「鬼滅の刃」に登場する無限城の3DCGを制作して話題になった“スーパー小学生”悠人くん。その出来事に端を発して実現した、サイバーコネクトツー見学会の模様を取材した。
目次
2020年5月、ネットを震撼させた、下記のツイートを知っている人も多いのではないだろうか。
小学校休校中の息子がyoutubeのblender講座を見ながらほぼ独学で作った無限城です
— DecoponMAGI (@XenoXss) May 13, 2020
鬼滅の絵を描きたいけど背景が大変なので3Dで作ろうと思ったとのことですが、むしろ背景の方が凄くなってしまったのでは… #鬼滅の刃 pic.twitter.com/W4eZfJftqs
「鬼滅の刃」の大ファンで、無限城の3DCGを独学で作り上げたという、“スーパー小学生”悠人くん。悠人くんの父であるDecoponMAGI(@XenoXss)さんによるこのツイートは、なんと12万リツイートを超え、いいねの数は約48万にもおよぶ(※2020年8月時点)。
そして2021年発売予定の家庭用ゲーム「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」(メーカー:アニプレックス)を開発中のサイバーコネクトツー(以下、CC2)代表取締役社長である松山洋氏は、このツイートを見て「採用したい小学生」と呟いていた。
採用したい小学生。 https://t.co/kyoRC8llea
— 松山洋@チェイサーゲーム (@PIROSHI_CC2) May 13, 2020
偶然なのだが、DecoponMAGIさん夫妻と筆者は長年家族ぐるみの付き合いがあり、もちろんこのCGの作成者である悠人くんとも、何度も顔を合わせている。そしてこれまた偶然で、筆者は以前、松山氏と共に仕事をしたことがあった。
ならば……と、松山氏にこれらの話を告げたところ、「ぜひ悠人くんを、CC2の東京スタジオに連れてきてほしい」という打診があった。
――と、すごく真面目に経緯を書いたが、つまるところ
友人「松山社長が、うちの子のことをほめてくれていた!」
筆者「見たよ、ぴろし社長(松山社長のあだ名)に紹介するね」
友人「!?」
筆者「社長、例のスーパー小学生、私の友人のお子さんなんですけれど、連れていっていいですか?」
松山社長「マジで!? 夏休みとかでいいから連れてきて!」
筆者「見学会の模様を記事化したいんで、担当編集も同行していいですか?」
松山社長「大歓迎!」
――という、たったこれだけのことである。
そんなわけで悠人くんに便乗した形となったが、我々も普段なかなか知ることのないゲームの作り方などはもちろんのこと、ゲーム業界を目指すために必要な勉強なども詳しく伺えた見学会の模様を、お届けする。
サイバーコネクトツーはどんな会社?
CC2は、福岡に本社を構えるゲーム開発会社。福岡以外に、東京とカナダ・モントリオールにも開発スタジオがある。従業員は2020年8月現在で約250名。福岡本社に180名ほど、東京スタジオに45名ほどの従業員が働いている。
ゲーム会社は大きくわけてパブリッシャーとデベロッパーに分かれており、パブリッシャーとはゲームタイトルを企画し、宣伝広報や販売、リリースを中心に行っている企業のことを指し、バンダイナムコエンターテインメント、カプコン、スクウェア・エニックス、セガなど、全世界で200社ほど。
一方、デベロッパーはゲームの開発を中心に行っており、パブリッシャーが企画を立ち上げてデベロッパーに製作を依頼するケースと、デベロッパーが企画から立ち上げてパブリッシャーに持ち込む場合もあり、CC2、モノリスソフト、プラチナゲームズなど、デベロッパーの数は全世界で1000社以上にも及ぶという。
CC2は「テイルコンチェルト」、「.hack」シリーズ、「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン」、「ドラゴンボールZ KAKAROT」など世界中に多数のファンを持つ作品を開発。前述の通り、2021年に発売を予定している「鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚」の開発も手掛けている。
代表取締役社長の松山洋氏は、ゲームクリエイターを目指す学生への育成にも熱心で、会社見学会やインターンシップも積極的に実施している。
松山氏自らが案内したCC2社内見学会の模様をお届け!
