7月22日~24日にかけて、パシフィコ横浜 ノースにて開催のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2026」。本稿では24日に行われた講演「20年続く長寿タイトルが、15年目にして売上を伸ばせた理由」のレポートをお届けする。
今回の講演で取り上げられた「20年続く長寿タイトル」とは、グリーが開発・運営するペット育成ゲーム「踊り子クリノッペ」(以下、「クリノッペ」)のことだ。本作は2007年7月10日にガラケー用のアプリゲームとしてサービス開始。スマートフォンの普及にも対応しながら運営は続き、今月19周年を迎えて20年目に突入している。

ゲームをプレイしていなくとも「キャラクターは見たことがある」という人は多いのではないだろうか?
そんな「クリノッペ」だが、実はここ5年で売上がV字回復しているという。本講演に登壇した倉又澄氏、春日千晶氏、松本夏海氏の3名は、それより前に「クリノッペ」の売上が減少し続けていたころ、対策を講じるべくグリーの他作品のチームから合流してきたスタッフなのだ。

3人が当時「クリノッペ」の状況を把握したとき、以下の“5つの違和感”があったという。
(1)……分析数値がない運営
(2)……王道を外したデザイン
(3)……類似アイテムの飽和
(4)……埋もれる目玉アイテム
(5)……計画性のない戦略

この記事では、これらのうち(1)と(2)を解消するために行われた“アートの「言語化」と「数値化」”に焦点を当てて、レポートしていく。
腹を括って「イベントのモチーフを数値化する」プロジェクトが発足
まず、「クリノッペ」はマスコットキャラクターのお世話や着せ替えを楽しむゲームである。期間限定イベントで手に入るのは“着せ替えアイテム”であるため、バトル系のゲームと違いスキルや攻撃力などの指標はなく、「アイテムのデザインの良し悪しがそのまま売上に直結」するのだ。

売上低迷期には、イベントのモチーフや実施タイミングなども含め「長年の勘や経験に頼って運営」されており、各イベントの結果に対して振り返って分析されることもなかったのだという。
あるとき、春に行われた桜をモチーフにしたイベントが好調だったことから、「“和”のモチーフがいま熱いのではないか?」と考え、秋にまた「季節×和」のイベントを実施してみたが、結果は惨敗。これもまた、詳細な分析を行わず「個人の経験則や感性に依存」した運営に限界を感じた出来事だったようだ。



そんな中、チームメンバーから「イベントのモチーフの“強さ”を数値化できればいいのに」と言われて、ハッとさせられる出来事があった。もしも、モチーフを詳細に数値化できれば、“デザインの良し悪し”という曖昧なものではなく、デザイナー以外も含めたチーム全員で共有できる新しい指標になる。15年にわたる運営で前例がなく、考えるべきことは山程あったが、腹を括って「モチーフを数値化する」プロジェクトが発足した。
そして生まれたのが“モチーフ係数”という概念。各イベントのモチーフが持つ“力”を、時期や施策などのノイズを除去した上で数値化したものであり、この係数が高いほど売上が見込めるイベントになるという。

係数を算出するための表を見てみると、ベーステーマ、メイン動物、カラー、その他と、モチーフを構成する要素が細分化されており、それぞれに異なる“重み付け”が成されていることが分かる。
そもそも運営系のタイトルである「クリノッペ」は「月初めに高い売上が見込め、下旬にかけて下がっていく」傾向にあった。モチーフ係数により各イベントの売上の見通しが立ちやすくなれば、係数が高くて良い売上が見込めるイベントを月初に配置してその売上を最大化し、月末にかけて売上確度は下がるものの、新しいアイデアを試してみる“チャレンジテーマ”のイベントを配置するといった戦略も立てやすくなるのだ。

これで、チーム全員でモチーフの“強弱”を共有できるようになる。ひとつの月に強力なテーマを投入しすぎてもバランスが悪くなるため、一部のテーマをほかの月に温存するといった判断もしやすくなったと考えて良さそうだ。
人気モチーフでも、それが伝わらなければ意味がない
そんなモチーフ係数を、どのように形成していったのだろう? まず、過去に実施済みのイベントに対して、売上を中心としたデータから実績による係数を出した。なお、イベントの実施日数が異なると比較が難しいので、その差分を埋める必要がある点には注意が必要だ。

そして、それら実施済みイベントからモチーフの“要素”を分解する。イベントを係数順に並べ、“上位に来るモチーフ”と“下位に来るモチーフ”の共通点や傾向を細かく観察した結果、「クリノッペ」ではイベントの「ベーステーマ(とその明瞭性)・色・動物」の影響が大きいことが分かったという(今回は“動物”に関する分析は割愛)。
この中で“色”だけに絞ってソートしてみると、紫が最も係数が高く、薄い色やカラフルなどは係数が低いことが分かった。なお、これには黄色いクリノッペと補色(色相環で反対に位置する組み合わせのこと)の関係になるため寒色系の人気が高い、などの要因がある可能性があり、ほかのタイトルにもそのまま当てはまるわけではないことには注意が必要とのことだ。


