7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。ここでは、23日に行われたセッション「『プラグマタ』における髪・表情表現の開発事例」のレポートをお届けする。

登壇者は、リードキャラクターアーティストの入江健二氏と、リードフェイシャルアニメーターの小原芹菜氏。

完全新作SFアクションアドベンチャーゲーム「プラグマタ」は、発売からわずか2週間で200万本を売り上げる大ヒットを記録した。本作の美麗な世界を支えるのが、カプコン独自のRE ENGINEである。
本稿では、この最先端エンジンを用いてヒロイン・ディアナの表情と髪の毛がいかにして作られたのか、その緻密なワークフローと直面した課題について要点をまとめたレポートをお届けする。
演技の精査と、命を吹き込む表情表現「ディアナらしさ」を追求
前半では、リードフェイシャルアニメーターの小原氏により、表情制作のアプローチが語られた。目標はキャラクターを生き生きと見せ、プレイヤーをゲームの世界へ没入させることである。
ディアナというキャラクターの指針は「好奇心旺盛で無邪気な子供らしさ」と定義されたが、チームが徹底したのは「常に可愛いキャラクター」ではなく「ディアナらしくて可愛い表情」を作ることだったという。
可愛さを全面的に押し出すと、表情が単調になりキャラクターの個性が薄れてしまうためである。そのため、演技内容の厳密な精査が行われたとのことだ。

例えばいわゆる「困り眉」や「唇を噛む仕草」は、多用しすぎると可愛く見せるための過剰な演出として受け取られやすくなる。したがって、これらはディアナ自身が本当に悩んでいたり、感情を抑え込もうとしている場面にのみ限定して使用するという緻密な調整が行われたそうだ。


これらの表情を生み出す技術的基盤として、心理学の手法を応用したFACS(Facial Action Coding System)ベースのフェイシャルリグが採用された。これにより、Maya上でジョイント、ブレンドシェイプ、テクスチャブレンドの全要素をリアルタイムに変化させながら直感的にアニメーションを制作することが可能になったという。

実際の収録では、俳優の頭部に専用カメラを装着し、英語のアフレコと同時に顔の演技が収録されている。この動画をFaceWareという分析ソフトでトラッキングし、Maya用データへ変換するそうだ。

この工程では、効率化のために「ROM(Range of Motion)」と呼ばれる約50種類の表情を登録した可動域データベースが作成された。このデータベースによって、常に眉毛を上げて話すといった俳優の演技の癖をオフセット値として吸収し、キャラクター本来の表情の幅を損なわない精度の高い変換を実現したことが語られた。

変換直後のデータにはノイズが含まれるため、アニメーターによる手作業での細やかな編集が施されるとのこと。単純に顔の形状に合わせるのではなく、感情のニュアンスの再現を最重視し、体の演技と合わせた際の目線の修正やまばたきの追加が丹念に行われたという。

最終的なルックの調整はRE ENGINE上で行われる。開発初期に発生した「笑顔になるとほうれい線が出過ぎて老け込む」という問題に対しては、リグのポーズ調整で対応。眼球に光が入らず「死んだ目」になる課題には、常時表示される疑似ハイライト機能を実装することで解決を図ったと語った。


ボブカット変更の危機を乗り越えたストランドヘアの表現力
後半では、リードキャラクターモデラーの入江氏により、ディアナのトレードマークであるロングヘアの表現について解説された。

従来、衣服を含めたリアルな揺れの再現が必要なロングヘアは難易度が高かったが、本作では髪を一本単位からレンダリングするストランドという最新技術が導入された。

板状ポリゴンを用いる従来のヘアカードでは、可動箇所が22箇所程度にとどまっていたが、ストランドヘアでは約43万箇所以上が動作し、ディアナの動きに合わせて髪が自然に曲がる美麗な動きが実現されている。

しかし、この技術の導入には見た目の品質や処理負荷の高さから社内で賛否両論が巻き起こったそうだ。開発中盤には、カットシーンにおいて全ての髪の毛を破綻なく動かすための調整コストが膨大であったため、ディアナの髪型をボブカットに変更する案が真剣に議論されたほどだったという。
それでも、キャラクター性を表現するためにロングヘアのデザインは重要と判断され、チームは3つの大きな壁に立ち向かったことなどが語られた。
RE ENGINEによる光の計算
さらに、RE ENGINE上でのルック開発では、キューティクルにあたるラフネスの調整や、髪の毛全体のボリュームを考慮した光の散乱計算が行われ、ヘアカードでは表現しきれないリアルな量感が付与された。
色は頭皮から毛先までの微細なグラデーションがテクスチャで定義されている。キープしたいヘアスタイルの特徴を自動検出する機能を活用し、形状を保ちながらも美しくキャラクターの動きに追従するシミュレーションが完成したという。
入江氏はセッションの終盤、ストランドヘアを「キャラクターの魅力をブーストさせる沼注意な新技術」と総括。圧倒的な品質の裏には新たな課題が次々と発生するため、導入価値を見極めることが重要だと語られた。
しかし、その泥沼のような困難を乗り越えて実装されたワンランク上の表現が、確実にディアナというキャラクターをより魅力的な存在へと昇華させたと言える。開発チーム全員の執念とも言えるトライアンドエラーの連続が、「プラグマタ」の生命感あふれる世界を力強く支えていることが証明されたセッションであった。

本セッションは8月4日10時までCEDEC2026公式サイトにてタイムシフト配信が行われるので、詳細が気になった方は、こちらもぜひチェックしてほしい。
CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/
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