東京・大井町にあるCC2の東京スタジオに悠人くんとともに到着するやいなや、松山氏による案内のもと、見学会がスタートした。
まずは会社の窓口となる受付。ゲーム会社の多くはファンが訪れることは出来ないが、CC2は受付までならば誰でも訪れることが可能。来社記念スタンプ台が設置され、ノートにメッセージを書き込むこともできる。
次は、総務や経理といった事務職と同じ部屋にある、松山氏の社長室ならぬ社長コーナー。部屋の一角に、松山氏専用スペースを少し広めに取っている、といった風だ。福岡に本社があるとはいえ、ほぼ一社員と変わらないようなスペースに身を置いている松山氏からは、良い意味で社長らしさを感じない。
社長コーナーには、仕切りすらもない。スペースには、松山氏が原作を務めるゲーム業界漫画 「チェイサーゲーム」のポスターやCC2で作成したゲームが飾られている他、棚にはゲーム機などが充実。 「いつもここでゲームをしている」という、松山氏。 |
スタッフの休憩用コーナーには、大量の漫画雑誌や情報誌。CC2では、月60冊以上の情報誌・技術誌・漫画雑誌を定期購読しているそう。なかでも松山氏の週刊少年ジャンプ愛読者ぶりは有名で、社員全員に週刊少年ジャンプだけは必ず毎週読むことを義務付けているそうだが、週刊少年ジャンプ以外の漫画雑誌も充実している。
次に訪れた大部屋は、福岡本社とのミーティングや社内コンペなど様々な用途で使用するが、この部屋でモーションキャプチャーを行うこともあり、そのための設備も整っているとのこと。
ちなみに松山氏曰く、モーションキャプチャーの大半は、実は社員が行っているのだそう。
そしてこの大部屋には、松山氏自慢のライブラリが。アニメをはじめ、洋画や邦画の名作も充実。コミックスなども他の棚にずらりと並んでおり、その数は映画やアニメのBlu-ray&DVDで約9,000本、漫画約5,000冊、ゲームソフト2,100本にも及び、社員はこのライブラリからいつでも好きな作品をレンタルすることが可能。「クリエイターは様々なコンテンツに触れるべき」という松山氏らしさが、このライブラリからも伺える。
大部屋を抜けて、いよいよ一行は開発室へ。
驚いたのは、見学に訪れた我々が席の横を通るたびに、スタッフが「こんにちは」とあいさつをしてくれることだ。ちなみにこれも松山氏のポリシーで、「仕事の基本は“あいさつ”」、「あいさつひとつでコミュニケーションが円滑になる」という方針のもと、日頃から社員にはあいさつを徹底させているとのこと。
実際、それまで緊張気味だった悠人くんも、「こんにちは」と声に出してスタッフの方々に挨拶をすることで、大分緊張が解れたようだった。
あの無限城を作っただけあって、コンピュータグラフィックス(CG)の分野に特に興味があるという悠人くんは、CGを扱うスタッフを見かけると一気にテンションがアップ。
熱心にスタッフの作業に見入る悠人くんに「CG制作は主にMaya(3DCG制作ソフト)を使っている」と松山氏が説明すると、悠人くんも「早くMayaを使ってみたい」と語った。
なお、Mayaには学生向けの無償版があるのだが、対象が中学生からのため、現在小学校6年生の悠人くんはまだMayaを使えないという事実を、松山氏すらこの時まで知らなかった。
キャラクターが腕の角度を真横に開いた状態の3DCG――いわゆる“Tポーズ”のモデリングが作られていく様や、3Dキャラクターが実際に動くところ、UI用のアイコンのイラストなどが、次々と丁寧な作業で作り込まれていくのを目の当たりにして悠人くんは目を輝かせていたが、その横で実は筆者らもそれらの画面を食い入るように見つめていた。
筆者のような素人にはわからないレベルで緻密な作業が進み、けれど過程を追うごとに綺麗になっていく画像。目の前で仕上げられていくグラフィックに筆者らも言葉を失い、感嘆の溜息しか零れなかった。
CGの開発現場をしばらく見学したあとは、松山氏が原作を務める漫画「チェイサーゲーム」の制作現場へ。「チェイサーゲーム」は、松山氏が称する“サラリーマン漫画家”プロジェクトのひとつだ。
“サラリーマン漫画家”とは、「CC2の正社員として給与をもらいながら会社に出社をして漫画を描く」というもの。
