8月21日~23日にわたって開催の「CEDEC2024」。ここでは、8月22日に行われたセッション「『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで ~準備のために準備する~」の内容をお届けする。
登壇者は任天堂より、藤林秀麿氏と廣瀬賢一氏。本セッションでは、2023年5月に発売した「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下、「ティアキン」)の新しいアイデアを形にするまでのプロセスを紹介。
「ティアキン」ではスクラビルドという新しい遊びが作られた。このスクラビルドはどういう発想で生まれたのか、それを実現するためには何が問題だったのか、そしてどのように解決したのか。ゲームデザインとゲーム開発インフラというふたつのロールの観点からを中心にお届けする。
準備のための準備とは
そもそも「ティアキン」のスクラビルドは、どういうところから着想を得たのか、という点について、藤林氏は「ブレワイ」の時に鉄格子の向こうにあるスイッチを槍で突いて押す、というギミックから、スイッチをもっと奥に配置し、槍2本をつなげて突けたら面白いのではないか、また「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下、「ブレワイ」)に登場したオクタ風船などにも着想を得たそうだ。
面白いことが起きる仕組みを作る、それがスクラビルドで、後はくっつけた結果がどのような形になれば面白いのかを考えた時に行き当たったのが、「ゼルダ」とは推理、実行、結果を楽しむゲームであるということだった。
下図は、貴重な2Dで検証をしていた時の画面写真。剣に火を点けてそれで草むらを斬れば燃えるし、剣で丸太を切ったり、流れている丸太に乗ったりと、その工程が豊かであるほど楽しめるのが「ゼルダ」というタイトルだ。
推理と実行の幅を広げればもっと豊かな体験になると確信したそうだが、スクラビルドは見た目が機能を説明している必要があった。A+B=Cではなく、A+B=ABが目指すところだったのだ。
しかし、これには問題があった。各部門から「その膨大な組み合わせをどうするのか」というのがメインで、武器の効果や武器名、武器が出す音、いずれもあまりの物量に各部門から「無理」という空気が漂ったという。
そこで行ったのが、各セクションからあがっていた問題を分解して問題を検証するということ。まずは「2つ以上のくっつけはやらない」、「付く場所が自在になるのはやらない」、「名前をひとつひとつユニークにはやらない」という3つのやらないことを決め、最終的にはくっつけられる素材はひとつ、くっつくパターンは固定となり、それが「ゼルダ」のゲーム性である推理と実行に適していた。こういったルール作りにより、現場は「無理」という雰囲気から「行けそう!」に変わったそうだ。
とはいえ、それでもスクラビルドの組み合わせは12万通り。遊びの面白さは検証済みで、妥協して減らしたら面白くなくなってしまう。
そこでスクラビルドのチェックに使用されたのが、見やすく、絞り込み検索なども可能にした画像掲示板だった。画像掲示板では詳細画面から確認ができ、直接タスクが発行できる仕組みになっているという。ゲームで確認したい場合、掲示板から直接ゲーム機上の画面にいける仕組みにもなっており、スクラビルド済みの武器を装備したり、ゲーム内に必要なものをワンクリックで生成できる仕様になっている。これによって、12万通りのチェックは現実的なものとなったのだそうだ。
しかし、問題はチェックだけではなく、プランリスト、ウィッシュリストなど、何が是で何が非なのか、チーム全体として明確なビジョンを持つという“チーム文化の形成”も必要だった。
そこで登場したのが、ルピー掲示板。マイルプレイ中にリアルタイムで書き込みが可能な掲示板で、他のメンバーもあとから追記可能なコメント欄や、心境の変化があったときに書き込んだ内容を編集できる機能などを用意。さらに、投稿内容に同意した場合、「そうだね」ボタンを押すとルピーが一票投じられるというものだそう。
運用は「意見ではなく情報を書く」、「認識が変わったら追記」、「議論はやらないこと」の3つが主なルールで、これによりチーム文化の形成が進んだ。例えば、スクラビルドで発動までの手順が圧縮され、最初は5手だったものが、3手にまで縮んだそうだ。
そして開発インフラチームで行った、準備のための準備というのは、ゲーム開発を支えるサービスの提供だった。前述のルピー掲示板や画像掲示板といったものがそれに当たる。
他にもデータ収集分析の仕組みを作成。バグの内容を分析したいというエンジニアの要望に、良く起こるバグの一覧の分析結果を出力したところ、別の用途が様々産まれていったそうだ。
このように、スクラビルドを支えたサービスには様々なものがあったのだ。準備のための準備によって、スクラビルドは実現したと言えるのだった。
CEDEC2024公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2024/
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