墓場文庫が手がけ、集英社ゲームズが2024年2月13日に発売したPS5/Nintendo Switch/PC(Steam)用ソフト「都市伝説解体センター」のレビューをお届けする。

「都市伝説解体センター」をクリアした。
本作は「和階堂真」シリーズで知られているディベロッパー・墓場文庫が開発し、集英社ゲームズが販売するホラーミステリーADVだ。巷に広がる都市伝説を調査する「都市伝説解体センター」で働くことになってしまった福来(ふくらい)あざみは、センター長である廻屋渉(めぐるやあゆむ)の指示を受けて、怪異を解体していく……というストーリーである。
非常によく練り込まれたシナリオを、テンポの良いチャプター形式に分けて提供している点は素晴らしく、誰もが楽しめるミステリーADVになっている。反面、会話にインタラクションする際のテンポ感や、SNSの描き方については気になる点もあった。それぞれ細かく見ていこう。

改めて、本作は都市伝説を取り扱ったホラーミステリーADVである。「流行り神」や「パラノマサイト」を彷彿とさせるようなオカルト×ミステリーの味付けだが、本作はそれら先行作品よりも現代劇であることを重視している。
基本的なゲームループはシンプルで、調査員である主人公の女子大生・福来あざみと、運転手のジャスミンこと止木休美(とまりぎやすみ)が、何らかの事件やいわくつきのイベントを調査しに行く。その過程で「SNS調査」というパートが挟まり、行く先で起きている事件についての世間の評判を調べておくのだ。

現場に着いてからは2D画面を行き来する調査パートとなり、その場所で何が起きているのかについて調べることとなる。ある程度情報が集まった段階でセンター長と通話をし、いったい何の都市伝説が関係しているのかを「特定」する。特定が済んだ後はまた調査に戻り、証拠が集まってきた段階でもう一度通話をして、都市伝説とその事件を「解体」することになるのだ。
この「SNS調査」「特定」「解体」という3つのパートがユニークであり、本作を象徴するものである。SNS調査については後述するが、特定と解体はとても面白いものだった。
特定も解体も簡単なクイズとなっており、調査で得た情報を整理することが求められる。正解すると、センター長が「今回の事件がどの都市伝説に該当するのか」を語ってくれて、事件の輪郭が少しずつ見えていく。クイズの難易度は低く、面倒なやり直しがない点もグッドだ。

続いて、解体は事件の解明編に当たるパートだ。こちらは京極夏彦の「百鬼夜行」シリーズにおける“憑き物落とし”に似たもので、摩訶不思議なことばかり起きているように見える事件が、どのようにして人為的に引き起こされたのかを整理するパートである。
解体が始まると、センター長が「天眼錠(アイ・オープナー)」という巨大な鍵をバックに、独特なポーズを取って見栄を切る様が外連味たっぷりでとてもかっこいい。筆者が中学生ならきっと毎日真似していたことだろう。

解体に限らず、本作はゲーム全体を通して独自の世界観を確保できている。人間たちが落ち着いた色合いのドット絵で描かれているなかで、怪異が真っ赤なシルエットで登場するところも上手いし、BGMやSEもちゃんとそれぞれの場面に溶け込んでいる。味方陣営のキャラクターたちも個性的で、きっと推しが見つかることだろう。
肝心のミステリー部分についてだが、こちらもミステリーファンが十分に満足できる出来になっている。

単体の話自体はオチが読めるものも多く、ほどほどの密度で終わるので、精緻なトリックや二転三転するプロットを求める人は味気ないと思うかもしれないが、全体に関わる大プロットはよくできており、何度も驚かされた。
特にクライマックスはプロットのツイストがふんだんに用意されているうえに、気合の入ったドット絵のCGを何枚も見せつけられ、心を動かされること間違いなしである。小さな矛盾や駆け足なシーンがないことはないが、大した問題ではないだろう。

全体を通して、ミステリーファンにもADVファンにも開かれた良作という評価ではあるが、気になる点もいくつかあった。
まず、歩行速度とテキスト表示速度、そして会話のインタラクションの問題である。
本作の調査パートでは2D画面を左右に動き回って会話をしたり物を調べたりすることで進行していくのだが、これがなかなか遅い。基本的には総当たりしていけば進行する程度には簡単なので、詰まるうえに足も遅くて腹が立つ……というほどではなかったが、それならいっそ走ることができても良かったのでは? と思った。同じ理由で、会話テキストの表示も遅いように感じたので、こちらも変更できるオプションが欲しいところだ。

また、会話や物の調査に関しても、まず福来あざみが一言喋ってから話しかける選択肢を選ぶという流れを踏むので、テンポが悪くなっている。彼女のパーソナリティはストーリー中でも十分に感じることができるので、大したことのないセリフなら間引いてしまってもよいのではないだろうか。

そして、本作でもっとも議論が分かれるであろう点が「SNS調査」である。
そもそも本作は現代を舞台にした社会派ミステリーであり、ストーリー上で起きるすべての事件が、SNSや配信カルチャーなどを軸にしている(主題歌の歌詞もその点を意識している)。
現代人がネット上でのみ正義面して、社会悪とされている者をなんとなく叩く風潮は本当に厳しく、見るのもつらいところがあるが、本作はそれがいかに良くないことであるか、いかにして個人はそういう問題と向き合うべきなのか? といったテーマを持った作品だ。

ゆえに、ゲーム中で行うSNS調査で、何度も何度もそんな書き込みを見ることになる。
最終的にストーリー上で回収されるうえに、都市伝説の伝播と社会派ミステリーの融合として無くてはならないパートだったと言われればその通りなのだが、そうはいっても見ていられないほど辛く、愉快なものではなかった。
イヤミスなどを始め、一部のフィクションは現実を必要以上に露悪的に描くことで、我々の日々の振る舞いを正してくれる劇薬としての効果があるのは重々承知だが……SNS調査のパートについては(ゲームとしてはただの総当たりであることも含め)もっと見せ方があったのではないかと思ってしまった。

とはいえ、本作が都市伝説という手垢のついた題材を扱いながら、現代社会を鋭くえぐった力作のミステリーであったことは間違いない。SNSで嫌な思いをした人にこそ遊んでほしい……とまでは言えないが、現代のネット文化に違和感を覚えている人や、単にオカルトミステリーが大好きであるという人は絶対にチェックしてみてほしいタイトルであった。
(C)Hakababunko / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
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