千葉・幕張メッセにて9月21日~24日にかけて開催された「東京ゲームショウ2023」。会場内で実施された「龍が如くスタジオ」の阪本寛之氏と堀井亮佑氏へのインタビューをお届けする。
2023年11月9日に「龍が如く7外伝 名を消した男」(以下、「7外伝」)、2024年1月26日には「龍が如く8」(以下、「8」)の発売がそれぞれ控える「龍が如く」シリーズ。今回はそんな「龍が如く」シリーズのチーフプロデューサーを務める阪本寛之氏、両作でディレクターを務める堀井亮佑氏をTGS会場内で直撃。「7外伝」や「8」に関する新情報から「龍が如くスタジオ」の現在まで、様々な話を伺うことができた。
「最高のアクションを作る」ことを目指して開発された「7外伝」
――先日のRGGサミットでは、「8」を中心に多数の新情報が公開されました。ユーザーからの反響の手応えはいかがですか?
阪本氏:RGGサミットのあと、「7外伝」と「8」両方のストーリートレーラーを公開したのですが、どちらもすごく評判がよくて、海外からもかなり再生されました。トレーラーに仕込んでいたいろいろな小ネタに一喜一憂してもらえていて、シリーズの中でも一番大きい反響をいただけたと思います。
――自分も試遊台の方に並ばせていただいていたのですが、海外メディアがとにかく多かったのが印象的でした。海外からの注目はやはり高まっているのでしょうか。
阪本氏:そうですね。「7外伝」はgamescomでも試遊台を出展させていただいたりもしましたが、新しい情報を出すと世界中のメディアさんが記事にしてくれています。今年のTGSに関しては、アジア系のメディアさんがものすごく増えましたね。今までも取材には来てもらっていたのですが、今年はその熱量が段違いになったと思います。
――ナンバリングタイトルとしては「7」以来となりますが、あの時とは発売前の空気感が大分違うように感じます。
堀井氏:「7」の発売前は、割と逆境に近い状況でしたからね……(笑)。「8」は、「7」を経たことで春日たち自身にファンがついて、純粋に彼らがどうなっていくのかを楽しみにしてもらえているのが大きいのかなと思っています。
阪本氏:業界関係者の方々にもすごく注目してもらっていて、ビジネスデイの試遊台もかなりの行列ができていました。申し訳ない部分もあったのですが、試遊した方々からの評判も良く、良いタイミングで遊んでいただくことができたのかなと思います。
――まず、「龍が如く7外伝 名を消した男」についてのお話から聞かせてください。再びアクションバトルが採用されていますが、どういったコンセプトで開発されたのでしょうか。
阪本氏:近年のアクションでは、「LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶」、「龍が如く 維新! 極」といったタイトルもリリースしていますが、「今の『龍が如くスタジオ』として、最高のアクションを作ろう」というのが「7外伝」の出発点でした。
ただ、「7外伝」では、桐生が表舞台から姿を消してエージェントという肩書きで活動していて、従来の喧嘩バトルとの食い合わせが良くなかったんです。そこからいろいろな検討を重ねて、遠距離からもテクニカルなアクションが楽しめるスパイガジェットを活かした、「エージェント」というスタイルが生まれました。従来の喧嘩スタイルの「応龍」と、それの対になる「エージェント」の2スタイルでいくというのは、早い段階で決まっていましたね。
堀井氏:今回は、従来のナンバリングよりは短めになっているので、スタイルを3つ4つ入れるよりは、クオリティの高い2つのスタイルを提供する形が望ましいと判断しました。
――エージェントは「8」で職業として登場はしないのでしょうか?
阪本氏:「8」にはありません。桐生のエージェントの設定自体は残っていますが、RPGとアクションでジャンルが違いますし、あくまでも「8」のライブコマンドバトルRPGのシステムに桐生を入れるとどう盛り上がるか、ということを重視しています。
――今回はキャバクラが実写動画ベースになっていたのも驚きましたが、どういった意図があったのでしょうか。
阪本氏:最初に「7外伝」を企画した時、久しぶりの桐生主人公なので、大人の男の夜遊びに代表される、古き良き「龍が如く」の面白さも復活させたいという考えがあったんです。キャバクラもその一つで、プロモーションとしてオーディション等の企画の実施はしたのですが、今までと同じように3Dモデルを作っても、皆の予想内に収まってしまうというか、跳ね方は少ないだろうなと。
実際、今ってキャバクラ自体そんな流行っているわけではなくて、コンカフェの方が勢いもありますよね。今までのキャバクラを復活させるだけでは、皆の予想を越えられないのは最初から分かっていたので、実写という方式を選択しました。
――「8」では、桐生が癌に侵されているという衝撃的な情報も明らかになりました。「7外伝」をプレイすると、その経緯も分かるのでしょうか?