多くの場合、漫画家は“フリーランス(個人事業主)”となり、アシスタントなどの経費も自分でやりくりし、確定申告といった作業も自分で行わなければならないが、“サラリーマン漫画家”はアシスタントの手配や漫画を描くのに必要な機材なども全てCC2側で用意、アシスタントへの給与もCC2が支払ってくれる。福利厚生もバッチリ整い、所得税といった税金関係も全て給与から差し引かれているので、わずらわしい毎年の確定申告も不要。ただしCC2の社員である以上、出社は必須だ(在宅は不可)。
現在は新規の漫画家募集は行っていないが、この新しい漫画家の在り方に興味がある人は、今後の募集情報をマメにチェックするようにしてほしい。
原作:松山洋、漫画:松島幸太朗(敬称略)による、リアルなゲーム業界を描いた漫画「チェイサーゲーム」。 CC2に勤める3Dアニメクリエイターである主人公を中心に描かれる物語は、 ゲーム業界各所から「リアルすぎる」と話題沸騰。 ゲーム業界を目指す人はもちろんのこと、現在ゲーム業界にいる人たちにも読んでほしい作品。 |
ゲーム制作に関わる人たち必見!
社内見学のあとは、松山氏から実際にゲームに関わる様々な職種が紹介された。
職種はざっくりわけると、「ゲームデザイナー(プランナー)」、「アーティスト(グラフィックデザイナー)」、「プログラマー」、「サウンド」、「その他」の5種類。
ここからは、更に踏み込んだ細かい業務内容を紹介していこう。また、各業種の実際の使用ツールなども併記しているので、参考にしてほしい。
ゲームデザイナー系職種
ゲームデザイナー(新卒募集)
主にどのような遊びにするかを考える、企画書や仕様書の作成などを担当する職種。使用ツールは主に、Excel、Unreal Engine 4の重要度が高く、他はAdobe Photoshopなども使用。
レベルデザイナー(新卒募集)
ゲームを面白くする仕掛けの仕様を担当したり、バランスよく筋道をたてる職種。使用ツールは、Excel、Unreal Engine 4、Adobe Photoshop、そしてAutodesk 3ds MAX。Autodesk 3ds MAXは簡単な操作がわかるくらいの程度で良い。
シナリオライター
シナリオを作成したり、アフレコ台本を作る。使用するツールは、Excel、Word、Unreal Engine 4、Adobe Photoshop、Skype。Excelは表計算ソフトだが、Excelでシナリオを組んでいくことは多いという。また、同様にWordも使いこなせる必要がある。Unreal Engine 4やSkypeは重要度低め。
ディレクター
ゲーム制作現場の総監督であり、チーム全体の指揮を執る。上記に登場した全てのツールを、それなりに使いこなせる技量が必要となる。また、基本的にはゲームデザイナーやレベルデザイナーを経験した上で、ディレクターに就くことが多い。
アーティスト系職種(グラフィックデザイナー)
コンセプトアーティスト
いわゆるキャラクターデザインなどを制作。社内のイラストレーターを使うこともあるが、外注でプロのイラストレーターなどに依頼することが多い。
CC2では「NARUTO-ナルト-」や「ジョジョの奇妙な冒険」、「ドラゴンボールZ」、「鬼滅の刃」などいわゆる“版権もの”と呼ばれるタイトルも多いので、そういったタイトルではもちろん原作のキャラクターを使用することになる。
キャラクターモデラー(新卒募集)
キャラクターや武器などのモデルを制作。使用ツールはかなり多く、重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Autodesk 3ds MAX、Autodesk Maya、Simplygon、Unreal Engine 4。これら以外にもSubstance Painter、Substance Designer、Substance B2M3、Substance Database 2.0、Zbrush、Adobe Illustrator、Crazybumpなど、様々なソフトを使用する。
背景モデラー(新卒募集)
背景や設置物などのモデルを作る。使用ツールで重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Autodesk 3ds MAX、Substance Painter、Zbrush、Unreal Engine 4。Autodesk Maya、Simplygon、Substance Designer、Substance B2M3などの知識も欲しい。
