百合ゲームの魅力を伝えるインタビュー連載企画。最終回は6月27日に発売される「じんるいのみなさまへ」を取り上げる。
全4回でお届けした百合ゲーム特集も今回で最終回。ラストは日本一ソフトウェアより2019年6月27日にPS4/Nintendo Switchで発売される「じんるいのみなさまへ」を取り上げる。プロデューサーの菅沼元(すがぬま げん)氏に百合に対する思いやサバイバルをはじめとしたゲームシステムについて詳しくお聞きした。
「じんるいのみなさまへ」とは?
荒廃した秋葉原を舞台に、女の子たちがゆるいサバイバル生活を送るアドベンチャーゲーム。フィールドを探索してアイテムを拾ったり収穫した食材を使って料理を作ったりしながら仲間たちとともに自給自足の暮らしを行っていく。
ゲームにはなかった日常系の百合を目指して
――まず企画の経緯についてお聞かせください。荒廃した秋葉原を舞台にしたことや百合を題材にした理由を教えてください。
菅沼:ゲームに限らず無人島やジャングルでサバイバルをするものは多いですが、都会を舞台にしたものは少ないので秋葉原を舞台にしました。秋葉原である理由はゲームやアニメの聖地なのでユーザーさんにも馴染み深いと思ったことと、開発のアクワイアさんが秋葉原が舞台のゲームをたくさん作っているので、そのノウハウでリアルな世界を構築してくれると思ったからですね。それに秋葉原であれば、無人島などと違ってハサミのような工具が残骸として残っていても違和感がないかなと思いました。そして百合が題材の理由ですが……それは自分が大好きだからです!
――なるほど。その情熱はいちばん大事ですね。
菅沼:自分が好きな日常系やゆるふわ系と言われるジャンルの百合は、アニメやコミックには多いのですが、ゲームでは少ないんです。そのため自分で作ってみようと思いました。
――なるほど。サバイバルが題材の本作ですが、公式ツイッターで鬱ゲーではないと断言されていますね。
\『#じんるいのみなさまへ』いただいた質問に答えます!/
じんるいのみなさまへ 公式アカウント (@minasamae_) 2019年5月8日
鬱ゲーですか?(直球)
A.鬱ゲーではないです。(直球返し)一滴たりとも鬱々とした内容は入っていない(はず)です。
菅沼:はい。ただ弊社が過去に発売したタイトルはホラーも多かったので信じてもらえないんですよね……。本作に関しては安心してプレイしてもらいたいです!
――ストーリーの内容と見どころをお聞かせください。
菅沼:旅行に来た主人公の榛東京椛(しんとうきょうか)が泊まっていたホテルで目覚めて外に出ると、目の前に荒廃した秋葉原の土地が広がっていた……というところから物語は始まります。秋葉原には常備されているカップラーメン以外の食べ物が無いため、サバイバルで生活のレベルを向上させていくのが当面の目標になります。後半では「なぜ秋葉原が滅んでしまっているのか?」という謎も明かされていくことになります。
――世界が滅びた理由を詳しく解説しない作品も多いですが、本作ではきちんと明らかになるんですね。
菅沼:もともとゲームは困難を乗り越える達成感が醍醐味なので、ゆるふわ系の世界観と相性が悪かったりします。そのため、本作は荒廃した土地でのサバイバルという内容にしました。そして、そういった舞台を用意した以上はきちんと種明かしが必要だと思いました。
――世界観の謎も見どころになっていくと。では続いてキャラクターについてお聞かせください。まずは主人公の京椛から。
菅沼:彼女は明るく元気なムードメーカーで、誰とでも親しくなることができる女の子です。少しアホっぽいところもあり、物語が暗くならないようにする役目も持っていますね。あとはアニメ好きの一面もあります。
――勇魚はいかがでしょうか?
菅沼:勇魚はお母さんポジションの女の子で、ネガティブというほどではないですが、メンバーのなかではいちばん悩んだりするタイプです。料理をはじめ得意なことは多いですが、その性格から周囲に引っ張ってもらうことが多いです。
――お母さんポジションなのに引っ張ってもらう側なんですね。
菅沼:そうですね。みんなを包み込んでいるようで、じつはみんなに包み込まれる……というイメージです。
――続いては永里那について。
菅沼:彼女はボケもツッコミもできるオールマイティなキャラクターです。みんなを引っ掻き回すタイプの女の子で、京椛とは違った意味でのムードメーカーとなります。あと、彼女はゲーマーなので世界がこんな状況でもスマートフォンゲームのログインボーナスを気にしたりしています。
――和海についてもお聞かせください。
菅沼:彼女は見た目通りの元気キャラです。蜂の巣を取るような危険なことなど、体を動かすことは彼女が率先して行います。また、物語の中で畑仕事を始めることになりますが、それも和海が担当します。意外と理系なのでその点にも注目してもらいたいですね。
――幽々子はどうでしょうか?
菅沼:幽々子はクォーターの女の子です。知識欲が高く、雑多な知識をたくさん持っているので、仲間たちの司令塔として活躍します。そのため、開発陣からは裏の主人公と呼ばれています。
――最後にCyxaЯ(すはーや)について。彼女はDLCのキャラクターなんですね。
菅沼:はい。ロシア出身のハーフですが、飛び級で日本の大学に入学した頭のいい女の子です。2周目から登場するキャラクターで、彼女がいると食べれないと思ったものが食べれることが判明したりと、1周目では出来なかったことがたくさん出来るようになります。
――5人のキャラクターのバックボーンなどは物語を進めていくなかで明らかになっていくのでしょうか。
菅沼:そうですね。あとはステータスのプロフィール欄に出身地や好きなものなどが書かれているのでチェックしていただければと。
――ヒロインはそれぞれサバイバルで得意なことが変わってくるのでしょうか?