阪本氏:いえ、そういったことはないです。まず「7外伝」は「6」からの空白を埋める位置づけの作品でもありますし、桐生が癌にかかったのも、何か特定の原因があるわけではないですから。
堀井氏:少なくとも「7外伝」の時点では、桐生は自分が癌だと自覚はしていない状態ですね。
――「7外伝」をプレイすると、「8」を一足先に遊べるスペシャル体験版も遊べるとのことでした。具体的には、どのような要素を体験できるのでしょうか。
堀井氏:スペシャル体験版では、桐生視点で「8」のストーリーを先行してご体験いただけます。これは製品版の「8」には入っていないスペシャル体験版だけの内容で、「7外伝」のストーリーをクリアしないとプレイできない仕様になっています。「7外伝」をクリアした後に、体験版もプレイして「8」へのつながりを実感していただければと。
今回のTGSの試遊台では、街中の散策とバトル、ミニゲームといった複数の要素を一通りプレイできるようになっていましたが、だいたい同じくらいの要素が入っていると考えていただいて大丈夫です。
RPGの固定観念を捨て去って生まれた「8」のバトル
――RGGサミットでは、「8」の発売日も発表されました。「7外伝」から約3ヵ月という短いスパンでの発売を決めたのは、どのような理由があったのでしょうか?
阪本氏:まず、開発自体は先に「8」の方がスタートしていて、「7外伝」は「8」を作っている過程で必要だろうという判断で生まれたものなんですね。当然ながら、「8」より先に発売しないと成り立たないわけで、ちょっと無理をしてでも「8」の前に出せるようにしました。
バンドルで出すという案もありましたが、「7外伝」をクリアして、そのまま「8」をプレイしてもらうための期間としては、3ヵ月くらいがちょうど良いのではないかという判断です。あとは「龍が如く」シリーズ全体として、年末年始、特に年始近辺に発売しているタイトルが多いことを踏まえているのもあります。
――開発チームは別だったのでしょうか?
阪本氏:いえ、基本的には「龍が如く」チームとして作っているので、明確に分かれていたわけではないですね。結局どっちも堀井がディレクターなので。
堀井氏:担当者ベースでいえば、片方しかやらないという人もいますが、デザイナーやプログラマーは両方に関わっている人が多いです。大変ではありましたが、1チームで2タイトルを並行して開発した形になります。
阪本氏:遡ると、「6」の前に「極」を出したりもしていたので、皆ある程度耐性がついていたのはあります(笑)。
――それは……ただただすごいですね。しかも今回の場合、ジャンルもアクションとRPGで違うわけじゃないですか。
阪本氏:一応、どちらもドラゴンエンジンを使って同じプログラマーが作っていたりするので、ジャンルこそ違えど、共有できる部分も多いんです。
堀井氏:チェックチームはそれぞれ分けていたのですが、基本的に同じプログラムで動いているので、片方でバグが見つかると、大抵もう片方でも同じバグが起きるんです(笑)。そういった、並行したからこそのメリットもありましたね。
――「8」は春日と桐生のW主人公制ですが、トレーラーを見ると2人は比較的早めに合流するのでしょうか?
堀井氏:序盤というほど早くはないかもしれないです。最初は春日視点で横浜からスタートし、ハワイに着いてしばらくして桐生と出会います。
阪本氏:最初は「7」の後日談的なストーリーが始まり、そこから新キャラクターとの出会いや、昔の仲間との再会といった要素が描かれていきます。パーティ編成の自由度はそこまで持たせていなくて、ストーリーの流れに合わせてパーティメンバーが変わっていく形です。
――バトルで特に驚いたのが、絆覚醒することで桐生がアクション操作に切り替わる要素です。
堀井氏:今までアクション畑で育った桐生をRPGにもっていくのに、普通にコマンドバトルをやらせてもあまり芸がないですよね。出す以上は、やっぱり桐生らしい要素をRPGのシステムの中に落とし込む必要があるだろうと。桐生は春日たちとは強さの格が違う存在なので、プレイヤーに納得してもらえるような要素として、スタイルチェンジや絆覚醒でのアクション操作という特別な仕様を実装しました。
阪本氏:開発では「RPGはこうじゃないといけない」っていう固定観念を抱きがちなんですが、そもそも「7」の時も、そうした固定概念をどうやって変えるかという所から開発がスタートしているんです。「7」の詳細発表前、エイプリルフールでコマンドバトルの動画を公開した時からそうだったのですが、RPGとかアクションとかのジャンルにはさほどこだわりがなくて、皆に盛り上がってもらうにはどうすればいいかという方に重点を置いています。今回の場合、それがいい方向に働いたと思っています。
――今回はハワイが舞台となっていますが、これまでの日本の繁華街とは開発の勝手も違ったのでしょうか?
