2024年6月27日にMAGES.より発売されたNintendo Switch向けアドベンチャーゲーム「岩倉アリア」。本作の企画・シナリオを手掛けた午後ねむる氏のインタビュー・前編をお届けする。

目次
  1. 壱子とアリアと共に走ってくださった方がたくさんいることが嬉しい
  2. 980円くらいの短編企画としてスタート。それがライター人生最大の苦労の切っ掛けに……
  3. 「岩倉アリア」の時代考証。“1966年の日本”を描く上での取捨選択
  4. 前作「B-PROJECT 流星*ファンタジア」との共通点は“尊厳ファースト”
  5. 制作秘話:カットイン演出は省エネな絵作りができる……はずだった

1966年の日本を舞台に、旧華族の令嬢・岩倉アリアと、岩倉家の屋敷で働くことになった女中の北川壱子。ふたりの交流と、屋敷が抱える“秘密”を描いた「リアルファンタジー・サスペンスADV」である「岩倉アリア」。

すでに百合作品やシスターフッドの物語を求めるユーザーに高く評価され、アドベンチャーゲーム/ノベルゲームの新たなクラシックとなる予感さえある本作。その企画がどのように生まれ、そして我々の知る形になったのか? 企画・シナリオを手掛けた午後ねむる氏に話をうかがった。

かなりボリュームのあるインタビューとなったので、本稿ではその前編として、ネタバレの“ほぼ”ない話題をピックアップ。ゲームのすべてのエンディングを見届けた人が興味深く読めるであろう“ネタバレ気味”の話題は、同時公開のインタビュー後編で扱っている。

あわせて読んでいただけたら幸いだ。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

壱子とアリアと共に走ってくださった方がたくさんいることが嬉しい

――「岩倉アリア」は、MAGES.の作品としては珍しい作風のタイトルだったかと思います。本作を企画して、それが採用された経緯についてお聞かせください。

午後:これまでのMAGES.のカラーとは異なる作風になった理由としては、単純に私が“MAGES.育ち”ではないということがあると思います(笑)。他社で主に女性向けタイトルのシナリオを担当してきて、MAGES.に入社したのもその分野でシナリオディレクションを担当するためでした。

そんな中で「B-PROJECT 流星*ファンタジア」のシナリオを担当したとき、プロデューサー兼ディレクターの水野(枝里子氏)やグラフィッカーの中田(ふみ氏)たちの仕事を身近で見ていて、「この人たちの才能やセンスが活きる作品が作れたらいいな」と感じて企画したのが「岩倉アリア」だったんです。

そういう経緯があり、これまでのMAGES.からは出てこなかった企画として「ちょっと検討してみよう」と思ってもらえたのかなと。とはいえ、私たちが積極的に動かなければ、そこで終わっていたレベルの出だしではありました(笑)。

――感覚としては、けっこう駄目もとで出した企画だったのでしょうか?

午後:そうですね。MAGES.ではライターが企画したオリジナル作品の前例がないことに加え、ゲーム性で新しさを見せる企画でもなかったので。やはり商業作品としては「売れるものを作る」というのが大前提ですから……少しでもその前提に近づけるように、“サスペンス”として魅力のある作品である点にフォーカスしつつ、その上でテーマやビジュアル面、心理描写で「埋もれない作品にする」ことを強調してアピールした記憶があります。

時間はかかりましたが、最終的に事業部長、社長がチャレンジタイトルとしてOKを出してくださって、制作に取り組めることになりました。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

――そうして完成した「岩倉アリア」は、プレイした人の多くにとって忘れられない作品になったように思います。

午後:リリース後、作品や登場人物を愛してくださる声とともに、「MAGES.からこんな作品が出るとは」、「このテーマを持ったゲームが、MAGES.から出たことに意義がある」といった反応を多くいただきました。

与えてもらったチャンスに対して私たちができることは、概ね自分たちとプレイヤーを信じて力を尽くすことだけです。評価は努力に比例するものではないですし、内容だけでなくタイミングやプレイヤー層にも大きく左右されるため、ジャンルの位置づけが難しく評価軸にかなり幅が出るであろう作品ということもあり、制作中には無力感を覚えることも多々ありました。

