2022年12月23日、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のドライビング&カーライフシミュレーター「グランツーリスモ」シリーズが25周年を迎えた。そこで今回はシリーズの生みの親であるポリフォニーデジタル代表取締役の山内一典氏に「グランツーリスモ」シリーズの25周年を振り返ってもらった。
過去だけではなく、現状での最新作「グランツーリスモ7」に関することや、さらには山内氏が見据える「未来」についても語ってもらった。ファンの方はぜひ最後まで目を通してみてほしい。
※インタビューは2022年12月中旬に実施。
ポリフォニー・デジタル自体がファミリーとして大きくなっていった
――「グランツーリスモ」シリーズが25周年を迎えます。今の率直な感想を聞かせてください。
山内氏:一言で言うと感謝しかないですね。「グランツーリスモ」って凄く実験的なタイトルで、それは「グランツーリスモ7」に至るまで変わってないんですね。常に何かにチャレンジしています。そういう実験的なタイトルが25周年を迎えたというのは、それを支えてくださるユーザーさんがいたからです。
最初の「グランツーリスモ」(PS用)はもともとスタッフ5人位から制作がスタートしているのですが、今は250名いて、25年に渡り作り続けてくれたポリフォニー・デジタルのスタッフへの感謝も大きいですね。
――25年の間に、ユーザーさんの「グランツーリスモ」の遊び方は変わりましたか?
山内氏:「グランツーリスモ」は世代的に、2つのユーザーのピークがあります。壮年層の方々の山と、若年層の方々の山。壮年層の方は初代「グランツーリスモ」から遊んでいて、主にオフラインモードでクレジットを溜めて車を買うという遊び方ですね。一方の若年層の方々はオンラインをメインで遊んでいます。。彼らの遊び方を見ていると、ログインしてオンラインコースを遊んで、比較的短い時間でプレイを終わらせるスタイルですね。そういうおおまかに2つのピークの方々により「グランツーリスモ」の遊び方には違いがあるようです。我々はそのどちらの方々も意識して開発しています。
――フォトモードで遊んでいる方の割合はどうでしょう。
山内氏:フォトモードやリバリーエディターをひたすらやっている方もいらっしゃいますね。「グランツーリスモ」シリーズで写真を覚えたという方は多いです。「グランツーリスモ」の影響でカメラを買って写真を撮るようになったという方もいるみたいです。
――25年の中で特に印象的な出来事があれば教えてください。
山内氏:「特にこれ」というのはないんです。というのも「グランツーリスモ」の制作ってめちゃくちゃ大変で、毎回一つ一つのタイトルに命をかけて作っているので、それぞれに思い入れがあります。
ただ僕らの会社は未来に生きているところがあって、過去の事はどんどん忘れていくんです。今回プレゼンテーションのために資料を作り過去を振り返りましたけど、こういう25周年の企画がなければ、それすらなかったと思います。
――「グランツーリスモ」初心者の方に向けて気を使っているところはありますか?