キャラクターアニメーター(新卒募集)
キャラクターや物などに動きを付ける。使用ツールで重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Autodesk 3ds MAX、Autodesk Maya、Unreal Engine 4。Adobe Illustrator、Adobe Premiere Pro、Adobe After Effects、CLIP STUDIO PAINT EX、ペイントツールSAIなどは、重要度は高くないものの、たまに触れることがあるので簡単な操作くらいはできたほうが望ましい。
インターフェイスデザイナー(新卒募集)
画像や文字などのインターフェイスを作成する。使用ツールで重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Unreal Engine 4。Adobe Animate CC、CLIP STUDIO PAINT EXなども比較的良く使用する。Adobe Illustrator、Adobe Animate CCもある程度使用できたほうが良い。アーティスト系職種の中では、比較的使用ツールが少ない職種だ。
ビジュアルエフェクツアーティスト(新卒募集)
爆発、水、風など、画面効果を作成する。使用ツールは最も多岐に渡り、重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Autodesk 3ds MAX、Adobe After Effects、FumeFX、Rayfire、Unreal Engine 4。
上記以外にも、Autodesk Maya、RealFlow、Houdini Coreあたりは重要度が高め。Crazybump、Lenscare、Optical Flares Plug-in、Sapphire7、Magic Bullet Suite、ReelSmart Motion BlurPro、Particular2.2、shine1.6、starglow1.6、Twixtor、Simplygonあたりは軽い知識は必要と、なかなかハードルが高い。
シネマティックアニメーター(新卒募集)
カットシーンの動きや効果を作成する。使用ツールで重要度が高いのは、Adobe Photoshop、Adobe After Effects、Autodesk 3ds MAX、Autodesk Maya、Unreal Engine 4。Adobe Premiere Proも使用する。
テクニカルアーティスト(新卒募集)
アーティストの作業をサポートする仕事。リグの作成、布などのシミュレーション作業、ツールやプラグインの実装、ワークフローの構築、整備、技術検証、技術サポートなど。テクニカルアーティストは多くの部署の作業に関わるため、必然的にこちらも使用ツールが多くなる。
使用ツールは、Autodesk 3ds MAX、Autodesk Maya、Unreal Engine 4が最優先。Adobe Photoshop、Microsoft Visual Studio、Visual AssistX、IncrediBuild、Renderdc、Adobe After Effects、bstance Painter、Substance Designer、Simplygonあたりの知識もあったほうが良い。
グラフィックはその多くを中国に委託することも多いというが、委託では作れないのが「ゲームならではのオリジナル要素の部分」。例えばアニメで描かれているモーションをそのままコピーするだけならば委託で問題ないのだが、モーションが描かれていない部分を補うことは委託では難しく、自社で制作することになる。
プログラマー系職種
ゲームプログラマー(新卒募集)
ゲーム制作に関わるプログラミング作業全般で、キャラクター制御の実装、イベント進行制御の実装、キャラクターAIの実装、メニューなどのUI画面の実装、ネットワーク関連の実装などがある。
テクニカルプログラマー(新卒募集)
