2023年発売予定のRabbit & Bear Studiosが開発、505 Gamesが販売するRPG「百英雄伝」。本作の開発のキーマン4名へのインタビューをお届けする。
インタビューに答えてくださったのは、以下の4名。いずれも「幻想水滸伝」「悪魔城ドラキュラ」シリーズにも関わった経験のあるクリエイターだ。
村山吉隆氏:ゲームデザイン・メインシナリオ
河野純子氏:キャラクターイラスト
村上純一氏:プロデューサー・アートディレクター
小牟田修氏:ディレクター
「百英雄伝」のテーマや、100人以上のプレイアブルキャラクターを登場させる上での苦労、印象に残る漫画的表現について、さらにKickstarterを利用してのゲーム制作にまつわる話題についてもうかがった。Kickstarterで支援したファンはもちろん、本作が気になっている人は、ぜひチェックしてほしい。
答えを示すのではなく「プレイヤーがどう感じるか」を大事にしたストーリー
――まず「百英雄伝」の物語のテーマや、プレイヤーにどんなことを感じてほしいかという部分をお聞きできればと思います。
村山:「百英雄伝」の物語は“戦争”を取り扱っています。戦争が起きたという大きな出来事があって、その中にいろいろなキャラクターがいろいろな立場で関わっていく。彼らがどんなことを考えて、どんなふうに行動するのかというのがストーリーとして描きたいところです。
ストーリーの中で「これはこうである」といった答えを示すのではなくて、それぞれのキャラクターが自分の意志で考えて行動して、それらに対して「プレイヤーであるあなたはどう感じますか?」というのを問いかけようと思っています。これが僕の描きたいストーリーの形です。
――すでにリリースされている「百英雄伝 Rising」との繋がりについても、改めて教えてください。
村山:ストーリーは「百英雄伝 Rising」と「百英雄伝」、それぞれ独立したものになっているので、いずれか1タイトルだけでも楽しむことができます。「Rising」のほうは、立ち位置としては「百英雄伝」の世界観を垣間見せるという部分が大きいです。ストーリー的に直接の繋がりは無いものの、「Rising」より少しあとのおはなしが「百英雄伝」本編なので、「Rising」に出てきたキャラクターたちも本編のストーリーにも関わってきます。
――「Rising」で操作できたキャラクターが本編でパーティメンバーになることもありますか?
村山:はい、仲間になるキャラクターもいます。
――主要キャラクターとしてセイとノアというふたりの青年が登場しますが、このふたりは「別々の道を歩んでいく」といった情報が出ています。共にパーティを組んで冒険するというよりは、それぞれが別の視点で、別々に冒険していくようなイメージなのでしょうか?
村山:セイとノアは、違う立場の、違う価値観を持つ青年です。ふたりともメインストーリーに絡んできますが、ゲームとして完全に独立しているわけではなく、交流がある中で互いに分かり合っていくというものを考えています。
――セイとノア以外のキャラクターの視点で物語が進行するような場面もありますか?
村山:セイとノアに並ぶ主人公格としてメリサという女性キャラクターがいます。このメリサも非常に大きな役割を果たすということは言えます。
100人を超えるキャラクター全員に個性が宿るまで
――100人を超えるプレイアブルキャラクターには、ひとりひとりに個性的な特徴や設定を盛り込んでいるかと思います。これほどの人数を生み出す上で、気をつけていることなどがあれば教えてください。
村山:僕の考えとして、おはなしとゲームシステムは融合したものであるべきだと思っています。キャラクターの設定、そしてデザイン、さらにゲームとして表現していくというように、キャラクターを生み出すまでにはいくつものパートが存在しているのですが、まず僕がキャラクターの設定を考えるときは、「各キャラクターがどんな価値観を持っているのか」というのを重視しています。デザインについては河野さんから話してもらいましょう。
河野:デザイン的には文字による設定が持っている個性を、いかに表現したビジュアルにできるかというのを第一に考えました。今回みたいに人数が多いタイトルだと、描いても描いても「まだまだ描いてないキャラクターがいるんじゃないか?」と、ずっと気の休まらない毎日でした(笑)。
