8月21日~23日にわたって開催の「CEDEC2024」。ここでは、8月23日に行われたセッション「知る・創る・繋ぐ『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』で再構築した開発環境とサウンド制作事例」の内容をお届けする。

登壇者は任天堂より岡村祐一郎氏、長田潤也氏、日髙祥蔵氏。2023年5月に発売した「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下、「ティアキン」)の開発環境の技術と活用方法及びサウンドチームの開発フローの事例を紹介していった。
「ティアキン」では前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下、「ブレワイ」)と比べてゲーム内の要素が増加し、ウルトラハンドやスクラビルドなどのゲーム仕様によって要素間の結びつきが強くなり、複雑性が大幅に増加。その状況を乗り越えるべく、「ブレワイ」の経験を活かしながらランタイムシステムを刷新し、合わせて開発環境も再構築している。
本セッションでは、新しくなった開発環境を、「ゼルダの伝説」シリーズの開発スタイルやサウンドチームの事例などを交えながら紹介。ゲームの制作過程において後工程になりがちなセクションであっても、開発環境を上手く使ってコンテンツを作り上げた事例を取り上げていた。

仕様の複雑化によって新環境を開発することに
下図は左が前作の「ブレワイ」、右が「ティアキン」のボコブリンで、一見あまり違いはないように見えるが、実はバックグラウンドの開発環境はがらりと変わっている。


「ブレワイ」からそのままの開発環境で作れそうに思えるが、何故開発環境の再構築にいたったのだろうか。
例えば、「トワイライトプリンセス」に登場したブルブリンを例に挙げると、この頃はまだ少人数でこまわりが効く小規模な開発だったそう。しかし、「ブレワイ」の頃には開発規模が拡大。以前はひとりで担当していた部分を分業するような開発になったのだ。


リーダーを中心とした縦割り構造でのモノ作りも考えられたが、任天堂ではもっと全員がフラットにモノ作りをしたいという構想があった。


それはサウンドも同様で、サウンドは発注を受けてから制作をしているのではなく、遊びの手応えに関わるような部分にも積極的に関わっている。サウンドチームで特に重要と考えているのは情報収集。仕様書やドキュメントで情報収集するのも良いが、仕様書ではゲームの最新情報を知ることが難しいというデメリットもあったそう。



そこで、「ブレワイ」では仕様書をデータとして実装してしまうという試みが取られた。データドリブンにしたことで仕様書が少なくなり、一見「知る」ということから遠ざかったように見えるが、実際にはゲームの手触りや遊び心地を知れることから、「動く仕様書」と呼んでいるという。そして「ティアキン」では、その動く仕様書を拡大することになった。

ちなみに任天堂では統合型のツール群ではなく、独立型のツール群を使用している。このツール群の特徴は、アイディアが生まれやすいことや、新技術を簡単に試せること、個人のスキルアップにつながることなどが挙げられるそう。

一方、このツール群の構造を把握する必要があるため、フラットなモノ作りによってゲームを知ることが困難に。こうした仕様の複雑化もあり、「ブレワイ」をベースに「ティアキン」を作ることには拡張性がなかったため、新しい環境を作ることになったという。

「ツール間の連携が弱い」、「ゲームの構造がわからない」という議題を解決するため、共通基盤となるデータベースを用意したが、今度はそのデータベースをどこに置くかということが問題となった。
普通であればサーバーに置くのだが、そうすると下図のような問題が発生。


そこで発想を転換し、開発者ごとにデータベースを持つことに。このデータベースはローカルなことが特徴であるため「LocalDB」と名付けられ、各席のファイルが即座にデータベースに書き込まれ、ツールは手軽にファイルの情報を参照できるようになった。
だが、LocalDBならではの問題も無論ある。例えばサウンドデザイナーは3Dモデルのファイルは持っていない、アーティストはサウンドのファイルを持っていない……というようなことが起こる。そのため、改めてサーバー上に「GlobalDB」というデータベースを持つことで、ツール間の連携が弱いという問題は解決した。

けれど、まだ「ゲームの構造がわからない」という問題がある。LocalDBの中身は広大なので、データを切り取ってみるしかないのだ。


切り取る方法は、種類を選ぶ、絞り込む、つながりを辿る。そしてそれを可視化したものは「ProjectPortal」と名付けられた。

アクターを選ぶとデータを選んで自由に切り替えることができるのが特徴で、そのために膨大な数のタグが作られた。しかし、タグを正しくつけないとならず、膨大なデータひとつひとつに人の手でタグを付けていくことが限界であると感じた。そこで「クエリタグ」という機能を実装し、複雑な条件で検索を可能にした。



クエリタグによって、レベルデザインに必要な情報をまとめて参照することができるようになり、いつでもゲームの最新情報を知ることができるようになったのだ。



インタラクティブなサウンドの実現のために
「ティアキン」に限った話ではなく、サウンドセクションとは基本的に後工程になりがちなセクションである。サウンドはサウンドツールだけで完結しているセクションのように見えるが、後工程のためアーティストが入れた変更にしばらく気付かないことが多い。変更に気付いてから、慌てて音も変更するということが少なからずあるのだ。そこで、まずは変更があったら通知がくるような仕組みを作ったそう。

その後、イベントツールとサウンドツールを連携させ、実際にゲルドの街の防衛戦でのBGM遷移に関する説明が行われたほか、スクラビルドと武器を振った時のSEの重要性についても語られた。
サウンドにとっては、効率よくデータを作るためにも動く仕様書は信頼できる仕様書で、後工程でもデータを作り込むことのできる開発環境だった。信頼性の高いインフラがあったことで、スムーズに作業が進められたのだった。

CEDEC2024公式サイト
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