ゲーム制作に必要な開発基盤を整える。物理/AIシステムの実装、シェーダーの実装、ミドルウェアの検証・実装、エンジンのカスタマイズ、ツールの作成や技術サポートなどを行う。
上記2種のプログラマーの使用ツールは、Microsoft Visual Studio、IncrediBuild、Unreal Engine 4が主で、Visual AssistXなどの知識も必要。
サウンドプログラマー(新卒募集)
※サウンド系職種にて後述
サウンド系職種
コンポーザー
BGMや楽曲を作成する。社内の作曲家に頼む場合もあるが、専門の作曲家への外部発注も多い。使用ツールはSONAR X3を中心に、Vegas Pro、Sound Forge Pro、Unreal Engine 4、IncrediBuildなど。
サウンドデザイナー
効果音(SE)を作成したり、効果音をゲームに組み込む。使用ツールはSound Forge Pro、Unreal Engine 4を主軸に、SONAR X3、Vegas Pro、ProToolsなど。
サウンドプログラマ―(新卒募集)
サウンドシステムを構築して、それぞれの音を組み込む。使用ツールはMicrosoft Visual Studio、IncrediBuild、Unreal Engine 4が主で、Visual AssistXやVegas Pro、Sound Forge Pro、ProToolsなど。
これら全ての職種の垣根を超えて共通で使用するソフトとして、Microsoft Office関連(Excel、Word、PowerPoint、Outlook、Taems)や、管理系のツールとしてPERFORCE、Redmineなども使用する(※職種によって使用頻度は異なる)。
その他
ゲームを作る以外の職種。制作進行管理、QAコーディネーター、開発サポート(機材・インフラ)、宣伝広報、総務、経理、人事などがある。
「ゲーム業界に憧れるけれど、開発職につけるような技能がない」という人は、開発とは違う職種を目指してみるのも良い。ただし開発の職種ほど募集は多くなく、新卒採用を行っている会社も少ない。
CC2では制作進行管理のアルバイトも募集しており、アルバイトからの正式採用も多いそうだ。どのゲーム会社でも特に募集が多いのは、発売前のゲームをプレイして不具合が無いかをテスト(バグチェック)するデバッガーのアルバイトで、松山氏も「デバッガーからゲーム会社に入社するのは、一番の近道」だと語った。アルバイトとあって未経験でも応募が可能なものが多いので、まずはトライしてみるのも良いだろう。
また、松山氏からは「特にサウンドプログラマーは、業界でも非常に少数で貴重」という話や「グラフィック関連では特にアニメーションを作れる人が少なく、シネマティックアニメーターなどは他のグラフィック系の職種より市場価値が高い」という秘話も飛び出した。
職種紹介の最後に、CC2で制作・発売している「ゲームクリエイター育成BOOK」を悠人くんにプレゼント。
「ゲームクリエイター育成BOOK」は全3冊で、ゲーム業界を目指すにあたって必要な知識が盛りだくさん。 現在紙の書籍は売り切れだが、電子書籍版はアマゾンのKindle本ストアなどで購入可能。 |
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「ゲームクリエイター育成BOOK」では、イラストやCG作品など、プロが見ている点を細かく解説している。 ゲーム業界を目指す人はぜひ読んでおきたい内容だ。 |
天才小学生と実際に会ってみて
これらの説明を、興味深そうに聞いていた悠人くん。やはりコンピュータグラフィックに興味があるため、特に人が足りないというアニメーションのジャンルにも心が動いたようだ。
そして悠人くんが持参したポートフォリオを松山氏に渡すと、松山氏も「え!? ポートフォリオあるの!?」と驚愕の表情を浮かべた。
そのポートフォリオの中には、もちろん話題になった無限城のCGも。この無限城のCGは主にBlenderで作成しているが、「テクスチャーも自分で作成したくて、その中でSubstance Designerを探し当てて作成していたから、プロもSubstance Designerを使用しているという話を聞いて、心の中で、やった!と思っていました」という、悠人くん。