堀井氏:当然、それはありました。取材がなかなかできない状況が続いていたのに加えて、海外って日本とは建物の構造が全然違うんです。規模もそうですが、天井の高さとか、光の入り方とか、最初は日本の感覚のまま作っていたところが結構あったので、何度も修正を入れながら作っていました。
阪本氏:あとは、純粋にマップ自体が今までより大きくなっていますからね。異人町や神室町も含めると、とんでもない規模になっているので、ボリュームやクオリティ的な面も大変な部分でした。
――マップの話だと、新たに天候の変化という要素も追加されましたが、天候が変わるとどういう影響があるのでしょうか?
堀井氏:あれはスコールが降るハワイの特徴を表現した要素で、ゲーム部分への影響はないですね。最初はそういう仕組みも検討したのですが、ランダムで発生するものなので、変にシステムに絡めてしまうと悪影響を及ぼしてしまいかねないなと。あくまでも、ハワイの雰囲気を表現するためのものになっています。
阪本氏:天候変化はゲーム的な要素ではなく、あくまでも我々が描く最新の表現方法なんです。
ハワイという舞台のリアルな空気感や質感を伝えるにはどうすればいいか考えた時、我々が今までやってきた夜の繁華街って、ハワイとは真逆の世界ですよね。乾燥した空気やヤシの木の生え方、大きな建物とか、細かい要素をしっかりやらないと、「なんちゃってハワイ」になりかねないという懸念がすごくあって。単に雨が降るだけではなく、降った後にどう乾いていくかの表現にもこだわっています。
――試遊版でも現地の人に挨拶をするとエモートで返してくれる仕組みもありましたが、それもハワイらしさの表現の一つということですね。
堀井氏:そういうハワイの気さくな空気感を出したかったのもそうですし、ハワイでは基本的に春日が主人公になるので、キャラクター性を表現したかったという意味合いもあります。
阪本氏:今回、ハワイで春日はまたドン底に落ちてスタートするんです。そこで見知らぬ人たちと出会って仲良くなり、もう一度成り上がっていくことになります。そういったドラマを含めた遊びを体験してもらうための要素でもありますね。
――試遊台でも様々なミニゲームがプレイできましたが、今回のミニゲームはどのように決めていったのでしょうか。
堀井氏:日本にはなかった、ハワイならではの遊びを入れたいというのは前提としてありました。クレイジーデリバリーなら、Uber Eatsは海外のサービスですし、ハワイはマップも広く作っているので、それとマッチするようなものとして考えた形でした。
――試遊できた中だと、トロリー(※ハワイを走っている観光バス)から不審者を撮影する「不審者スナップ」のインパクトがすごかったです。
堀井氏:トロリーは結構初期の段階から実装していたんですが、単に同じ風景が流れるだけじゃすぐ飽きてしまうんです。なら移動中に写真を撮影できるようにしたんですが、そこで何を撮るんだという話になり……それなら分かりやすく、なんか変な人でも置いてみるかと(笑)。
一同:(爆笑)
――めちゃくちゃ軽いノリで生まれたんですね(笑)。あれをいきなり試遊台に入れるのが、さすが「龍が如く」スタジオだなと思いました。
堀井氏:ビジネスデイの試遊でも、結構不審者スナップをやっている人が多いみたいで、ちょっと意外でしたね(笑)。ミニゲームについては、実は未発表のものがまだまだありますので、ぜひ続報を楽しみにしていただければと。
若手の登用で「龍が如く」スタジオはよりいい状態に
――昨今のゲーム業界はDL販売が主流になりつつあり、ゲームの売り方もロングランで売っていくものに変わりつつあります。やはり「龍が如く」シリーズも、ロングランで売れ続けているのでしょうか。
阪本氏:「7外伝」に関しては発売日にゲームパスでもプレイできますし、世の中が大きく変わってきていますね。昔は、発売日にパッケージを買って、遊び終わったら中古にみたいな形でしたが、今は何か話題になるとそのタイミングで世界中の人々が買って遊んでくれるように変わってきました。
「龍が如く」シリーズの過去作も、デジタルのセールでかなり長く売れ続けていています。2、3年くらい前のタイトルも本当によく遊んでもらえているので、我々にとってはありがたいです。
