千葉・幕張メッセにて9月21日~24日にかけて開催の「東京ゲームショウ2023」。本稿では「Football Manager 2024」の開発を手掛けるSports Interactiveのスタジオディレクター、Miles Jacobson氏の合同インタビューの模様をお届けする。
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「Football Manager」はクラブチームの監督となり、世界最高のチームを目指す本格派のサッカークラブ経営シミュレーションゲームだ。選手の獲得、トレーニング、戦術の決定、選手のモチベーション維持など、さまざまなことが可能。非常に奥が深く、世界中のファンの支持を集める人気シリーズだが、今作「Football Manager2024」が正式に日本語対応した初めてのタイトルとなる。
Jリーグとのライセンス契約を締結、J1~J3のクラブが実名で登場
ついに日本で正式デビューとなることについて、Miles Jacobson氏(以下、Jacobson氏)は「これまで日本で発売することができず申し訳ありませんでした」と、まず日本のファンに謝罪。同時に、Jリーグのライセンスを獲得したこと、明治安田生命リーグ、J2リーグ、J3リーグの全クラブが本作に登場することを明かし、「19年かかってしまいました、大変お待たせしました」とメッセージを送った。
とはいえ、「かなり前から日本でリリースしたいと考えていた」とJacobson氏とは言う。しかし、「Football Manager」はPC向けをメインとしたゲームで、日本語にすると文字が小さくなってしまうなど越えなければならないハードルがいくつもあったそうだ。
もっとも、近年はPS5やNintendo Switchなどのプラットフォームの広がりによって、本シリーズが受け入れられる下地ができたと判断していたという。ただ、日本で販売するにあたってJリーグの登場は不可欠と考えていたそうで、紆余曲折を経て、今回日本での販売に踏み切ったと日本語対応の背景を明かした。
今回の日本語の実装、そしてJリーグの登場はJacobson氏としても感無量だったようで「ベリー、ベリーハッピー!」と笑った。
ちなみに、Jリーグは世界中で登場が待望されていたリーグのひとつで、今回Jacobson氏が来日することをX(旧Twitter)に投稿したところ、「Jリーグ!Jリーグ!Jリーグ!」という返信で溢れかえったそうで、「それぐらいJリーグの登場は世界でも注目されています」と語った。同じような状況は過去にドイツでもあり、かねてから待望されていたブンデスリーガの登場により人気がさらに高まったそうで、「同じような現象を起こせたら」と期待を述べた。
サッカークラブをマネージメントするゲームは日本にもいくつか存在するが、本シリーズはフライトシミュレーターのような現実に即したサッカーシミュ―レーションゲームで、ゲーム性がかなり異なるとJacobson氏は主張。もっとも大きな特徴となっているのが膨大なデータで、1500人以上のリサーチャーが集めた52カ国、50万人以上の選手データを収録。データの内容も非常に精緻かつ正確で、「プロのフットボールクラブが『Football Manager』のデータを分析して実際のスカウティングに活用しています」と胸を張った。
そうした状況を踏まえ、「リアルの監督よりも自分のほうが有能だと証明できるようなゲームです。そのくらいリアルです」と語るJacobson氏。プレイヤーは全権監督となってチームの戦略、選手の移籍、給料の支払い、トレーニングなどのすべてを管理してチームを運営することが可能で、これらをすべて自分で行ってもいいし、スタッフを雇って任せることもできる。
試合の映像は比較的シンプルで、「世界で一番の画質かと言われれば、そうではないかもしれません」と、Jacobson氏も自虐的に語る。ただ、最新作となる本作では新しいエンジンの採用により、グラフィック面も向上がはかられているとのことだ。試合での選手の動きも4分の1秒ごとに選手それぞれの思考をシミュレーション。約250項目ものパラメータをもとにAIが判断して試合中の動きに反映しているという。それだけに試合の内容はリアルかつ説得力のあるものになっているわけだ。
監督となったプレイヤーの判断や選択によってチームの行く末はさまざまに変化。ストーリーラインのようなものは存在せず、プレイをスタートした瞬間からゲームの内容は何千万通りにも広がっていく。さらに、ゲーム中で対戦するAIの監督もプレイヤーと同レベルの判断をしてクラブを運営しており、決してプレイヤーは最強ではない。そこが本シリーズの特徴であり、魅力だとJacobson氏は力説した。
過去のシリーズ作で日本語化に尽力してきた有志たちに感謝
本シリーズは日本語でのサポートがされない中で、有志による日本語化Modが作られてきたという経緯がある。そうした状況はJacobson氏も認識しており、日本語化を進めてきた有志たちに「本当にありがとうございます」と改めて感謝。「これまで翻訳に使っていた時間を、これからはプレイに充てていただければと思っています」とお礼を述べた。
また、PS5やNintendo Switchでも発売されることから日本でのプレイ人口も増えていくだろうと予測。日本の「Football Manager」のコミュニティも大きくなっていくと考えており、これまで日本語化に尽力してきた方々がそうしたコミュニティの柱となってくれたらと期待しているという。もちろん、翻訳の質にもこだわっており、欧米から出るゲームの中でもトップレベルのものになるべく、しっかり時間をかけて取り組んでいるとのことだ。