山内氏:「グランツーリスモ7」自体はそれほど難易度は高くなく、特に最初のエンディングを迎えるまで難易度は低めに設定してあります。ミュージックラリーのような、音楽を一曲聴き終えるまでただ走ればいいというモードも「グランツーリスモ」初心者に向けた企画でした。皆さんがゲームをどれくらいコンプリートしているかっていうのを僕らは分かるんですけど、ミュージックラリーは非常にコンプリート率が高いです。一曲が長いんですけど飽きずにやってもらっているので、作ってよかったです。
――先ほどのプレゼンテーションで「グランツーリスモ」のコアスタッフがずっと変わってないというお話をされていましたが、長いこと同じメンバーで続けてこられた理由はどんなところにあると分析されていますか。
山内氏:最初の「グランツーリスモ」(PS用)時代のコアメンバーも今でも第一線で開発していますが、コアメンバー自体も新しい世代がどんどん増えているんですよね。なぜそういうことが可能だったのかというと、この会社のカルチャーというか、1つのファミリーになっていったからだと思います。
ポリフォニー・デジタルの25年の歴史を振り返ってみると、ファミリーを大きくしていった時間でもあるんです。ポリフォニー・デジタルという組織自体もファミリーとして大きくなってきましたし、同時に各自動車メーカーやそれ以外で関わっていただいた様々な会社の方、あとは公式世界大会である「グランツーリスモ ワールドシリーズ」の選手たちも含めて、巨大なファミリーを形成しているんですね。「そういう文化だった」というのが大きいと思います。
――「グランツーリスモ」はeモータースポーツにも取り組まれています。ただ大会となると、どうしても反射神経の良い若者が有利になることが多いと思います。比較的高い年齢層の方に向けた大会やイベントは考えておられますか。
山内氏:色々な形で大会の開催は可能だと思います。この12月には「GT College League 2022」という全国の大学対抗選手権の決勝大会が行われます。そこでは大学の自動車部の若者が戦うんですが、これって「グランツーリスモ ワールドシリーズ」とは全く異なる雰囲気の大会になるんです。「GT ワールドシリーズ」は数百万人近いコンペティターの中のトップ12人が争うのでかなりひりひりした熾烈な戦いになるのですがが、大学対抗となると、ほのぼのしたレースになるんですね。大会により色んな意味合いがあります。そういった点を理解し、大会の開催を申し出て下さる方がいれば色々なことが可能になると思います。
現状は公式世界大会である「GT ワールドシリーズ」を年間開催するだけでも、我々は作業量的にいっぱいいっぱいなんです。ただし、新たにイベントを大規模にやりたいと言ってくれる方が現れれば新たな大会を開催することは可能だとは思います。
実際、今も小規模ではありますが、全国の自治体の方々や団体さんなどから「国体文化プログラムで競技になっている『グランツーリスモ』の大会をやりたい」とご依頼を頂いています。地域の老人会の方から「私達も、若者がやっているeスポーツをやりたい」と直接お申し出頂いた事もあります。そういった方々には、大会概要を事前に確認させていただいた上で、ゲームソフトの使用許諾を随時、許諾しています。
国体文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」「グランツーリスモ7」部門は現在、「一般の部(18歳以上)」と「U-18の部(6歳以上18歳未満)」に分かれてますが、もしかしたら「シニアの部」を作ってもいいんじゃないかとも思いますね。
イノベーションは常に起きている、今後も同じ方法で作りつづけるとは限らない
――「グランツーリスモ」は長い歴史を持つシリーズになりましたが、ユーザーさんからの意見で、拾えたものと拾えなかったがあれば教えてください。
山内氏:要望は常にありますし、Twitterからもご要望をいただきます。僕もスタッフもそういったご意見は常にウォッチしていて、その中で実現できそうなものであれば実現していっているという感じですね。また、これまでユーザーさんから重大なフィードバックを頂いて、それが対応できなかったということはありません。ユーザーさんが感じていることは僕らも同じく感じていますから。
――「グランツーリスモ」を作り続けているなかで、シリーズの進化や変化を感じる部分がありましたら教えて下さい。
山内氏:変化は毎回起きています。ビデオゲームってファームウェアの進化に合わせて一緒に進化していくものですが、作り方は毎回変わるんですよ。それが映画製作と違うところですね。
ビデオゲームの場合って、例えばプレイステーションのコンピューティングパワーが初代のPSからPS5の場合だと、3桁4桁くらい性能が向上しているんですね。それくらい変わるとワークフローそのものも変わるし、制作環境も変わるので、スクラップアンドビルドをするのが日常的になってきます。
どこかにターニングポイントがあったわけではなく、同じチーム同じ会社で作りながらも、作り方は毎回変わります。ゲーム制作の面白さでもあり大変さでもありますね。
――個人的に、市街地コースや一方通行のヒルクライムのコースがまた復活してくれればいいなと思うのですが、今後、その辺りのコースの追加は予定されていますか?
山内氏:市街地コースって複雑かつユニークですよね。1つとして同じ建物がない。そういうものを「GT7」のクオリティで作るのは凄く手間がかかります。市街地コースを1つ作るコストでパーマネントなコースを5つくらい作れますので、コストパフォーマンスという面で市街地コースは敬遠されがちな部分もあります。
ただ常にイノベーションは起きているので、同じ方法で今後も作り続けるとは限らない。特に市街地は、なんらかの技術的なイノベーションが起こり開発方法に大きな変化がおきれば一気に「市街地コース」制作にのりだす、という可能性はあります。
――「グランツーリスモ7」では現在、車種が少しづつ増えていますが、山内さんの中ではどのくらいの車種数を目標地点とされていますか?