ポートフォリオを眺めながらひたすら「すごいなぁ」という言葉を漏らしていた松山氏の様子に、悠人くんも「社長さんに褒めてもらえて、とても嬉しい」と、笑顔を見せた。
実際に悠人くんのポートフォリオを見た感想を松山氏に伺ってみたところ、「専門学校などでポートフォリオを持参してくる学生たちと比較しても、上位5%くらいに入るのではないか」という答えが返ってきた。
悠人くんのポートフォリオには机などの背景などの作品もあったが、それらは写真を見て作ったものだという悠人くんに、松山氏は「それが大事!」と、強めの一言。「採用したい小学生」とまで言われていた悠人くんだが、松山氏も改めてそのポートフォリオを見て「今すぐ現場に来て学んでほしいくらい」と、零していた。
ちなみにCC2では、「ゲーム作りに年齢や学歴は関係ない。独学であろうと素晴らしい作品を作れる若い才能を積極的に採用したい」と、中卒採用や高卒採用を進めていくべく、既に動いているという。
なお、悠人くんは後日改めて、「ゲームを実際に作っているところが見れて、とても楽しかったです。会社の雰囲気も、とても楽しそうでした。社長さんからゲームを作るにはどういうソフトを使うといいかを色々教えてもらえたので、そういうところもわかってよかったです。Unreal Engine 4が使えるといいと言っていたので、帰ってきてから勉強をし始めました。まだどの仕事をやりたいのかまでわからないけれど、今はモデリングが楽しいから、それを作りながら色々なソフトにも触っていこうと思いました」と、見学会の感想を語ってくれた。
スーパー小学生とまで言われた悠人くんにとっても、実際のゲーム制作の現場は大きな刺激をなったようだ。DecoponMAGIさん夫妻によれば、この日の見学会以来、一日中PCの前で作品を作り続けており、やる気が更に上がっているのを感じるという。
この日は悠人くんのために開催された見学会だったが、CC2では学生を対象にした見学会や、自社独自の取り組みについて公式サイトでも紹介している。ぜひ、プロの現場を見学に訪れてみてほしい。それはきっと素晴らしい経験となるに違いない。
サイバーコネクトツー公式WEBサイト
http://www.cc2.co.jp/
ゲーム業界を目指す人々へ――松山氏インタビュー
松山氏と悠人くんとの懇親会を兼ねて、筆者も松山氏に色々とお話を伺ってきた。ゲーム業界を目指す人たちや興味がある人に、ぜひ読んでもらいたい。
――改めて、普段から若手の育成に積極的な松山さんにこうしてゲーム会社の見学会を開いていただいて、こちらも勉強になりました。本当に随分、若手の育成に力を注がれていますね。
松山氏:CC2では出来るだけ学生のうちから現場に触れてほしいと思っていて、「学校が終わったあと、17時頃から2時間だけでもいいからおいでよ」と、専門学校生などに学びに来てもらう「スーパーゲームスクール」といった取り組みがあります。
もちろん現場のプロが直接指導をしますし、課題も出します。課題の提出は必須で、決められた期限までに課題ができれば次の段階へ、提出ができなければそこでおしまいです。うちは学校ではないので、そこらへんは結構スパルタで「やる気がないやつは帰れ」っていう(笑)。
毎回20人くらい集まって1~2人残るくらいなんですけれど、普通ゲーム会社は100人が受験して合格するのは1人いるかいないかというレベルなので、それに比べれば合格率はとても高いですよ。
――悠人くんもそういう中のひとりになってくれるといいですね。
松山氏:そうですね。ただやっぱり、この仕事は結構過酷なので、長くやっていくには身体が大事なんですよ。なので、悠人くんはもちろん、我々業界の人間も、規則正しい生活をして、健康な身体を作るのが一番だと思います。特に子供のうちは、身体作りを大切にしてほしいですね。
――規則正しい生活、あいさつ、みんなでひとつの場で勉強(仕事)をする――学生生活の中で培ったものを社会に出てからも維持することを、重要視されているんですね。
松山氏:はい。あいさつにしても、学生生活の間に散々言われてくることじゃないですか。なのに、社会人になると、なぜかみんなそれができなくなる。でも、社会人だからこそそういうところをきちんとするべき、というのが、私の考え方です。
そしてチームを組んで仕事をしている以上、遅刻もだめです。社会と会社のルールは守ってもらいます。
