東京eスポーツフェスタ実行委員会が1月10日から1月12日まで開催している「東京eスポーツフェスタ2025」。その初日となる1月10日のビジネスDAYにて実施された、ACCSパネルディスカッション「ゲーム業界における知的財産権の重要性について」をレポートする。
今回の講演では、例えばどういった二次創作が差し止められてしまうのか、どういった事例で法的措置が取られてきたのかなど、各社が実際にあった事例をもとに著作権や特許、商標をどのように活用したのかを紹介した。登壇者は以下の通りとなっている。
登壇者
久保田裕 コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS) 専務理事【モデレーター】
奥山幹樹 カプコン 法務・資産管理統括 知的財産部 部長)
西浦光二 任天堂 知的財産部 担当部長代理/弁理士
西村智稔 コーエーテクモホールディングス 常務執行役員・管理本部副本部長 法務担当
桝本菊夫 セガ 上席執行役員 コーポレートデベロップメント統括本部長
村瀬俊介 コナミデジタルエンタテインメント 法務部・知的財産部 部長
不愉快だとの声が多い表現からユーザーやクリエイターを守るための措置
最初の話題は「著作権に関する事例と取り組み(対ユーザー)」となった。ここでは、一般のユーザーによる著作権侵害の対策やゲーム実況のガイドラインの整備など、私たちが普段ゲームを遊ぶ際に起こりうる事例やファンの二次創作への対応が明かされた。
コーエーテクモホールディングスの西村氏は、まず自社ではIPによって厳しかったり緩かったりする場合があるものの、同人誌などの二次創作を否定していないと前置きした。
その一方で過去には厳しい対応も。2017年には「DEAD OR ALIVE」シリーズの同人誌を販売停止させたほか、「アトリエ」シリーズのタイトルにおいてメイングラフィックが発表されただけで制作された同人誌も販売を差し止めたことや、pixivなどにアップロードされたイラストなどをいくつか削除した事例を紹介。
自社の作品が好きで、例えば「和服姿が見たいけれどゲーム内には存在していないから描いた」みたいなものは削除したことがないとのことで、そういった二次創作まで削除したことはないし、これからもすることは無いとも。そういった健全な二次創作活動には、感謝している部分があるとも話してくれた。
削除されてしまうものは、アダルトな表現をなされたものとのこと。自分の好きなキャラクターのそういった姿を見るのが嫌だというファンの声はかなり大きいのだとか。
また、自社のクリエイターたちが作品のキャラクターたちを大事に育てた娘のように考えていることも大きく、大切なキャラクターたちが不愉快な改変をされたものは厳しい対処をせざるをえないそうだ。
カプコンの奥山氏からは、自社の動画投稿ガイドラインの紹介があった。本来ならゲーム動画の無断配信は著作権侵害になるのだが、個人で作成した動画についてはYouTubeやTwitchへの投稿が可能。広告収入や投げ銭を通して収益化もできるようにしているとのこと。
ただしネタバレや発売前コンテンツ、不正な情報開示は禁止。ゲームのキャラクターボイスや画像、音楽、ムービーのみの投稿、公式大会やイベントの映像転載、公序良俗に反するコンテンツ、誹謗中傷、政治活動、宗教活動なども禁止になっているそうだ。
カプコン以外にもガイドラインを公開している会社があるので、動画投稿やゲーム配信を行う際は必ずチェックしてから挑戦するといいだろう。
続いて「著作権に関する事例と取り組み(対同業者等)」について語っていくことに。セガの桝本氏は、ACCSの活動もあって悪質な事例はほとんど無くなってきているとコメント。また、ゲーム業界は真似し真似されることが発展してきたことから、参考にするのは問題ないとも語った。
ただ、その真似し真似される事例が許容範囲を超えるケースは増えてきているそうだ。例えば著名なキャラクターに酷似したキャラクターが他社で用いられたりした場合、警告を行ってキャラクターのビジュアルを変更してもらうケースがあったそうだ。
また、著作権侵害されたソフトを動かすためのツールに対する取り組みを、任天堂の西浦氏が語る場面もあった。マジコンに関する事例を思い出す人が多いと思うが、まさにその事例を元に海賊版への対応に触れた。
マジコン訴訟は経済産業省の不正競争防止法テキストにおいて、技術的制限手段無効化装置等の提供行為の事例として紹介されている模様。最終的には50社以上のメーカーが原告に加わり、ゲーム業界全体の声としてマジコンは違法という判決を勝ち取ることができたのだとか。また、これはゲーム業界の健全な発展に必要な判決だったとの自信も露わに。