山内氏:そこは何とも言えないですね。一番多い時だと1000台超えていた時があったんですが、ただその頃は外見はほとんど同じでグレードだけ違うものも存在していたので、当時の1000台と今の400台は意味が違ってくるんです。現在は大体月5台、年間で言うと60台くらいのペースで作ってるんですが、そんなに悪くないペースだと思っています。
クオリティに関しては、内装も含めてPS5ではオーバースペックなくらい細部まで作り込まれていますから。車種数に関しては徐々にカバーされていくと思います。
――「グランツーリスモ」といえば詳細なデータを元に実在のコースを突き詰めて再現するのが特徴だと思います。一方で、「グランツーリスモ」オリジナルのコースも存在します。当然元のコースは存在しないと思うのですが、オリジナルコースはどういった点を注視して制作されているのでしょうか。
山内氏:実は最初の「グランツーリスモ」(PS用)って実在のコースが1つも入ってなかったんですよ。すべて架空のコースです。なので「グランツーリスモ7」に入っているハイスピードリンクやトライアルマウンテン、ディープフォレストといったコースは最初の「グランツーリスモ」からずっとアップデートを繰り返してきています。
作り方としては、まず紙にコース図を描くところからスタートします。ここは谷になっている、丘になっているとか、そういうアップダウンの情報を加えていって、それを実際に作ってみて、走ってみて、細かい部分を調整しながらレイアウトを決めていきます。そしてレイアウトを決めてから周囲の景観を作り込んでいくというプロセスですね。
ちょっときっかけでアイデアって落ちてくるんです
――これは「グランツーリスモ」ではなく山内さんご自身のことになるのですが、普段ゲームを作る際、どのようなところからインスピレーションを受け、アイデアをインプットしているのでしょうか。
山内氏:30年くらい「グランツーリスモ」シリーズを作り続けているので、どういう「グランツーリスモ」を作ろうかってことは毎日考えています。
ちょっとしたきっかけでアイデアって落ちてくるんですよ。例えば「グランツーリスモ7」ではミュージックラリーやミュージックリプレイっていう新しいモードを作りました。その2つの場合は、音楽を聴きながらふと「この音楽を伝えたい」と思ったんですね。ではどのようにして音楽を伝えるか、どういうゲームシステムが必要なんだろうってことを考えます。
音楽を聴いている時、本を読んでいる時、車を運転している時、他のビデオゲームを遊んでいる時、色々な時に着想はありますが、それらは突然やってきますね。
――「グランツーリスモ7」の開発はCOVID-19の影響が強く出た時期に被ってしまったと思いますが、その部分で制作の難しさや苦労などはありましたか?
山内氏:COVID-19の影響は僕らだけではなくどこの会社にもあると思います。先ほどポリフォニー・デジタルはファミリーみたいな部分があるとお話しましたが、そういう基盤があるので、リモートワークが増えたことで問題が起きることはなかったです。そもそもリモートに移行するメンバー自体も、ソーシャルティスタンスに気をつかいながらですが、そこまで多くはなかったです。
――ポリフォニー・デジタルのテーマとして「世界の森羅万象を量子化し、計算可能にする」というものがあると思うのですが、5年後10年後を見据え、新しい何かを計算可能にしていきたいと思いはありますか?
山内氏:1つは、センサーの技術がほしいです。今はセンサーとレーザースキャナーでデータキャプチャリングをしていますが、センサーのイノベーションがあると、当然そこで得られたデータをどういう風に計算するのかっていうところにもイノベーションが起きると思います。
今はそういうイノベーションを心待ちにしているっていうことと、あと、センサーの技術と対になるのはデータを処理する技術です。これはどちらかというとソフトウェア側の世界ですね。「グランツーリスモ・ソフィー」はAIを使っていますが、今後もそういう形で、練られたデータをどのようにプロセスするのか、という形は延々と続いていくと思います。
――ありがとうございました。