小牟田:河野さんがデザインしたキャラクターの中でもバトルに参加するキャラクターだと、設定と見た目から「どういうパラメータを持っているか?」「どういう攻撃を使うか?」「どういう行動を取るか?」というのを考えなければいけません。システム面でもキャラクターの個性を出すというのが、このゲームのいちばん重要なところだと思っているので、バランスも含めてかなり練り込みました。
本作の場合、ここからさらにゲーム内でのキャラクターのグラフィックとしてドット絵にしなければいけません。ドット絵の場合、3DCGのようにモーションの使い回しができませんし、1体のキャラクターを手直しするだけで、あらゆる差分を個別に直さなければいけなくなります。先にそれ以外の部分をすべて確定させておく必要があるんです。その上で、J(村上純一氏)のチームが全員一点モノとして描き起こしています。
村上:河野さんのキャラデザの時点で非常に魅力的なものになっているので、そこにゲーム内での姿として、我々のチームで命を吹き込みました。バトル中に可能な限りたくさん動いて、そのキャラクターの魅力が最大限に伝わるようにと、ひとりひとりに苦労しています。そんな苦労が100人分あったという……。
――聞いているだけで気が遠くなりそうです……。
村上:頭の中で被ってきてしまうこともありますけど、ひとりひとりに個性を感じてもらえるように頑張っています。
小牟田:今回、各キャラクターのサイズ感にも変化を付けていますよね。
村上:人間の魅力や個性って、単体で見たときに分かるものだけじゃないと思うんです。身長が高い人もいれば低い人もいるし、身長が近くても足が長い人もいれば短い人もいる。顔が大きな人もいますよね。今回はデフォルメながらもそういった個体差を出したいなぁと思って取り組んでいるので、注目してもらえると嬉しいです。
――現実にいる人たちがひとりひとり全然違うのと同じような個性を、キャラクターのグラフィックにも取り入れているんですね。
村上:中にはプロポーションが抜群だなというキャラクターもいれば、ちょっと不格好だけど顔にすごく愛嬌があるなというキャラクターもいて、すべてのキャラクターの魅力が生きる様なデフォルメ表現を意識しました。
――バトルシーンでは、手前に大きく映っているキャラクターと奥のほうに小さく映っているキャラクターがいたりと、ドット絵を使った表現としてこれまでに見たことがないような構図になっているのが印象的です。あれも手前用と奥用のドット絵は別々に描き起こしているのでしょうか?
村上:そうですね。加えて本作の場合、カメラは3Dで動かせるけど、キャラクターは平面のドット絵なので、カメラが左右に動いてもキャラ絵は表面をカメラ側に向けていなければならないんです。カメラが多少動いても違和感のない絵を意識しつつ、なおかついくつかの向きに対応した差分のパターンを用意しています。そういう意味でも、純粋な2Dのゲームよりも描かなきゃいけないパターンは大幅に増えましたね。
村山:「カメラがこの角度まで回ったら、こっちの絵に切り替える」といった仕組みになっています。
――ただでさえ100人以上いるのに……。
村上:3D空間に自然にマッチするような2Dのドット絵を研究しました。
――もうひとつグラフィック面でお聞きしたかったのが、トレーラーの映像を観ると、まるで昭和の漫画やアニメのようなコミカルな表現がいくつかあって、おもしろくて非常に印象に残りました。走ってきたキャラクターの足が「ぐるぐるぐるー!」と渦巻き模様が入った円にデフォルメされていたり(笑)。
河野:そこもアートディレクター(村上氏)のこだわりです(笑)。
村上:いやぁ、そんなにたくさんはやってないですよ(苦笑)。でもやっぱり表現って、リアルなものばかりじゃなくて、いろいろなものがあっていいと思うんです。とくに昔の表現は、少ない工数で大きな効果を狙って考えられた技法だったりするじゃないですか。そういうものを演出として昇華したらおもしろくなるだろうと。僕の世代もありますけどね。
河野:「このキャラクターにはこういう表現がいいよね」と、ひとりひとりにどんな表現が合うかを考えた結果としてああなった感じですよね。
――物語がシリアスなので、どれくらいの頻度でああいった表現が出てくるのかという点も気になったのですが、要所でアクセント的に登場するくらいになりそうですね。
村山:そういう表現は3Dでは違和感が出てしまうので、2Dのドット絵だからこその表現の幅を追求する中で出てきたものですね。今後、もっと変なものも出てきますよね?
