12月12日、さまざまなかたちでエンタテインメント業界に携わってきたメディアコンテンツ研究家・黒川文雄氏主催によるトークイベント「エンタテインメントの未来を考える会」の第4回となる「黒川塾(四)」が開催された。

目次
  1. 「LINE」のヒットから見える現状のスマートフォンゲーム
  2. 「パズル&ドラゴンズ」が成功するに至ったガンホーのゲーム作りへの理念
  3. Wii Uの魅力やコンテンツの多角展開についても語られる

本トークイベントは、黒川氏が音楽、映画、ゲーム、ネット、ITなど、すべてのエンタテインメントの原点を見つめなおし、来るべき未来へのエンタテインメントのあるべき姿をポジティブに考えるという主旨のもと、毎回異なるゲスト・テーマで過去3回実施されている。

(左から)黒川文雄氏、佐藤和也氏、土本学氏、目黒輔氏
(左から)黒川文雄氏、佐藤和也氏、土本学氏、目黒輔氏

今回は、ゲーム・エンタメ系メディアの編集長らを呼び、2012年のコンテンツを振り返りつつ、2012年度の「エンタテインメントの未来を考える大賞」を決めるというテーマのもと実施。ゲストとして、エンターブレイン ファミ通App編集長の目黒輔(たすく)氏、イード Gamebusiness.jp編集長の土本学氏、朝日インタラクティブ Cnet Japan編集記者で元GameSpot Japan編集長の佐藤和也氏が登壇した。

さまざまな議論が繰り広げられた2時間弱のトークイベントだったが、そこで話題の中心となったのは、ゲーム・エンタメ業界における今年の下半期の象徴ともいえる「LINE」「パズル&ドラゴンズ」の2つだ。

「LINE」のヒットから見える現状のスマートフォンゲーム

先日配信されたばかりにも関わらず、1000万ダウンロードという驚異的な数字を残す「LINE POP」を実際にプレイしており、マスコットキャラクター「ブラウン」も好きだという土本氏は、ゆるさのあるキャラクターが「LINE」のひとつの魅力であると分析。

そして、「Angry Birds」など、海外のキャラクターが人気を獲得している現状を踏まえつつも、日本もまだまだいけると感じたそうだ。

また、目黒氏は、「LINE」がこれだけのユーザーを獲得していることについて、特定の文字を入れなくても会話が成立するスタンプが大きな発明だったと語り、新しいコミュニケーションのかたちであると述べていた。

そして、つい先日、「LINE POP」をはじめとする「LINE GAME」という新たなゲームプラットフォームが誕生したわけだが、今までソーシャルゲームプラットフォームを展開してきたMobage、GREEとの比較や今後についても言及された。

黒川氏は、今までのMobageとGREEはバーチャルなグラフ(ソーシャルメディアにおける、インターネット上のみの関係)であったが、端末に登録されている友人との繋がりがベースとなるLINEはリアルなグラフ(ソーシャルメディアにおける、知人関係に基づく関係)であると両者を比較。

GREEやMobage上で配信されているゲームのような、対戦時に他人と戦うあとくされのないバーチャルなもののよさもある一方、LINE POPの1000万ダウンロードにも表れているように、リアルなものの利点もある。そうした相互の利点を踏まえた上で、今後、ゲームコンテンツにLINEをどう落とし込んでいくかに注目していると語った。

スマートフォン向けのネイティブアプリも増えたGREE、Mobageは、現在、App StoreとGoogle Playというアプリマーケットでのダウンロードにも関わらず、GREEおよびMobageのプラットフォーム上で提供されるという2重構造になっている。その点について、土本氏は「プラットフォームonプラットフォームはない」と述べた上で、グリーとディー・エヌ・エーは今後、ゲームパブリッシャーになろうとしているのではないかという見解を述べた。