それでも結果として、「岩倉アリア」がそのような声をいただける作品になったことはチーム一同ありがたく、誇らしい気持ちです。

また壱子とアリアと共に走ってくださった方がたくさんいることはそれだけで嬉しく、希望を感じることでもあり……今後のクリエイティブにおいても、大きな力になるだろうと思っています。

980円くらいの短編企画としてスタート。それがライター人生最大の苦労の切っ掛けに……

――いまの「岩倉アリア」の形に至るまでの変遷や「これだけは最後まで残った」というものについて教えてください。

午後:“シスターフッド”を描くということは最初から掲げていて、最後までゲームの中心にあり続けました。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

――アリアと壱子が恋愛関係にならない可能性はあり得たのでしょうか?

午後:それはなかったです。シスターフッドと女性同士の恋愛を描きたいというのは、不可分にずっとあったものです。どの段階でも、アリアと壱子の結びつきは強かったですね。

当初の企画から変わったことはたくさんあるのですが、前提部分での変化として、もともとは定価980円くらいの規模感のアドベンチャーゲームを想定して企画した、というのがあります。

社内で小規模なタイトルの開発を模索していた時期があって、ちょうど私の手が空いたので、その規模のゲームなら作れるんじゃないかと。ただその想定で作りはじめたことが、あとあと大変な思いをする切っ掛けになってしまったのですが……(苦笑)。

私が書くテキストは“映像的”だと言っていただくことが多いのですが、小規模なゲームでそれを活かすのなら、展開に次ぐ展開で、スピーディーに気持ちよく終わるようなシナリオにしようと考えたんです。

――それこそ2時間で終わる映画くらい、心理描写なども最低限のものにするようなイメージですね?

午後:そうです。ただ結局、980円という価格帯では商業的に見てもいろいろなバランスを取るのが難しいという判断になりました。でも「岩倉アリア」は企画として残った。本来の私は徹底して心理描写を掘り下げたい人間なので、それらを丁寧に描ける規模のアドベンチャーにしていくには、すでに「ストーリーの展開」を作っていたことが足枷のようになってしまったんです。

私の本来の制作スタイルは、登場人物全員の人格が自分の中にいる状態でプロットを切るという形です。私は「いつ何が起きるか」だけを設定して、あとはただ彼らの人生を見守るイメージ。そうすると各人の自然な心情としての動きとともに勝手に物語が展開していくので、プロットに詰まることはほぼありません。先に用意したストーリーに当てはめて登場人物を考えたり、動かすようなやり方は普段していないんです。これが原因で、ライター人生でトップレベルの苦労をすることになりました(苦笑)。

最初にできたプロットはサスペンス色がかなり強く、謎解き要素もありました。アリアと壱子の掛け合いは、最終版に残っているシーンもいくつかあると記憶しているので、原型とも言えるかもしれません。ただ「違う」という感覚が残り続けたことと、この話を納得行くまで書いた場合はミドルプライスに収められる量ではなくなるという内容でした。

最終版以外に3回、かなり詳細なプロットを切って、いずれもちゃんとした作品になるクオリティではありましたが……どれも「岩倉アリア」ではないと感じて、書き終えた瞬間に水野に送りつけながら、自分のフォルダはすぐゴミ箱に捨てていました。

それらは、岩倉アリアと北川壱子、それから岩倉周、“すでに存在している3人の人生を見つかるまで探し続ける”……そんな作業だった気がします。ごめんなさい、伝わりづらいかもしれないのですが……。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

――最終的にはストーリーに登場人物の行動を当てはめるのではなく、登場人物の感情と、そこから導き出される行動を突き詰めたものが「岩倉アリア」のストーリーになっていたというのは、ゲームを最後までプレイした人ならば納得できるところだったように思います。とくに描くのに苦労した人物は誰でしたか?

