アニプレックスが2025年4月24日に発売する「HUNDRED LINE -最終防衛学園-」。同作を企画したトゥーキョーゲームスの小高和剛氏、打越鋼太郎氏へのインタビューをお届けする。

「HUNDRED LINE -最終防衛学園-(以下、HUNDRED LINE)」は、「ダンガンロンパ」シリーズの小高和剛氏と「極限脱出」シリーズの打越鋼太郎氏がディレクション&シナリオを手掛けるADVだ。人類に仇なす正体不明の敵から、最終防衛学園を100日間守り抜く若者たちを描くゲームとなっている。
発売に先駆けて、本作のキーマンである2人にインタビューを実施。本作の開発経緯から制作中のさまざまなエピソード、ゲームの気になる要素などを伺った。
※8日目以降のゲーム内容に関するネタバレがありますのでご注意ください。
――小高さんと打越さん、そして開発のメディア・ビジョンの座組はどういった経緯で決まっていったのでしょうか?
小高:トゥーキョーゲームスとして2017年に独立したときに、打越とふたりの共同作品を作らないと意味がないよねという話はしていて、当時もそういう動きはあったものの無くなってしまいました。その時のプロジェクトに少し関わってくれていたのがメディア・ビジョンさんでした。
「HUNDRED LINE」は2020年頃から始まったプロジェクトですが、最初からシミュレーションRPGでやると決めていて、それならやはりメディア・ビジョンさんは相性がいいだろうということで、改めてお声がけしました。
15人の学生が外敵と戦うというテーマがあり、その際に戦場に15人全員が出て、同時に戦ってほしいという考えがあり、アクションゲームだと1人ずつになってしまうので、それを実現させるためにはシミュレーションRPGというゲーム性しかないだろうと。

――本作はお二方がディレクションとシナリオを担当されたということですが、どのような配分で創作と監修をされましたか? また、共同制作するにあたってどのような苦労や工夫がありましたか?
打越:本作はエンディングが100個あるんですが、小高が全体のディレクションとメインシナリオを担当して、僕は残り99個のエンディングについて分岐を考えたり、プロットを考えたりと取りまとめていきました。
もちろん全部のプロットを考えたわけではなく、ライターに指示を出したり、足りないところは自分で書いたりとか……。基本的には僕が関わる前に小高がプロジェクトを先行していたので、それをベースにして残りのシナリオを分担していきました。
小高:ライターがボクと打越以外に9人いたのですが、自分のメインルートが終わった後に全く手つかずのルートがあったりしたので、そういうところは自分でやらざるを得なくなったりはしましたね。
――エンディングが100個とはものすごいですね……。どういった具合で分岐するのでしょうか?
小高:ここはプレイしてみてのお楽しみとしてとっておいて欲しいのですが、プレイしてみたらわかると思います。意地悪な分岐にはなっていないです。

――おふたりのキャリアとしては珍しくシミュレーションRPGのパートが存在しますが、アドベンチャーとシミュレーションRPGを同じゲームに入れるにあたって気をつけた点について教えてください。
小高:アクションゲームなどのジャンルよりは、アドベンチャーとシミュレーションRPGの食い合わせは良かったと思います。よりパズルっぽく、思考力で楽しめるようなゲームの方向にしていきたいと考えていました。
その上で、シミュレーションRPGは基本的にちまちましたことが多いので、なるべくそういう細かいのはやめようということで、一度の攻撃で複数マスに攻撃できるとか、とにかく派手なシミュレーションRPGを作ってほしいというオーダーをしました。
言わば「無双」シリーズのような手触りのあるシミュレーションRPGにしたかったんです。シミュレーションRPGのバトルの最後の方って殲滅戦になりがちですが、逆転が起こりやすいシステムにしたかったのと、たくさんの敵を攻め込んでくるのを一気に倒すというのをゲーム体験として入れたかったんです。
――体験版の時点でも引き込まれるような仕掛けや、伏線が盛り込まれていました。このような先が気になるテキストや展開を作る秘訣について、差し支えない範囲で教えていただけますか。
小高:バトルもので、敵が何日に攻めてくるというのをまず設定して、そこに至るまでに二転三転する、毎日同じようなことが起きないでほしいと思っていたので、とにかくイベントをたくさん考えました。それを全体的にバランスよく散りばめていって、止め時がないようにしていき、読み直した時にそうなっていなかったらそういう展開になるように調整したり、そういうところは常に意識していました。
打越:秘訣はちょっとわからないのでどう作ったかという話になりますが、自分の癖がどうやっても出てしまうので、基本的には他の作品とやっていることは変わらないですね。ただ、今回は小高が作った世界の中で、キャラクターや世界観を活かしてどうやって面白くしていくかというのをメインに考えていました。