「パズル&ドラゴンズ」が成功するに至ったガンホーのゲーム作りへの理念

各社がスマートフォン向けのリッチなゲームアプリを展開する中、今年一番のヒット作と言えば、現在もApp Store、Google Playともにトップセールスを持続し、ダウンロード数は400万を超える(※12月14日時点で500万DLを突破)ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)の「パズル&ドラゴンズ」だろう。

iPhone、Androidなどのスマートフォンアプリを扱い、「パズル&ドラゴンズ」に関しては書籍も刊行している目黒氏は、本作について、家庭用メーカーのよさである作りこみの鋭さ、アナレッジを活かしたタイトルであるという。それを如実に表しているのが、パズルとRPGの2つを同一のフィールドに落としこんだことであり、成長要素をスマートフォンに最適化するための方法として成功しているとの見解を示した。

また、今年の大賞を決める際に、「パズル&ドラゴンズ」だけにとどまらず、「クレイジータワー」「ケリ姫クエスト」といった、全てにおいてオリジナリティ・面白さを追求しているガンホーの理念を高く評価。

黒川氏は、その姿勢を裏付けるエピソードとして、ガンホーの代表取締役社長 森下一喜氏をゲストに迎えた「黒川塾(三)」の際、半年間研究開発していたプロジェクトをひとつ凍結させたという話を披露、「いいものを作るための妥協がない」と感じたことを受け、「パズル&ドラゴンズ」ならびにガンホーが大賞を受賞する運びとなった。

Wii Uの魅力やコンテンツの多角展開についても語られる

そのほか、各論者ならではの切り口から展開した議論もいくつかあったが、ここでは、その中から筆者が特に興味深く感じた2点を紹介しよう。

“任天堂信者”を自認する土本氏は、Wii Uについて、ゲーム機としてはまだまだとしながらも、その設計思想に注目。従来の据え置きハードでは、テレビを使ってゲームをプレイするしかなかったが、Wii UではGamePadを使って、テレビを見ながらゲームをプレイできることからリビング上で共存し、リビングでのエンタテインメントの中心になるようなデバイスになるのではと期待を寄せる。

また、大きな画面で触りたいというニーズがありつつも、解像度が上がると触りづらいし、情報量も多くなるので難しいという観点から、GamePadのタッチパネルで操作し、それがテレビの画面上に反映されるという使い方が面白いと語っていた。

アーケード版「アイドルマスター」からの“プロデューサー”(「アイドルマスター」シリーズのファンの呼称。ゲーム内のプレイヤーの立ち位置から)であるという佐藤氏は、「アイドルマスター シンデレラガールズ」をひとつの例に、キャラクターを通したモバイルコンテンツの横展開の必要性を語った。

グリーがグリーエンターテインメントプロダクツを設立し、グリーの人気コンテンツ「探検ドリランド」のアニメ化やグッズ展開、KONAMIが「戦国コレクション」を女性武将たちが現在にタイムスリップするというゲームとは異なる展開でアニメ化するなど、IPを用いたゲームとは異なる一手は、今年モバイルコンテンツにおいても増加している。

その中でも「アイドルマスター シンデレラガールズ」は、「アイドルマスター」という既存のIPを活かしつつも、新たなIPを創出することで成功した例といえる。そのひとつが、CD展開であると佐藤氏は語る。

その理由として、「アイドルマスター」はもともと歌によって支えられてきたコンテンツであり、ゲームの供給タイトル数は多くなくとも、CDを出すことで定期的に話題を提供してきたタイトルだったこと、当時はトレンドではなかったソーシャルゲームでのキャラクターボイスの実装について、CDでキャラクターにボイスをつけることでファンのニーズに応えたことの2点を挙げていた。

結果として、同日発売された第1弾シングル5枚が、オリコンの週間シングルチャートですべてTOP10に入るという、史上初の快挙を成し遂げるまでにいたった。

それらの例をもとに、佐藤氏はゲームの中で完結させるだけでなく、外に広げて認知させることでエンタテインメントとしての生き残りがあるとし、長く時間をかける気概でコンテンツを育ててほしいと語った。

また、登壇者すべての見解として、欧米、アジアなどを含めた海外市場への展開の必要性、個人でもゲームが作れるスマートフォン市場を例にインディースでも面白いゲーム、新しい才能が出てきてほしいなど、近い将来への展望も語られるなど、議論のつきないトークイベントとなった。

※メーカー発表情報を基に掲載しています。掲載画像には、開発中のものが含まれている場合があります。

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