また、同じ紫でも「濃い紫」のほうが「薄い紫」よりも係数が高い傾向も分かった。これにより「強い色と強いトーンの組み合わせなら手堅くヒットする」、「弱い色でも強いトーンでチャレンジしてみる」などの判断を、ベーステーマとの相性を踏まえて下すことも可能だという。
色と同様に、「桜」「クリスマス」「シンデレラ」「かぐや姫」「ウエスタン」など、大きくモチーフの下地となる“ベーステーマ”にも係数を当てはめていった。こちらは、「押し花」「コスメ」「ナイトプール」など、分かりづらかったり、「クリノッペ」のターゲットに合っていなさそうなモチーフは係数が低いという結果になった。
テーマ自体の分かりやすさはもちろん、“パッと見でテーマが分かる”ように“分かりやすく作る”ことが大切と考え、そのためのポイントを「明瞭性」という言葉で説明。明瞭性が低いことによる過去の失敗例として「はらっぱレース」というイベントが挙がった。

イベントバナーには黒髪の女性が居るが、なにをイメージしているのか分からない。開催当時から居るスタッフに確認してみると、なんと人気の定番モチーフであるはずの“白雪姫”なのだという。つまり、人気モチーフでも、それが伝わらなければ意味がない。みんなが知っているテーマをちゃんと伝わるように分かりやすく作る、そのための指標が明瞭性であり、係数の算出時に“明瞭性”の項目も加えられることになる。
これらを踏まえて、評価した数値を検証・チューニングすることで、最終的なモチーフ係数が割り出されていった。「このゲームの場合、色よりもベーステーマの影響が大きいのでは?」など、現場の実態に近づくよう重み付けのバランスを調整していったのだ。

過去のイベントをここまで分析し尽くしてはじめて、これからリリースするイベントにも適用し、事前評価が可能なモチーフ係数が完成した。
モチーフ係数を用いて、春と秋の「和」イベントの差を改めて振り返る
モチーフ係数が完成したことにより、イベント開催前に売上予想が立てられるようになった「クリノッペ」チーム。精度の高い売上予測が出来れば「予算に届いていないので事前施策を打ちましょう」といった建設的な議論もできるようになったという。

また、これによって過去に感覚で「和」モチーフのイベントを実施したときに惨敗した理由も改めて詳細に分析できるようになった。好調だった春の“桜イベント”は、季節テーマの中でも人気の「桜」や、動物の中でも人気の「狐」が使われており、イベントのメインカラーも係数が高い「濃いめの紫・ピンク」。「夜桜」だとすぐ分かるので“明瞭性”も高い。
一方の失敗に終わった秋の「和」イベントは、テーマの明瞭性は決して低くないものの、人気が低い「鹿」や「すずめ」が使われており、さらに黄色や橙色はクリノッペの背景として考えたときに視認性が悪く、このゲームとの相性も良くないという結果。そもそも季節テーマにおいて「秋」は総じてあまり人気が高くないということも分かり、“桜イベント”とはモチーフ係数に大きな差が生まれていたことが分かった。


“はらっぱレース”と素直に人気のモチーフを前面に押し出した“森の中の白雪姫”によるイベントの比較でも、その差は歴然だった。これにより、「不思議の国のアリス」をモチーフにしたイベントを作るにしても、モチーフ係数によってヒットの再現性が高まり、「どんなアリスを作るか?」など、ヒットを再現するための議論が出来るようになったという。

もちろん、世の中にはトレンドの移り変わりがあり、この変化にたいして係数のアップデートも重要だという。低い係数を見込んでいたチャレンジテーマが大ヒットした場合、今後は“強テーマ”として扱ったほうが良い。リリース後にしっかり「結果=実績」を振り返り、ズレを調整することで、チーム全体で認識のアップデートが可能になるのだ。

ほかにも、20年目を迎える「クリノッペ」では、人気だったテーマのイベントを複数回実施してきたことにより、類似アイテムが飽和し、マンネリで飽きられるといった問題や、ガラケー時代から続いた運営により、ユーザーインターフェースが現状に合っておらず、「目玉アイテムが埋もれてしまう」などの問題も抱えていたという。
これらの問題にどういった策を講じたかについては、ぜひ実際の講演を8月4日10時まで行われているタイムシフト配信でチェックして確かめてほしい。

運営が長く続くと、「習慣に従うことに無意識のうちに安心感を覚え、文化を変えることへの恐怖、いままで通りでいられることの心地よさから世間の感覚とのズレを見て見ぬふりしてしまう」可能性がある。この事実から目を逸らさず策を講じることの大切さが「クリノッペ」チームでの5年間で学んだことであるとし、講演は締めくくられた。
CEDEC2026公式サイト
https://cedec.cesa.or.jp/2026/
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