今はコロナの影響もありますが、CC2では顔と顔をあわせて仕事をすることを大事にしています。先程も見て頂いた通り、ほぼワンフロア体制で、みんなヘッドセットをしていて、必要なことは自分の席からすぐ上司に確認ができるようになっています。
――ライブラリの数が本当に凄かったですね。松山さんは日ごろから「クリエイターはたくさんのコンテンツに触れるべき」とおっしゃっていますが……。
松山氏:映画にしてもゲームにしても、今売れているタイトルを知るのは大事だと思います。「自分は好きではないけれど、世の中ではとてもウケているもの」に触れていくことを実践できている人が、プロになれると思ってください。
ウケているというのは、それだけ多くの人たちに楽しんでもらっているということです。だから例え銀行に興味がなくても、「半沢直樹」は見るべきなんですよ(笑)。面白くなかったと思うのならば、それでもいいんです。けれど、何が面白くなかったのか、ということも知っておかなければなりません。
――他に学生さん向けの施策などはありますか?
松山氏:夏休みだけのインターンシップ制度などもあります。CC2の本社は福岡にありますが、夏休みの1ヶ月だけ福岡に来てもらって、福岡で生活してもらい、CC2で課題制作に取り組んでもらうんです。福岡はFUKUOKAゲームインターンシップという福岡市の事業があり、そういう面をすごくバックアップしてくれていて、宿泊助成もしてくれるんですよ。最近では、高校生の応募も増えてきました。
インターンシップは外国の方でも「通訳の人さえいればOK」と、どんどん受け入れています。
――悠人くんへの職種説明の時にこちらも改めて気付かされたのは、映画とゲームのシナリオの違いでした。改めて説明をお願いできますか?
松山氏:映画は、一度座って見始めたら、基本的に終わるまで2時間ほど最後まで一気に見るものです。
それに対してゲームというのは、今日は1時間だけ遊ぼうとか、しっかり遊ぶつもりが急用で中断しなければいけなかったりとか、今日遊んだ続きを明日プレイできるわけじゃなかったりとか、人によってストーリーを遊ぶ環境や状況が全然違うんです。
だからシナリオ作りはプレイヤーのあらゆる状況を想定して、出来るだけどこで中断してもついていけるようにしないとならないんです。
――ゲーム会社でグラフィック関係の仕事を目指すにあたって勉強しておいてほしいのは、やはりMayaでしょうか?
松山氏:そうですね。ですが、Blenderでも全然かまいません。よく専門学校生などからも「Blenderでしか作ったことないのですが、大丈夫ですか?」と聞かれるのですが、こちらとしてはそれでも全然OKですし、評価も出来ます。
確かにMayaが使えればそれに越したことはないですが、Blenderできちんと作品が作れているならば、現場で二ヶ月研修を受けたらMayaも使えるようになります。
――グラフィックの中でも、CGアニメーターのほうが有利なんですね……。
松山氏:静画は描ける人が多いのですが、アニメーションはなかなかいないんです。だからこそ、どこの会社も良い待遇でアニメーションが出来る人材を雇い入れようとしますし、業界的にとにかく足りていないので、需要があるという点でもおすすめの職種ですね。
――そんなにアニメーターが不足しているのですね。何故でしょう。
松山氏:学生に「何がやりたいの?」と聞くと「背景とかキャラクター」という答えが返ってくるんですけれど、正直なところ「それって背景とキャラクターしか知らないから、そう答えているだけでは?」と思うことも、しばしばありますよ。
第一段階としては、自分がとても好きなものを一生懸命にやっていけば良いんですけれど、その次の段階に進むには、自分の興味を超えたものに触れていく必要があるんです。
それに触れてみたら、アニメーションを作るのが楽しいかもしれないじゃないですか。でも触る機会がなかったら、楽しいのか楽しくないのかもわかりませんよね。
あと損得だけで見るならば、アニメーターのほうが採用率も高く、給料も良い。なので、何になりたいのかを聞いてアニメーターという答えが返ってくると、こちらも「お、わかってるな!」という気持ちになりますよ。
――他に、ゲーム業界を目指すにあたって触れておいてほしいことはありますか?