――今回もかなりパロディギャグや下ネタが見られ、緊張感を緩和する程よいアクセントになっていました。これらの点については主に小高さんが書かれているのでしょうか。
小高:そうですね。ただ、体験版のところでは正直下ネタはゼロだと思っていたんですけど、配信後にユーザーから今回も下ネタがあるというところを言われて。そこは無意識でしたし、今回はちょっと抑えめにしていました。
打越:それは半分嘘ですね(笑)。最初は本当にえげつない下ネタがあったんですが、女性スタッフにあまりにもひどすぎるって言われて、小高が自主的に直したという感じでした。
ただ、その時点ではほかのライターもシナリオを書き始めてしまっていたんで、小高が先に書いていた内容がベースになってしまい、逆に小高のほうよりも他のルートの方がえげつないことになってしまっているかもしれないです。
小高:実際に下ネタを入れるのは落差を意識してるんですよ。緊張感がある時にふざけたギャグを入れるというのは、ブラックジョーク的に面白いなと。

――今回も個性的なキャラクターが目白押しですが、キャラクターを考える時にアイデア源となるものは何でしょうか?
小高:全員が主人公として書き切れるだけのポテンシャルがあるかどうかを意識しています。エンディングが100個あるので、それぞれに目立つキャラクターが違っていて、全員が主人公であってもおかしくないという作りになっていると思います。
あとは、小松崎類(※本作のキャラクターデザイン)に僕が作った設定でデザインしてもらった際、思っていたものと違うのが仕上がってきたら、逆にそれを取り入れていて、そういったところもキャラクターを作るという意味では元になっています。

――おふたりが一番好きなキャラクターを教えてください。
打越:雫原比留子ですね。顔と、あと声優さん(※CVは井上麻里奈さん)が好きです。
小高:素人みたい……浅いですよ(笑)。
打越:僕はMなので、踏まれたいな〜と思いながら書いていました(笑)。

小高:自分は全員好きなんですけど、SIREIはオリジナルのポジションをユーザーに示してくれるキャラクターだと思います。今までのモノクマや死に神ちゃんとはまた違うマスコット像が確立できたと思います。
「HUNDRED LINE」らしさでいうと、川奈つばさも僕の今までの作品にはいなかったタイプで、かなり一般人に近い感覚がある女の子です。
あとは飴宮怠美もですね。ここまでデスゲームやりたいと言えるのは「HUNDRED LINE」だからこそのキャラクターというのもあるので、思い入れがあります。デザインがポップで可愛いので、ファンアートもたくさん描いていただいてますね。

――開発中に起きたアクシデントや、忘れられない出来事があれば教えてください。
小高:本作は立ち上がりが特殊で、最初はトゥーキョーゲームスだけで1年くらい作って、そのあとにメディア・ビジョンさんに入ってもらって半年くらい作っていました。
僕らはシミュレーションRPGを作ったこともないですし、100エンドという物量ですので、いきなり企画書を作ってパブリッシャーさんに持っていっても通らないだろうとは分かっていましたが、そういう狂ったところがないとオリジナルIPとしては戦えないという思いがあったのと、思いついたからにはやりたいというのがあったので、僕らの資金で動き出してしまいました。
そこからアニプレックスさんと組むまでの間がすごくドキドキでしたね。やっぱりお金がどんどん減っていくし、止まったらもうおしまいなのでいかにお金がなくなるまでにパブリッシャーさんを見つけるかみたいな、チキンレースになってしまって。僕らだけで動いている時期はまだ良かったんですけど、メディア・ビジョンさんやムービーを制作いただいたジェットスタジオさんに動いてもらっていた頃が一番ドキドキしていました(笑)。