「今後の日本での継続的な展開も考えているか?」という質問にも、Jacobson氏は「イエス」と即答。その要因となっているのが韓国での成功で、トップ5に入る売上を記録しており、「日本でも同じくらい成功したい」という野心を持っているそうだ。また、女子リーグの追加を進めていることも明かしてくれた。
気になるプラットフォームごとの違いだが、本作にはすべての要素を集約したピュアなシミュレーションゲームであるPC版のほか、PC版と基本的には同じだが、PS5やXbox Series X/Sに対応させるため一部をダウングレードしたコンソール版、オンラインモードを除いたもので「Football Manager Touch」という名称で展開されるNintendo Switch版という3種類が存在する。さらにNetflix会員向けに配信される「Football Manager 2024 Mobile」も用意。入門用として作られたものだが、本シリーズならではのリアルさはしっかり追求されているとのことだ。
Jacobson氏は、プラットフォームによってプレイスタイルが変わってくると考えていて、PCゲームならデスクトップに向かってテレビなどを見ながらじっくりゆっくりプレイすることが可能。一方、コンソールのプレイヤーはテレビ画面に集中することになるので、こちらはシーズンの進行スピードを少し早めにしているそうだ。
モバイル版は移動中や仕事の合間でプレイできるように設計されており、Jacobson氏としては「トイレでもプレイしやすい」というコンセプトもあったとか。「Football Manager Touch」もそうした利点を持つが、シミュレーションとしてはモバイル版よりディープになっていると語った。
オンライン対戦の「キャリアモード」はクロスプレイに対応しておらず、それぞれのプラットフォームのユーザー同士との対戦のみ可能になっているとのこと。その他の対戦モードは、Xbox Game PassのアカウントがあればXboxとPCのユーザーとでクロスプレイを楽しめるそうだ。また、今のところPS5はクロスプレイに対応していないが、いずれは可能にしたいとも語っていた。
「Football Manager」はスプリントではなく長く遊べるマラソン
「Football Manager」のキモのひとつになっているのが選手の移籍・獲得で、前作「2023」においてスカウティングシステムの質が大きく向上したとJacobson氏は言う。本作では実際のプレイのところでさらなる改善がなされており、選手の移籍をよりリアルにするために「選手を売る」のが楽になる一方、「選手を買う」のは少し難しくなっているという。
たとえば、選手を獲得する部分ではAIが管理するエージェント・代理人を雇って選手やクラブと交渉することが可能になっており、これにより選手の獲得交渉がよりスムーズになるとのこと。ただし、エージェントを雇うにはお金がかかるため、資金面とのバランスを見る必要があるなど、さらにリアルなクラブ運営を楽しめそうだ。
また、「Jリーグの登場により、未知の新しいスカウトの市場が追加されることになります」とJacobson氏はコメント。リアルでも三笘薫選手がイングランドのブライトン、古橋亨梧選手や旗手怜央選手らがスコットランドのセルティックでプレイするなど、さまざまな日本人選手が海外のクラブで活躍しているが、ゲーム中ではもっと多くの日本の選手が海外に進出するようになると思われ、そうした意味でも「Jリーグが追加された意味は大きい」とのことだ。
普段ゲームをしないサッカーファンも本作はプレイするかもしれないということで、初心者に向けてのアドバイスも。まず、Jacobson氏は「『Football Manager』はスプリントではなくマラソンである」とコメント。囲碁や将棋のように時間を使って考えてプレイするゲームで、理解に少し時間が必要になるため、最初は資金に余裕があって選手も獲得しやすい強くてビッグなチームでプレイすることを推奨していた。
また、「Football Manager」は日本国内にも海外にも数多くのプレイヤーがいてコミュニティが充実しているという。初心者に協力的なプレイヤーも多いので、進行に手間取ったときはそうしたコミュニティに相談すればいいとのことだ。今回、Xで日本語版の公式アカウントを作成したのも、狙いのひとつに日本のコミュニティの強化があり、分からないことや聞きたいことがあったら公式アカウントの周辺にいる人たちを頼るといいとアドバイスした。
前作「2023」からプレイデータの移行が可能になっているが、「どこまでデータを引き継げるのか?」というプレイヤーならではの質問も出された。これにJacobson氏は「(前作で)終わったタイミングからスタートできます」と回答。ただし、トロフィーや実績といったものは引き継がれないとのことだ。
セーブデータの移行は前々から要望が多かった要素のひとつで、去年の段階でようやく運用の目途が立ったそうだ。そこからさらに人員を割いてチェックにかなりの時間をかけたとのことで、実装までに多くのハードルがあったことをうかがわせた。
Jacobson氏は日本語への対応が実現したことを非常に喜んでおり、限られた時間ながら率直に多くのことを話してくれた。9月に行われた親善試合で日本代表がアウェイで強豪ドイツを破ったことも知っているなど、日本サッカーへの関心も高いようで、シミュレーションが苦手という人でもサッカー好きなら確実に楽しめるはず。そんなJacobson氏が開発を指揮した「Football Manager 2024」は、2023年11月7日に発売予定だ。