菅沼:そうですね。そこまで大きくは変わらないですが、アイテムの採取にかかる時間などが変わってきます。
――キャラクターたちの百合シーンはどのようにすると見ることができるのでしょうか?
菅沼:作った側としてもイベントはすべて見てもらいたいと思っているので、メインシナリオを進めれば一通りの百合シーンは見れるようになっています。
ただ、百合と言っても本作ではキャラクターたちを恋人のようには描いていません。勇魚がお母さんポジションだったり永里那が妹ポジションだったりと、家族のような関係で絆が描かれていきます。
――ゲームの根幹となるサバイバルについてもお聞かせください。どんどん文明的になっていくということですが、具体的にはどんな料理が作れるようになっていくのでしょうか?
菅沼:素材さえ集めればマカロンのような凝ったお菓子も作れるようになります。また、動物を捕まえることで肉料理も作れますが、リアルに捌いたりするシーンはないので、そこは安心してください(笑)。
――血抜きシーンとかあってもユーザーは嫌ですよね(笑)。
菅沼:リアリティを出すため、またぎ料理の知識などはテキストで表示されますが絵としては入れていません。また、各料理の説明にはあまり知られていないトリビアが書かれていますが、これはディレクターの趣味ですね。百合とは関係ないですが、楽しんでいただければと。
――作るのが難しい料理を作るとどのようなメリットがあるのでしょうか?
菅沼:魚釣りや素材収集などの時間が短くなり、アイテム収集効率が上がります。
――料理以外にもできることはあるのでしょうか?
菅沼:道具を作ることで探索の幅が広がります。たとえばハサミとマジックハンドを組み合わせて高枝切り鋏を作れば、高いところにある蔦を採取できたりするようになります。また、アイテムの作成がメインストーリーを進める条件になっていることもありますね。
――家族のような関係が描かれるということですが、百合が好きな人にはどんなところに注目してもらいたいですか?
菅沼:キャラクターの関係性ですね。後半になるほど如実に濃密な関係になっていくので注目してもらいたいです。
――逆に百合を知らない人が本作をプレイしても大丈夫なのでしょうか?
菅沼:はい! むしろそういう人にプレイしてもらいたくて本作を作りました。日常系の百合作品というのは百合として楽しんでいる人もいれば、百合と知らずに楽しんでいる人もいると思うんです。本作でも百合を知らない人がプレイしても楽しめる作品になっていると思います。そして本作を導入にしていろいろな百合に触れてもらえると嬉しいです。そうして百合のゲームが盛り上がって、今後新しい作品が登場してくれることを期待しています。
――今後も本作の続編や別の百合作品を手掛けてみたいですか?
菅沼:そうですね。本作を作るにあたって会社にも百合の魅力を伝えたので、今後もしっかり続けていきたいです。
――百合ゲームを出すにあたって社内を説得するのは大変でしたか?
菅沼:そうですね。とくに上の世代は百合という言葉も知らなかったので、最初から説明する必要がありました。市場のデータを用意して、「今、これだけ百合というジャンルがきている」ということを説明したりもしましたが、最終的には熱意で押し切る形でしたね。アニメやコミックはすでに百合が大きい市場になっていますが、ゲームはこれからなので、その点の説得がカギでした。
キャラクターに感情移入しないから純粋に楽しめる
――百合全体についてもお聞かせください。菅沼さんが百合にハマったきっかけは?
菅沼:昔、自分はキャラクターに共感ができなくて物語にも没入できない時期がありました。そのときに日常系の百合アニメに出会って、「この自分とまったく関係ない世界観ならキャラクターに共感しないでいいんだ」ということに気付いたんです。そこから物語を純粋に楽しむことができる百合というものにハマッていきました。
――菅沼さまが最初にハマッた百合作品と最近ハマッている百合作品をお聞かせください。
菅沼:気付いたら百合にハマッていたので最初に好きになった作品をあげるのは難しいですね。「けいおん!」が好きでしたが、それも百合として楽しんでいたわけではないですしね。「美少女戦士セーラームーン」も好きだったので、昔から素質はあったのだと思います(笑)。最近の作品では百合姫で連載している「徒然日和」にハマッています。ゆるふわ系なんですが、意外な展開が突如として挟まれたりするため、油断していると急所を撃たれてしまうんです(笑)。あとは「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」ですね。大きな盛り上がりを見せる作品で、これは裾野を広げると思いました。
――注目している百合ゲームはありますか?
菅沼:「クダンノフォークロア」です! 弊社でも「流行り神」という都市伝説のゲームを出しているので「やられた~!」と思いました(苦笑)。先に都市伝説と百合を組み合わせたゲームをやられてしまったことはクリエイターとして悔しいですが、いちユーザーとして楽しませてもらおうと思います(笑)。
――今後、百合のゲームはどうなると思いますか?
菅沼:百合というジャンルはアニメやコミックでは盛り上がっていますが、ゲームはこれからのジャンルだと思っています。TVゲームはアニメやソーシャルゲームなどの無料で楽しめるものと違ってキラーコンテンツが生まれづらいジャンルです。そのため、みんなで盛り上げていく必要がありますし、自分の活動がそのひとつになってくれれば嬉しいです。
――最後に「じんるいのみなさまへ」を楽しみにしているユーザーさんにひとことお願いします。
菅沼:私自身、本作を何度もプレイしていますが、ニヤニヤできるところは何度プレイしてもニヤニヤできる内容になっているので、百合好きの人なら満足できる内容になっていると思います。また、最近、百合系の日常がなくて難民になっているみなさんはもちろん、これまで百合に触れてこなかった人もぜひ本作を手にとってみてほしいです。