午後:今回は、本当に……全員難しかったです。自分が生み出したはずなのに変ですよね。それぞれの人生は生まれた瞬間からすべて知っているのに、行動は見えても心の動きが見えないことが多く、本当に苦しかったです。その中でも、周はとくに……(笑)。

完成したシナリオで言うと2章くらいまで書き進めたところで壱子の感情や行動原理がわかってきて、アリアのことがわかったのは3章くらい。「この人はこういう人なんだ」ということがわかったら最初から書き直すということを繰り返しました。

いちばん難しかった周は、5章を過ぎたあたりでやっとその人格や人生が私の中にはっきりと存在するのを感じました。その瞬間、あらゆることが腑に落ちて、異常なほどの解放感を覚えましたね。直後に全部書き直しだなと悟って絶望することになるのですが……。

周にしろ誰にしろ、「理解を深めるために事情を付け加えよう」、「都合のいい後付けに見られそうな設定は変えよう」といったことを試みると、その一点のみで“まず壱子がこの屋敷に来ない”のが分かるんです。

「存在している人間の人生を、お前にとって都合が悪いからといって変えることは出来ない。変えるなら『岩倉アリア』は存在しなくなるよ」、と「岩倉アリア」から言われ続けているような感覚でした。

最終的には「この人たちが存在する世界で起きたことはこれだったんだな」というところで締まったと感じています。

「岩倉アリア」の時代考証。“1966年の日本”を描く上での取捨選択

――「岩倉アリア」の発売日は6月27日でしたが、壱子が岩倉邸を訪ねる日のことをゲーム内のテキストで「六月最後の日曜」と表現されています。スケジュールなどを調整して時期を合わせたのであればけっこう大変だったのではないかと思ったのですが。

午後:これは完全にラッキーでした(笑)。ひと夏の物語なので「夏が来る前には出したいね」という話にはなっていたのですが、最後のスケジュール調整でピッタリ合うことが分かったんです。「夏のあいだに結末を見届けよう」とプレイしてくださった方も多く、改めてこのタイミングで出せて良かったと感じています。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

――1966年の日本が舞台ですが、時代考証でとくに気をつけた点はありますか?

午後:基本として“1966年にもあるもの”と“1966年にはないもの”の確認から始めましたが、“浮世離れした屋敷”が舞台だったこともあり、そこまで1966年であることそのものに大きく制約を受けることはありませんでした。

言葉づかいについては、どこまで当時の文化に忠実にするか悩みましたし、話し合いました。結果としては、潔く現代の言葉づかいを採用しましたね。今作においては間違いなく、多くのプレイヤーにとっての「読みやすい」を優先すべきというのが水野との共通意見でした。

ただワード単位では、通じるのなら当時から存在しているものにしたくて。とくに壱子の言葉づかいは現代っぽいですが、意外と「クソ野郎」とか「下衆野郎」とか(笑)、それから“スケッチ”や“リスト”といったカタカナの単語なども、当時の資料を洗って「この時代にも使われているな」と確認できたものを採用しています。また、1966年に起きた実際の出来事もストーリーに組み込んでいて……印象的な「マラソン」に関することもそうですね。

当時制作された映画を観てインスピレーションを得るということもしました。石坂浩二さん主演で、当時の上流家庭のイメージやモダンなファッションが見られる青春映画「若い娘がいっぱい」(1966年)や、ほぼ団地の一室で完結する作りが印象深い「しとやかな獣」(1962年)など。

どちらかを推すとすれば、私は「しとやかな獣」派です。この作品も“女の話”ですし、終盤の若尾文子さんが最高なので、観る機会があれば注目していただきたいです(笑)。グッと来た部分は、もしかしたら「岩倉アリア」に反映されているかもしれません。

――アリアの存在感に(反映されているかもしれない)、ということですか?

