせて破壊したい」、「建物を徐々に崩したい」、「狙った箇所の破片をふっとばしたい」、「手付けアニメーションをシミュレーションに反映させたい」といった要望に応えるツールだ。

特に「FFXVI」は召喚獣という大きなものが暴れまくるため、普段であれば破壊対象にならないような巨大建造物も破壊対象になり、召喚獣のサイズが大きくなるほど否が応にも周りも壊れていくという特徴がある。

イフリートのシーンの例
ノルヴァーン砦の一部が崩れるシーン。破壊する範囲は固定させる
旧都ロザリスが爆発して壊れていくシーン。爆発後にせりだした家屋が兵士に直撃するように、瓦礫が真下に落ちるようにしている
ロザリス城で玉座が壊されるシーン。カットシーン班とあわせて崩す必要があった

下図は力場が生成された一部だけが吹き飛ぶ実例の、ツール画面。大体の破壊のシミュレーションを行えるツールになっているという。

アセット破壊ツールとシミュレーションツールを作って、「パッケージ化することで学習コストを抑えられた」、「制作したツールで破壊・シミュレーション作業を任せてもらえた」といった振り返りを行いつつ、今後の課題として布や鎖やロープの破壊・シミュレーションもツール内に実装していきたいとのことだ。特に布などはぶちぶちと裂けるような表現をしていきたい、と述べた。

中遠景のワークフロー

「中遠景」という言葉に聞きなれない人もいると思うが、近景、中景、中遠景、遠景としている。つまり、中景と遠景の間が、中遠景だ。

中遠景のワークフローについて、「地形モデルをタイル状に並べる必要があった」、「各マップに適したタイル分割や設定を効率良く行う必要があった」という。
そしてゴールは、大元のハイトマップやマスクは分割せずに各マップに適した中遠景地形データを作成すること。

そのワークフローはかなり複雑化しており、まずはWorld Machineで地形ハイトマップと材質分布のマスクソースデータを作成、Quixel Bridgeで素材テクスチャのソースデータを取得する。

これらをSubstance Desginerで材質分布マスクと素材テクスチャのソースデータからテクスチャの中間データを作成、テクスチャのバイナリコンポートを行い、Asset Editorでテクスチャのアサインやマテリアルの中間データを作成、Houdiniで地形ハイトマップを材質分布マスクソースデータを読み込み、モデルの中間データを作成。再びAsset Editorでモデルのバイナリコンポート、Map Editorで地形タイルメッシュモデルのバイナリデータを読み込んでマップに配置して配置情報の中間データを作成、カットシーン用などで品質を担保する必要があるモデルは常時化してマージグリッドに含まれないようにする。そして最後に、自動ビルドで地形マージグリッドのバイナリデータが生成、となっている。

実際の様々なツール画面を見ていこう。驚きなのは、途中の赤い◇マークがある画面だ。何が驚きかというと、プレイヤーが歩ける範囲はこの赤い◇マーク部分のみで、その数十倍もの広さの中遠景が作られているのである。

だが、それでも限られた時間で数多くの広大なデータを制作できたという。Houdiniで自作した柔軟性の高いツール群によるところが大きかったそうだ。今後はより多様な地域や風土にも挑戦したい、と今後の抱負を語った。

「FFXVI」の植生について

ここからはマイクを長谷川氏が握り、「FFXVI」の植生についての紹介を行った。まずは「FFXVI」の自然について、スライドを見ていこう。

「FFXVI」の舞台であるヴァリスゼアはファンタジーの世界だが、様々な気候帯があり、気温や湿度、標高などが違う。中には隣接していても気候帯が違う地域もあったり、同じ地域の中でも植生が変わる場所もある。

植生チームはアートディレクターからの「ゲーム内の自然の景観を改修したい」とのオーダーから、当初のヴァリスゼアの植生を調査。するとアセットのクオリティや容量や処理負荷、アセットの管理体制・パイプライン、配置など、たくさんの課題が浮上。専門チームを作って、集中して対応することとなった。

理想は軽くて高品質な植物アセット。「FFXVI」のルックは写実的なのでリアリティ重視のルックにし、屋外は自然物の画面占有率が非常に高いので、容量や処理負荷の改善を行う。そしてアセットの改修と同時並行でエンジンの調整もスタートさせ、描画エンジニアとの協業を進めるといったかたちだ。

改修は、ルール設計から始まり、植物アセットの改修と配置システムの構築を同時に進行。植物アセット改修のために、制作経験のある背景アーティストを含めたチームを設立し、ヴァリスゼアの植物などをどう配置するかを決めていった。その際、気候や地形を考慮しながら設計していった。

次に植生ルールの作成だ。ヴァリスゼアの世界はファンタジー世界だが、現実世界の植生ルールを参考することにしたため、寒い場所では針葉樹、温かい場所では広葉樹、地形による考慮、標高による植生、様々な配置条件が必要となってくる。

実際の植物アセットの改修では、MayaやZbrushなどを使用。そこに枝と葉のクラスターテクスチャを作るにはSpeedTreeも取り入れている。アーティストからの要望もあって葉の肉感なども改修したそうだ。

またヴァリスゼアには紅葉もあるため、紅葉の仕組みのルール化も必要だったという。他にも植生ルールに則って樹種ごとに樹木モデルを作成、シルエットの見直し、草モデルの改修も植生ルールに則って行われた。

配置システムについては、作成したルールを基に、Houdini上で再現。Vegetation Placing Toolの開発を行った。このツールで、あらかじめ選定した樹種をプリミティブモデルで作成、取り決めた植生ルールに従ってツール上で樹木を生やす、位置情報をエンジンへエクスポートすることなどが可能になった。

また、マップのレイアウト担当アーティストへ、絵的やゲーム進行上妨げになるような生え方をしている植物アセットのより詳細な調整等に集中してもらい、絵作りに専念できる土台を作成してもらった。

さらに、エンジン上での表現について、光が表面に当たった時に葉の裏側が暗くならないよう、葉の透け感が出るようにエンジンで調整可能になった。

最後に長谷川氏は、「実施したこと」として、情報や進捗の可視化、制作環境のプロシージャル化、植生ルールの作成、植生配置システムの作成、エンジン上でのバリエーション生成、メモリ容量や処理負荷軽減の施策を行った、と語った。

限りある時間内で少々駆け足気味のセッションではあったが、「FFXVI」のファンのひとりとして非常に興味深い内容のセッションだった。破壊のツールはもちろんのこと、植生についてもヴァリスゼアの中で生きてきて、「よく考えられている」と感じていただけに、そのこだわりを知ることができた。改めて、「破壊」や「植生」について注目して「FFXVI」をプレイしてみるのも良いのではないだろうか。

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