――お二方が最近気になったコンテンツや、開発中に参考にした先行作品などはありますでしょうか?
小高:開発中に参考にしたのは「Into the Breach」です。これに影響されて、シミュレーションRPGのパートは詰め将棋にしたいなと思ったんですよね。
ビジュアルは「Othercide」を真似しました。スタイリッシュでかっこいいんです。
最近気になっているのは、インディーのADVですね。「都市伝説解体センター」「Until Then」「未解決事件は終わらせないといけないから」とか、ああいった作品を少しずつ遊んでます。
特に「未解決事件は終わらせないといけないから」は、システムが新しいなと感じました。あのシステムで東野圭吾がシナリオを書いたらとんでもないものができるのではないかと思いましたよ。
「Until Then」は「ライフ イズ ストレンジ」の初期を思い起こさせる雰囲気が好きでしたね。異国情緒も感じられました。
打越:参考にしたのは、僕は「Fate/Grand Order」ですかね。あれってシナリオがたくさんあるじゃないですか。それなのに、ゲームもシナリオも両方評価されてるところが凄いなと思って、意識していました。
最近触れているコンテンツですと、ゲームよりは映画ですね。「侍タイムスリッパー」は映画作りをしている人には刺さるのかもしれませんが、自分はそうでもなかったかなと。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦」はめちゃくちゃ面白かったですね。あと「ミッキー17」も観たけど、僕は面白かったなーと思ったのに、レビューが低くて納得行かなかったんですよね。その辺が僕のニッチさなのかな(笑)。

――打越さんは「伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル」、小高さんは「トライブナイン」と開発期間が被っているように思えるのですが、それらのスケジューリングはいかにしてこなしていらっしゃったのでしょうか?
打越:「伊達鍵は眠らない - From AI:ソムニウムファイル」については僕はシナリオ監修という立ち位置なのですが、100%スタッフを信じて任せた結果、本当に素晴らしい作品にしてもらったという感じです。そうした点もあり、作業量としてはこちらの比重が大きいですね。
小高:「トライブナイン」はキャラクターデザインとサウンドの作業は続いているんですけど、僕は世界観設定として参加していたので、作業量自体は少なかったですね。長く作っていたので、繁忙期もズレていました。あと、トゥーキョーゲームスは今年発売の新作も控えているのですが、こっちも忙しいタイミングがズレていたので良かったです。
しかし「HUNDRED LINE」は自分たちでお金を出しているので、とにかく他所の仕事もやって資金を稼ぐ必要があり、ずっと自転車操業でしたね……。
――今作は「最終防衛学園」という設定で、学校生活がモチーフとなっていますが、このフレーバーはどういったところから来た発想なのでしょうか?
小高:僕と小松崎には「ダンガンロンパ」という代表作がありますが、「ダンガンロンパ」を足枷と考えず、ああだからこうしないといけない……なんてのも全部無視して、自分たちが一番やりたいもの、一番得意なこと、一番表現したいものを突き詰めていくと、学生たちが正体不明の敵に襲われて守る、というシチュエーションがワクワクするなというのがスタートになりました。
僕は学生とか若い人の成長していく様を描くのが好きなんです。序盤ではこんなやつだったのが、後半にはこうなっていく……という変化を一番描きやすいんですよね。自分たちのオリジナルIPだとしたら、やはりそこで勝負したいというところが強かったです。
――今回の座組が次回以降も実現するとしたら、次はどんな作品を制作したいでしょうか?
打越:ゲームではないですが、メディアミックスはしたいですね。アニメ化や実写化したらめちゃくちゃ面白くなりそうな内容なので、いつかやりたいなと。
小高:同じ座組でやるとしたら、またシナリオが膨大にあるということだと思うので、そうなると、1のエンディングが100個なら次は200個、15人にさらに15人を追加して30人で200日……のようなインフレが思い浮かびました。作ってるところを想像すると吐きそうになりますが……(笑)。

エンディングの個数、下ネタの加減など、トゥーキョーゲームスらしいぶっ飛んだ内容で、彼らのクリエイティブの凄さに舌を巻いた。スタジオを火の車にしてまで作り上げた新作に期待しよう。
(C)Aniplex, TooKyo Games
※画面は開発中のものです。
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