松山氏:今の時代だからこそ、スマートフォンやパソコンなどインターネットにつながるツールは触れておいてほしいです。親御さんの理解が必要な部分ですけれど、できればペアレンタルロックは外してあげてほしいです。
私たちはこれから先、パソコンを駆使しないと生きていけないし、仕事ができなくなるんです。なので、こういったツールへの理解は早いほうがいい、というのが僕の考え方です。Youtube配信とかも、とりあえず経験してみることをオススメしますよ。あとはやはりチームでのゲーム制作経験があるといいですね。
――悠人くんは小学生なので、周りに同じレベルで話をできるお友達はいないようでして……。
松山氏:確かに悠人くんレベルの小学生は、他になかなかいないでしょう(笑)。でもだからこそ、SNS上などで歳は違っても同じ志の仲間をみつけることもできると思います。グラフィッカーを目指していても、きちんとゲームを一本作って、ゲームのプログラムの基礎的な部分は知っておいたほうが良いです。
――悠人くんのポートフォリオを見て、気付いた点などはありますか?
松山氏:この年齢で、既に写真を見て背景や造形物を作っていることに驚きました。あの無限城も、似ていると噂の旅館の写真を見て作ったということでしたが、出来ない人に限って無から唐突に書き出そうとする傾向があります。
――私は絵が描けないので分からないのですが、重要なことなのですか?
松山氏:はい。どの職種もどんどん専門職化していっている傾向にあるんですが、例えば現代ものの背景ですと実際の建築基準法の通りにしなければならなくて、適当に壁の線や天井の線、扉の線を引いてはいけないんです。なので背景のプロになるのならば、建築基準法通りに建てられた建築物の写真から書き起こしをすることで、基礎の力を身に着けられます。
ファンタジーの世界ならば現実の規格とは違うものを作ることが出来ますが、あくまで基礎が叩き込まれている人間が作ることで説得力が生まれるんです。最初から適当に作ったものには、説得力がないんですよ。
――あと、中卒採用を考えておられるということも驚きました。
松山氏:ゲーム業界は、もう少し若返ってもいいと思うんですよ。そのためにはやはり若い人たちに一日でも早く現場に入ってもらって、そこから学んでほしいんです。なので、小学生の会社見学も歓迎です。
とはいっても、中卒・高卒の採用にはまだ色々な問題点も山積みなんですよね。我々は、ご両親さえOKであれば中卒だろうと高卒だろうと大歓迎なのですが、中高生は採用にあたって作品の提出を求めてはいけないという、厚生労働省のルールがありまして……。
――なるほど……。そういう事情もあって、高卒の時点で既に働けるような才能の持ち主も、専門学校や大学に進むしかないというのもあるんですね……。
松山氏:正直に言うならば、一日でも多くプロの現場で学んだほうが早いです。なのでなんとかできないものか、僕たちも日々掛け合っているところです。
――それでは最後に、ゲーム業界を目指している皆さんにメッセージをお願いします。
松山氏:まずは自分が作ってみて楽しいと思ったことを、どんどん吸収していってください。全てはそこからですが、ただひとつの分野だけ頭でっかちになっても、ゲームは作れないです。
それに、単純にゲーム業界といっても自分が本当に作りたい側なのか、そうでないのかもありますよね。「自分の好きなゲームをたくさんの人に遊んでもらいたい」という気持ちが強いならば、流通業側にいく、という道もあります。でも結局それは、経験してみないとわからないんです。
だから色々な経験は大事です。それでもやはりゲーム会社を目指したい、という方を、我々CC2を含めゲーム会社はお待ちしております。
――ありがとうございました。
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