午後:どちらかといえば壱子……いや、明里ですね。「しとやかな獣」には戦中戦後の貧しさを知っている人々ならではの“富への執着”が描かれているのですが、時代感を描くためにとそのまま取り込むのは作品のテーマとズレてしまうなと。そこも潔く割り切りました。そもそもアリアと周はかなり異質な存在ですし、それは壱子の知る貧しさとも違うので。

――周たちが抱えるものが“富への執着”だったら、かなり世俗的な話になってしまいますよね。

午後:そうですね。岩倉邸を訪れる男たちから若干その匂いがするかもしれませんが、それくらいです。

前作「B-PROJECT 流星*ファンタジア」との共通点は“尊厳ファースト”

――過去に参加した作品には、「岩倉アリア」のようにシスターフッドや女性同士の恋愛を描いたものはあったのでしょうか? また、過去作の制作が「岩倉アリア」に活きたと感じた部分があれば、お聞きしてみたいです。

午後:MAGES.に入る前に、海外向け作品のシナリオを担当していたことがあったんです。“オーダーを受けて、海外ドラマのようなストーリーをたくさん書く”みたいな仕事で。そこでは「主人公の性別を選べるようにしてほしい」とか「男性とも女性ともロマンスを楽しめるシナリオにしてほしい」といったユーザーの要望をなるべく反映させる方針でした。

そのバリエーションの中で、女性同士の恋愛も書いたことがあったかもしれません。とにかく多様な人間関係、様々な愛の物語を描けるのがとても楽しかったことを覚えています。もちろんその作品形式だからこそできた部分はあったのだろうと思いますが、人の数だけ違う物語があることがとても自然に感じられ、それでより多くの方がゲームを楽しめるようになるなら、日本でももっと一般的になっていい試みだと当時から感じていました。それが「岩倉アリア」でシスターフッドをテーマにした直接の理由ではないですが、なにかしら繋がっているかもしれません。

――午後さんにとっての前作は「B-PROJECT 流星*ファンタジア」ということですが、この作品から「岩倉アリア」に繋がっていることはありますか?

午後:「流星*ファンタジア」は女性向けアイドルゲームで、「B-PROJECT」ファンの方のためにキャラクターひとりひとりを“人間として描く”のを徹底した作品でした。その中でも、私がいちばん重要視したのは人間の“尊厳”をしっかりと描くこと……というか、人間を描こうとするならば何よりもまず“尊厳ファースト”でないと、という気持ちが常にあります(笑)。そこは「岩倉アリア」にも通じる部分です。

14人のメンバーと主人公、そして彼らを取り巻く人々のことも描いているので、総プレイ時間は60時間ほどという大ボリュームなのですが……。人間として生きることは社会と繋がっているということなので、社会の問題とひとりひとりの葛藤を切り離すことなく描いていく。それを1作通してやり切れたという経験は「岩倉アリア」にも活きていると感じます。

「B-PROJECT 流星*ファンタジア」(C)B-PROJECT
「B-PROJECT 流星*ファンタジア」(C)B-PROJECT

――おはなしの作りとしては「B-PROJECT(Bプロ)」の入口として「流星*ファンタジア」からプレイしても問題ないのでしょうか?

午後:物語の冒頭でじっくり主人公とメンバーの出会いや人となりを描いているので、大丈夫だとは思います。一方で、キャラクターの人数が多く名前の読み方も難しかったりするので、その部分でちょっとハードルはあるかもしれません。

ですが発売当時、多くのBプロファンの皆さまがプレイしてくださるのと同時に、一部の乙女ゲームプレイヤーの方々も作品を手に取ってくださって。その方々がBプロをほとんど知らない状態からゲームを高く評価してくださり周囲にも広めてくれた、という流れもありました。ですのでキャラクター把握のハードルさえ越えていただければ、それぞれのルートも楽しんでいただけるのかな……? とは思っています。

ただ内容の感じ方に性差があるかは分からないのですが、弊社のデバッグ担当者や音響監督など、男性がプレイしたときに「すごくキツい」と言っていた事実はあります(笑)。アイドルの話ではあるのですが、“メンタルの問題”や“親の呪縛”といったテーマなど、リアルな部分が堪えたようでした。

――綺羅びやかなアイドルたちのサクセスストーリーみたいなものを想像すると大きく裏切られそうですね。でもそういう“キツさ”は「岩倉アリア」が刺さったなら性別問わず楽しめる人は少なくないようにも感じます。私もプレイしてみたくなりました。