堀井氏:昔のゲームは初動型でしたからね。いいものを作れば後からでも評価してもらえて、継続的に新しい方に遊んでもらえるようになったので、開発者としてはすごく作り甲斐のある環境になったと思います。
――思い返せば、初代の「龍が如く」も、ベスト版の発売後に大きく数字を伸ばしたタイトルでしたよね。
阪本氏:おっしゃる通り、あの時は口コミで話題になって品切れになったりして、あとでベスト版が発売された時、安いし前に話題になっていたということで、たくさんの方に遊んでいただけました。仕組みとしては今も同じですよね。
――今は配信の影響も大きいと思いますが、「龍が如くスタジオ」のタイトルは、発売から結構時間が経ったタイトルもいろいろな配信者にプレイされている印象です。
阪本氏:配信でネタにしやすい要素が多いのもあるのかなと(笑)。
堀井氏:ツッコミやすいですからね。今回の試遊版にしても「不審者だー!」って、わかりやすい盛り上がりが作れますし(笑)。そういう楽しみ方にもマッチするポテンシャルがあることに、気づいていただけたのも大きいと思います。
――「龍が如く」スタジオが新体制になってから、「龍が如く 維新!」、そして「7外伝」に「8」と、間を途切れさせずに新作をリリースされています。普通なら、体制を整えるための時間がある程度必要になると思うのですが、なぜここまでコンスタントにタイトルをリリースできているのでしょうか?
阪本氏:「維新 極」のタイミングの時にも少しお話ししましたが、結局は我々の仕事ってそこまで変わってないんですよ。何か大きく作り方が変わったわけでもなく、むしろ新体制になったことで、若手の登用を進められたというメリットもありました。より良いものをスピーディに作るということを正直に進めただけで、新体制だからどうこうというのはあまりなかったですね。
堀井氏:元々、きちんと自分で考えながら作っているスタッフばかりですから、上が変わったから何もできませんというようなチームではないんです。変わったことで責任感が芽生えて、新しい表現が生まれることにも繋がっているので、チームとしてさらにいい状態になっている実感があります。
阪本氏:公開した「8」のトレーラーも、過去作とは結構構成が違うのですが、あれは今までの担当とは違う若手に作らせてみたら、開発の中でもすごく評判がよかったんです。思い返せば、シリーズの伝統みたいなものに引っ張られていたところも多少あったので、純粋にいいものを作るために見直すいい機会にもなったのかなと。
――最後に、発売を楽しみに待つファンの皆様へのメッセージをお願いします。
堀井氏:「8」については、本当に面白いゲームができたという実感があって、エンタメ性もドラマ性も、これ以上面白いものは今は作れないだろうと思えるくらいには、自信を持てる出来になっています。
「7外伝」については、シリーズでもっとも爽快感がある桐生のアクションが楽しめる一方、名前を消して孤独に生きる桐生のドラマが描かれます。仲間という存在が重要な「8」とはいろいろな要素が対になっていて、両作を通じて「幸せとは何なのか?」というメッセージを感じ取っていただける部分がたくさんあるのではないかと思います。ぜひ、両方をプレイしていただきたいです。
阪本氏:「龍が如く」シリーズを作ってきましたが、基本的にどれも1作品でドラマは完結するようになっていました。今回、“外伝”という試み自体が初めてなのに加えて、そのドラマが「8」にも繋がって、両方をプレイすることで物語の深みがより増すという、我々にとってもチャレンジな要素をたくさん入れています。
その上で一つ言えるのは、「7外伝」における桐生一馬という人間が迎える顛末や、「8」の様々なキャラクター達の人生というドラマを、かなり深いレベルで描けたという手応えがあるということです。ストーリーをクリアした後に胸に残るものとしては、シリーズの中でも一番大きいんじゃないかと思うくらい自信があります。我々も開発の過程で、何回も涙を流したほど心を揺さぶられる物語になっているので、ぜひとも期待していただければと思います。
――ありがとうございました。
(C)SEGA
※画面は開発中のものです。
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