村上:ぐるぐるだけじゃないですよ! おもしろくなるものはなんでも取り入れたいんですよね。いろいろな表現を頑張っていますので、ご期待ください。
“Kickstarterの先輩”としてのアドバイス
――ちょうど最近「ARMED FANTASIA」、「PENNY BLOOD」と、往年のJRPGのスタッフが手掛ける作品がKickstarterをはじめました。コンセプト自体にも「百英雄伝」と近いものがありますが、こうした流れをどのように感じていますか?
村山:一時期、日本のコンシューマーゲームは市場自体が小さくなって、とくに制作費の掛かるRPGは縮小傾向で、タイトルが減っていたと思うんです。そうした元気のない時期から揺り戻しがあって、Kickstarterをはじめとしたクラウドファンディングなどの新しい方法でゲームファンの方から支援をいただけるようになったおかげで、プロジェクトとして成立する環境ができた。
おかげで僕らのタイトルだけじゃなく「ARMED FANTASIA」、「PENNY BLOOD」みたいな新しいJRPGが生まれてきているのを、僕は非常に嬉しく思っています。ぜひぜひ増えてほしいと思っていますね。
――これからKickstarterを利用するゲームタイトルの開発者にとって、「百英雄伝」のチームはある意味“Kickstarterの先輩”だと思います。これからゲーム開発でKickstarterを利用する人たちへのアドバイスのようなものがあれば、お聞きしてみたいです。
村山:通常のゲームのプロジェクトって、ゲームの8割くらいが出来上がってから発表、その半年後くらいに発売になることが少なくありません。でもKickstarterは開発が始まる前に「こういうゲームを作ります」と公表して資金提供を募るので、性質上、発表から発売までめちゃめちゃ長く掛かるんですよ。
いろいろなフィードバックを貰えるといった利点ももちろんありますが、どのように継続して興味を持っていただくかというのはかなり重要だと思っています。「百英雄伝」でもどういった情報をどんな頻度で出すのかはけっこう悩んでいますし、「百英雄伝 Rising」を出したのも、本編を楽しみに待ってくれている方の気持ちを掴んでおきたいというのが大きかったです。そういう部分でのユーザーさんへのケアは非常に大切かなと思っています。
――継続して興味を持ってもらうのが大事ということですね。ありがとうございます。最後の質問です。「百英雄伝」を楽しみにしているのは「幻想水滸伝」のファンだった方が多いと思うのですが、当時を知らないゲームファンの中にも、本作が気になっている人はいると思います。そういった人に対しての本作のアピールポイントを教えてください。
村上:全部がアピールポイントと言いたいですが(笑)。やはり自分が担当しているグラフィックは注目してほしいですね。3Dのゲームはどんどんリアリティが上がっていますが、そんな中で「百英雄伝」の表現は新鮮に映るんじゃないでしょうか。ただの「昔懐かしの表現」とはまた違う絵作りをしているつもりなので、「こういう描き方もあるんだ」というのを感じてもらえたら嬉しいですね。
小牟田:Kickstarterでも「幻想水滸伝」のファンや、往年のJRPGのファンの方の支援が大きくて、そういったファンをいちばん大事に開発を進めているタイトルではあるのですが、「古臭いものを作ろう」という気持ちはまったくありません。いまゲームを楽しんでいるユーザーさんが楽しめるものを作ろうとしています。
近年よく使われている“精神的続編”と言えるようなゲームですが、初めてJRPGをプレイする人も楽しめるものになっていると思います。コマンドバトルの「考えて、選択して、結果に一喜一憂する」という普遍的なおもしろさを楽しんでいただければ嬉しいです。
河野:私はスマートフォン向けのソーシャルゲームなどにも関わっていたのですが、「百英雄伝」で久しぶりにガッツリとコンシューマーゲームを作れています。物凄く大量のコンテンツが内包されているので、物語を楽しむだけじゃなく、のんびり過ごしてみたり、いろいろなキャラクターに話しかけたり……その世界で暮らすような気持ちで楽しんでもらえると良いかなと思うんです。よろしくお願いします。
村山:河野さんも言っていましたが、JRPGの魅力っていろいろな楽しさを内包しているという部分が大きいです。だからいろいろなプレイヤーに幅広く受け入れてもらえて、支持してもらえていたんだと思うんです。「百英雄伝」はたくさんのキャラクターが登場して、プレイヤーには「自分の好きなキャラクターを見つけてください」というゲームになっています。ほかにもたくさんの遊びを用意しているので、そこからも、好きな遊び方を見つけてほしいです。そういったJRPGの芳醇さを、ぜひぜひ味わってください!