午後:ありがとうございます! 60時間ほど、男性アイドルたちの葛藤と向き合えそうなタイミングがあれば、ぜひ……!(笑)。“人の尊厳”という部分では、確実に「岩倉アリア」に通じるものを描いています。

※「B-PROJECT 流星*ファンタジア」はNintendo Switch、iOS、Android向けに発売中。ニンテンドーeショップでは、定価の50%オフとなる3850円で購入できるセールを2024年8月20日まで実施中。

制作秘話:カットイン演出は省エネな絵作りができる……はずだった

――シナリオ以外のスタッフの仕事について、印象に残っているものを教えてください。

午後:「岩倉アリア」は「1人1クリエイティブ」みたいな体勢で制作していました。かなりミニマムなチーム構成で作っていたので、みんな大変だったと思います。その中でもいちばん大変だっただろうと思うのは、先ほども名前を挙げたグラフィッカーの中田です。

立ち絵・カットイン・イベントCGをひとりで描きつつ、スケッチなどの監修まで……背景以外、“絵”に関する部分は中田がすべて見ることになっていました。

そんな中、カットインの絵コンテはグラフィッカーのウレイが担当してくれることになったんです。絵コンテはイラストのベースになる構図を決めるものなのですが、ウレイが割と私に近いタイプの感情移入型かつ映像的な表現をする人で。作業が進むうちにすごくノッてくれたんですよ(笑)。

水野枝里子(プロデューサー兼ディレクター/以下、水野):そもそもカットイン演出を採用したのは、中田がひとりでフルカラーのイベントCGをたくさん描くことはできないだろうという判断からでした。代わりに、午後のテキストの特性も踏まえて、動的な表現ができる“コマ割り”的な演出をモノクロで取り入れることになったんです。

午後:顔全体は描かず、“手の動きだけ”を見せるとか、部分的な動きで状況や感情の機微を表現する。そうすれば多少は省エネな素材作りができる……はずでした。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

――ところが、ウレイさんがノッてしまった(笑)。

水野:プレイした方ならご存知だと思いますが、人物の顔も全身も山ほど出てきます(笑)。

午後:結果として、アリアの美しさや壱子の表情に滲む感情を、プレイヤーがはっきりと見られる素晴らしいものになりましたが、実際に描く中田は死にかけていましたね(笑)。水野がセーブを掛けようと試みたんですが、ウレイは「最初から止められたら描けるものも描けなくなります。いったん描き上げたところから好きなだけ削ってください」と。

――(笑)。周の表情もすごくよかったですよね。

午後:周については特にアツかったので、それが出ているんだと思います(笑)。想定外の物量にはなりましたが、それだけ情熱を持ってやってくれたのは嬉しかったですね。なにより上がってくるもののクオリティも素晴らしかったので。

――最終的に多少はセーブが掛かった上であの完成版なんですか?

水野:多少のセーブはしました。でも、私もだんだん楽しくなってしまって……削りつつも、別のところで増やしたり(笑)。

午後:中田も死にかけながら「やっぱりここにもカットインがあったほうがいいんじゃないですか?」と言い出したり(笑)。

――水野さんや中田さんも熱に当てられてしまったんですね……!

午後:いいチームですよね(笑)。ちなみに、メインスタッフでいちばん「岩倉アリア」のファンになってくれたのは中田なんです。すごく作品を愛してくれて、シナリオの「ここが良いんだ」みたいな部分を都度切り出して送ってくれたり。そういうことってそうないので、私も励まされましたし、本当に感謝しています。世界観表現の中核を担うメンバーの作品への関心や理解の深さあってこその「岩倉アリア」、みんなの愛と情熱で成り立った作品です。

「岩倉アリア」午後ねむる氏インタビュー【前編】(ネタバレほぼなし):百合・シスターフッドで彩られた物語が、なぜMAGES.から生まれたのか?の画像

深淵なるゲームのおもしろさを探求しながら「アイカツ!」シリーズや「プリキュア」シリーズ、「プリティーシリーズ」などの女児アニメの魅力を広める活動にも力を入れている。

X(旧Twitter):https://twitter.com/Kusare_gamer

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