エミュレーターに関してはただちに違法とは言えないものの、模倣しているゲームやゲーム機のプログラムを複製している場合は著作権侵害にあたる場合があるそうだ。また、エミュレーターでコピーされたゲームを動かす際に、例えば暗号化などのセキュリティを無効化する機能を持っているとマジコンと同様に不正競争防止法違反になる。
他には、エミュレーター自体が海賊版サイトへのリンクを持っており、リンクを辿っていくことで海賊版ソフトがダウンロード可能になっていたりする場合は、リーチアプリとして著作権法違反になるとも。
Nintendo Switchでもいくつかエミュレーターが流通していたそうだが、先述したセキュリティを無効化する機能を持っていたことから、アメリカなどを含む海外で訴訟や警告を行ったパターンが既にあることにも言及した。
著作権で守り切れないところを特許や商標でカバー
著作権以外にも商標権や特許権など「著作権以外の知的財産権に関する事例と取り組み」についてが話題に。ゲーム会社は知的財産権を時間やコストをかけて創出していることから、無許諾で利用されたり権利侵害を放置してしまうと、正しく契約して利用許諾を受けている人たちが損をしてしまうことから、こちらも厳しい対応が必要なのだそう。
コナミデジタルエンタテインメントの村瀬氏は、現在のゲーム業界では制作における開発費が高騰していることを紹介。小規模タイトルと大規模タイトルの二極化が進んでおり、大規模タイトルの開発費は二桁億円、三桁億円をゆうに超えるケースが存在することを明かした。
その開発中に生まれた技術や仕組みの特許や商標を取ることで、現在では特許や商標を開発費の回収する手段として活用しているのだとか。また、こういった特許や商標が守られないと新しい技術や面白いゲームが生まれなくなることから、ユーザーの楽しみを守るためにも違法行為は放置しない方針を取っている側面がある模様。
カプコンの奥山氏も、自社が最先端技術に多額の投資を行っていることや、eスポーツなどの周辺ビジネスと連携強化することでブランド価値の向上に務めていることを紹介。そのためにも知的財産の保護を積極的に行っていると話した。
ゲームのアイディアそのものは著作権で保護できないので、特許を含めた知財ミックスを狙って特許権や商標を積極的に出願していることも判明。例としてコロプラとのクロスライセンスの試みを挙げ、他社の特許を借り自社の特許を貸すことで面白いゲームを生み出す試みがあることも明かされた。
続いてセガの桝本氏は、獲得した特許は排他的に独占するのではなく、適正な対価を支払うことで利用してもらうことを基本方針にしているとコメント。ちゃんと交渉の上で利用する分には問題ないそうだが、交渉してもどうにもならなかった場合はやむを得ず訴訟することがあるそうだ。
任天堂の西浦氏からは、特許や商標を活用して対応した訴訟事例の紹介があった。「スプラトゥーン」ではそっくりながらもゲーム名称が異なるものが海外のアプリサイトで登場したそうだが、登録商標の侵害にはあたらないもののキャラクターなどのグラフィック部分がまったく同じだったため著作権侵害で対応したとのこと。
「スプラトゥーン」と同じゲームシステムながらキャラクターがロボットになっているものも現れたそうだが、著作権侵害での対応が難しかったため、「スプラトゥーン」のゲームの仕組みに関する特許権で対応したそうだ。
他にはNintendo SwitchのJoy-Conの模倣品についての事例も。意匠登録を行っているので類似デザインのものはそちらで対応したものがあったそう。
しかし、デザインを変えて意匠登録に引っ掛からないようになっていたものについては、Joy-Conを接続する際に本体と接続される仕組みの機構をカバーする特許を活用して特許権侵害品として一網打尽にできたのだとか。
まとめとして、各社が「ゲーム業界の発展のために」知的財産権を活用することについて言及。各社共に知的財産の保護活用、そしてルールを理解し守りながらゲームを楽しむことが業界を守ることに繋がることを訴えた。
今回の講演によって、どのような事例が権利侵害にあたるのか明らかになったのではないだろうか。コピー品や海賊版を購入することは巡り巡って自分が不利益を被る事態になってしまうので、誤ってそういったアイテムに手を出さないよう気を付けたい。
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